私設診療室の甘い罠(1)



 電話で教えられた通りにやって来ると、そこは、ブラウンの化粧タイルで覆われたお洒落なマンションだった。
 微かに緊張の表情を浮かべた大森亜理沙はマンションのエントランスホールに足を踏み入れると、奥まった場所にある案内板の前に立ち止まって、入居者の名前と部屋番号が記入されたその案内板に目を向けた――五〇一号室のプレートには、確かに立花早苗という名前が書いてあった。
 亜理沙はそれを確認すると、おりてきたばかりのエレベーターに乗りこんでボタンを押した。
 微かに揺れながら五階で停まった箱から廊下に歩み出た亜理沙は、手すり越しに見えるきれいに芝の生えそろった中庭の景色にも目を向けず、真っ直ぐに五〇一号室を目指して歩いた。
 やがて、建物の端にある部屋の前で立ち止まる。
 亜理沙はしばらくためらった後、ちょっとばかりおどおどした様子でインターフォンのボタンを押した。
『はい、どなたでしょう?』
 かろやかな電子音の後、若々しい張りのある女性の声がスピーカーから流れてきた。
間違いなく、立花早苗の声だ。
「あの、大森です……昨夜お電話をいただいた」
 亜理沙はなんとなく声をひそめるようにして応えた。
『ああ、大森さん。よく来てくれたわね。すぐに開けるから、ちょっと待っててね』
 早苗の声の後に、たぶんハンドセットを置く音だろうカチャッという金属音が微かに聞こえてインターフォンが静かになった。
 ほどなく、ロックと防犯チェーンを解く音が聞こえてドアが開いた。
「あの……」
 ドアの隙間から顔をみせた早苗が、何かを言いかけようとした亜理沙を制して、
「さ、どうぞ。中でゆっくりお話ししたいの」
と素早く招き入れた。

 ダイニングを兼ねるリビングルームに通された亜理沙はガラス製の座卓の前にぽつんと、落ち着かぬげに座っていた。
 しばらく待つと、大きなカウンターに隔てられたキッチンに姿を消した早苗が戻ってくる。
「お待たせ。ハーブティーよ」
 戻ってきた早苗はにこやかな表情で、二つのカップを座卓の上に並べた。
「あ、すみません」
 思わず亜理沙はぺこりと頭を下げる。
 その間に、早苗はテーブルの向かい側に腰をおろしていた。
「さて、と」
 亜理沙が再び頭を上げると、僅かに首をかしげた姿勢でハーブティーのカップを持った早苗が合図でもするように声をかけてきた。
 少しばかり緊張した面持ちで亜理沙は息を吸いこんだ。鼻の奥の方に、ジャスミンの意外に刺激的な香りがふわっと広がる。
「わざわざ私のマンションまで来てもらったのはね……」
 亜理沙を心配させまいとでもするように、早苗は柔らかな笑みを浮かべて言った。
もう三十歳は越えている筈なのに、そんな表情になると二十歳台の後半に見えるような魅力的な笑顔だった。
「……あなたの病気についてちょっと気になることがあるものだから、少し詳しくお話ししようと思ったからなの」
「……」
 亜理沙は何も応えずに、頬を赤く染めて僅かに目を伏せた。
 今年K大学に入学したばかりの亜理沙は、両親にも相談できない病気を抱えこんでいた。大学に入る前にはそんな気配もなかったのに、大学近くのワンルームマンションでの新しい生活を始めて少しばかり時間が経った頃、そう、もうすぐゴールデンウィークが始まるという或る日、その恥ずかしい病気はなんの前触れもなく始まった。
最初の日は、それが何かの間違いだと亜理沙は思いこんだ。だって、小さな子供なんかではない、大学生にもなった自分がそんな失敗をするなんてありえないことだったんだから。だけど、そんな亜理沙の思いはこっぴどく裏切られた。亜理沙の身体はまるで本人の意識をからかうように、次の日もその次の日も失敗を重ね続けた。
 その度に濡れた布団をアイロンで乾かし、恥ずかしいシミの付いたシーツをパジャマやショーツと一緒に洗って部屋の中に干す(とてもじゃないけど、誰の人目につくともしれないベランダにそんな物を干す気にはなれなかった)時の惨めさ。まさか自分の身体がそんなふうになってしまうなんて想像もしていなかった戸惑い。日が経つにつれて亜理沙は次第に追い詰められたような気になって、それまでは恥ずかしさのためにとても行く気にはなれなかった病院を訪れる決心を固めざるをえなくなっていった。
 そしてとうとう亜理沙が足を運んだ総合病院の泌尿器科の医師が早苗だった。
 早苗は亜理沙を診察台(婦人科とか泌尿器科の診察台というのは、どうしてこんなに羞ずかしい形をしてるんだろう)に横たわらせると、銀色に輝く奇妙な形の道具を亜理沙の秘部に差しこんでみたり、目も眩むような眩しい光を当てられてひどくなまめかしい色合いに輝く肉壁の谷間を覗きこんだりと、亜理沙が想像していたよりもずっと羞恥に充ちた診察を事務的に進めていった。もっとも、その時にへんに早苗が優しい声でもかけていたら却って亜理沙は惨めな気分になっていたかもしれないけれど。
 早苗の診たてでは、亜理沙の身体に異常はみとめられなかった。膀胱・尿道・神経系統・下腹部全般の随意筋肉――早苗の行った検査では、異常をしめす徴候はどこにも見当たらなかった。早苗は亜理沙にその事実を告げて、気休めのような薬を渡しただけで帰らせることにした。
 だがその夜、亜理沙の部屋に早苗から、非番になる土曜日に会いたいといって、このマンションの場所を説明する電話がかかってきた。
 そうして亜理沙はこの部屋で早苗と向かい合っているのだった。

「そんなに緊張しなくていいのよ。さ、お茶でも飲んでリラックスさないな」
 弱々しく目を伏せたままの亜理沙に、ティーカップを唇から離した早苗が言った。
「いえ、いいです……」
 亜理沙は力なく首を振った。
「あら、ジャスミンは嫌いだった?」
「あ、いえ、そういうわけじゃなくて……あの、水分をなるべく摂らないようにしてるだけで……」
 早苗は今にも消え入りそうな声で応えた。
「ああ、なるほど。――夜尿症には手っ取り早い対処方法ね」
 カチャンと小さな音をたててカップをテーブルに戻しながら、早苗は平然とした口調で応じた。
 手っ取り早い方法。そして、亜理沙が思いつく唯一つの方法がそれだった。大学生にもなって毎夜しくじってしまう亜理沙には、そんなことしかできなかったのだから。
それでも亜理沙の布団とパジャマがぐっしょり濡れてしまう夜は終わらなかった。
「……」
 亜理沙はなんとなく恨めしそうな目で早苗の顔をちらと見て、すぐにまた顔を伏せてしまう。
「でも、こんなことを言うのは酷なようだけど、そんなことくらいじゃあなたの夜尿は治らないと思うわ」
 早苗はじっと亜理沙の顔を睨みつけるようにして言った。
「え……?」
 今度こそ、亜理沙は顔を上げた。表情がこわばっている。
「たとえば膀胱の容量が減少してしまうような症状なら、水分を控えることも効果があるかもしれないわね。でも、あなたの場合は肉体的には全く異常がないんだから、そんなことをしてもムダなのよ」
 早苗は亜理沙の目を覗きこむようにして言った。
「だって……」
 体を固くした亜理沙の声が弱々しく響く。
「あなたの夜尿は、たぶんに精神的な症状だと思うわ。つまり、身体の機能がおかしくなってるんじゃなくて心の病気ね」
 亜理沙の言葉を遮って早苗が言った。
「心の……?」
 思ってもみなかったことを言われて、亜理沙は思わず訊き返した。
「ええ。まず、間違いないでしょうね」
「でも、だけど……病院で診てもらった時には先生、そんなこと一言も……」
 早苗は戸惑っていた。体が小刻みに震えている。
「病院っていうところもいろいろあってね……専門外の分野のことを口にすると快く思われないことがあるのよ。だから、診察室じゃ何も言わなかったの。あの時に精神科の方へ行ってもらうことも考えたんだけど、精神科の先生は男性ばかりだから、あなたみたいな若い女性が夜尿症の相談に行くのも気が退けると思って、私がやってみることにしたのよ。それで、わざわざ非番の日にここまで来てもらったの。幸い、あなたのマンションも近いようだったしね。――事情はわかってもらえたかしら?」
 それが癖なのか、早苗はもう一度僅かに首をかしげてみせた。
「あ、ええ……」
 わかったのかわからないのか、亜理沙は言葉を濁して小さく頷いた。
「それでいいわ。あせっても仕方ないことだから、ゆっくり進めましょうね。今日はそれを言いたかっただけ。あなたのことを詳しく教えてもらうのは次回からにしましょう。来週の土曜日も来られるわね?」
「え、あ、はい……」
 亜理沙は反射的に応えていた。
「そう、よかったわ」
 早苗は顔を輝かせると、安心したように微笑んだ。そして、ふと思いついたように言葉を続ける。
「とはいっても、とりあえずは毎晩の夜尿をなんとかしなきゃね。水分を控える他に何か手当てはしてるの?」
「……いいえ……」
 顔を真っ赤にした亜理沙は、口ごもるようにそう応えるだけで精一杯だった。
「それじゃ、毎晩お布団を濡らしちゃってるのね? シーツの洗濯も大変でしょうに」
 早苗は、追い打ちをかけるみたいに言った。
「……」
 その言葉に、亜理沙は何も応えられなかった。
「でも、ま、仕方ないわよね。まさか大人になってから夜尿症になるなんて思いもしなかったでしょうから。どうしていいかわからないのが普通だわ」
 いたわるみたいな早苗の声が却って亜理沙にはつらかった。亜理沙は再び目を伏せて肩を落としてしまう。
 そこへ早苗の手が伸びて、大きな包みを亜理沙の目の前に差し出した。
 ビニールのパッケージに大きく印刷されている『成人用紙オムツ・Mサイズ』という青い文字が亜理沙の目にとびこんだ。
「これは……」
 そう言ったきり、亜理沙は言葉を失った。
「見てのとおり、大人用の紙オムツよ」
 亜理沙とは対照的に、早苗の声は平然としたものだった。
「あなたみたいな若い女性が自分で紙オムツを買おうとしてもなかなか難しいと思って用意しておいたの。紙袋も準備しておいたから持って帰るといいわ」
「でも、あの……私、紙オムツなんて……」
 絞り出すみたいな亜理沙の声だった。
「なにを言ってるの。今は恥ずかしがることよりも、病気に対して少しでも手当てすることのほうが大切よ。それに紙オムツをあてていれば、いつ失敗しちゃうかってびくびくしなくてもすむんだから、精神的にもずっと楽になるの。それがきっかけになって、うまくすれば治っちゃうかもしれないんだから」
 早苗は半ば強引に紙オムツのパッケージを亜理沙の目の前に押しやった。
「……」
 大学に入学したばかりの若い娘が、自分よりもずっと年上の医者にそれ以上さからえるわけもなかった。亜理沙は唇を噛みしめて頷くと、おずおずと手を伸ばしてパッケージを受け取った。
 ついさっきまでいい香りを漂わせていたハーブティーはすっかり冷えきっていた。




 そして、一週間後の土曜日の朝。
 ベッドの上で亜理沙は上半身を起こすと、体にかかっている毛布をそっと足元に滑らせた。純白のベビードールに身を包んだ亜理沙の体が窓から差し込む光の中で淡い影になって、髪の一本一本が黄金に輝く。
 いつものように下腹部から伝わってくるぐっしょりと重い感覚に亜理沙は思わず溜息をついてしまう。今朝も失敗しちゃったんだわ。亜理沙は反射的にそう直観して、自分の下腹部におずおずと目を向けた。腰よりも少しだけ下までを覆っている丈の短いベビードールの裾から、紙オムツに包まれた下腹部が見えていた。
 その紙オムツのおかげで、いくら亜理沙がしくじっても布団やパジャマを濡らしてしまうことはなくなった。それでも、亜理沙の恥ずかしい病気がよくなりそうにないということも事実だった。いくら布団やシーツを汚してしまうことはなくなったとはいっても、その代わりに亜理沙は赤ん坊のように夜毎に紙オムツを汚してしまうのだから。しかも紙オムツのせいで大きく膨れるお尻が窮屈で、亜理沙は普通のパジャマを着ることができなくなっていた。紙オムツを使うようになった亜理沙は、ネグリジェやベビードレスばかりを着ざるをえなくなっていた。三部袖のベビードールの裾からのぞく紙オムツ――それは、大学生にもなった亜理沙にはあまりにも惨めな格好だった。それでも今のところ、亜理沙にはそうするしか術がない。
 亜理沙は上半身を起こして自分の股間を覗きこむような姿勢のまま、紙オムツのテープに指をかけた。テープを剥がすビリッという音が静かな部屋の空気を恥ずかしく震わせ、それを耳にする亜理沙の胸をドクンと高鳴らせる。
 四枚のテープを剥がしてしまった亜理沙の手が、おヘソから下を覆い隠している紙オムツの横羽根を開いた。そして、恥ずかしい部分をかろうじて隠している前当てを両脚の間にそっと広げると、僅かに冷たい朝の空気の中にほのかな湯気が立ち昇るのが見える。実際に亜理沙がしくじってしまったのが夜中だったとしても、彼女の体温でいくらかは温かかったオシッコが冷たい空気に触れたせいだろう。途端に、亜理沙の下腹部もすーっと冷たくなってゆく。いくら紙オムツの吸収材がオシッコを吸いとってしまうとはいっても、いくらかは不織布に含まれたままになって亜理沙の白い肌を濡らしてしまう。それが、じんわりと冷えてゆくのだった。
 亜理沙は腰から下をぶるっと震わせると、お尻の下に広がっている紙オムツを慌てて払いのけた。と、幾分ざらりとした、それでいて妙に柔らかな不思議な感触がお尻から伝わってくる。それは、念のためにお尻の下に敷いているオネショシーツの肌触りだった。防水性に優れていてなおかつごわごわした感触を与えないように柔らかい素材でできた赤ん坊用の、子猫のプリントがあしらわれたピンクのオネショシーツが亜理沙のお尻の下で細かくシワになって広がっていた。
 まるでその子猫に笑われたように思った亜理沙はぎゅっと瞼を閉じて、左手をベッドの下に伸ばした。そこには、もう殆ど残っていない紙オムツのパッケージが置いてある。亜理沙は目を閉じたままパッケージの中に手を入れ、手探りで一枚の紙オムツをつかみ上げた。がさがさと音をたてながら両手で紙オムツを広げた亜理沙は、オネショシーツから僅かに浮かせたお尻の下にその紙オムツを敷きこんだ。そっとお尻をおろすと、部屋の空気と同じように冷えているくせにどこか妙に暖かいような不思議な感触に自分の下腹部が包みこまれる感じがあった。
 もうこれからは目を閉じたままでは無理だった。この一週間の間にいくらかは慣れたとはいっても、僅かな隙間からでもオシッコが洩れ出してくることも亜理沙は身をもって(最初の二日ほどは紙オムツと一緒にシーツやパジャマも濡らしてしまうという余計に惨めな状態を味わったのだから)体験している。だから、いくら恥ずかしくて直視できないようなことでも、その目でしっかり確認しながら自分の股間に紙オムツをあてて、内腿と紙オムツのギャザーとの間に少しの隙間もできないようにテープを留めなきゃいけないってことも(そんなこと知りたくもなかったけれど)充分に知っている。
 そうやって、やっとの思いで紙オムツと取り替えた後で亜理沙はようやくのこと安心したようにほっと息をついた。ほっと息をついて、けれど自分のあまりに情けない姿に体中から力が抜けていってしまうような感覚におそわれて、そのままもう一度ベッドに倒れこんでしまう。
 毛布もかけずにベッドに横たわる、飾りレースとフリルがたっぷりあしらわれたベビードールと紙オムツ姿の亜理沙の姿。内側の不織布の柔らかさとは対照的に、紙オムツの表地は幾分ごわごわした防水性の素材でできていて、窓から入ってくる光が、その表地にほのかに反射していた。内側が大きな黄色のシミになった紙オムツがベッドの下に無造作に投げ出されたままになっている。
 亜理沙はしばらくの間、両手の掌で顔を覆ったまま身じろぎもしなかった。
 それでもやがて、なにか観念したような顔つきになった亜理沙はのろのろとベッドから床におり立って、どことなく投げやりな動作でベビードールを脱ぎ始めた。
 少しばかり小振りな、けれどピンクの乳首がツンと上を向いた張りのある乳房と、それとはまるでアンバランスな、幼女のような紙オムツ姿。亜理沙は力なく二度ほど首を振ってから、純白のブラとブラウスを身に着けた。そして、殆ど黒色のように見える濃い紺色のフレアスカート。なるべくヒップラインが目立たないようにと選んだそのスカートの中に着けているのは普通の下着ではなく、ついさっき取り替えたばかりの紙オムツのままだった。
 ほんとうなら亜理沙だって、そんな惨めな姿で外出などしたくはない。けれど、早苗のマンションを訪れるにはこうするしかなかった。それが大学の授業だったりしたら亜理沙は迷いもせずに欠席しただろう。しかし、この恥ずかしい病気を治すために早苗のマンションへ行くためなら、そんなことは言っていられない。

 亜理沙の病気がひどくなったのは四日前のことだった。
 それまでは亜理沙の失敗は夜だけに限られていた(それだけでも、年頃の女性には表現しようもない惨めなことにはちがいないのだけれど)のが、四日前の朝、突然に状況が変わってしまった。
 その日、いつものように紙オムツ(それはもちろん、夜中にしくじったためにぐっしょり濡れてしまっていた)を外した亜理沙はレモン色のショーツに穿き替えた。紙オムツの羞ずかしさにも少しは慣れて、自分のオシッコで汚してしまった布団やパジャマの後始末から開放されて幾らかは気分が楽になっていた亜理沙は、まだほの温かい紙オムツを手早く丸め、それを更に紙袋で包みこんでからビニールのゴミ袋に押しこんだ。それから、淡いピンクのネグリジェのボタンに指をかける。
 その時、下腹部から微かな尿意が這い上がってきた。
 あ〜あ、やだなぁ。夜のうちにオネショしちゃっても、朝になったらなったで、こうしてちゃんとトイレに行きたくなるんだもんなぁ。亜理沙は、自分が頭の中にふと思い浮かべた『オネショ』という言葉に思わず頬を赤らめて手を止めた。それから、誰に見せるともなく軽く肩をすくめて、バスルームとユニットになっているトイレのドアを押した。
 亜理沙はいつものようにスリッパを履き替えてトイレに入ろうとした。入ろうとしたんだけど……何だかわからないひどい不安を覚えて、体の動きを止めてしまった。
漠然とした、そのくせ、何か恐ろしい物と向き会っているような恐怖にも近い不安のせいで金縛りにでもあったみたいに全身が硬直してしまい、ドアのノブを握った右手なんて、がたがたと震え出している。



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