ある夏の日に

ある夏の日に



 梅雨が明けきっていないせいでここ数日続いていた灰色の曇り空が嘘のように、今日は朝から澄みきった青い空がどこまでも高く広がっていた。そんな久しぶりに気持のいい眩ゆい夏の午後だというのに、茅野真由美の心の中はどうしようもないほどもやもやしていた。
「あら、おかえりなさい。ずいぶん早かったのね」
 真由美が三和土に靴を揃えて廊下に上がると、どこからか宏恵の声が聞こえてきた。ドアを閉める音が耳に届いたらしい。
「うん……」
 ぼんやりしたような声でそれだけ応えて廊下を歩いて行くと、午後の太陽の光がさんさんと差し込むリビングルームで洗濯物をたたんでいる宏恵と目が会った。洗濯物はつい今しがた中庭の物干し場から取り込んだばかりのようで、ほどよく冷房の利いた空気の中、まだどれも湯気が立っていそうにほこほこしている。
「あ、手伝います」
 真由美はそれまでの思い詰めたような表情をわざとらしい笑顔に変えてリビングルームに足を踏み入れた。
「あら、いいのよ。これは私のお仕事なんだから」
 床に積み重なっている衣類の山に手を伸ばそうとする真由美を、宏恵がやんわり制止した。
 けれど真由美は
「いいんです。居候の私にはこれくらいしかお手伝いできることがないんだから」
と言うと、洗濯物の山からブラウスを一枚つかみ上げた。
「いやだわ、居候だなんて。私は、真由美ちゃんがこの家に来てくれてとても喜んでるのよ。だから、あまり気を遣わないでちょうだいね」
 もうそれ以上は真由美を止めようともせず、宏恵は温かい笑みを浮かべた。
「真由美ちゃんが来てくれるまで、私はこの広いお家で本当に独りきりだったんだから」
「すみません。みんな、おにいちゃんのせいで……」
 自分の実の兄・健二の日焼けした顔を思い出しながら、真由美は謝るみたいに首をかしげた。
「あ、ちがうのよ。そんなつもりで言ったんじゃないの。私はただ、真由美ちゃんが来てくれて本当に嬉しいのよって言おうとしてただけなんだから」
 少し慌てたように宏恵が手を振った。
「でも、新婚早々のおねえさんをほっぽって自分だけ外国へ長期出張だなんて、やっぱり、おにいちゃんがいけないんだわ」
 いつになく憤慨した様子の真由美だった。
 そんな真由美をくすぐったそうな表情でみつめて、宏恵はなだめるような声で応えた。
「だけど、お仕事ですもの。それに、まだ開けていない危険な場所だから女の人を連れて行くことができないのよ。だから、私を残して行ったの」

 「でも、それならそれで、誰か他の人に代わってもらうとかなんとか方法があった筈だわ。それを会社から命令されたからって、おねえさんがどんなに寂しいかも考えずにほいほい外国へ行っちゃうなんて、ほんとに男の人は身勝手なんだから」
 まるで八つ当たりでもするみたいに、たたみ終えたブラウスを無意識に掌で叩いて真由美は言った。
「あ、真由美ちゃん、そんなに乱暴にしたらブラウスが……」
 裕恵は慌てて真由美の手をおさえようとした。けれど、すぐに何かを思いついたようにくすっと笑う。
「ひょっとして、ボーイフレンドと喧嘩でもしたの? でなきゃ、せっかくの夏休みだっていうのに、こんなに早く帰ってきたりしないわよね?」
「……」
 さっきまでのお喋りが嘘みたいに、急に真由美が黙りこんでしまった。無言のまま、ちょっと拗ねたように、微かに首を振ってみせる。
「うふふ、図星みたいね。それでつい、おにいさん――健二さんのことも腹がたってきたってところかしら?」
 やっとわかったとでもいうふうに、裕恵はにこやかな笑みを浮かべたまま、目の前のトレーナーを手元に引き寄せた。
「そんなじゃない」
 裕恵の顔を見ないようにして、真由美がぽつりと応えた。
「……そりゃ、彼と喧嘩したのは本当だけど、でも、そんなの関係ないもん」
「じゃ、どういうこと?」
 裕恵は、真由美の言葉を聞きとがめるみたいな少し要領を得ない顔になって、機械的に次の洗濯物に手を伸ばした。
 真由美は何か迷ってでもいるような表情で唇を噛んだ。黒い瞳が落ち着かぬげにきょときょと動きまわっている。
 しばらくして、真由美の右手がおずおず動いた。そうして、洗濯物の山から白いソックスをつかみ上げかけていた裕恵の手の甲にそっと重なる。
「え……?」
 裕恵は少し唇を開けて、自分の手の上にある掌を見てから、視線をゆっくり真由美の方へ動かした。
 真由美の目の下がほんのり赤く染まって、瞼が半開きになっている。長い睫毛の先が小さく震えているようだ。
「私、おねえさんに初めて会った時からずっと……」
 真由美の唇から、よく注意していないと聞き逃してしまいそうな声がこぼれた。
唇を湿らせようとして赤い舌が盛んに動きまる。
「だめよ。ちょっと彼と喧嘩したからって、こんなことをしちゃ。――落ち着いて考えてごらんなさい。私たちは女どうし、しかも、義理とはいっても姉妹なのよ」
 なだめるような口調で、裕恵は真由美の手をそっと振りほどいた。
「わかってます、そんなこと。でも、でも……いくら理屈じゃわかってても、胸の奥が痛むんだもの」
 一度は離れた手をもう一度ぎゅっと握りしめて、真由美は切ない声を出した。
「ううん、わかってないわ。ね? 彼ともう一度話してみなさい。そうすれば、喧嘩の原因が本当につまらないことだってことがわかるから。そうして、もう一度仲よくおつきあいできるんだから。いいわね?」
 裕恵が首を振った。
「いいんです、もう。彼と喧嘩したからって理由でおねえさんにこんなことを言ってるんじゃないんだから」
 真由美は決心を固めたように、それまできょときょと動かしていた瞳をまっすぐ裕恵に向けた。
「ほんとに、初めて会った時からおねえさんに憧れて……でも、それがどんなにいけないことなのか私にもわかってた。だから、そんな自分の気持ちを忘れようとしてボーイフレンドをつくって遊びまわってみたり……。だけど、だめだったんです。おねえさんに惹かれる自分の気持ちをどうすることもできなくなって、それで今日も彼と喧嘩して……」
「そんなこと言っても……」
「お願いだからわかってください。このまま自分の気持ちに嘘をつき通すなんて、もう……」
 真由美は、もう離すまいとするように両手でつかんだ裕恵の手を、強引に自分の胸に押し当てた。
「そりゃ、最初はもっと軽い気持ちでした。身勝手なおにいちゃんが独りで外国へ行っちゃって、新婚のおねえさんがどんなに寂しがってることだろうって思って、それで、私みたいな子でも一緒にいれば少しは気がまぎれるかもしれないとか思いついてこのお家に下宿させてもらうことにしただけだったんです」
 思ってもみなかったほどに大きく激しく高鳴る鼓動が、どくどくと裕恵の掌に伝わってくる。
「でも、大学の入学式がもうすぐっていう時にあんなことがあって……あの時から私、おねえさんのことが本当に……」
 真由美に誘導されるまま裕恵が僅かに手を動かすと、すぐそこに若い胸の膨らみがあった。まだほのかに固い、これから可憐な花を咲かせようとする蕾のような真由美の乳房だった。その頂きに、つんとせり出すような乳首があった。
「わかります?――私の乳首、少しだけど立ってるでしょう? おっぱいもいつもより固くて……こんなこと、彼と一緒にいても一度もありませんでした。……変ですよね。あんなことのせいで体が疼くなんて、とっても変なんだって自分でもわかってます。だけど、どうしようもないんです。おねえさんに思いきり甘えたくて、おねえさんに甘えてる自分の姿を想像するだけでやりきれないくらい切なくなって……」
 真由美の今にも泣き出しそうな声が裕恵の耳を打った。
「……」
 悲鳴にも近い真由美の声に気圧されて、裕恵は思わず無言で頷いてしまう。
「いいんですね……?」
 裕恵の掌を自分の乳房に押し当てたまま、念を押すように、けれどどことなくおそるおそる真由美は言った。
「わかった。あの時の真由美ちゃん、本当に可愛いかったわ」
 もういちど裕恵は頷いた。頷いて、遠くを見るような目になった。そうして、ようやく決心がついたようにゆっくりした口調で言った。
「今度こそ、真由美ちゃんを私の本当の妹にしてあげる」




 身を固くしてカーペットの上に横たわる真由美の睫毛が小刻みに震えている。
胸を覆う右手も、下腹部をおさえている左手も、腕の付け根まで真っ赤だ。
 ぎゅっと瞼を閉じているのに、却ってそのせいで、周りの様子が体中にびんびん伝わってくるみたいだった。
「真由美ちゃんの体、とてもきれいだわ」
 こちらもすっかり着ている物を脱いでしまった裕恵が、真由美のすぐ側に膝をついた。裕恵の手が頬に触れる感触が、おだやかな水面をゆったりと広がる波紋のように全身の皮膚を震わせる。
「それに、こうして見ると、横顔が健二さんにそっくり。やっぱり兄妹なのね」
「あん」
 ただそれだけのことで、少し怯えたような、それでいてどこかなまめかしくも聞こえる声が真由美の唇から洩れ出る。
「初めてなのね?」
 どことなく頼りなげな真由美の声に、裕恵は優しい笑顔になって穏やかに訊いた。
「はい、まだ男の人とも一度も……。おねえさんが本当に初めてなんです」
 真由美は僅かに咽喉を震わせて唾を飲みこんだ。
「わかった。それじゃ、優しくしてあげる。ここまできた以上、私も本気だからね」
 真由美に迫られて戸惑っていたのが嘘のような、色香と自信に充ちた裕恵の声だった。
 横になったまま、真由美が頬を赤くしてこくりと頷いた。
 それが合図になったように、裕恵がすっと動いた。
 リビングルームの毛足の長いカーペットに横たわる真由美の頭の下にそっと右手を差し入れて腕枕にし、そのまま肘を床につけて自分の体を支えると、豊かな胸がちょうど真由美の顔の横にくる。真由美は少し戸惑ったように首をまわして、裕恵の乳房が見えないように顔をあちらに向けようとする。裕恵が手首を微かに起こし、掌を真由美の頬に押し付けて真由美の動きを阻んだ。それから、ぶるぶる震えている真由美の腕を胸から剥ぎ取るように体の横に滑らせ、あらわになった固い乳房を横から左手で軽くつかんで、親指を頂きの方に少しだけ這わせる。
「いや……」
 真由美は、もう喘ぎ声になっていた。
「まだ始まったばかりよ」
 裕恵は唇の端を少しだけ吊り上げるようにして薄く笑うと左手を真由美の乳房から顎の方へ滑らせ、子猫にするように咽喉の少し上を指先でくすぐった。同時に、右手の中指が耳たぶの後ろをつっと動く。
 真由美が思わず首をのけぞらせると、裕恵の左手が再び動いて、もう片方の乳房に覆いかぶさった。乳房を上からわしづかみにして、掌のまん中で乳首の先端をこりこりと転がすように擦り始める。
「く、ん……」
 歯をくいしばって、けれど、僅かにこわばった唇を少し開いて、何かに耐えるような、聞きようによってはすすり泣きとも思える声が洩れ出る。
「可愛いい声だわ。その素敵な声はここから出てくるのね」
 乳首が触れている掌を二度三度と握ったり開いたりしながら、裕恵は自分の唇を真由美の唇に重ねた。
「む……」
 唇を塞がれた真由美が、思わず目を開いた。すぐそこに裕恵の切れ長の目があって、僅かに潤んだ瞳が真由美の目を見返している。
 裕恵は目だけで笑ってみせると、そろそろと舌を伸ばした。そうして、唇の僅かな隙間から強引に真由美の口の中に忍ばせる。
「んん……」
 裕恵の舌に自分の舌を絡めとられた真由美は言葉を失い、僅かに鼻を膨らませて咽喉を鳴らした。真由美の口の中で、まるで命あるもののようにくねくねと身をよじっていやらしく二つの赤い舌が蠢く。
 かっと大きく見開いていた真由美の目が次第次第にとろんとしてきて、眠りにつく寸前のように瞼が痙攣する。
 真由美の耳たぶを弄んでいた裕恵の右手がゆっくり伸びて、左手が責めている方ではない乳房の麓にたどりついた。それに合わせて左手は胸の谷間から、へこみぎみのお腹へ、そうして、黒い茂みに覆われた下腹部へと這って行く。
「んむ……」
 唇を塞がれ、金縛りにでもあったみたいにこわばっている上半身とは別の生き物のように、真由美の腰が、裕恵の左手を避けるように動いた。
 が、盲目的に、それこそ獲物の臭いを嗅ぎつけた毒蜘蛛のように裕恵の左手はじわりじわりと肉の秘部へと迫ってゆく。
 やがて、ぷっくり盛り上がった小高い丘を中指から先にゆっくり乗り越えた右手は、もう既に蜜で一杯になっているサーモンピンクの谷間へ滑りおりた。
「あん……」
 いつしか、自分の方から求めるように裕恵の舌に絡みついてくる真由美の舌。一度は退いたものの、おずおずと裕恵の体に迫ってくる真由美の腰。
 裕恵は親指と薬指の先で、真由美の肉のクレヴァスを左右に押し開いた。そこは、春を迎えた山あいの小川だった。雪融けの水のようにゆったりゆったり量を増やして溢れ出す愛汁と、萌え出たばかりの草の芽のようにさわさわと触れ合い、僅かな刺激に頼りなげに揺らめく黒い茂み。
 裕恵の中指は、かろうじて親指と薬指とが押し開いたままにしているひくひく震える襞を貫いて、果てなく溢れ出るねっとりした流れに逆らうように身をくねらせて蠢く。
 真由美は左右の膝を立てて両脚の内股を擦り合わせ、妙な具合に足首を曲げて、痙攣でもしているように足の親指を反らせた。
 裕恵の指が、愛蜜の源をつきとめた。
「や……」
 真由美のお腹がひくんとひきつった。
 その時になってようやく裕恵が唇を離した。そうして、まだ子供を生んでいない張りのある乳房を真由美の顔に押し当てる。
「今度は真由美ちゃんの番よ。さ、私のおっぱいを上手に吸ってちょうだいね」
 裕恵は右手で真由美の乳房を揉みしだき、左手で黒い茂みの奥に隠れた秘部をまさぐりながら、自分の乳首を真由美の口にふくませようと身をよじった。
 それに応えるように真由美もまた、荒い息遣いに胸を膨らませながら裕恵の豊かな乳房に顔をにじり寄せ、それまで裕恵の舌と絡み合っていた唇をちろちろと這わせた。微かに赤い血管が浮き出た裕恵の白い肌に、真由美の舌が赤い蛭のように吸いついた。
「そうよ、そのままいらっしゃい。私のおっぱいは、今は真由美ちゃんだけのものなんだから」
 無心に乳房にむしゃぶりつく真由美の横顔を満足そうに眺めて、裕恵は自分の頬を真由美の頬に重ねた。そのまま舌を突き出すと、少し汗ばんでいる真由美の首筋をそっと嘗める。
 鼻だけで呼吸を繰り返している真由美の息遣いがますます激しくなってきた。
 下腹部から伝わってくる疼くような感覚に耐えようとしてか、ぴちゃぴちゃと音をたて、頬を膨らませて一心に裕恵の乳首を口にふくむ真由美。すっかり膝を立て、裕恵の指の動きに合わせるように腰を振り、床から浮いたお尻を揺する真由美。どこを見ているのか何も見ていないのか、ちっとも焦点の合わない瞳を潤ませて喘ぐ真由美。――裕恵の目に妖しい悦びの光が宿ったことに、真由美は全く気づかないでいた。
 いつ果てるともしれない女どうしのまぐわいが、リビングルームのガラス戸をかたかたと震わせる。

「いや、だめ……」
 真由美が突然、声にならない悲鳴をあげた。僅かに床から浮いた腰がぶるっと震える。
 真由美の下腹部を責めている裕恵の左手がじとっと濡れた。ねっとりした愛汁ではない、もっとさらりとした、水に濡れるような感覚だった。そのくせ、妙に生温かい。
 裕恵は驚いた様子もなく、妖しく輝く目を真由美の下腹部に向けた。そこに何があるのかを予め知っているような、ゆっくりした動きだった。
「見ちゃだめぇ」
 慌てて裕恵の乳房から唇を離し、真由美は弱々しく叫んだ。
 けれどその時にはもう、真由美の股間からじくじく流れ出し、クリーム色のカーペットを濡らして滲みになってゆくおしっこの雫が裕恵の目にくっきり映っていた。
「うふふ。敏感なのね、真由美ちゃんは。いいのよ、後のことはみんな私がしてあげるから、真由美ちゃんはそのままおもらししちゃえばいいわ」
 裕恵は目を細めると、真由美の額に顔を近づけた。思わず逃げるみたいに離れようとする真由美の頬を肘の内側で押しとどめ、赤く熱くほてった額にそっと唇を寄せる。
「だって、だって……」
 真由美は泣き出しそうな表情になった。時おり腰のあたりが震えておしっこが途切れぎみになるのは、真由美がおしっこの流れをなんとかして止めようとしているのだろうか。けれど、(真由美が内腿を擦り合わせ、必死になって尿道を塞ごうとしているためか)噴水のように勢いよく迸り出たりはしないものの、裕恵の左手のすぐ近くからじわじわ溢れ出す恥ずかしい流れを堰止めてしまうことはできないでいた。
「だって……じゃないわよ。真由美ちゃんはこうしてほしかったんでしょう? さ、いらっしゃい」
 しばらくして真由美の額から唇を離した裕恵は右手に力を入れて、真由美の顔を再び乳房の方に抱き寄せた。
 確かに裕恵に甘えたくて、裕恵に全てを委ねたくて、それまで胸に溜めこんでいた気持ちを遂に言葉にしてしまった真由美だ。だけど、いざそれが現実のことになってみるとどうしていいのかわからずにおろおろしてしまう。――それでも何かに惹きつけられるみたいに、そうして、自分の今の恥ずかしい姿を忘れようとでもするみたいに、真由美は目の前に迫る乳首を再びおずおずと口にふくんだ。もちろんその間も、裕恵の手を濡らし、真由美の内腿を伝ってカーペットに滴り落ちる生温かい雫の流れは止まらない。
 裕恵の腕に抱かれ、ぎゅっと目を閉じて乳房にむしゃぶりついたまま恥ずかしい粗相を止められないでいる真由美の姿は奇妙な童女だった。
「そう、それでいいのよ。こうして私にたっぷり甘えながら、心おきなくおもらしすればいいわ」
 裕恵は真由美の耳元に唇を寄せて、舌なめずりするようなねっとりした声で囁いた。




 ようやくのことで長いおもらしが終わった(ムダなことだとわかっているのに、おもらしを止めようとしてお腹に力を入れたものだから余計に時間がかかってしまったんだ)のに、真由美は相変わらず裕恵の乳房に顔を埋めたままだった。いくら裕恵に敏感なところをいじられたとはいえ、どうにもごまかしようのない羞恥に充ちた失敗をしてしまい、しかもその様子をまじまじと見つめられていたのだから、いまさら目を会わすことなんてできないという思いが真由美にそうさせているのかもしれない。
 裕恵がゆっくり身を起こした。
 まるで現実に引き戻されるのを拒否するように、真由美が裕恵の胸に顔を押しつけたまま両手を首筋にまわしてしがみつく。
「だめよ、真由美ちゃん。続きは後でしてあげる。だから、その前にちょっと片付けちゃいましょ。――おしっこでびしょびしょになっちゃったお尻をきれいに拭いてあげるわ」
 裕恵は真由美の両手を優しく振りほどくと、床に膝をついて立ち上がった。その裕恵の体も、いくぶんほてったように赤みを増している。
「や。おねえさん、もう少し側にいて……」
 なおも真由美は裕恵を求めて両手を伸ばした。それは、なんとなく駄々っ子を思わせる姿だった。
「言ったでしょ? 続きは後でって」
 幼児をあやすように裕恵は言った。それから、洗濯物の中にあったバスタオルを風呂あがりの時のようにさっと体に巻きつけると、ドアの方に振り向いて、すっと足を踏み出した。
「すぐに戻ってくるから、ちょっとだけ待っててちょうだい」
 両手を突き出したまま少しばかり不満そうに、それでも渋々みたいに真由美は小さく頷いた。独りで放っておかれることにひどい不安を覚えて、いやいやをする小さな子供のように。
 それは、三ケ月前の真由美の姿そのままだった。
 おしっこを吸収したカーペットがお尻の下で冷えてきて、真由美の背中がぞくりと震える。

 待つ間もなくリビングルームに戻ってきた裕恵は、少し丸みをおびた四角いビニールのパッケージを手に提げていた。その包みを目にした途端、真由美の胸が高鳴った。
 真由美は三ケ月前に一度、その包みを目にしたことがある。そう、確かその時にも、独り部屋に残されるのがたまらなく寂しくて、部屋を出て行く裕恵に向かって両手を伸ばそうとしたのだった。けれど、伸ばそうとしただけで、実際にそうすることはなかった。そんなことをするのは、あまりにも恥ずかしかったから。
 真由美が向けるおどおどした(そのくせ、何かを期待してもいるような)視線も全く気にならないふうに、裕恵は静かに膝をついて、床に横たわったままの真由美からもはっきり見えるように包みをそっとおろした。――そのビニールのパッケージには、『成人用紙おむつ』という文字が大きく印刷してあった。
「思い出した?」
 真由美の顔色を面白そうに窺いながら、裕恵が悪戯っぽい口調で言った。
「あの時に買ってあげた紙おむつよ」
 少しだけ興奮もおさまって徐々に元に戻りかけていた真由美の顔色が、『紙おむつ』というところを妙に強調して言う裕恵の言葉で再びさっと赤みを増した。




 今から三ケ月前、この家へやってきてすぐ、真由美は風邪をひいて寝こんでしまったことがある。幸い大学の入学式まではまだ一週間ほど時間があったからゆっくり静養して風邪をこじらせるようなことにはならずにすんだものの、ひどい熱のせいで意識も途切れがちになって、いつ眠っていつ起きていたのかもわからない日が三日ほど続いたものだった。
 そうして真由美がひどい失敗をしてしまったのは、熱を出して二日目のことだった。高い熱にうんうん唸りながら、朦朧とする意識の中で妙にはっきり尿意を覚えた真由美は、悪寒でがたがた震える上半身だけをやっとのことでベッドの上に起こしたものの、自分の力でできるのはそこまでだった。それから先は、片方の脚をベッドの端までずらすことも、両腕で体をずらすこともできずにいた。
 なのに、意地悪な尿意だけはじわりじわりと高まってくるのが痛いほどわかる。
 真由美はもういちど体をよじった。はあはあ息を切らせながら右手をのろのろ動かしてベッドの端をつかみ、冷たい汗でびっしょりになっている背中をシーツの上で滑らせて、その僅かな勢いで体を廻す。
 そんなことを何度も何度も繰り返して、やっとのことで片方の肩がベッドの端から出た時には、尿意はもう殆ど耐え難いほどに高まっていた。真由美は必死の思いで片足を床に伸ばし、そっと体をずらした。が、食欲がなくて丸一日以上も食事を摂っていない上に右も左もわからないほどにぼんやりしている意識で、まともに立ち上がることができるわけもなかった。
 気がつくと、真由美はあっというように口を開き、いやというほどお尻を床に打ちつけて仰向けに倒れこんでいた。
 そのショックで、我慢に我慢を重ねていたお腹の力が抜けてしまう。頭を打たないようにかろうじて両手で上半身だけを支える姿勢で床に倒れこんだ真由美の股間から、生温かい液体が流れ出した。
 それまで溜めこんでいたおしっこが勢いよく両脚の間から噴き出してはショーツに吸い取られ、それがまた溢れ出してパジャマのズボンを大きな滲みに濡らして内腿を伝わり、お尻の丸みに沿って床に滴り続ける。
 その様子を真由美は、呆けたように、それとも何かにみいられたように、ただじっと見守るだけだった。フローリングの床を濡らして浅い水溜りになってゆくおしっこをまるで自分のものとは感じられずに、何か不思議な光景を眺めているみたいに。けれど、それはまぎれもない現実の光景だった。おしっこを辛抱していたせいで痺れるような感じにさえなっていた下腹部が、すーっと楽になるのがわかる。
 そこがトイレではなく自分の部屋だということを――小さな子供じゃないんだから、そこがそんなことをしちゃいけない場所なんだということを真由美もわかってはいた。それでも、痛みさえ感じ始めていた下腹部の緊張が嘘のように解けてゆく生理的な喜び(それは、快感でさえあったかもしれない。真由美が生まれてこのかた経験したことのない、奇妙で表現しようのない、本能的ともいえる『悦び』だったのかも)の前に、そんなことがどうでもいいことのように感じられたのも本当だ。真由美はただ、自分がしたい時にしたいままにおしっこを溢れ出させる悦びに夢中になっていた。
 真由美はたぶん、うっとりしたような目をしていたろう。
 不意にドアが開いた。
 はっとして顔を上げた真由美の目に映ったのは、ひどく心配そうな表情を浮かべた裕恵の姿だった。どうやら、真由美が倒れた音を(隣室が裕恵の部屋になっているものだから)耳にして、慌てて様子を見にやってきたらしい。
 そうして部屋にとびこんだ裕恵の見たのが、真由美のそんなあられもない姿だった。もうあと一週間ほどで大学の入学式を迎えようとしている年頃の娘が、まるで幼い子供のように床にぺたりとお尻をつけて失禁をしている姿……ああ、失禁というよりはむしろ、おもらしといった方が適切なのかもしれない。それほどに、その時の真由美は幼く頼りなげに裕恵の目に映ったのだから。
「大丈夫? 大丈夫なの、真由美ちゃん? 私がもっと気をつけてあげていればこんなことにはならなかったのに……真由美ちゃんのお熱がとても高いってことは私もよおく知ってたんだから、ずっと側にいてみていてあげればよかったのにね。――ごめん、本当にごめんね」
 思ってもみなかった光景に一瞬、間をおいて、それでもじきに真由美の側に駆け寄った裕恵は、とても幼く見える義妹の頭を両手で抱き上げた。
 瞬間、真由美の鼻孔を裕恵の甘い体臭がくすぐった。
 それがきっかけになったのか、真由美がふと我に返った。
「ああ、私、私……」パジャマのズボンはぐしょ濡れで、真由美が思わず床からお尻を浮かせると、恥ずかしい雫が幾つも幾つも滴り落ちるほどだった。
「いいから、じっとしてなさい。真由美ちゃんは何もしなくていいから」
 裕恵は真由美の髪を撫でつけてから、抱きかかえていた頭をそっと床に戻し、壁際にある整理タンスの引出を下から開け始めた。
 タオル類は三番目の引出に入っていた。裕恵は大振りのスポーツタオルとバスタオルをつかみ上げると、猫のような足取りで真由美のところへ戻った。
「そのまま、ちょっとだけおとなしくしててちょうだいね」
 真由美の爪先あたりに膝をついた裕恵は真由美の足首をつかんで、そっと持ち上げた。
「え、何……?」
 真由美の戸惑ったような声がか細く聞こえる。
「パジャマのズボンを脱がせてあげるのよ。それこそ、このままじゃ風邪がひどくなっちゃうもの」
 裕恵は真由美の足首をますます高く持ち上げた。それにつれて僅かにお尻が床から浮いて、大きな滲みになったところが裕恵の目に正面から映る。
「いや。パジャマくらい自分で脱ぎます。だから、もうそれで……」
 いくら同性とはいえ、おもらしでぐっしょり濡れたショーツを見られるのは耐えられなかった。真由美は絞り出すような声で裕恵に懇願した。
「何を言ってるの。まともに歩くことさえできずに倒れちゃうような人が自分だけで着替えなんてできるわけないでしょう? 私たちは姉妹なんだから、恥ずかしがることなんてないのよ」
 訴えるような真由美の言葉を無視して、裕恵は左手の指をズボンのゴムにかけた。ゆったりしたサイズのパジャマのズボンは意外にあっさりずり落ちて、レモン色のストライプが可愛いいショーツが半分ほど現れた。
「ああん、いやだったら……おねえさんの意地悪……」
 真由美は少し拗ねたような声を出した。熱にうなされているせいか、妙に甘えたような子供っぽい口調だった。
「真由美ちゃんはいい子ね。だから、少しだけおとなしくしてましょうね。ほーら、もうすぐよ」
 裕恵は、小さな子供をあやすように言いながらパジャマのズボンを脱がせてしまい、その下のショーツに指をかけた。
 それは、おもらしの治らない幼児が、粗相でぐっしょり濡らしてしまったパンツを母親の手で脱がせてもらう姿を思わせる光景だった。口では嫌がってみせる真由美の顔に、けれど満更でもなさそうな表情が浮かんでいることを裕恵は見逃さなかった。
 真由美の下半身をすっかりを裸にしてしまった後、裕恵は床をタオルで拭き、その上にバスタオルを広げた。
「この時間なら薬局はまだ開いてるわね。――このまま、ちょっとだけ待っててね。自転車なら十分もかからないから」
 黒い茂みが濡れそぼって白い肌に貼り付いている真由美の下腹部をバスタオルの上に横たえさせて、ちらと腕時計に目をやった裕恵が、すっと立ち上がりながら言った。
「え? あの、お薬ならまだ残ってますけど……?」
 再び熱のためにぼんやりしてきた意識の中、それでも目を会わせるのは恥ずかしくてぎゅっと瞼を閉じたまま真由美が尋ねた。
「ううん、いいの。買ってくるのはお薬じゃないから。今の真由美ちゃんにもっと必要な物なんだから」
 裕恵は意味ありげに目を細めて応えると、真由美の部屋を出て行った。
 言った通り、十分も経たずに戻ってきた裕恵が手にしていたのは、四角いビニールのパッケージだった。
 丸裸の下腹部を頼りなげにバスタオルの上で震わせながらちらと目をやった真由美が見たのは、パッケージに書かれた『成人用紙おむつ』という文字だった。




「せっかく買ってきてあげたのに、真由美ちゃんたらとても嫌がって、あの時はとうとう使わずにすんじゃったのよね」
 裕恵は昔のことを思い出すような顔になった。
 そんなの、あたりまえだわ。高校を卒業してもうすぐ大学生になるっていうのに、そんな赤ちゃんみたいな……。頭の片隅に甦ってくるあの時の光景を忘れようとでもするみたいに頭を振り、ますます顔を赤くしながら真由美は思った。
「そうよね、赤ちゃんでもないのに紙おむつだなんてね?」
 裕恵が、真由美の表情を読み取ったようにくすっと笑った。
「でも、本当はあの時、紙おむつをあててほしかったんでしょう? ――いいのよ、隠さなくても。私は何でもお見通しなんだから」
「……どういうことですか……」
 なんとなくぎくっとしたように真由美が訊き返した。
「私の口から説明してほしい?」
 裕恵は念を押すように言った。
「……」
 真由美には答えられなかった。
 たぶん、裕恵は知っていたんだろう。口では、これからは気をつけます、どんなに熱があってもちゃんとトイレへ行くから――といって紙おむつを拒否しながら、そのくせ、紙おむつの包みを手にした裕恵が部屋を出て行くのを目にした瞬間、待ってという言葉を洩らしてしまいそうになった真由美の表情を。心の中で両手を突き出し、幼い子供のように頼りなげな表情で裕恵の後ろ姿をじっとみつめていた真由美の顔を。
 いくら熱があるといっても小さな子供みたいにおもらしをしてしまうなんて。しかも、そのせいで赤ちゃんみたいに紙おむつをあてられそうになるなんて。それだけでも言葉にできないくらいに羞ずかしいのに……まさか、本当はおねえさんの手で紙おむつをあててもらいたいなんて思いが芽生えてくるなんて……。
 やだ、私、どうかしてる。そうか、熱のせいね。風邪の熱のせいで妙な具合になっちゃったんだわ。真由美は、ぼんやりした視界の中で紙おむつのパッケージをみつめながら自分に言い訳してみせた。けれど、それが風邪の熱のせいなんかじゃないことに真由美もうっすら気づいていた。
 もともと、真由美に同性愛の性向があったわけではない。どちらかといえば異性に対して引っ込み思案なところはあったものの、男嫌いなわけでもない。ただ、少しばかり気後れしたり臆病になったりすることが多いだけで、それ以外は、同じような年頃の他の女の子と全く違わない普通の娘だった。なのに、初めて会った裕恵に心惹かれてしまったのもまた事実だった。
 けれどそれは、同性に対する恋愛感情などではなかった。新しくできた若い『姉』に対する憬れといっていいだろう。男二人の兄弟の後に待望の女の子として、それもかなり年の離れた末っ子として誕生した真由美は、生まれた時から父母に甘やかされて育ってきた。幼い時の真由美はそんな環境に満足し、両親や二人の兄からちやほやされて有頂天でもあった。ところが、幼稚園に通い始め、小学校に入学する頃になると、どうしようもない劣等感(というか、嫌悪感のようなもの)に苛まれるようになった。それは、真由美自身にはどうすることもできないこと――クラスメイトたちの母親に比べると、自分の母親がかなり老けて見えるという事実だった。二人の兄が真由美と年が離れているのだからそれは仕方のないことなのだけれど、そういった年頃の子供にありがちなことに、授業参観などの時にはついつい自分の母親と他の母親たちとを見比べてしまい、思わず暗い溜め息を洩らしてしまう真由美だった。
 そうして、そんな思いを自分の胸の中だけに溜めこんで成長し、高校の卒業を迎えようとしていた真由美の目の前に現れたのが裕恵だった。自分とさして年齢の違わない(随分若い女房をもらったものだと、健二は同僚たちからさんざ冷やかされたものだった)この新しい肉親を目にしてから、真由美の胸の中にひそんでいた劣等感(母親に対するいわれのない嫌悪感)が、裕恵に対する無条件の憧憬へと姿を変えるのに、さして時間はかからなかった。
 どことなく距離を置いた母親との触れ合いではなく、歳の離れた異性の兄弟との少しばかりよそよそしいつきあいでもない――これまでに抱いたことのない甘酸っぱい感情が胸の中に充ちてくるのを止められない真由美だった。
 あの日、紙おむつを嫌がってみせながら、けれど本当はそれを――排泄を自分でコントロールできない者にしか必要ではない筈の恥ずかしい下着を真由美は心の中では求めていた。それは、新しい美しい姉の手に全てを委ねてみたいと無意識のうちに思いついたためだったんだろう。そして、その思いは今も……。

「言った筈よ。真由美ちゃんを今度こそ私の本当の妹にしてあげるって」
 言いながら手早くパッケージを開けた裕恵は紙おむつを一枚すっとつかみ上げて、微かにかさかさと音をたてながら真由美の目の前で広げてみせた。
「わかるわね? ここが真由美ちゃんの恥ずかしいところに触れる部分よ。とっても柔らかい肌ざわりだし、たくさんおもらししちゃってもちゃんと吸い取ってくれるから、なにも心配しなくていいのよ」
 裕恵の目に妙な輝きが宿っていることに、真由美はその時になって初めて気がついた。
「お、おねえさん……?」
 思わず怯えたような表情を浮かべた真由美の声は僅かに震えていた。
「真由美ちゃんの方から言い出したことよ。いまさら何を恥ずかしがってるの?」
 くすくす笑いながら裕恵は手にしている紙おむつをそっと床に置くと、自分の体に巻きつけていたバスタオルをさっと剥ぎ取った。白い肌がほてって、いつのまにか血の気が退いて蒼褪めかけた真由美の顔色とは正反対に、なまめかしいピンクに染まっている。その姿は、真由美が知っている貞淑で優しい裕恵とは違う、全く別人のようだった。
 真由美は二度三度と力なく無言で首を振ることしかできなかった。
「うふふ、真由美ちゃんがいけないのよ。真由美ちゃんがあんなことをするから」
 大きなシミになったカーペットと真由美のお尻の間に、二つに折ったバスタオルを強引に敷き込みながら裕恵は笑顔をくずさなかった。
 思わず真由美は身をよじった。けれど裕恵の手に足首をつかみ取られると、妙な無力感を覚えて動きを止めてしまう。
「本当に可愛いいわ、真由美ちゃん。健二さんと私との間に赤ちゃんが生まれて、それが女の子だったら、健二さんによく似た子でしょうね。――きっと、真由美ちゃんみたいにね」
 裕恵がぐいと真由美の足首を持ち上げたせいで、バスタオルとお尻の間に少しだけ隙間ができた。真由美は、あの日ぐっしょり濡れたショーツを強引に剥ぎ取られたのとそっくり同じ姿にされてしまった。あの日と違っているのは、今度こそ真由美のお尻の下に敷き込まれようとしている、その意外な柔らかさが却って羞恥心をくすぐる、恥ずかしい下着の感触だった。
「真由美ちゃんも言ってたけど、ほんとに男の人って身勝手よね。新婚ほやほやのこんなに素敵な花嫁さんをほっぽって外国へ行っちゃうなんてね?」
 片手で真由美の足首を持ち上げたまま、もう一方の手で紙おむつの前当ての部分を両脚の間に滑らせながら、裕恵は意味ありげに目を細めてみせた。
「で、でも……」
 ようやくのこと口を開いた真由美は、今にも消え入りそうな声を絞り出した。いつのまにか、主導権は裕恵の手に移っていた。
「そうね、でもそれはお仕事なんだから仕方ないことだって私は言ったわよね。だけど、それが本気だと思う?」
 裕恵は真由美の足を床に戻すと、紙おむつの横羽根の形を整えた。
 両足に自由が戻った後も、なぜか真由美は動けずにいた。
「私はそんなふうに思い込もうとしてただけなのよ。じゃなきゃ、自分自身が惨めになるだけだもの。なのに……真由美ちゃんがいけないのよ」
 真由美の下腹部をすっかり紙おむつで包みこんでしまった裕恵は、僅かにぎこちない仕種でテープを留め始めた。
「わ、私……」
 何かを言おうとして、けれど真由美の口からは、それ以上の言葉は出てこなかった。
「せめて子供がいれば少しは寂しさもまぎれたかもしれないわね。健二さんによく似た可愛いい子供がいてくれたらね。でも、そんな余裕もなく健二さんは出かけて行ったわ。むりやり作った笑顔で見送る私の本当の気持ちなんて知らずに。――そんな私の目の前で小っちゃな子供みたいにおもらししちゃったのよね、真由美ちゃんは。その姿がどんなに可愛らしく思えたか、真由美ちゃん自身は気がつかなかったかもしれないわね」
 テープをみんな留め終えた裕恵は、ぷっくり膨れた紙おむつの上から真由美のお尻を優しく叩いた。
 蒼白かった真由美の頬にさっと朱が差して、目の下がほんのり赤く染まった。
「それから私は、この日が来るのをじっと待つことにしたのよ。真由美ちゃんの方から言い出してくれるこの日が来ることを」
 裕恵はじっと真由美の目を覗きこみながら、真由美の上に覆いかぶさるように次第に上半身を倒していった。そうして真由美の頭を抱え上げると、再び自分の乳房を真由美の口に押しつけた。
 真由美が身を固くする気配が伝わってきた。けれど、それはほんの僅かの間だけだった。
 いつしか真由美は、おずおずした動きで唇を動かし、裕恵の乳首を口にふくんでいた。
「そう、それでいいのよ。真由美ちゃんは今日から私の可愛いい妹なんだから。――それとも、まだおむつの外れない小っちゃな娘かしらね」
 真由美に乳房をふくませたまま、裕恵は左手を紙おむつの中に差し入れた。
 しばらくすると、紙おむつの中を蠢めく裕恵の左手に生温かい感触が伝わってきた。目を閉じて盛んに裕恵の乳首を吸い続ける真由美の睫毛が震え、頬が熱くほてった。




 明るい照明の光を浴びて、楽しそうに夕食をとる美しい姉妹の姿が、駅前にあるレストランのガラス張りの壁を通して歩道に淡い影を落としていた。
 ここ数日続いていた灰色の曇り空が嘘のように澄みきった空に無数の星がまたたく中、帰路につく人たちはみんな早足だったから、テーブルをはさんで向かい合って座っている二人の内の一人が穿いているミディのスカートが僅かに不自然なラインで膨らんでいることに気づいた人はさほど多くはなかったかもしれない。



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