S女学院の物語

S女学院の物語

高木かおり



 『ソフィア女学院』は海に近い小高い丘の上に建っている。そこからは小さな港が見おろせ、時おり風に乗って、出航を告げる汽笛の音が聞こえてくる。
 広大な敷地を取り囲んで高い塀がそびえ、その中に中等部の校舎と高等部の校舎が建ち並んでいる。その少し奥には、良く手入れされた芝が青々としているグラウンドを取り巻くように、数々の設備を誇る体育館や図書館が建っている。
 その更に奥にあるのが、数百人の女学生が生活する寄宿舎の建物だ。昔ながらの洋風のその建物では、この女学院の全ての生徒が寝食を共にしている。

 或る日曜日の夕方。
 一人の少女が息を弾ませて丘の上の道を駈けていた。手には、さほど大きくないショッピングバッグが提げられている。
 そのショッピングバッグの所々に付いている泥が清楚な少女の雰囲気にそぐわず、妙な違和感を漂わせていた。
 時おり腕時計に視線をはしらせながら彼女が駈けている道の先には、ソフィア女学院の背の高い礼拝堂が見えている。
 彼女が正門の脇に設けられた受付窓口の前に辿り着こうとした時、礼拝堂の屋根の上から、午後六時を報せる鐘の音が重々しく響いてきた。
 少女の顔色が僅かに蒼ざめた。
 窓口のガラス窓が開き、縁無しの眼鏡をかけた神経質そうな女性の顔が現れると、おどおどした様子で窓口の前に立った少女に向かって声をかけた。
「外出からの帰りですね?」
 その途端、少女の体が雷にうたれたようにビクッと震え、その口からは蚊の鳴くような声で、はい、という返事が聞こえてきた。
「じゃ、生徒手帳を見せて」
 受付の女性が事務的な声で言った。
 少女は上着のポケットから濃い藍色の表紙が付いた手帳を取り出すと、そっと窓口に差し出した。
 手帳を受け取った女性は最初のページにちらと視線を投げかけると、手元に置いてあるリストとの照合を始めた。
 やがて顔を上げた女性は少女に向かって、確認するような口調で言った。
「藤田美奈さん──高等部の二年B組ね?」
 美奈と呼ばれた少女は小さく頷いた。それを見た女性は言葉を続ける。
「生活班は第七班。班長は──三年A組の河口真理さんね」
「……そうです」
 美奈は泣きそうな声で応えた。そして女性に向かって、懇願するように言った。
「……あの、なんとか大目に見てもらえないでしょうか?鐘の音と殆ど同時に帰ってきたんですし……」
「でも、規則は規則です。僅かなことでも例外を認めれば、それが次々に膨れてゆくことは、あなたにもわかるでしょう?私がこの窓口を任されている限りは、例外は認められません」
 女性は手帳を返しながら、さきほどから少しも変わらない事務的な口調で美奈の言葉を突っぱねた。
「……そうですね。私が悪いんだから、仕方ありません。ムリを言って、すみませんでした」
 思い直したように言うと、美奈は肩を落し、手帳をのろのろとポケットにしまい始めた。それから、窓口のすぐ横にある小さな通用門を通って女学院の敷地に足を踏み入れる。
「わかってるでしょうけど、この件は生活班の班長に連絡しておきますよ」
 通用門をくぐり抜け、寄宿舎の方へ歩きかけた美奈を、女性の声が追ってきた。

 ソフィア女学院の名声は県下だけでなく、この地方一帯に知られている。但しそれは、有数の進学校とかスポーツが強いといった類のものではない。いわゆるお嬢様学校として、躾の厳しいことで知られているのだ。
 学院の敷地内に寄宿舎を設けて生徒を生活させているのも、遠隔地からの生徒の利便を考えてのことではない。学校での教えだけでは足りない分を、普段の生活の中で補うために設けられているのだ。
 寄宿舎では、同じ学年の生徒が二人でペアを組み、一つの部屋を与えられる。更に、そのペアは或るグループに属することになっている。一つのグループには、一年生から三年生までのペアが一つずつ、合計六人の生徒が所属し、寄宿舎での生活は各グループが基本単位になっている。それが生活班と呼ばれるもので、美奈は第七班に属している。そのグループの班長は、受付の女性が言っていたように、三年生の河口真理が勤めている。
 生活班は元来、寄宿舎内での連絡網の整備を目的に作られたものだが、今や、その目的は大きく変質している。現在の生活班は、教師が生徒を管理するためにあるといっても過言ではない──教師からの指示は先ず班長に届き、そこから班員に伝えられる。逆に、生徒の素行は他の班員によって観察され、担当の教師に報告されることになる。一人の生徒が問題を起こせば、その班全員が連帯責任を取ることになっているため、互いの監視は厳しいものにならざるをえない。
 この学院では、正規の教育の他にこういったシステムを活用することによって、その厳しい躾を徹底しているのだ。
 そして今日の美奈のように、門限である午後六時を過ぎて帰ってきたという事実は、速やかに班長のもとへ報告されることになる。

 正門から十分ほどもかけて寄宿舎の玄関に辿り着き、自分の部屋のドアを開けてみると、そこには美奈が所属している生活班のメンバーが揃っていた。
 美奈の胸が高鳴った──こうしてみんなが集まっているところをみると、もう報告が届いたみたいね。
「ねえ、藤田さん」
 メンバーの中でも、最も落ち着いた様子の少女が美奈に向かって声をかけた。それが真理だった。
「そんな所にポケーッと立ってないで、こちらへいらっしゃいな。あなたの席はちゃんと用意してあるんだから」
 真理はそう言いながら、床の上の一点を指差した。改めて見てみるとメンバーは半円を描くような格好で床の上に座っており、真理が指差したのは、どうやらその中心にあたる場所のようだった。
 思わず美奈はこの場から逃げ出したいという衝動に駆られたが、そんなことができるわけもなく、ゴクリと唾を飲みこむと、真理の指示に従って、静かに床の上にお尻をおろした。
 真理はしばらくの間、床に座った美奈の目を真正面から覗きこむようにしていたが、不意に右目でウインクしてみせると、わざとのような優しい声をかけた。
「あなたが門限を破ったという報告が、受付の事務官の方から届きました。だけど、私は何かの間違いだと思ってるの──だって、あの真面目な藤田さんがそんなことをするわけ、ないわよね?」
「……」
 美奈には、真理の皮肉に対して返す言葉がなかった。僅かに目を伏せ、口をつぐんで拳を震わせるばかりだった。
 そんな美奈の様子を見つめていた真理が、前にもまして優しげな口調で言葉を続ける。
「あら、間違いじゃないのかしら?でも、そうだとしても、何かの事情がある筈だわ。さ、事情を話してちょうだい。私たちは仲間でしょう?」
 しかし美奈は口を閉じたままだった。
 本当のことなど、この場で口にできる筈がないのだ。
 寄宿舎の食堂で昼食を摂った後、美奈は参考書を買いに行くという口実で外出許可を取った。だが、それはまっ赤な嘘だった。本当は、前から欲しくてたまらなかった可愛いいスキャンティを買い求めるためだったのだ。以前、何かの機会で街に出た美奈は、或る洋品店の棚に置いてあるスキャンティに目を奪われた。普通の女子校生から見れば何の変哲もない、ありふれたものだったろうが、躾の厳しい女学院にいる美奈にとっては、宝石のように輝いて見えたものだった。なんといっても、女学院では下着の種類までもが校則で決めらていて白のショーツしか身に着けられないのだから、その淡いピンクに小さなリボンが付いた(そして、少しばかりセクシーに仕立ててある)スキャンティは憧れの対象になってしまったのだ。
 さすがにその時は校則違反の下着を買い求める勇気はなかったものの、日が経つにつれて、その欲求は次第に大きくなっていった。
 そして、遂に今日、嘘の外出許可を得て街に出たのだ。
 ずっと気にかかっていたスキャンティを手に入れ、ついでだからと、他にも三枚ほどの下着を一緒に買ってしまった美奈は有頂天になり、ショッピングバッグを胸に抱えると、店のドアから飛び出すように歩道に足を踏み出した。
 そこへ、若い男性の乗った自転車が突っこんできた。幸いショッピングバッグをハンドルに引っかけられて歩道に落した(ショッピングバッグに付いていた泥は、この時のものだ)以外にはこれといった怪我もせずにすんだが、バランスを崩した男性の方は、その場でいやというほど腰をうちつけるようにして転倒してしまった。
 責任を感じた美奈は自転車を起こすのを手伝い、その上、その男性が家に帰る道を同行までした。結局、骨や筋肉には異常もなく、湿布をするだけでなんとかなりそうだという言葉を聞くまで、美奈は男性の家の玄関にたたずんでいた。
 そうこうしているうちに時間が流れ、美奈は門限を破ることになってしまう──。
 そんな事情をメンバーに説明することはできなかった。嘘の外出許可、校則違反の下着、そしてなんといっても、男性と一緒に歩き、あまつさえ、彼の家にまで行ったことなど、口が裂けても言えなかった。
 今時そんな、と言われそうだが、この女学院では男女交際は絶対に認められない。
それが方針であり、その方針を認めた上で入学した(ムリヤリ親が入学させたといった方が適切かもしれないが)以上は、その校則を破ることはできないのだ。

「……みんなにも話せないようなことをしてきたの?じゃ、仕方ないわね」
 唇をギュッと噛みしめ、肩をブルブルと震わせながら何も話そうとしない美奈の様子をじっと見つめていた真理が、シビレをきらしたような口調で言うと、その場にスッと立ち上がった。
 ふと顔を上げた美奈が見守る中、どこからか細い棒のような物を取り出した真理は、それを両手で軽くしならせてみせながら冷たい声で言った。
「幸い藤田さんのミスはこれが初めてだから警告だけで済むでしょうし、私たちが罰を受けるようなこともないでしょう。でも、今後こういったことがないよう、私たちがお仕置きすることにします」
 真理が左手を離すと、その細い棒はピーンという鋭い音をたてて、元のようにまっすぐになった。
 美奈の顔から血の気がひいた。
「じゃ、その場で床に手と足をつきなさい」
 真理は棒を美奈の顔に向かって突き出すと、強い調子で命令した。
 美奈は弱々しく首を横に振ったが、真理が「何をしてるの。さっさとなさい」と言いながら棒を机に叩きつけると、そのピシッという音に驚いたように、慌てて言われた通りの格好をした。
「もっとお尻を上げて──そう、もっと突き出しなさい」
 真理はゆっくりと美奈の背後に回りこむと、美奈のお尻を下から支えるように手を突き上げた。そして、不意に美奈のスカートを捲り上げ、ショーツに手をかける。
「……イヤ。もうしませんから。だから、許してください。もうしませんから……」
 美奈は思わず泣き出しそうな声を出した。
 しかし真理は無言のまま指に力を入れると、美奈のショーツを、床についている膝のすぐ上まで引き下げてしまった。
 血の気が失せてまっ蒼だった美奈の頬が、急に赤く染まった。その赤味は急速に広がり、耳の先までが赤くなるのに、それほどの時間はかからなかった。
 真理は手にしていた棒を一人の少女に向かって差し出すと、平然とした声で言った。
「最初は木下さんからね。さ、やってごらんなさい」
 木下と呼ばれた一年生の小柄な少女はビクッと体を震わせると、ブルブルと首を横に振りながら言った。
「そんなこと、できません。お姉様のお尻をぶつなんて、私にはできません」
 その言葉を聞いた真理はニコッと笑うと、少女の右手に棒を握らせながら、なだめるように言った。
「ダメよ。いずれはあなたも私と同じように生活班のリーダーになる日がやって来るわ。そうなれば、優しいだけではやっていけない。時には厳しくすることが、メンバーを束ねる上で必要になるのよ。その時の練習だと思って、やってみなさい」
 少女は、すぐ横に立っている真理の顔をおずおずと見上げた。それに対して、真理が小さく頷いて応える。
 しばらくためらっていた少女も、決心を固めたような表情を顔に浮かべると、真理に手を引かれて美奈の背後に向かって歩いて行った。
 ギュッと目を閉じた美奈の耳に、少女が腕を振り上げる時の衣ずれの音が微かに聞こえた。
 美奈が奥歯を噛みしめた瞬間、ピシリッという音が部屋の空気を震わせ、美奈の頭の中に無数の星が生まれた。
 二度目は更に悲惨だった。偶然だろうが、一度目と寸分たがわぬ所に棒が振りおろされたのだ。
 痛みが倍加した。
 美奈の口から、ヒイッという、声とも悲鳴ともつかない音が洩れ、閉じていた目が大きく開いた。
 涙のためにぼやけてしまった美奈の視界の中で、同級生の井本潤子が両手で顔を覆っていた。

 美奈が解放されたのは、五人のメンバーに二度ずつ折檻された後だった。
 解放されたといっても美奈のお尻には棒の跡がミミズ腫になって残っていて、椅子に座ることもできないほどの痛みが続いた。
 他のメンバーが夕食を摂るために寄宿舎の食堂に向かった後も、美奈は床の上にうつぶせになって痛みに耐えていた。
 美奈の目から、再び涙が溢れ始めた。しかしその涙は、痛みのためだけではなく、自分よりも年下の少女からお仕置きを受けたという屈辱のためのものだった。
 部屋に誰もいないことを確認した美奈は、エンエンと幼児のように声をあげて泣き始めた。
 どれくらいの時間が経っただろう。
 不意に美奈の涙が止まった。
 唐突に、街で出会った若者の顔が頭の中に浮かび上がってきたのだ。自分と同い歳くらいかと思える若者は、美奈の頭の中で爽やかな笑顔を見せていた。その笑顔を見た美奈は、こんなことで泣いている自分がひどくつまらない存在に思えた。
 美奈はムリヤリ笑顔を作ると、痛みを我慢してショーツでお尻を隠した──こんな恥ずかしい格好、あの人に見られたくなんてないものね。

 潤子が部屋に戻ってきた時、美奈は毛布を体にかけてベッドの上で眠っていた。少しばかり呆気にとられたような表情を浮かべた潤子が覗きこんでみると、美奈の顔には涙の跡が幾条も残っているにもかかわらず、そこには、なんともいえないような笑顔が浮かんでいた。




 次の日曜日、美奈は再び外出許可を取っていた。
 しかも今度は、朝食が終わってすぐのことだった。
 美奈と同室の潤子からそのことを報された真理はすぐに自分の班のメンバーを呼び集めると、美奈のあとを追うために外出許可を窓口に願い出た。

 美奈に気づかれないように尾行するのは、たいして難しいことではなかった。五人もの人間がゾロゾロとついて行くのだからすぐに気づかれそうなものだが、美奈は周囲の様子にもさして興味をしめさず、何かを思いつめたような表情で前方だけを見つめて歩いていたのだ。
 そのまま二十分ほども歩いただろうか。
 美奈はバス停で立ち止まった。
 真理は思わず舌打ちをした。そのバス停には美奈の他に人影はなく、一緒にバスに乗りこもうとすれば、美奈に気づかれてしまうだろう。
 どうしようか?と真理が親指の爪を噛んで考えているところへ、バスのものらしいエンジン音が聞こえてきた──さあ、どうすればいい?
 その時、キャッキャッと甲高い、若い女性のものらしい声が幾つも真理の耳に届いた。ふと声の聞こえてくる方を視線を向けてみると、十人ほどの中学生らしき少女の団体が走ってくるところだった。見たところ、このバスに乗り遅れまいと急いでいるらしい。
 真理にとっては、これが幸いだった。結局、中学生の群れに紛れこむようにして、美奈に気づかれることなくバスに乗りこむことができたのだ。

 幾つかの停留所を過ぎ、美奈がバスからおりたのは、町から少し外れた静かな住宅地だった。
 バスからおりた美奈は停留所の近くにあった電話ボックスにとびこむと、アドレスノートを見ながら、ダイヤルボタンをゆっくり押し始めた。
 呼び出し音が受話器から流れている間、美奈の顔には不安げな表情が浮かんでいたが、やがて電話に出てきた相手と二言三言話しているうちに表情が変化し、遂には、真夏の太陽のように明るく輝くような笑顔になっていた。
 少し離れた潅木のかげに身を潜めて美奈の様子をじっと見つめていた真理の頭に、ピンとひらめくものがあった──ひょっとして、あの子。ううん、まさか。
 電話ボックスから出てきた美奈は、それこそスキップでもしそうな足取りで歩道を歩き始めた。
 真理たちは互いに目配せをすると、さきほどと同じように美奈のうしろを静かについて行った。
 やがて美奈が足を踏み入れたのは、住宅街の中心にある小さな公園だった。僅かな児童遊具とベンチ、それに藤棚があるだけのこじんまりした公園だが、手入れは良く行き届いているようで、紙屑一つ落ちていない。
 美奈が公園の入口に立った時、ベンチの傍らに立っていた男性が大きく手を振った。
 美奈はニコッと微笑むと、ちょっと照れたような仕草で小さく手を振り返した。
 ゆっくり美奈の方に近づいて来るその男性こそ、先週の日曜日、自転車で美奈に突っこんできた少年だった。
 二人は互いに眩しそうに顔を見合わすと、ベンチに向かって静かに歩き始めた。
 その様子を見ていた真理の頭の中に、やっぱり、という思いが浮かんできた。

 美奈が寄宿舎に帰ってきたのは、午後五時前だった。
 本当はもっと二人でいたかったのだが、先週のこともあるので、早目にデートを切り上げて帰ってきたのだ。
 思わずニコニコしてしまう表情をなんとか引き締めた美奈は、ただいまー、と言いながら部屋のドアを開けた。
 しかし、軽い足取りで部屋に入ろうとした美奈の体が、その場で硬直してしまった。
 自分の部屋に生活班のメンバーが揃っていたからだ。それも、先週と同じような形で床に座っている。
「あら、お帰りなさい。今日は早いのね」
 真理が、明らかに嫌味を含んだ声を美奈にかけた。
「……あの、今日は何かあるんでしたっけ?定例ミーティングは昨日でしたよね……」
 美奈は強い胸騒ぎを感じながら、わざととぼけて言ってみた。だが、その声は小刻みに震えている。
「いいから、座りなさいな」
 真理が、先週と同じように床の一点を指差すと、強い口調で命令した。
 美奈は自分を落ち着かせようとでもするように唇を舌で湿らせ、深呼吸を繰り返してから床に座りこんだ。
「どこへ行ってたの?」
 美奈が座るのを待ちかねていたように、真理の質問が飛んできた。
「……え、あの、買物です。あの、ブラウスがちょっと……」
「正直に答えなさい」
 しどろもどろになりながらなんとか説明しようとしていた美奈の言葉を遮って、真理の鋭い声が美奈の耳をうった。
 グッと言葉に詰まった美奈は視線を床に落すと、下唇を前歯でギュッと噛んだ。
 しばらくの間があり、さきほどまでとはうってかわった静かな口調で、真理が声をかけた。
「あなたが今日どこへ行ったのか、みんなわかってるのよ。そして、誰と会ったかも。私の口から言わなくても、あなたがしたことがどれほどの校則違反なのか、自分でわかるわね?」
 美奈は、ちらと視線を真理の顔に向けたが、すぐに床に戻すと、微かに頷いた。
「このことは私たちしか知らないわ。今日のところは先生にも報告しないから、もう二度と同じようなことをしないでね」
 真理のその言葉に美奈は首を縦にも横にも振らず、ただうなだれているだけだった。
「約束できるわね?」
 真理が、少しばかり苛立ったように確認を求めた。
 だが、美奈はピクリとも動かない。
 真理は呆れたようにフーッと息を吐き出すと、人差指の先で自分の顎をトントンと叩きながら言った。
「あなたがそんなに強情な人だとは知らなかった。でも、あなたがなんと言おうとも、わたしたちはあなたと彼との交際をやめさせるわよ」
「……そんな。あんまりです」
 美奈が、蚊の鳴くような声で反論した。
 しかし、真理はこともなげに美奈の言葉を突っぱねる。
「なにが、『あんまりです』よ。いい?──あなたの校則違反が先生に知れたら、私たち全員の責任になるのよ。あなた一人の勝手な行動が、どれほどメンバーに迷惑をかけることになるか、考えてごらんなさい」
「それは──わかっています。わかってるけど、どうしても会いたいんです」
「……そう。そこまで言うなら、仕方ないわね。じゃ、私たちも実力行使に入るわ」
 真理の言葉を聞いた美奈は微かに肩を動かすと、反射的に両手で自分のお尻を庇うような動作をしていた。
「心配しなくてもいいわよ。今日は、お尻なんてぶたないわ。そんなことしてもムダだってことはわかってるもの」
 真理は鼻をフンと鳴らすと、そう言った。そして、美奈の顔を睨みつけるようにして言葉を続ける。
「あなたは──私もそうだけど──まだ大人じゃないのよ。男の人と交際するのはまだ早い。それでもどうしても、って言うんなら、あなたがまだ子供だっていうことを存分に教えてあげるわ。まだまだお尻の青い赤ちゃんだってことを忘れられないようにしてあげる。そうすれば、男女交際なんて先のことだっていうことがハッキリわかるでしょうよ」
 真理はそう言うと、潤子に向かって目で合図を送った。
 潤子はちょっと肩をすくめてみせてから、背後に置いてあった袋を手に取ると、それを真理に差し出した。
 袋を受け取った真理はその中に手を差し入れ、何かをつかみ出してきた。
 真理が袋から取り出した物を見た美奈の顔が、一瞬にして蒼ざめた──まさか、これを私に?
 美奈の反応を楽しむように、真理は袋から取り出した物を次々と美奈の目の前に並べていった。
 やがて袋を空にしてしまうと、クスクス笑いながら嘲るように言う。
「どうかしら──これをいつも身に着けていれば、自分がまだまだ赤ちゃんだってことが忘れられなくなるわよ」
 美奈はワナワナと唇を震わせ、目の前に並べられた物から目をそむけようとした。
しかし、磁石にでも吸い寄せられるように、美奈の目は床の上に置かれた物に釘付けになってしまっていた。
 そんな美奈の様子をおもしろそうに見ていた真理の、わざとのような大きな声が部屋中に響いた。
「でも、驚いちゃったわ。ボランティア活動の介護実習で見せてもらったのはもっと地味な物ばかりだったのに、こんなにカラフルなオムツカバーが薬局にあるなんて」
 そう。
 真理が床に並べたのは、成人用の大きなオムツカバーだった。だが、真理の言うように、ベージュやブルーの味気ないものではなく、水玉模様やストライプがあしらわれた、見ようによっては赤ん坊用と間違うようなデザインのものばかりだった。ここ数年、老人介護用などの需要が増え、成人用オムツカバーのメーカーもデザインに気を使っているのだろう。
 オムツカバーの横には、動物柄や水玉模様の布オムツが並べられていた。ビニールの包装には、『仕立て上がり・十組入り』などという文字が印刷されている。
「さあ、最初はどれがいいかな?自分で選ばせてあげるわ」
 真理は唇を歪めるような笑い顔を作ると、意地の悪い質問を美奈に浴びせかけた。
「……」
 美奈は、無言のまま首を横に振った。
「あら、どうしてよ?せっかく、みんなで買ってきてあげたのに」
 真理の言う通りだった。
 住宅街の公園で美奈が男性と話し始めたのを見た真理たちは、その場で、美奈に対するお仕置きの方法を相談したのだ。そして、真理の提案に皆が賛成し、そのまま薬局に向かった。そこでオムツカバーを買い求め、更に、デパートのベビー用品売場で布オムツを買って帰ってきたのだった。

 不意に美奈が立ち上がり、ドアに向かって駈け出そうとした。
 その足首を真理の同級生が掴み、力を入れて引いた。
 その拍子に、美奈は大きな音をたてて尻餅をついてしまった。そして、そのまま、あおむけに倒れてしまう。
 真理が手を振ると、何人かが美奈の手や胸を抑え、自由を奪った。
 美奈は両脚をバタバタと動かしてみたが、それも足首を掴んでいた少女によっておとなしくさせられてしまった。
 真理は勝ち誇ったような表情を浮かべると、美奈の両脚の間の床に膝をついた。それからおもむろに、裾に飾りレースが付いたスカートを美奈のお腹の上に捲り上げる。
その中からは、前の日曜日に美奈が買ったばかりのピンクのスキャンティが現れた。
「こんな物を穿いているから、男の人と付き合ってみようかなんて考えを起こすのよ。あなたにはオムツの方がお似合いよ」
 真理はそう言うと、美奈のスキャンティを一気に引きおろし、それを丸めて屑カゴに放りこんだ。
 アッと思いながら屑カゴを見つめた美奈の耳に、ビリッという音が聞こえてきた。それは、真理がオムツの包装を破いている音だった。
 他のメンバーが見守る中、真理は水玉模様のオムツカバーを広げると、それを美奈のお尻の下に敷きこんだ。
 裏地のビニールのひんやりした感じが美奈のお尻いっぱいに広がる。美奈は首を横に向け、ギュッと目を閉じた。
 真理は更に、包装を解いたばかりのオムツを何枚か、オムツカバーの上に重ねていった。さきほどまでの冷たい感触ではなく、柔らかくほんのりと暖かい布の感触が美奈の羞恥を激しく刺激し、彼女の顔は見る間にまっ赤に染まっていった。
 オムツカバーの前当てと横羽根をマジックテープで留め、腰紐を強く結び終えた真理は、オムツカバーの上から美奈のお尻をぽんぽんと叩きながら、あやすような口調で言った。
「はい、できたわよ。美奈ちゃんはおとなしくって、いい子だったわね」
 その言葉に、まっ赤だった美奈の顔がますます赤くなり、それこそ紙を近づければ火がつくのではないかと思えるほどになってしまった。
「じゃ、いいわ。藤田さんを立たせてみてちょうだい」
 真理がそう言うと、それまで手や脚を抑えていたメンバーが手を離し、美奈の両手を掴んで引き起こした。
 お腹の上に捲れ上がっていたスカートの裾がハラリと落ち、その中にオムツカバーを隠してしまう。それでも、白いスカートの生地を通してオムツカバーの水玉模様が仄かに見えている。しかも、もこもこと膨れたヒップラインはスカートの上にもハッキリ現れていて、スカートの中に何を穿いているのか、すぐにわかってしまうほどだった。
 美奈は、みんなが自分の姿をじっくりと観察している間も目を閉じたままだった。
だからその恥ずかしい姿は直視していないものの、太腿を絞めつける裾ゴムと、ウエストに喰いこむ腰紐の感触から、自分がオムツカバーでお尻を包まれていることを鮮明に意識していた。

 礼拝堂から、午後六時の鐘の音が響いてきた。
「あら、もうこんな時間になっちゃったの。そろそろ、部屋に戻りましょうか」
 真理は明るい声でそう言うと、その場に立ったままの美奈を無視して部屋から出て行こうとした。
 しかし、突然何かを思い出したように振り向くと、美奈のタンスの再下段の引出に赤い紙を貼り付けた。
 それから真理は美奈の側に立つと、相変わらず閉じたままになっている美奈の瞼をムリヤリ指で開き、タンスを指差して言った。
「あの赤い紙が見えるわね?あなたの下着は全て一番下の引出に収納し直しておいたわ。あの紙は、その引出を封印するために貼ったものなのよ。あなたが勝手に自分の下着を着けようと思っても、こうしておけば、引出を開けられないでしょう?──もしもあの封印を破るようなことがあったら、どんなお仕置きが待っているか、充分に覚悟しておくことね」
 美奈はそれから長い間、無言で立ちつくしていた。

 その日は遂に、美奈は夕食を摂らなかった。食欲など、とうてい感じるものではなかったし、それに、オムツで大きく膨らんだお尻のまま、皆が集まっている食堂に入る気にはなれなかった。お風呂にしてもそうだった。班毎にお風呂に入る時間が指定してあるとはいえ、幾つかの班がまとめて入るようにスケジュールが組んであるのだ。
脱衣場で自分の惨めな姿を誰に見られるともわからないというのに、そんな所へのこのこ出て行く気になれるわけがなかった。
 美奈は、同室の潤子が入浴に出ている間にパジャマに着替えようとした。ブルーのチェック柄で、美奈の一番のお気に入りのパジャマだったが、美奈は結局、それを着ることができなかった。上着の方はいいのだが、オムツカバーのためにズボンが窮屈で穿けなかったのだ。ムリをすれば穿けなくもなかったろうが、ゴムが伸びてしまうのは嫌だったし、ズボンがモッコリと膨れてしまい、ますます惨めな姿になってしまいそうで、諦めざるをえなかった。
 パジャマを諦めた美奈はネグリジェを着ることにしたが、これも大差はなかった。
おシャレを意識し始めた美奈は、ネグリジェにしても保温性や吸汗性などの実用的な目的よりも、見た目の可愛いさを優先させて買う傾向が強かった。そのため、美奈のタンスの中にあるネグリジェはどれも丈が短く、ややセクシーなベビードールばかりだった。実際にそれを着てみると、短い丈のため、オムツカバーがベビードールの中に隠れてしまわず、半分ほどが裾の下から見えてしまっていた。その格好は見ようによってはベビー服の下からオムツカバーをのぞかせている幼児の姿のようで、美奈は羞恥心を激しく煽られる思いがした。
 それでも、腰やお尻に窮屈な思いを感じるよりは、と思い直して、そのままベッドにもぐりこんだのだった。




 翌日(月曜日)の朝、美奈は目覚まし時計が鳴る前に目を醒ました。
 美奈は静かにベッドからおりると、ガウンを羽織り、部屋から出て行った。行く先は真理の部屋だ。足音を忍ばせて廊下を歩き、自分たちの隣の部屋の前で立ち止まる。
 大きく深呼吸してから、美奈はノブに手をかけてそっと回した。いつ寮母らが見回りに来てもいいようにロックされていないドアは、僅かな音もたてずに内側に開いた。
 カーテンを通して窓から差し込む月の仄かな光を頼りに、美奈は真理が眠っているベッドへと近づいて行った。
 美奈の気配を察したのか、不意に真理の目が開いた。いや、ひょっとしたら美奈がやってくるのを予想して、目を醒ましていたのかもしれない。それほど、
「あら、おはよう。こんなに早く、どうしたの?」
という真理の声はハッキリしたものだった。
 美奈はギクリとして身を引きかけたが、すぐに気を取り直すと、小刻みに震える声で真理に話しかけた。
「あの、今日は学校へ行かなくっちゃいけないし……オムツを外してもいいですよね?」
 真理はベッドの上にゆっくり上半身を起こすと、クスッと笑ってから短く応えた。
「ダメよ」
「え、でも……」
「私が言ったこと、忘れたの?──私はあなたに、『あなたがまだ子供だってことをずっと忘れないようにしてあげるわ』って言った筈よ。それは寄宿舎の中だけじゃなくって、学校でも同じことだわ。だから、オムツはそのままにしてなさい」
「……」
「返事はどうしたの?」
「……」
「藤田さん?」
「……はい。わかりました」
 一度言い出したことは何があっても引っこめようとしない真理の性格を知っている美奈は、うなだれながら渋々返事をした。
 それでも未練がましく、もう一度だけと思いつつ、言葉を返してみる。
「でもこのままじゃ、オムツをあててることがスカートの上からでもわかっちゃうんですけど……」
「別に、構わないじゃない。いっそみんなに知ってもらった方がせいせいするんじゃないの?」
 どこまで本気なのか、真理が平然と言い放った。
「そんな……」
 美奈は両手の人差指どうしを絡ませ合い、今にも消え入らんばかりの恥ずかしそうな表情をみせた。
 そんな美奈の様子を見ていた真理が、クスクス笑いながらおもしろそうに言う。
「じゃ、オムツの枚数を減らしてみたら?そうすれば、それほど目立たなくなるわよ」
「いいんですか?」
「そのくらいは大目に見てあげるわ。別に、オムツの中にオモラシしなさいとまでは言ってないんだから。それとも、オモラシしてみたいの?」
 美奈は慌てて首を横に振ると、ペコリと頭を下げて部屋を出た。

 自分の部屋に戻った美奈はベッドの上で横になると、自分の下腹部を包んでいる大きなオムツカバーの腰紐をほどき始めた。意外と強く結ばれている紐に少々てこずったものの、マジックテープを外し、前当てを開くと、それまで感じていた窮屈さがやわらいだ。
 更に、T字形にあてられていたたくさんのオムツを外すと同時に、心地良い解放感が美奈の心を充たした。
 下腹部に感じていた圧迫感がなくなったせいか、唐突に、昨夜からトイレへ行っていないことが思い出され、美奈は体を起こした。しかし、今のように下半身を裸にしたままの状態でトイレまで行くのは躊躇われた。かといって、せっかく久しぶりに味わうことのできた解放感を再びオムツで覆ってしまうのもイヤだった。
 ふと美奈の頭にひらめくものがあった。
 美奈は急いでベッドからおりると、タンスの前に膝をついた。そして、下から二番目の引出を開けてみる。
 そこには体操着が入っていた。ジャージやスエットスーツと一緒に、黒いブルマーも揃っている。
 美奈はホッと溜息をつくと、そのブルマーを右手でつまみ上げた。
 それからおもむろに、裸のままの下半身に直接ブルマーを穿いてみた。これなら誰かに見られたとしても、さして妙な印象を与えることはないだろうと考えたのだ。
 確かに、見た目はおかしくはなかった。普段の生活に体操用のブルマーを穿いているのだから変と言えば変ではあるけれど、裸のままやオムツカバーに比べればずっとマシだった。
 しかし、そのブルマーを長く穿いていることは難しそうだった。ショーツの上に穿くならなんともないのだが、直接素肌の上に穿くとなると、お世辞にも穿き心地が良いとはいえないのだ。ゴワゴワした感触が股間に伝わり、材質のせいか、なにやらチクチクした刺激さえ感じられるのだった。
 それでも、短い時間なら我慢できそうだと美奈は思った。

 そのままの格好でトイレへ行ってきた美奈は、部屋に戻ってくると、ブルマーを急いで脱ぎ棄てた。どうやらトイレへの往復が、ブルマーの感触を我慢できる時間の限界のようだ。
 それから美奈は、何かを考えるような表情を浮かべると、さっき外したオムツカバーをお尻にあててみた。
 美奈の顔に、僅かに落胆の色が浮かんだ──やっぱりオムツカバーだけじゃ、気持がわるいわね。オムツも要るみたいだわ。
 お尻の膨らみをなるべく目立たせないようにするためには、オムツの数を減らす必要がある。そこで美奈は、オムツをあてずにオムツカバーだけではどうだろうと考えたのだ。が、実際に試してみると、オムツカバーだけでは、裏地のビニールがもろに肌に触れてベトベトと気持が悪かった。オムツカバーと肌との間に柔らかなオムツが必要だということが実感されたのだ。
 美奈はオムツカバーにオムツを二枚重ねると、改めてお尻を包んでみた。どうやらその程度では、お尻の膨らみはさほど目立たないようだ。これなら、制服のスカートに隠れてしまうだろう。
 ただ、風でスカートが捲れたり、なにかの拍子で階段の下から見られた時には、スカートの中に着けているのが普通のショーツではないことがすぐにバレてしまう恐れは充分にある。
 それをどうしようか、と親指の爪を噛みながら考えていた美奈の目に、脱いだばかりのブルマーがとびこんできた。
 美奈は目を輝かせると、オムツカバーの上からブルマーを穿いてみた。オムツの枚数を減らしたため、それほど窮屈ではなく、しかも、ブルマーのゴワゴワした感じも伝わってこなかった。それは、思った以上の結果だった。
 美奈は安堵の溜息をつくと、静かにベッドに腰をおろした。
 その時になって、目覚まし時計の可愛らしいベルの音が響いてきた。隣のベッドで、潤子がモゾモゾと体を動かし始める気配があった。

 それから二日間は何事もなく、なんとか無事に過ぎていった。
 問題は水曜日に起こった。
 水曜日の一時間目はホームルームの時間になっていて、クラス内で問題になっていることを討議したり、各種の連絡が伝えられたりする。時には、カバンの中身を教師が検査することもある。
 そしてこの日のホームルームでは、服装検査が行われることになった。
 ソフィア女学院では、制服はもとより、上はヘアバンドの色から、下はソックスの柄まで細かな規定が設けられている。下着の種類や色も例外ではない。つまり、この女学院で服装検査といえば、当然のように下着のチェックも含まれることになる。
 中年の担任教師が、生徒の制服を点検し、髪の色をチェックしながら、机の間を歩いてやってきた。
 いよいよ美奈の前に立ち止まった教師は無遠慮な視線で美奈の体をジロジロと観察すると、事務的な口調で言った。
「外見は結構ね。じゃ、下着を見るから、スカートをたくし上げなさい」
 美奈は一瞬、どうしようか、と考えた。しかし、教師の命令に逆らったりすれば後がどうなるか、それを知らないわけでもない。
 美奈はスカートの裾を両手で摘むと、静かに持ち上げてみせた。
 教師が、興味深げな目で美奈のスカートの中を覗きこんだ。そして少し間を置いた後、美奈の顔を正面から見据えて尋ねた。
「今日は、体育の授業は無い筈ですね?」
 美奈はドギマギしながら、小さな声で、はいと答えた。
「じゃ、このブルマーは何なのかしら?」
 その教師の声に反応するように、教室中の生徒の目が一斉に美奈に注がれた。特に、近くの生徒はあからさまな好奇の目を美奈の下腹部に注いでいる。
「……はい、あの、スカートが風で捲れても恥ずかしくないようにと思いまして、その……」
「嘘をおっしゃい。もしもそれが本当なら、ずっとブルマーを穿いていた筈です。でも、前の検査の時にはショーツだけでしたね」
 言葉を探しながら懸命に説明しようとしていた美奈の言葉を遮って、教師の厳しい声が教室中に響いた。
 それまで、美奈の方を指差しながらヒソヒソと言葉を交わしていた生徒も、その教師の声に圧倒されたように口を閉ざし、教室の中がシーンと静かになった。美奈がどのように弁明するのか、それを待ち構えるように、皆の目が美奈の口元を見つめていた。
「ブルマーを脱いでみなさい」
 沈黙を破ったのは教師だった。
「え、でも……」
「ちゃんとした下着を着けているのなら、ブルマーを脱いで見せられる筈です。それとも、校則違反の下着を穿いてるのかしら?」
 美奈が、それは……、と言おうとした瞬間、教師の手が動いた。美奈のブルマーを、教師が強引に引きおろしてしまったのだ。
 ブルマーの下から、白のストライプが入ったピンクのオムツカバーが現れた。
 教師がアッというように口を手で押さえ、教室内にざわめきが広がった。
 美奈の顔がまっ赤に染まり、体がブルブルと震えた。
 教師は戸惑ったような表情を顔に浮かべると、美奈に何かを話しかけようとした。
しかし、今の美奈には自分の言葉を聞くだけの余裕がなくなってしまったようだと判断すると、隣の潤子の方に顔を向けて言った。
「井本さんが藤田さんと同じ生活班だったわね?もしも事情を知ってるなら、説明してもらえるかしら?」
 突然呼びかけられた潤子は事情を説明しようとして、喉まで出かかった言葉を慌てて飲みこんだ──美奈のオムツがお仕置きのためだと言ってしまえば、それが何に対するお仕置きなのか、教師は更に問い詰めてくるだろう。そうなれば、美奈が若い男性と公園にいたことを報告せざるをえなくなる。そんなことになったら、班のメンバー全員が罰を受けることになるのだ。
「……あの、藤田さんは病気なんです──雑菌性の膀胱炎にかかったみたいで、その、先週の土曜日の夜からオモラシが……」
 潤子は、咄嗟に思いついたデマカセを口にした。病気ということになれば、教師もそれ以上の詮索はしないだろうと思ったのだ。
 美奈は恐い目で潤子を睨みつけたが、かといって彼女にしても上手な言い訳は思い浮かばないのだから、潤子の言葉を否定することはできなかった。
「……そうだったの。それでオムツをあててるのね。だけど恥ずかしいからブルマーで隠してたのね?」
 教師はやっと納得がいったというような表情を浮かべると、さきほどまでの厳しい口調とはうってかわって、いたわるような声で美奈に言った。
 その言葉に美奈が無言で頷くと、教師は務めて明るい声で言葉を続けた。
「でも、恥ずかしがることはないのよ。病気だったら仕方ないんだから。それよりも、私が見たところ、オムツの枚数が少ないように思えるんだけど、どうなの?」
「え……?」
「私がボランティア実習の担当をしているのは知ってるでしょう?その経験でね、その人がどのくらいのオムツをあててるのか、外から見ただけでわかるのよ──藤田さんの場合、ブルマーで隠そうとして、充分な枚数をあてていないように見えるわ」
「……」
「ね、恥ずかしがることなんてないんだから、オシッコをちゃんと吸収できるだけの枚数をあてておいた方がいいわよ」
「……はい。今度から、そうします」
「今度からなんて言ってたら遅いわ。いつオモラシしちゃうか、わからないんでしょう?今からでも保険室へ行ってちゃんとしてらっしゃい」
「でも……オムツ、持ってきてないんです。だから……」
「あらまあ、不用心だこと。じゃ、寄宿舎へ戻って取ってらっしゃい。でないと、もしも失敗しちゃったら、教室のみんなに迷惑をかけることになるわよ」
「……はい」
 美奈は肩を落し、うなだれたまま返事をした。しかし返事とは裏腹に、その脚はなかなか動き出そうとはしないようだった。
 そんな美奈の様子を見つめていた教師は両方の掌をパンと打つと、凛とした声で美奈を促した。
「さあ、時間がもったいないわよ。さっさとなさい」
 それから再び潤子の方に顔を向けて指示を与えた。
「井本さんも一緒について行ってあげてちょうだい。その方がなにかと便利でしょう」
 潤子が、はい、と返事をし、美奈の手を引いて教室から出て行くのを見守りながら、教師は大きな声を出した。
「さあ、検査の続きを始めますよ。ちゃんとした姿勢を取りなさい」

 寄宿舎の部屋に戻ると、美奈は少しばかり尖った声を潤子にかけた。言ってみても仕方ないとは思いつつも、つい言わずにいられなかったのだ。
「どうして、私が膀胱炎だなんて嘘を言ったのよ。そのおかげで、せっかくオムツが目立たないようにしてたのに、ダメになっちゃったじゃない」
「仕方ないわよ。あの時、咄嗟に他の説明なんてできるわけがないもの。それとも、美奈ならできたって言うの?」
「……それは……」
「でしょう?さ、諦めて、オムツを増やしましょう。グズグズしてると、また何を言われるかわかったものじゃないわ」
 潤子は美奈を促しながら、タンスの引出を開けようとした。再上段の引出に、真理たちと一緒に買ってきたオムツやオムツカバーが収納してあるのだ。
 潤子はオムツを取り出すと、美奈の方に近づこうと足を踏み出した。しかし、潤子が手にしていたオムツを奪うようにして美奈が言った。
「いいわよ。自分でするから」
「そう?じゃ、そうするといいわ。その間、私は予備のオムツをバッグに詰めておくことにするから」
「予備?」
 美奈が怪訝そうな声で呟いた。
「そうよ。だって、オムツを汚しちゃったら、替えが要るでしょう?」
 その潤子の言葉を聞いた瞬間、美奈の顔は耳の先まで赤くなった。そして、やっとのことで声を絞り出す。
「冗談じゃないわ。誰がオムツを汚したりするもんですか」
「万が一、よ。でも、どうせ先生のことだもの、替えのオムツを用意していかなかったら、また取りに戻りなさいって言うわよ?」
 確かに、潤子の言う通りだった。膀胱炎のためにいつオモラシするかもしれないからオムツをあてていることになっているのだ。それなら、替えのオムツを用意しておくのが自然かもしれない。
「……わかったわ。好きなようにしてちょうだい」
 美奈は渋々賛同した。
 潤子はクスッと笑うと、布製の手提袋を取り出し、その中にたくさんのオムツとオムツカバーを詰め込み始めた。
 その間、美奈はベッドに横になり、オムツカバーを開こうとしていた。
 マジックテープを外す音が意外に大きく響き、元の顔色に戻り始めていた美奈の頬が再びポッと赤らんだ。
 教師の指示通りオムツの枚数を増やしてみるとオムツカバーが大きく膨らんでしまい、制服のスカートの下からプックリと突き出るような格好になってしまった。美奈はそれをゴマかそうとスカートのプリーツをいじったり、横のファスナーを緩めたりしてみたが、さして効果はないようだった。
 それでも諦めきれないようにゴソゴソしている美奈の耳に、潤子のやや苛立ったような声がとびこんできた。
「さ、早く行きましょう。ホームルーム、終わっちゃうわよ」

 美奈が戻って来ると、教室中に小さなざわめきが起きた。
 元々それほど丈の長くないスカートが中から大きく膨れ、しかも、オムツカバーがジャマになってウエストラインが本来の位置よりも上に上がってしまっているため、美奈が歩く度に、スカートの裾からオムツカバーがちらちらと見えてしまうのだ。美奈もそのことを意識して歩幅はなるべく小さくし、静かに歩くのだが、それもムダな努力だった。
 美奈は無言で教師に一礼すると、黙ったまま席に着いた。
 教師も言葉は出さなかったが、ニコッと笑顔で大きく頷いた。

 三時間目の国語の授業が終わると、美奈は静かに椅子から立ち上がった。
 そして、そっと教室から出て行こうとするところを、級友の蓑田勝江が呼び止めた。
「あら、藤田さん。どこへ行くの?」
「あ、ちょっと、トイレへ」
「え?だって、オムツをあてて……」
 勝江が驚いたような大声を出した。美奈は慌てて勝江の口を手で塞いだ。しかしその時にはもう、勝江の声を聞いた級友たちが、何事かと美奈の周囲に集まり始めた。
 美奈は勝江の口を塞いでいた手をそっと離すと、恥ずかしそうな声で言った。
「そりゃ、失敗しないようにオムツはあててるけど、それは万が一のためよ。いくら病気でも、トイレへ行きたくなればわかるわよ」
 実際に膀胱炎にかかっているわけではない美奈には、それが本当かどうかわからない。それでも、そう説明しなければ勝江は納得しないだろう。
 ところが、美奈の説明を聞いた勝江の口から、予想外の言葉がとび出してきた。
「ダメよ。絶対、トイレへ行っちゃダメ」
「え……?」
「考えてもみなさいよ。藤田さんのオシッコが便座に付いたりしたら、後から同じトイレを使う人に感染するかもしれないじゃない。だって、雑菌性の膀胱炎なんでしょう?」
 それは……、と反論しようとした美奈は口を半ばまで開いたが、続く言葉が出てこなかった。なんといっても、美奈には自分が患ったことになっている病気に関して、これっぽっちの知識もないのだから。
 しばらくの間、途方にくれたように勝江の顔を睨みつけていた美奈はやがてホーッと息を吐き出すと、諦めたような表情で言った。
「……わかった。トイレに行くのはやめておくわ。それでいいのね?」
 勝江がコックリと頷いた。

 それから四時間目が終了し、給食と昼休みが終わって午後の授業が始まる頃には、美奈の顔はまっ蒼になっていた。額には脂汗さえポツリポツリと浮き出ている。
「ねえ、美奈」
 若い英語の教師が黒板に例文を書き始めたタイミングを見計らって、潤子が囁くように美奈に呼びかけた。
 潤子の呼びかけに美奈はゆっくり顔を向けたが、その目は何も見ていないように虚ろなものだった。それでも、僅かに震えるような声を返してくる。
「何か用?」
「……あまりガマンしないで、そのまま出しちゃえば?ムリすると体に毒よ」
「バカ言わないでよ。高校生にもなって、オムツを汚せる訳がないでしょう?」
 美奈は周囲に聞こえないように、声をひそめて応えた。オシッコを我慢するつらさに耐えかねて、美奈自身もそれは考えたこともあった。しかし、お仕置きのためにあてられたオムツを、実際は病気でもないのに汚すなどということができる筈がないのだ。
 だけど、と潤子がしつこく言葉を続けようとした瞬間、不意に教師が振り向いた。
 そして、僅かに首をかしげて潤子の方を見ている美奈に気がつくと、ニコッと微笑んで言った。
「あらあら、授業中にお喋べりするなんて、随分と余裕があるようね。じゃ、藤田さん、黒板の英文を訳してちょうだい」
 美奈が、教師の声に反応するように前を向いた。それからおもむろに黒板の英文を目で追う。だが、それを訳すことなど、とてもできなかった。今週になって、オムツの恥ずかしさのせいで予習もろくにしてきていない上に、今はオシッコを我慢するだけで精一杯だ。とてもではないが、その複雑な文章の意味を考えているゆとりなどありはしない。
 美奈の頭に血が昇った。
「どうしたの?このくらいの文章、予習していれば簡単でしょう?」
 教師が、冷ややかな声で追い討ちをかけてくる。
 美奈の顔がカッと熱くなった。教師の言い方が、予習をしてきていないことをあからさまに指摘するよりもきつかったからだ。
 取敢えず立ち上がった美奈の腰の辺りに、妙な感触が走った。目だけを動かしてそっと見てみると、潤子が指の先で美奈の脇腹から腰へかけて、何やら書いているようだ。おそらく、解答を教えようとしているのだろう。
 だが、潤子の行動は美奈を助けるどころか、悲惨な結果を招くことになってしまった。
 それまでなんとか我慢していた尿意が、潤子の指の動きのくすぐったさに刺激され、一気に高まったのだ。
 美奈がアッと思った時にはもう遅かった。
 膀胱から溢れ出たオシッコは勢いよく尿道を走り、激しい奔流となって吹き出し始めた。それがオムツによって勢いをそがれ、股間を濡らしながら、ジワジワと広がってゆく。
 お尻いっぱいに広がり、裾ゴムで絞めつけられた太腿へ流れ、美奈のオシッコは乾いたオムツを求めて、オムツカバーの中にとめどなく流れこんでいった。
 本来なら一滴も残さずに吸収してしまう筈のオムツも、それまでずっと我慢していた美奈のオシッコの量には少しばかり容量不足だったようで、オムツカバーの裾から一滴二滴と、オムツに吸収しきれなかったオシッコが細い条になって洩れ始めた。
 もう、美奈にはどうすることもできなかった。
 一旦溢れ始めた流れを止めることもできず、体をブルブルと震わせながら、虚ろな目と半ば開いた口をだらしなく黒板に向けたまま、その場に立ちすくんでいた。
 美奈の様子が急変したことに気づいた級友が見守る中、潤子が行動を起こした。
 寄宿舎から持ってきた手下袋から数枚のオムツを取り出すと、美奈の内腿にあてがったのだ。こうして、オムツカバーから洩れ出たオシッコがスカートやソックスを汚してしまうことを避けることが、潤子にできる精一杯のことだった。
 美奈にとって永遠とも思える時間が経って、最後の一雫が流れ出た。
 美奈は両手で顔を覆うと、そのまま机の上につっぷしかけた。それを潤子が支え、教師に向かって言う。
「藤田さんの気分がわるいようなので、保険室に行ってきます」
 担任から連絡を受けていたのだろう、教師はあれこれと詮索せずに、潤子の申し出をすぐに許可した。
 級友たちの好奇の目に見つめられながら、やや脚を開き気味にした美奈は、潤子に付き添われてゆっくり教室から出て行った。




 そんなことがあっても、美奈は次の日曜にも外出を敢行した。
 そんなことがあっても、と言うよりも、そんなことがあったから、と言った方が正確だろうか。美奈にしてみれば、自分が置かれている状況を慰めてくれるのは、あの少年しかいないと思っての外出なのだから。
 当然のように、真理は美奈のあとをつけていた。ただ今回は、美奈の行く先に或る程度の目星もついていることもあり、メンバーを連れてくることもなかった。
 そして真理が予想したように、美奈と少年とが顔を会わせたのは先週の公園だった。

 少年の顔を見るなり、美奈は顔をクシャクシャにして涙を流し始めた。それは学院で受けた屈辱と、少年に会えた安堵と、どうしても説明できない羞恥とが入り混じった、自分でも捉えようのない感情が形になって出てきたようなものだった。
 しかし、少年はオロオロするばかりだった。なんの説明もなく、急に泣き出されても、彼にはどうすればいいのかわかる筈もない。ただ、何かつらいことがあったんだろう、と察するのが精一杯だった。
 ためらいがちに、少年は目の前で泣いている美奈の細い体に両手を回そうとした。
 その時だった。
 誰かの足音が聞こえてきた。
 少年と美奈はハッとして視線を動かした。
 そこには、バッグを手に提げた真理の姿があった。
 真理はニコッと笑うと、少年の存在など無視するように美奈に近づき、バッグを差し出しながら優しげな声で言った。
「はい、忘れ物よ。これがないと困るでしょう?慌てて追いかけてきたのよ」
 美奈の顔が蒼ざめた。
 そのバッグに何が入っているのか、大体の見当がついたのだ──だけど、そんなものをこんな所で……。
 やがて真理は、バッグを受け取ろうとしない美奈にシビレをきらしたような仕草をみせると、そのバッグの中身を次々に取り出し、少年にもよく見えるように、ベンチの上に並べていった。
 動物柄や水玉模様のオムツ、カラフルなオムツカバーといったものが並べられてゆくのを目を皿のようにして見つめていた少年は、しばらくその場に呆然として立っていた。
 しかし、それも長い時間ではなかった。
 不意に我に返ったように首を振ると、少年は顔を赤く染め、美奈の前から駈け出してしまった。そしてそのまま、一度も振り返ることなく、少年は公園から出て行った。

「……どうして。どうして、こんなひどいことを」
 美奈は少年が走り去った方をじっと見つめながら、独り言のように同じ言葉を呟き続けていた。
 真理はそんな美奈の顔を両手で抱えこむと、自分の胸に押し当てた。
 美奈の、ハッと息を飲む気配が伝わってくる。
「これで、あの子とのお付合も終わったわね。これでいいのよ」
 真理は美奈の耳元に口を寄せて囁いた。そして、切なげな口調で言葉を続ける。
「あなたは私のものよ。もう、誰にも渡さない……特に、男の子になんて絶対に」
「……お姉様?」
 激しい違和感を覚えた美奈は、思わず真理に呼びかけた。
「そうよ。あなたが入学してきた日から、私はあなたを見続けていたのよ。なんて可愛いいんでしょう、どうしても私の妹にしたい、って。私の気持をわかってくれるわね?」
「……」
 あまりのことに、美奈は言葉を失った。
 その隙に、真理の右手が美奈のスカートの中にもぐりこんできた。
 真理の右手は美奈の内腿に沿って尺取虫のようにザワザワと這い上がってくると、裾ゴムを緩めるように動きながらオムツカバーの中にもぐりこんで行った。
 真理の胸の谷間で美奈の顔が上気し、胸が高鳴った。
 やがて真理の右手は美奈の茂みに到達し、まるでジャングルをかき分けるようにしながら、茂みに隠された泉へと進んで行く。
 美奈の息が荒くなった。
 真理の中指が美奈の泉に浸り、水遊びを楽しむ子供のように、体をくねらせ始めた。
人差指と薬指もそれに同調するように、微妙な動きを始める。
 美奈の口から小さな喘ぎ声が洩れた。
 真理の右手に、濡れたような感触が伝わってきた。それは愛汁のように粘りのあるものではなく、もっとサラッとしたものだった。
 真理はクスッと笑うと、美奈の耳に息を吹きかけながら優しく言った。
「あらあら、オモラシしちゃったのね。でも、かまわないわ。お姉ちゃんがオムツを取替えてあげるから気にしなくていいのよ。だって、美奈ちゃんは私の小っちゃな妹だもの」
 美奈の心にさっき走り去って行った少年の顔が浮かんだが、すぐに消えてしまった。

 ベンチの上に横たわり、真理の手でオムツを取替えられる美奈のあどけない笑顔を、僅かに雲に遮られた日光が柔らかく照らしていた。



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