養護教諭・沢村智子 〜保健室の雌蜘蛛〜




 明光高校といえば、灘高やラサールと並ぶ進学校として有名だ。東大や京大を目指す優秀な生徒が全国から集まってくる。しかし、生徒を勉強に専念させるために明光高校は騒がしい都会から離れた郊外に建っていて、周囲にはアパートやワンルームマンションなどは見当たらない。そのため、故郷を離れて明光高校に入学した生徒たちは、学校の敷地内にある寮で三年間を過ごすことになる。もっとも、寮とはいっても、冷暖房完備の個室になっている。そのあたりにも、生徒が勉強に専念できるようにという学校側の配慮が感じられる。

 机の上の電話が鳴ったのは、沢村智子が昼食の後のコーヒーをカップに注ぎ終えた時だった。昼休みのこの時間にかかってくる電話というのは、煩わしい内容の話が多い。昼休みに校庭でボール遊びに興じていた生徒が足を怪我したとか、夏なら日射病で倒れたとか、殆どがそういう内容だ。そんな連絡に備えて、智子は保健室の執務机でお弁当を広げるのが習慣になっていた。
「はい、保健室です」
 軽く溜息をついて智子は受話器を取り上げた。
『あ、沢村先生ですか。お昼休みにすみません。寮長の中田です』
 電話をかけてきたのは、寮の管理をまかされている中田という初老の男性だった。
「寮の方で何かあったんですか」
 智子は早口で尋ねた。
『ええ、はい、入り口の階段から生徒が一人転げ落ちまして、随分と痛がっているんです。けど、私ら素人が下手に触っちゃまずいことになるんじゃないかと思いまして』
 寮長の声は幾分うわずっていた。
「わかりました、すぐに行きます。で、怪我をしているのは頭ですか?」
 智子の顔が引き締まった。
『いえ、頭は打っていないようです。ただ、階段を転げ落ちる時に頭を庇おうとしたのか、両手が妙な具合に捻れてしまったようで……』
「少しくらい痛がっても、頭さえ打っていないなら心配は要りません。落ち着いて待っていてください」
 頭は打っていないと聞いた智子は僅かに安堵の表情を浮かべて受話器を戻した。




 自宅から通学している生徒よりも寮で生活している生徒の方がずっと多いため、明光の校舎には食堂がない。通学の生徒も、弁当を持参していない者は昼食を寮の食堂で摂ることになる。だから、さほど長くない昼休みの間に昼食をすませてから校庭でサッカーでもしようと思えば、少しばかり急がなければならない。そのせいで寮の入り口が混み合うのはいつものことだった。その上、小高い丘を切り拓いて建造した明光だから敷地が全て平らになっているわけではなく、敷地の端に建っている寮の入り口は少し長い階段になっている。そんな状況だから、実は、いつ事故が起きてもおかしくはなかった。むしろ、これまで何もなかったのが不思議なくらいだった。

「ああ、先生、お待ちしていました」
 階段の下でうずくまっている生徒を前に、どうしたらいいかわからずに立ちすくんでいた寮長が、智子の姿を目にするなり、すがるような表情で駆け寄ってきた。
「落ち着いてください、中田さん。すぐに様子をみますから」
 初老の寮長を安心させるためにわざと笑顔を作ってみせて、智子は生徒の傍らに膝をついた。
「どこが痛いの?」
 智子は生徒の顔色を窺いながら、ゆっくりした口調で言った。
「手です。右手も左手も、手首から先が引きつったみたいになっちゃって、それに鈍い痛みがあって自由に動かせなくて……」
「頭の方はなんともない?」
 念を押すように智子は訊いた。
「……大丈夫です。たぶん、大丈夫だと思います」
 自信なげに答えて、のろのろと生徒が顔を上げた。
智子と晶
 ブレザーになっている制服の胸ポケットに縫いつけてあるエンブレムの色で学年がわかる。その生徒のエンブレムの色はコバルトブルー、今年の春に入学したばかりの一年生だ。ういういしい顔つきは、少年というよりも、どちらかといえば少女めいて見える。
 生徒の顔を見る智子の目がすっと細くなった。大きな瞳に妖しい光が宿る。
「痛いのはこのあたりかしら」
 智子は生徒の手首に自分の人さし指を押し当てた。
 途端に、美少年と呼んでいい端正な顔に苦痛の色が浮かぶ。
「じゃ、ここは?」
 思わず体を退こうとする生徒の手首を掴んで、智子は別のところに人さし指の先を押し当てた。見た目よりもずっと細い、華奢な手首だった。
「つ……」
 生徒の顔がますます苦痛に歪んだ。
「いいわ、わかった。応急処置だけじゃすまないみたいね」
 瞳に宿した妖しい光を誰にも気づかせないまま、智子は生徒の手首を掴んでいた右手を離すと、周りを取り囲んでいる生徒たちに向かって言った。
「この子と同じクラスの子、誰かいる?」
「あ、はい。僕、同じ一年二組です」
 一人の生徒がおずおずと手を挙げた。
「じゃ、担任の先生に伝えておいて。この子は私が車で病院へ連れて行きます。だから、午後の授業は欠席させます。容態が詳しくわかり次第、学校へ連絡します。――いいわね」
 手を挙げた生徒に向かって智子は言葉を区切るように言って、うずくまっている生徒の体を抱きかかえるようにしてその場に立たせた。それから、くすっと笑って囁きかける。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったわね。同級生が一年二組だって言ってたからクラスはわかったけど」
「あ、あの、寺本です。寺本晶」
 女性と体を触れ合わせるのは初めてなのか、さかんに照れたような顔をして生徒は小さな声で応えた。
「そう、寺本君ね。通学?」
「いえ、寮です」
「寮か。じゃ、両手が不自由だと、ちょっと不便なことになるかもしれないわね」
 晶の体を支えて歩きかけながら、智子は晶の顔を見おろして気遣わしげに言った。
 初めて見た時から華奢な子だとは思っていたけれど、こうしてあらためて体を寄せ合ってみると、晶が華奢なだけでなく、随分と小柄なんだということにも気がつく。もともと男の子は女の子よりも成長期を迎えるのが遅くて、高校に入ってからびっくりするほど背が高くなる子もいる。ひょっとしたら晶もそうなのかもしれないけれど、とにかく、今の晶は本当に小柄だった。身長は一メートル五十センチそこそこ、体重は四十キロも無いかもしれない。それに対して智子の方は一メートル七十センチを少し超える身長があるから、こうして二人が並ぶと、晶の背の低さが余計に目立ってしまう。
 智子の瞳がますます妖しく光った。




 明光から車で三十分ほど走った所に救急指定の総合病院がある。町の中心部から少し離れた所にある病院だから大規模というわけではないが、腕のいい医者が揃っているという評判だし、なにより、生徒に何かあった時には決まってこの病院の世話になっているから、智子としても顔馴染みの医者もいて何かと頼りにしている。
 問診・触診に続いてレントゲン撮影が行われ、廊下のソファに腰をおろしていると、あまり待つほどもなく再び診察室に招き入れられた。
「大丈夫、骨折はしていませんよ」
 晶が診察室の椅子に座るなり、レントゲン写真のフィルムを覗きこんでいた医者が穏やかな表情で言った。この病院の中でも智子の一番の顔馴染みである整形外科の医者だ。校庭で遊んでいる最中に怪我をする生徒を運びこんでくることが多いものだから、自然と顔馴染みになってしまった。
「骨は大丈夫だって。よかったわね、寺本君」
 椅子に座った晶の背後から、智子がにこやかな声で言った。
「あ、でも、軽傷ってわけじゃありませんよ。――かなり無理な力が加わったのかな、右手も左手も手首の靱帯が伸びきっちゃってますね。固定しとかないとまずいでしょうね」
 医者は、たしなめるように言った。
「固定って、どうするんですか?」
 一瞬だけ輝いた晶の顔がまた暗くなった。
「心配するほどのことじゃないですよ。手首から先をギプスで動けないようにするだけだから。そうしておかないと、ついつい指を動かそうとして靱帯にまた妙な力が加わってしまうからね」
 こともなげにそう言ってから、今更みたいに気がついたように医者は続けた。
「あ、そうか。寺本君は寮で生活しているんだったね。自宅で親御さんと一緒の生活ならともかく、寮だと、洗濯から部屋の掃除まで自分でしなきゃいけないんだっけ。そうすると、困ったことになるよね。でも、ギプスで固定しなくても、両手は動かせる状態じゃないし……」
 医者は人さし指で顎先をぽりっと掻いた。
「あの、そのことでしたら私の方でなんとかできるかもしれません。電話で校長と相談してみます」
 助け船を出したのは智子だった。
「あ、そうですか。じゃ、お願いします。その間、僕は寺本君に今の状態や今後の治療方針を説明していますから」
 智子の言葉にほっとしたような表情を浮かべて医者は頷いた。

 しばらくして智子は、心配そうな顔つきで晶が待っている診察室に戻ってきた。
「どうでした、なんとかなりそうですか?」
 こちらも気遣わしげな口調で医者が尋ねた。
「寺本君のギプスはどれくらいで取れるでしょうか?」
 医者の問いかけには応えずに、智子が問い返した。
「そうですね。ギプスで固定しておくのは二週間――今日は金曜日ですね。再来週も金曜日は僕が担当だから、その時に外すようにしましょうか。ギプスが外れてもすぐに両手が自由に動くようになるわけじゃなくて、それから三週間ほどがリハビリの期間になると思います。ギプスをしている間は無理だけど、ちょっと不自由なのを我慢してもらえればリハビリ期間中から学校へ行ってもらって差し支えありませんよ」
 医者は、カルテとレントゲンのフィルムを何度か見比べて言った。
「やっぱり、ギプスの間は学校へ行っちゃ駄目なんですか?」
 晶が訊き返した。明光のような進学校で二週間のブランクは大変なことになる。
「気持ちはわかるけど、それは絶対に駄目だよ。とにかく最初が大事なんだ。今の状態でこれ以上ダメージを受けたら、それこそどんなことになってしまうことかわかったものじゃない」
 医者は大げさに首を横に振ってみせた。
「でも……」
「わかりました。それくらいならなんとかなりそうです。ギプスが外れるまでの二週間、私が学校をお休みして私のマンションで寺本君の面倒をみます。ギプスが取れた後のリハビリの間は、私が学校へ行く時に一緒に連れて行って帰る時も一緒に連れて帰ってくるようにします。これなら、両手が動かない間も生活には支障ありません」
 医者に何か言い返そうとする晶の言葉を遮って、智子がきっぱり言った。
「え!?」
 智子の言葉に、驚いた顔で晶が振り返った。
「校長先生に相談したら、私の前に保健室を担当していた人のことを思い出してくれたのよ。私の前任者はちょっと事情があって退職したんだけど、少しの間くらいなら代わってもらえるだろうって。その人なら資格もあるから学校側としても問題ないし、すぐにでも頼んであげるよって。来週の月曜日からでも来てもらえるだろうから、心配しないで寺本君の面倒をみてあげなさいって言ってもらえたわよ。今週ももう今日の午後が残っているだけだから、そのまま病院から連れて帰ってあげるといいよっておっしゃってくださったわ」
 智子は目を細めて晶の顔を見おろした。
「ああ、そりゃよかった。じゃ、すぐにギプスの用意をしよう」
 医者は安心した表情で言った。
「でも、でも……」
 おずおずと何か言いたそうにする晶の声は、備品室に向かう看護婦の足音にかき消されてしまった。




 病院の駐車場を後にした智子の車は、まっすぐ自分のマンションに向かったわけではなかった。
「ちょっと買い物をしてくるけど、どうする、一緒に行く?」
 駅前にあるデパートの駐車場に駐めた車の中で智子は晶に言った。
「いえ、ここで待ってます」
 晶は力なく首を振った。
「そうね、その方がいいわね。荷物を抱えた人混みの中を歩きまわったりしちゃまずいわね」
 ちらと晶の手を見て智子は言った。
「はい」
 晶は弱々しく頷くと、膝の上に置いた、手首から指先まで白いギプスに包まれた自分の手をじっと見つめた。肘を曲げることはできるものの、それ以外は何もできない。
「すぐに戻ってくるわ」
 言い残して智子は車からおり立った。

 言った通り、すぐに両手に大きな袋を提げて智子は戻ってきた。ウィンドウショッピングを楽しむためにデパートに立ち寄ったのではなく、何を買うか最初から決めていたようだ。智子は荷物を車のトランクに放りこむと、無造作に車を発進させた。




 智子が住んでいるのは、一人暮らしには贅沢な高級マンションだった。それも、最上階の豪奢な部屋だ。
 分厚いドアを押し開けた智子は両手の荷物を廊下に置くと、ドアの外で立ちすくんでいる晶の背中を抱き寄せるようにして部屋の中に招き入れて、そのままリビングルームへ連れて行った。
 ダイニングと一緒になったリビングは想像以上に広くて、調度品の一つ一つが随分と高価そうなのが、あまりそんなことには知識のない晶にも一目でわかった。
「ほら、そんな所に突っ立っていないで、ここにお座りなさい」
 雰囲気に気圧されてドアの近くに佇むばかりの晶に向かって、智子は座椅子の背もたれをぽんと叩いて言った。
「あ、はい」
 ようやくのこと晶がリビングに足を踏み入れた。カーペットを敷いていない硬質のフローリングの感触が足に心地いい。
「あの、先生……」
 座卓に座って、それでもまだ部屋の中をきょろきょろ見回しながら晶はおそるおそる言った。
「ん、なに?」
 カウンターでダイニングと隔てられたキッチンの冷蔵庫からアイスコーヒーのボトルを取り出してグラスに注ぎながら智子が訊き返した。
「……変なことを言うみたいなんですけど、あの、先生ってお金持ちなんですね」
「違うわよ。私がお金持ちってわけじゃないの。父親が裕福で、それでこのマンションを買ってもらったのよ」
 智子は軽く肩をすくめると、アイスコーヒーのグラスを載せたトレイを持ってリビングに戻った。
「そうなんですか」
「そう。父親はちょっとした実業家でね、いろいろと手広く商売をやってるわ。私がこんな生活をできるのは父親のおかげ」
 智子はグラスを座卓の上に置いた。父親のおかげと言った時はどことなく険しい口調だったけれど、まだ若い晶には、そんな微妙な雰囲気を感じ取ることはできない。
「さ、どうぞ。これなら両手が動かせなくても飲めるでしょう」
 智子はクラスにストローを差して晶に勧めた。
「あ、ありがとうございます。でも、あの、あまり気を遣わないでください。ただでさえご迷惑をかけてるのに」
「何を言ってるの。寺本君は明光の生徒で私は明光の養護教諭。迷惑だなんて、とんでもない。これが私のお仕事なのよ」
 智子はくすっと笑った。そうして、すっと立ち上がって言葉を続けた。
「それじゃ、コーヒーを飲みながら待ってて。私はちょっと買い物に行ってくるから」
「え、でも、買い物はデパートですませたんじゃないんですか?」
 智子の言葉に、怪訝そうな顔をして晶が訊いた。
「ああ、あれは違うの。これから買ってくるのは夕食の材料よ。毎日のご飯の材料までデパートで買うほど余裕はないわよ。マンションは父親に買ってもらったけど、月々の生活費は自分のお給料で賄っているんだから。――ちょっと近くのスーパーまで行ってくるけど、寺本君は好き嫌いとかあるの?」
「いえ、なんでも食べます。特に嫌いな物はありません」
「そう、よかった。好き嫌いはないのね」
 なんだか念を押すみたいな言い方をして、智子はリビングのドアを押し開けた。




 スーパーの袋を提げて部屋に戻ってきた智子は、玄関のドアを開けるなり、廊下の奥に佇んでいる晶に気づいた。だけど晶は智子が帰ってきたことにも気がつかないようで、廊下の奥の方にあるドアに額を押しつけたまま、呆然としたような表情で佇んでいた。
「どうしたの、寺本君。何かあったの?」
 スーパーの袋を廊下に投げ出して、智子は晶のそばに駆け寄った。
「あ、先生……」
 ようやく晶は智子の方に顔を向けた。けれど、すぐに激しく首を振って大声で叫び出す。
「来ないで。こっちへ来ないで、先生。来ちゃ駄目だよ。お願いだから、絶対に来ないで!」
 晶の叫びを訝しみながら足を緩めた智子は、晶の足元に広がる水溜まりに気がついた。水溜まりといっても、普通の水溜まりではない。その水溜まりの源は晶自身だった。呆然と立ちすくむ晶のスラックスの裾から幾つもの雫が滴り落ちては足元の水溜まりに吸いこまれ、そのたびに水溜まりが少しずつ大きくなってゆく。晶のスラックスもソックスも、一目でそれとわかるほどぐっしょり濡れていた。特に、スラックスの下腹部のあたりが大きなシミになっている。
 何があったのかは明らかだった。
 智子は急いで自分の寝室に駆け込むと、ウォークインクローゼットの一角に置いてある整理棚から有りったけのタオルを抱え上げて晶のもとに急いだ。
「こっちに来ちゃ駄目だよ、先生。来ちゃ駄目だってば!」
 高校生にもなって恥ずかしい粗相をしてしまった恥ずかしい姿を見られたくないという思いで晶は金切り声をあげて叫んだ。
「何を言ってるの。そのまま放っておけるわけないでしょ。それに、こんなことになったのは私のせいだもの。ごめんね、寺本君。両手を動かせなくてトイレへ行きたくなってもトイレのドアを開けることもできない寺本君を残して買い物に行ったりして、本当にごめんね」
 廊下に広がる水溜まりのすぐそばまで近づいた智子は、晶に謝りながら、寝室から持ってきたタオルを一枚ずつ広げて水溜まりの表面に重ねていった。タオルはすぐに晶のおしっこを吸い取ってぐっしょり濡れ、重くなって僅かに膨れあがる。
「ごめんね、寺本君。本当にごめんね」
 なおも晶に謝りながらタオルで廊下を拭く智子。
「そんな……先生のせいなんかじゃありません。お、おもらししたのは僕で、だから、先生が謝るだなんて、そんな……」
 智子の言葉に、却って晶の方が戸惑ってしまう。自分が口にした『おもらし』という言葉に自然と顔が赤らむ。
 けれど、晶は知らなかった。謝罪の言葉を口にしながら晶のおしっこで濡れた廊下をせっせと拭う智子の瞳が実は妖しく輝いていることを。晶を気遣うそぶりをみせながら、智子の顔に実は不気味な笑みが浮かんでいることを。
「でも、こんな体の寺本君を放っていったのは私だから」
 智子は繰り返した。
「だけど、廊下を汚しちゃったのは僕だから。僕の……お、おしっこだから。だから、あの、先生がそんなに気にしてくれるのは嬉しいけど、でも、なんていうか、先生にそんなふうに言われると却って辛いんです。だから……」
 晶は唇を噛んで顔を伏せた。
 晶の視線の先で、それまでタオルで廊下を拭いていた智子が手を止めた。そうして、つい今まで浮かべていた不気味な笑みを隠して晶の顔を見上げる。
「だけど、本当にいいの? そんなに自分自身を責めなきゃいけないの? もういちど考えてから改めて答えてちょうだい。後で後悔しても遅いんだから」
 上目遣いに晶の顔を見上げる智子の表情は、これ以上はないくらいに真剣だった。
「考え直すも何も、みんな僕のせいです。階段を転げ落ちて怪我をしたのも、少しでも早くお昼を食べ終えてグラウンドで遊びたかったからだし、忙しい先生に時間を割いてもらって病院へ連れて行ってもらった上にギプスが取れるまで学校を休ませることになったのも僕のせいじゃないですか。それだけじゃない、僕が小さな子供みたいな失敗をして廊下を汚しちゃって、その汚れた廊下の掃除まで先生にさせちゃって……僕のせいじゃないことなんて一つもありません。みんなみんな、僕のせいなんです」
 ギプスがなければ、晶は不自由な両手を握り締めていただろう。
「でも、そんなに自分自身を責めちゃ駄目。後で辛くなるわよ」
 智子は僅かに首を振って言った。
「だって……」
 言いかけて、晶は首をうなだれてしまう。
「わかった。じゃ、寺本君がそこまで言うなら、そういうことにしておきましょう。みんな、寺本君の不注意のせい。私は寺本君を残して買い物に出かけたことを反省なんてしない。私はこれまでの私の生活のペースを寺本君のために変えるようなことはしない。私の生活に寺本君が合わせるのよ。だって、みんな寺本君のせいなんだから。――これでいいのね?」
 晶のおしっこをたっぷり吸ったタオルをポリバケツに放り込みながら智子は軽く首をかしげてみせた。
「はい。変に気を遣ってもらうより、そんなふうに言ってもらう方が気が楽です。……なんだか、この言い方も随分と勝手な言い方ですけど」
 少しだけ緊張が解けたのか、はにかんだような顔つきで晶は言った。
「いいわ。自分の非は自分で認めるなんて、若いからできることよ。大人になったら狡くなって少しでも上手に立ち回ることしか考えなくなるからね。じゃ、私のマンションにいる間、寺本君は私の言うことに従うこと。絶対に逆らわないこと。いいわね?」
 智子の目がすっと細くなった。
「はい。先生のマンションにいる間、僕は絶対に先生に逆らったりしません」
 それがどんな意味を持つことになるのかも知らぬまま、晶は智子の言葉を繰り返した。
「よくできました。じゃ、とにかく、制服を脱いじゃいましょう。いつまでもそのままじゃ風邪をひいちゃうわ」
 小さなシミ一つ残さずにすっかり水溜まりの跡を綺麗に拭き取った智子は、自分のソックスをおしっこで汚してしまう心配をする必要もなくなったために、晶の体にぴったり寄り添うように立つと、スラックスのベルトに指をかけた。
「な、何をするんですか」
 あっというような声をあげて晶が体を退こうとする。それを強引に押しとどめて智子は言い聞かせるような口調で囁いた。
「何って、だから、寺本君がおしっこで濡らしちゃったスラックスを脱がせてあげるんじゃない。もうすぐ夕方よ。部屋の中も冷えてくるから、濡れたままじゃ本当に風邪をひいちゃうじゃない」
「そうだけど……でも、だったら、制服は自分で脱ぎます。自分で脱ぐから、先生はどこかで待っていてください」
 智子が立ち上がると、今度は晶が智子の顔を見上げる格好になる。
「あら、どうやって? どうやって自分で制服を脱ぐのかしら」
 智子は晶の顔を正面から覗きこんだ。
「……」
 晶には答えようがなかった。三十歳になるかならないかというまだ若い女教師の手でスラックスを引きおろされる恥ずかしさに耐えかねて自分で脱ぐと言ってしまったものの、手首から先をギプスで固められた手で脱げるわけがない。
「さっき、寺本君は言ったわよね。私の言う通りにしますって。それも、私が強制して言わせたわけじゃなかった筈よ。寺本君が言い出したことじゃなかったかしら。なのに、もう忘れちゃったのかしら」
 智子の真っ赤な唇から紡ぎ出される言葉が晶の心を絡みとる。
「私が寺本君の制服を脱がせてあげます。――いいわね?」
 穏やかな表情とは裏腹に、有無を言わさぬ強い口調だった。
「……はい」
 晶は頷くしかなかった。
 返事を待つまでもなく、智子の両手がすっと動いてベルトのバックルを外してしまった。妙に手慣れた手つきだったが、そんなことに気づく余裕は晶にはない。
 智子の手がベルトを緩め、股間のファスナーを引きおろすと、スラックスが、いかにもたくさんのおしっこを吸っているのを知らせるような重そうな音を立てて晶の足元にずり落ちた。微かに黄色く染まったブリーフがあらわになる。
「駄目よ、じっとしてなさい」
 思わず股間の膨らみを隠そうと動かす晶の両手を振り払って、智子はブリーフに指をかけた。
 たっぷりおしっこを吸ったブリーフは、晶の肌に貼り付くみたいにしてまとわりついていた。智子は、そんなブリーフを、ウエストのところから肌から剥がし、軽く丸めるようにしながらゆっくり引きおろしていった。腰骨からお尻の丸いところを過ぎて太腿のあたりまでは少し手こずったものの、膝の少し上のあたりまで引きおろしてしまえば、あとはまるで抵抗もなくすっと脱がせてしまえる。晶の足元で、ぐっしょり濡れたブリーフが、やはりおしっこでぐっしょり濡れたスラックスに重なった。
「あとは、こうして肘を曲げて――そう、肘を私の肩に載せて体重を支えてるのよ。後ろに体重をかけちゃ駄目よ、倒れちゃうからね」
 ブリーフを引きおろした後、智子は晶の腕を掴んで軽く肘を曲げさせると、晶の肘を自分の肩に載せてしゃがみこんだ。こうすると、晶の体が前屈みになる。
「そのまま右足を上げて。でも、あまり上げなくてもいいわよ、スラックスとブリーフを脱げればいいんだから」
 智子は晶の右足のふくらはぎを持ち上げるようにして言った。
 言われるまま、晶は右足をそっと上げた。床と右足との間にできた隙間を通して、智子がスラックスとブリーフをまとめて手元にたぐり寄せる。同じようにして、今度は左足。
 智子は、手元に引き寄せたスラックスとブリーフを、さっき何枚ものタオルを投げ込んだのと同じポリバケツに放り込んだ。
「あの、それ……」
 智子の肩に載せていた肘を元に戻した晶は、無造作にポリバケツの中に放り込まれたスラックスとブリーフに目をやって呟いた。
「あれは、後でちゃんとしておくわ」
 智子もポリバケツにちらと目をやって言った。
 けれど、『ちゃんとしておく』と言っただけで、それが『ちゃんと洗濯して返してあげる』という意味なのかどうか、なぜとはなしに晶には不安だった。気のせいかもしれないけれど、スラックスとブリーフを掴み上げる智子の手つきは、なんだか汚らしい物に触れる時の動きのように晶には思えた。
 はっきりした理由はないものの、晶の胸の奥底に小さな後悔が芽生えた。智子に言われるままマンションについてきたことに対する後悔だった。
 そんな晶の胸の内を知ってか知らずか、にこやかな表情のまま智子がブレザーのボタンに指をかけた。
「あの、上着もですか?」
 震える声で晶は訊いた。
「決まってるじゃない。濡れてるのはスラックスだけじゃないんだから」
 智子の言う通り、スラックスから滲み出したおしっこのせいでブレザーの裾もかなり濡れていた。スラックスの中にしまいこんであったワイシャツの裾は言うまでもない。
 けれど、ブリーフまで剥ぎ取られた今、上着やワイシャツまで脱がされてしまえば、晶は文字通り丸裸になってしまう。ブリーフを脱がされる時に慌ててワイシャツの裾を引きおろして隠した恥ずかしい部分まであらわになってしまう。母親にしか見られたことのない恥ずかしい部分を若い女教諭の目の前にさらすなんて、とんでもない。
 しかし、晶は智子に抵抗することはできない。両手が自由にならない上に、絶対に逆らわないと言ってしまったのだ。高校に入学したばかりのまだ若い晶には、自分の言葉をなかったことにして済ませるようなことはできなかった。それを純真というのか、それともお尻が青いと言うのか、言い方は様々だろう。いずれにしても、とにかく、自分の言葉に自縄自縛になってしまう若さの只中に晶がいるのは確かだった。
 智子の両手が動き続けた。ベルトのバックルを外した時と同じように、何度もそんなことを繰り返してきたような手慣れた動きだった。ブレザーのボタンを外す手つき、ネクタイを緩める手つき、ワイシャツのカフスボタンを外す手つき。どれもが、慣れた手つきだった。
「これも後でちゃんとしておくわ」
 智子はそう言って、最後に残っていた白いTシャツを晶の体から剥ぎ取ってポリバケツに放り込んだ。
 晶は慌てて股間の前で両手を重ねた。恥ずかしさのあまり、顔が真っ赤になっている。
「いいわよ、隠さなくても。養護教諭の資格を取るのに、実習の時から何度も見ているんだから、私は気にならないわよ」
 ころころ笑いながら、智子は晶の両手をひょいと晶の体の横に動かしてしまった。
 高校生のものとは思えない、まだ皮を被った可愛らしいペニスが力なく股間に垂れさがっていた。ヘアもまだ生えそろっていないのか、全体的に薄くてまばらな感じがする。
「こうしてみると、寺本君、顔もそうだけど、体つきも女の子みたいね。可愛いわよ」
 智子の言うように、股間の茂みだけでなく、脇の毛も臑毛も薄くて肌が白い上に華奢で手脚が細っこい晶の体つきは少女のようだった。そんな体に少女めいた童顔だから、なんだか、高校生の男の子ではなく、中学生の女の子みたいにさえ見える。
「そんな……」
 言われて、晶は唇を噛んだ。
「あら、女の子みたいって言われるのは嫌なの?」
 からかうみたいに智子は言った。
「そりゃ、嫌ですよ。寮でお風呂に入る時も友達にからかわれるし」
 いかにも不満そうな声で晶は言った。
「でも、いいじゃない。本当に可愛いんだから。特に、この乳首。膨らんでいない乳房にピンクの乳首だから、まるで小学校の女の子みたい。うふふ、それとも幼稚園くらいの女の子かしら」
 冗談めかして言うと、智子は人さし指と親指の先で晶の乳首をそっと掴んで軽く転がした。
 途端に、顔を真っ赤にしていた晶がびくっと痙攣して、今度は体中を赤く染めた。
 智子が乳首を弄ぶたびに、力なく垂れ下がっていた晶のペニスがひくひく震える。
「やめて、先生。……なんだか変だよ。僕、変になっちゃうよ」
 乳首が感じやすいのは女性だけではない。男性にとっても、乳首は敏感な部分の一つだ。けれど、まだ若くて性知識も豊富ではない晶はそんなことも知らない。だから、乳首をいじられるたびに体を震わせ、ペニスを痙攣させてしまう自分自身に違和感を覚える。違和感どころか、女性みたいに乳首で感じてしまう自分が異常なのではないかという恐怖さえ覚えてしまう。
 しかし、様々な経験を積んできた智子にしてみれば、男の子も乳首が敏感だということは当たり前のことだった。それを知った上で晶の体を玩具にしているのだ。
「本当に変ね。寺本君は男の子なのに、乳首をいじられて女の子みたいに感じてるのね。じゃ、本当は女の子かもしれないわね、寺本君は」
 晶の乳首を転がし続けながら智子は晶の耳元に囁きかけた。
「でも、寺本君が女の子だったら、その方が都合がいいのよ。だって、着替えに困らないもの」
「ど、どういうことですか?」
 晶の声は喘ぎ声になっていた。喘ぎながら、智子の言ったことの意味がわからずに訊き返してしまう。
「あら、わからない? 病院からマンションまで直接来ちゃったから寺本君の着替えは持ってきてないわよね。もちろん、私のマンションに男物の洋服なんてあるわけがないから本当なら困っちゃうんだけど、でも、寺本君が女の子なら問題は無いのよ。私のを貸してあげられるから。簡単なことでしょう?」
 くすっと笑って、智子は晶の乳首をつまんだまま歩き出した。
「つ……」
 思わず呻き声をあげて、智子に付き従うように晶も歩き出した。そうしなければ、たまらない痛みが乳首から全身を貫く。
「何を貸してあげれば似合うかしら。まだ汚れを知らない寺本君みたいな子には、やっぱり、純白のブラウスかしら。そうね、さらっとしたシルクの真っ白のブラウスがいいわね」
 勝手に決めつけて智子は晶の乳首をぐいと引っ張るようにして歩き続けた。
 晶の胸の中で、このマンションについてきたことに対する後悔が一気に大きく膨れあがった。なぜ智子がこんなことをするのかわからずに戸惑い、智子が本当はどんな人間なのかまるでわからないことに怯え、これからどんなことをされるのかひどい不安を掻きたてられ、そうして、激しい後悔に包みこまれる。

 晶がひどく怯え、激しい不安を感じるのも当然だった。明光の保健室をまかされている優しい養護教諭という表の顔とはまるで別の、実際に自分で目にするまではとても信じられないような裏の顔を智子は持っているのだ。
 智子の父親は、数多くの企業のオーナーの傍ら、明光高校をはじめ幾つもの学校を運営する学校法人の理事長を務めている。しかし、父親の戸籍に智子の名前はない。智子は、父親と愛人との間に生まれた子だった。しかも、世間体を気にする父親は、智子を認知することさえ避けてきた。その代わりに父親が智子や智子の母親に与えたのが金銭であり、豪華なマンションだった。智子は幼い頃から、実の父親を父親と呼べないままの生活を続けてきたのだった。そんな生活を続けているうちに、そうして、金銭の見返りを受けるためなら父親の言うなりになる母親の姿を見続けているうちに、智子の性格は次第次第に歪んでいった。自分の欲望を満たすためなら何をしてもいいんだ――ついにはそう思うようになってしまった智子を、けれど誰が責めることができるだろう。少なくとも、父親と母親には智子を責める資格はなかった。
 そして、大学で養護教諭の資格を取った智子は、半ば父親を脅すようにして明光に勤めるようになった。私を明光の養護教諭として迎えてもらえないなら、お父様と私の関係を世間に知らせてもいいんですよ。人格者として名高いお父様に私みたいな隠し子がいたとわかったら、そうして、長年に渡ってそのことを隠し通してきたことがわかったら、世間のみなさんはお父様のことをどんなふうに思うかしら。もともとが小心者の父親には、智子のそんな言葉に抗うことはできなかった。父親は腹心の部下である明光の校長にだけは本当のことを打ち明け、それまで保健室を担当していた養護教諭に破格の退職金をつかませて、智子に明光の保健室を与えることにしたのだった。
 智子が養護教諭の資格を取ったのは、自分の欲望を満たすため、ただそれだけのためだった。父親と母親の姿を目の当たりにしているうちに、智子の心の奥底には、抜きがたいほどに男性不信の感情が根を張っていた。恋愛という言葉ほど信用できない言葉はないと思うようになっていた。薄汚い男どもにいいようにあしらわれるよりも、こちらが若い男の子を好きなようにあしらってやろうと考えるようになっていた。まだ女の体を知らない、うぶな男の子を思う存分玩具にしてやりたいと願うようになっていた。そんな欲求を満たすために、男子高校の保健室は、またとない絶好の場所だった。それも、世間に名高い明光なら。
 智子が勤め始めたその日から、明光の保健室は、哀れな獲物がかかるのをじっと身をひそめて待つ毒蜘蛛の巣に変貌した。実際、これまで何人もの生徒が智子の餌食になってきた。けれど、智子は、そのことを世間に知られるような馬鹿な女ではなかった。そんなことをすれば自分の欲求を満たす機会がなくなってしまうことをよく知っていた。智子はうまく立ち回ったし、それに、いざとなれば、校長と父親に後の処理をさせればすむことだった。天下の明光の名声を守るためなら、校長も理事長もどんなこともしたのだから。だから、智子が晶を自分のマンションに引き取ると言った時も校長は智子の言うままにするしかなかったのだ。
 外見だけは美しい、けれど体の中には強烈な毒を隠し持ったそんな蜘蛛の巣に、今また新しい獲物がかかった。それが晶だった。
 智子は、この新しい獲物を目の前にして、心の中で盛んに舌なめずりをしていた。




 晶を自分の寝室まで連れて行って、ようやくのこと智子は手を離した。そうして、晶をベッドの傍らに残してウォークインクローゼットの中に姿を消したかと思うと、待つほどもなく純白のブラウスを抱えて戻ってきて、そのブラウスを両手で広げてみせた。
「可愛いブラウスでしょう? 若い頃にはお気に入りでよく着ていたんだけど、今はさすがにちょっと似合わないからしまいっぱなしにしていたの。でも、残しておいてよかったわ」
 少し細い丸っこい襟と袖口の周囲が小さなフリルで縁取りしてあって、全体のシルエットも、フェミニンというよりも、むしろロリータふうに仕上げたデザインだから、確かに、三十歳を目の前にした智子が身に着けるのは躊躇われるだろう。
「じゃ、両手を体の横に上げて。そう、それで肘を曲げてちょうだい。うん、それでいいわ」
 もういちど晶の目の前にブラウスを突きつけてから、智子は晶の腕を持ち上げた。そうしておいて、純白のブラウスを晶に着せてゆく。
 丸裸の素肌に少しつるっとしたシルクが触れる感触に、晶は思わずぞくりとした。特に、ついさっきまでいじられ続けていた乳首がひどく敏感になっていて、ブラウスの生地が触れるたびにびくっと体が震える。僅かに膨れかけていたペニスが何度かどくんと脈打つ感覚さえ下腹部から伝わってくる。
「あらあら、困った子だこと。でも、ブラウスを汚しちゃ嫌よ」
 先端が微かに持ち上がった晶のペニスを面白そうに眺めながら智子は言った。けれど、その間も、ブラウスのボタンを留める手は止めない。
「はい、できた。うん、思った通りお似合いね」
 ボタンを全部留めてしまい、ブラウスの裾の乱れを整えて、智子は満足そうな笑みを浮かべて晶の体を眺め回した。
 右前になったボタンの位置を確認するまでもなく、フリルをあしらった袖口や丸い襟で、晶が着せられたブラウスが女物だということは一目でわかる。華奢な晶の体つきに、その女物のブラウスが妙に似合っていた。それも、きちんと着こなしたというような似合い方ではない。小柄な女性が男物の大きなワイシャツをだぶっとした感じで着ると、はっとするほど可愛らしく見える。まるでその正反対に、小柄な男の子に大きな女物のブラウスという取り合わせなのだが、柔らかなシルエットのブラウスが晶の体を包み込んでしまうように見えて、それがとても可愛らしい。ブラウスの裾が晶のペニスを隠してしまったから余計に晶が少女めいて見えるから尚更だ。もしかしたら、小柄でボーイッシュな妹が大柄な姉のブラウスを着せられたらこんなふうになるかもしれない。
「寺本君、女物の方がずっとよく似合うわよ。校長先生にお願いして、寺本君だけスカートにしてもらってあげようか」
「……」
「うふふ、冗談よ」
 羞恥のあまり何も応えられない晶に智子はそう言ったけれど、まんざら冗談でもないような口調だった。
「でも、この格好も可愛いけど、ブラウスだけっていうのは可哀想よね。はい、これも貸してあげる。ブラウスとお揃いのシルクよ」
 智子は、おどおどするばかりの晶の目の前に、ブラウスに比べればずっと小さな布地を突きつけて、はらりと広げてみせた。
「そ、それって……」
 晶の顔がこわばった。
 智子が晶の目の前でひらひらと振ってみせているのは、純白のシルクでできたショーツだった。ウエストのすぐ下のところにあしらった淡いピンクのリボンが妙になまめかしい。
「どうしたの、そんな顔をして。ひょっとして、寺本君は下着なんて着けない人だったのかな。ブラウスの下には何も着けないで、可愛らしいおちんちんを私に見せるような趣味の持ち主だったのかしら?」
 智子は少し意地悪な言い方をした。
「ち、違います。そんなじゃありません。ただ……」
 晶は言い淀んだ。女物のショーツなんて嫌ですと言いかけて、けれど『ショーツ』という言葉を口にするのが恥ずかしくて口をつぐんでしまったのだ。
「そうよね。進学校で有名な明光の生徒がそんないやらしい人なわけないわよね。じゃ、ちゃんとショーツを穿きましょうね」
 返事も待たずに、智子は晶の右脚の太腿を掌で持ち上げるようにした。すると、嫌でも晶の右足が床から浮いてしまう。その隙間に手早くショーツをくぐらせて右足の足首にショーツを通して、左足の方も同じようにする。そうして、ショーツを両手で左右に引っ張るようにしながら、そろそろと引き上げてゆく。
 さらりとしたシルクの感触が、殆ど無毛の脚の表面を滑る。小さな女物のショーツが内腿を締めつける感覚がある。これまで感じたことのない、倒錯的で淫靡でなまめかしい感触だった。
 智子の手で乳首を弄ばれ、シルクのブラウスの感触のせいで大きくなりかけていたペニスが、とうとう大きく反りかえって上を向いた。ブラウスの裾の前がこんもりと盛り上がる。
「あらあら、こんなにしちゃって」
 驚きもせず、目をそらすこともなく、智子はブラウスの裾をさっと捲り上げると、びくびくと震えながら上を向いたペニスをじっと見つめた。
「でも、こんなになっても皮を被ったままなのね、寺本君のおちんちん。いいわ、せっかくだから私がちゃんとしてあげる」
 智子はさっとショーツを引き上げた。いくら伸縮性のいい生地でできていても、エレクトしたペニスを覆い隠すことはできない。少しばかり発育不全の晶のペニスとはいえ、精嚢とペニスの付け根のあたりはショーツの中におさまったものの、ペニスの半分くらいはショーツのウエスト部分から上に突き出してしまう。
 そのペニスの先を包み込んでいる皮を、智子が右手を静かに動かして丁寧に剥き始めた。同時に、左手でペニスをそっと掴んでゆっくり上下に動かし始める。
「駄目です、先生。そんなことしちゃ駄目だったら」
 晶の顔に戸惑いの色が浮かんだ。
 けれど、智子が両手を動かすたびに、戸惑いの表情が恍惚の表情に変わってゆく。
「駄目……やだ、駄目なんだったら……」
 驚きのあまり大きく見開いた目が、次第次第にとろんとしてくる。
「いいのよ、私にまかせておけば。寺本君だって、毎日してるんでしょう? 健康な男の子なら普通のことよ。だから恥ずかしがることなんてないの。自由にならない寺本君の手の代わりに私がしてあげるだけなんだから」
 激しい動きではない。じっとり絡みつくみたいな、むしろゆっくりした智子の手の動きだった。晶が自分でする時は若い欲望にまかせて激しく強く手を動かすだけだが、智子の手の動きは全然違っていた。欲望を時には鎮めるような、あるいは欲望をより強く掻き立てるような、幻惑するみたいな手の動きだった。
「駄目……僕、もう駄目……」
 膝から力が抜けてしまう。とうとう立っていられなくなって、晶はその場にしゃがみこんだ。
 それでも智子は手を止めない。
「我慢なんてしなくていいんだからね。出したいのなら遠慮せずに出しちゃいなさい。ほら」
 智子はペニスをきゅっと握りしめて左手を晶の股間に引きおろした。
「あ……」
 虚ろな表情で晶は智子の顔を見上げた。半開きになった口の中で真っ赤な舌が震えている。
 晶の体が震えたかと思うと、智子の手の中でペニスがどくんと脈打った。途端に、智子の右手がすっかり皮を剥いてしまったペニスの先から白いどろりとした液体が一条の筋になって飛び出した。粘りのある白い液体はそのまま勢いよく飛んで、ブラウスの裾に飛び散る。
 その後、同じ白い液体が、今度はどろりと流れ出して、ペニスを伝って晶の股間に向かって滴り流れた。
 智子の掌も、晶のペニスの先から滴る粘液でべとべとになっていた。けれど、そんなことを気にするふうもなく、穏やかな顔で智子は言った。
「どうだった? 自分でするのとどっちがよかった?」
 そんなことを訊かれて、答えられるわけがない。晶はおどおどと目を伏せた。
「どっちかよかったのか、ちゃんと答えなさい」
 智子は、精液をほとばしらせて小さく縮こまってきた晶のペニスをぎゅっと握って手前にぐいっと引っ張った。
「痛い! やめて、先生。痛いんだから」
 思わず晶は智子の顔を振り仰いだ。
「駄目、答えるまでやめてあげない」
 智子はますます左手に力を入れた。
「わかりました。答えます。答えるから手を離してください」
 たまらなくなって晶は懇願した。
「わかった。じゃ、答えてちょうだい」
 智子は左手の力を緩めた。けれど、ペニスから手を離す様子はない。
「せ、せんせいの……」
 何度も唇を舌で湿らせてから、ようやく決心したみたいに言いかけて、だけど途中で口をつぐんでしまった。まだ若い高校生が女教諭に対して普通ならとてもではないが口にできないようなことを言葉にしようとしているのだ。躊躇うのも無理はない。
「まだちゃんと答えられないのかしら」
 智子は左手を握りしめる素振りをしてみせた。
 晶の顔が引きつる。
「先生……先生の手の方が気持ちよかったです。自分でするより、ずっとずっと」
 かっと顔を赤くして晶は言った。言い終わってからも、ずっとずっとと小さな声で繰り返している。
「そう。なら、安心だわ。これで、ここにいる間はずっと私がしてあげられるわね。気持ちよくなかったら可哀想だものね」
 ようやく智子は晶のベニスから手を離した。晶の目に、晶の精液でべとべとになった智子の掌が映る。晶は慌てて目をそらした。そんな晶の耳に、困ったような智子の声が届く。
「でも、どうしようかしら。乳首があんなに感じやすいから寺本君のことを女の子だと思って私のブラウスとショーツを貸してあげたのに、いやらしい液体で汚しちゃうし。かといって、男の子用の着替えなんてないし」
 独り言めかしているが、晶に聞かせているのは明らかだった。けれど、晶には返事のしようがない。
 それよりも、晶は、精液で濡れたブラウスの裾がお腹や腿のあたりにべとっと触れる感触がたまらなくおぞましかった。自分のペニスからほとばしり出た精液とはいえ、出してしまった後は、いやらしく汚らしい液体でしかない。それに、股間に滴り落ちた精液のぬるぬるした感触も。晶はもぞもぞと左右の内腿を擦り合わせた。精液を吸ってべとべとになったショーツが小さなシワを作って晶の肌にまとわりつく。
「本当に何もないんですか? ショーツとか女物じゃない着替え、本当に何も置いてないんですか?」
 すがるような声で晶は言った。
「だって、女の一人暮らしだもの、そんなの置いてあるわけないわよ。――でも、あ、そうだ」
 急に何かを思い出したみたいに智子は手を打った。
「帰りにデパートに寄って買ったのがあったんだっけ。そうそう、寺本君のおもらし騒ぎですっかり忘れてたわ」
 智子の言葉で、病院から回り道をしてデパートよ立ち寄ったことを晶も思い出した。そうして、智子が両手に提げていた大きな袋のことも。『寺本君のおもらし騒ぎ』と言われたことに羞恥で胸を一杯にしながら、それでも、こう言うしかなかった。
「ショーツとかパンティとかじゃないなら、何でもいいです。お願いだから着替えさせてください」
「でも、寺本君が気に入ってくれるかしら。自分の着る物以外はあまり買ったことがないから、あまり自信がないんだけど」
「本当にどんなのでもいいです。いつもはブリーフだけど、トランクスでもかまいません」
「本当に何でもいいのね?」
「はい、女物じゃないならどんなのでも」
 智子が言った言葉の意味を深く考えもせずに晶は頷いた。
「デパートの袋、リビングに置いたままだったわね。じゃ、すぐに持って来るから待っててちょうだい」
 言い残して智子は寝室をあとにした。




 リビングルームから戻ってきた智子は両手に提げたデパートの袋を寝室の隅に置いた。
「店員さんにお願いして倉庫まで探してもらったのよ。少しでも寺本君に似合いそうな下着が欲しかったから」
 言いながら智子は袋の中を探って、ナイロンの包みを一つ取り出した。
 晶は包みを見つめた。けれど、透明のナイロン包みの中に入っているのは、ブリーフでもトランクでもなかった。木綿なんかとはまるで違うつるつるした撥水性のよさそうな生地でできていて、表面にボタンが幾つも並んだ、普通の下着などではないことが一目でわかるような、そんな『下着』だった。
「今は紙を使うのが普通で、布用のはデパートの専門店でもあまり在庫は無いんだって。それも、無地のばかりで柄物は殆ど無いそうよ。でも、せっかくだもの、柄物の方が可愛いわよね。だから無理を言って探してもらったの」
 不思議そうな顔で包みを見つめる晶に説明するように智子は言った。だけど、紙とか布とか、智子が何を言っているのか、晶にはまるでわからない。
「それで、やっとのことで水玉模様のを探してもらったの。ずいぶん前に仕入れて倉庫の隅に置きっぱなしになっていたそうなんだけど、サイズもSだし寺本君にはぴったりだと思うわ」
 かさかさと音を立てて智子は包装を解くと、包みの大きさに合わせて折りたたんであった『下着』をカーペットの上に広げた。
 それを目にした晶の顔がこわばった。はっと息を飲む音が智子の耳にも届く。
 智子がデパートで買ってきた『寺本君にお似合いの下着』というのは、おむつカバーだった。淡いレモン色の生地に小さな水玉模様をプリントした表地、裾を縁取る幅の広いバイアステープ、裾からおしっこが洩れ出すのを防ぐ二重ギャザー、右と左に三つずつ縦に並んだスナップボタン。それは、ちょっと見ただけでは、赤ん坊のお尻を包むおむつカバーみたいだった。けれど、智子が晶の目の前に広げのは、赤ん坊のお尻を包むのとは違うのが一目でわかる大きなおむつカバーだった。
 ようやく晶にも、智子が口にした紙や布といった言葉の意味がわかった。智子はデパートの介護用品専門店に足を運んだに違いない。そこで晶の体に合うおむつカバーを探そうとして、けれど今は殆どが紙おむつになっていて、布おむつ用のおむつカバーを探すのに苦労したということを話していたのだ。だけど、それがわかったからといって……。
「それと、ほら。このおむつカバーの内側はこんなふうになっているのよ」
 固くこわばる晶の顔を面白そうに眺めて、智子はおむつカバーの腰紐をほどき、スナップボタンを外して、前当ての部分を前の方に、横羽根を左右に大きく開いた。そうすると、メッシュの生地と防水生地とで二重になっているおむつカバーの内側がはっきり見える。
「このメッシュのおかげで通気性がいいから、おむつカバーの中の湿気が少なくなるんだって。だから、ずっとおむつをあてていても、他のメーカーのおむつカバーよりも不快感は少ないらしいわよ。――いろいろ工夫してくれるメーカーがあってよかったわね、寺本君」
「え? ぼ、僕……?」
 急に名前を呼ばれて、はっとしたように智子の顔を見返す晶。
「このおむつカバーなら寺本君のお尻にも優しいわよ。だから、よかったねって言ってるの」
「ぼ、僕なんですか……このおむつカバー、僕なんですか」
 こわばった表情が解け、今度は今にも泣き出しそうにして晶は声を震わせた。
「寺本君の他に誰がいるっていうの。寺本君、言った筈よ。女物のショーツ以外だったら何でもいいって。おむつカバーには女物も男物もないから丁度いいじゃない」
「そんな、だって、そんな……」
「それに、自分じゃトイレへ行くこともできずに廊下でおもらししちゃうような寺本君にはお似合いの下着じゃない。さっきはここで白いおしっこまでおもらししちゃったし」
「でも、それは……」
「みんな僕がいけないんです。僕のせいなんです。そう言ったのは寺本君自身だった筈よ」
 弱々しい声で言い返そうとする晶の言葉を遮って智子が決めつけた。
 途端に首をうなだれて押し黙ってしまう晶。
「やっとわかったみたいね、自分の言った言葉の意味が。うふふ、いいのよ、それで。じゃ、説明を続けましょうね」
 目を伏せて床の上にぺたんとお尻をついて座っている晶の姿を見据えて智子はもういちどデパートの袋に右手を突っ込んだ。
 おむつカバーに続いて智子が袋から掴み上げたのは、動物柄の布おむつの包みだった。
「布おむつも介護用品のお店で買うつもりで探してもらったけど、おむつは無地のしか無かったのよ。それで、ベビー用品のコーナーで買ってきたの。介護用品の店員さんが言うには、赤ちゃん用の布おむつを何枚か少しずつずらすようにして重ねて使えば大人でも大丈夫なんですって」
 びりっと音を立てて智子は布おむつが入ったビニールの袋を破くと、二枚まとめて丸めて袋に入っていた布おむつを一枚ずつ広げておむつカバーの上に重ね始めた。一番下には二枚の布おむつの端を重ねて体と直角になるように置いて、その上に、体の向きに合わせて置いてゆくから、全体で英語の「T」の字の形になる。
「さ、できた。ここにお尻を載せてちょうだい」
 おむつカバーの上に布おむつを全部で八枚重ねて、それを智子は手の甲でぽんと叩いた。
 晶は激しく首を振って体を退いた。
 逃げようとする晶の肩を智子が両手で捕まえる。
「駄目よ。ちゃんとおむつをあてておかないと、さっきみたいにおもらししちゃうじゃないの」
 晶の肩を掴んだまま、幼児に言い聞かせるような口調で智子が囁きかけた。
「おむつは許してください。僕は赤ちゃんじゃないんだから。赤ちゃんじないのに、おむつなんて……」
 正面から覗きこむ智子の目から逃れるように顔をそむけて晶は弱々しい声で言った。
「そうね、寺本君は高校生だもの、赤ちゃんじゃないわよね。でも、おもらしで廊下を汚しちゃったのは誰だったかしら。白いおしっこのおもらしでショーツとブラウスを汚しちゃったのは誰だったかしら」
「だって、だって、それは……」
「ほら、いつまでも駄々をこねないの。すぐにすむからいい子にしていてちょうだい」
 智子は晶の体をカーペットの上に仰向けに押し倒した。体格に差がある上に両手が自由にならないから、少しくらい晶が抵抗してもかなうわけがない。
「そうよ、そのままじっとしているのよ」
 智子は、仰向けになった晶の両脚の足首をまとめて右手で掴むと、そのまま高々と差し上げた。
 床に手をついて体をひねるにも、右の手も左の手も使えない。足首を高く差し上げられ、お尻が床から浮いた、赤ん坊がおむつを取り替えられる時そのままの格好にさせられると、晶は完全に体の自由を奪われてしまう。
「おむつをあてる前に、白いおもらしで汚しちゃったショーツを脱がせてあげなきゃね。気持ち悪かったでしょう?」
 智子は右手で足首を持ち上げたまま、左手だけで晶のショーツをくるぶしのあたりまで引っ張り上げた。そうして、一瞬、足首から手を離すと、先に右足を、続いて左足をショーツから引き抜いた。精液でべとべとのショーツを脱いだおかげで幾らかは下腹部の気味悪さがましになったものの、精嚢もペニスも、そうして下腹部の肌も、まだべったりと自分の精液にまみれたままだ。気持ちいいというには程遠い。
「じゃ、これね」
 智子は晶の足首をいちだんと高く持ち上げて、カーペットとお尻の間にできた隙間を大きくした。そうして、ついさっき晶の目の前で重ねたばかりのおむつをおむつカバーごと晶のお尻の下に敷きこんだ。
「あ……」
 晶の口から、呻き声とも喘ぎ声ともつかない妙な声が漏れた。布おむつがこんなに柔らかな感触をしているとは思ってもみなかった。思ってもみなかった柔らかな感触がひどく羞恥心を刺激する。
「おむつが気持ちいいんでしょう? いいのよ、本当の気持ちを隠さなくても」
 晶の呻き声を耳にして、智子は僅かに笑いを含んだ声で言った。
「そんな……そんなじゃありません」
 晶はむきになって否定した。
 けれど、お尻の下に敷きこまれたおむつがふんわりしているのは本当だった。体中がぞくぞくしてくるほど柔らかなのは本当だった。
「いいから、本当の気持ちを言ってごらんなさい。おむつが好きになりそうなんじゃないのかしら」
 智子は晶の羞恥心を煽るみたいに言った。羞恥心と、そうして屈辱感と。
「違う、そんなじゃない!」
 突然、晶が大声で喚いた。あまりの羞恥と屈辱に耐えかねて、ついつい大声を出してしまったのだ。
 喚いて、自由にならない両手をばたつかせ、智子の手を振り払おうとするように両足をじたばたさせる。
「本当に困った子ね。そんなに聞き分けのない子にはいくら言って聞かせても無駄だから、お仕置きしかないわね」
 智子はわざとらしく溜息をついてみせた。けれど、心の中はむしろ妖しい悦びに満ちていた。晶に対して『お仕置き』を与える機会をずっと待っていたのだから。晶を折檻したくて、わざと晶の羞恥心と屈辱感を刺激するような言い方をしたのだから。
 気配を察した晶の顔に怯えの色が浮かんだ。
 しかし、その場から逃げることもかなわない。
 智子が左手を高々と振り上げたかと思うと、何も言わずにそのまま力いっぱい振りおろした。
 ばしんっ!
 重く弾力のある音が部屋中に響き渡った。
 おむつの上で晶のお尻がぶるんと震える。
 激しい苦痛に晶の顔が歪む。苦痛は、お尻を叩かれた痛みのせいだけではなかった。大柄で引き締まった体つきの智子の大きな手で思いきり叩かれたのだから痛くないわけがないが、そんな肉体の痛みよりも、高校生にもなっておむつの上にお尻を載せて、そのお尻をお仕置きといって他人の手でぶたれる、そんな屈辱が、ひどい心の痛みになって晶に想像もつかない苦痛を与えているのだった。
「やめて。お願いだからぶたないで」
 本当の幼児のように甲高い金切り声をあげて晶は叫んだ。
 それでも智子は晶の叫び声などまるで耳に届いていないかのように何度も何度も左手を高々と振り上げては晶のお尻に叩きつけた。そのたびに肉と肉とがぶつかる生々しい音が響き、部屋の空気を震わせる。
「本当にもうやめて。もうやめて、本当にもう……」
 晶は声を振り絞った。最後の方は言葉にならない。目には涙さえ浮かべている。
「さあ、どうしようかしらね」
 曖昧に言って、智子はもういちど晶のお尻をぶった。
「やだ……もうやめてったら。でないと……」 懇願する内容は同じだが、不意に晶の声が変化した。それまでは苦痛から逃れようとしていたのが、今は、もっとなにか切羽詰まった感じがある。
「あら、でないとどうなるのかしら」
 実は智子は、晶がどうしてそんなに切羽詰まった声を出すのか、その理由を知っていた。知っていながら、わざととぼけて、もういちど左手を振りおろす。ただ、それまでに比べれば心もち緩やかな叩き方だった。
「もうやだ。駄目って言ってるのに」
 今度の声は、切羽詰まっているというよりも、むしろ、絶望的な声だった。
 絶望的な声をあげながら、びくっと晶は体を震わせた。
 晶のペニスの先端から生温かい液体が溢れ出したのは、その直後のことだった。
 智子の手で精液を絞り取られて小さくなっていた晶のペニスは、おむつの上に載せたお尻をぶたれる羞恥と屈辱のためにますます力なく縮こまり、精液にまみれた股間に情けない姿をさらして垂れさがっているばかりだった。いったんは智子の指で綺麗に剥かれた皮も元通りになってしまっている。そんな惨めなペニスから溢れ出したのは、生温かいおしっこだった。
 廊下での恥ずかしい粗相からまだ一時間も経っていない。なのにどうして急に尿意が強くなってきておしっこを溢れさせてしまうのか、晶自身にもわからなかった。わからなかったけれど、智子の手で足首を持ち上げられた格好のままペニスからおしっこが溢れ出ているのは本当だった。皮を被ったペニスの先から溢れ出たおしっこがペニスを伝って精嚢に滴り落ちて、そこから雫になってお尻を濡らしながらおむつの上に落ちて行く感触は気のせいなんかじゃなかった。
「赤ちゃんじゃないからおむつなんて嫌だって言ってたのは誰だったかしら。本当の赤ちゃんでも、ちゃんとおむつをあてている間くらいはおもらししないで待ってるわよ。おむつをあてる最中におもらしだなんて、本当の赤ちゃんよりも赤ちゃんね」
 とどめを刺すみたいな智子の言い方だった。
「だって、だって……」
 とうとう晶の目から涙がこぼれ始めた。羞恥と惨めさと情けなさと少しの怒りと微かな憎悪と、なにより、屈辱。
「あらあら、おむつにおもらしして泣いちゃうなんて、本当に赤ちゃんね。いいわ、私のマンションにいる間、寺本君のことは赤ちゃんだと思って面倒みてあげる。その方がお似合いだものね、寺本君――ううん、晶ちゃん」
 我慢に我慢を重ねた後みたいに勢いよく飛び散るおしっこではない、いつのまにか溢れ出してしまったというようなちょろちょろと流れ出る晶のおしっこの筋を眺めながら、智子は幼い子供をあやすみたいに言った。
「僕は赤ちゃんじゃない。赤ちゃんなんかじゃないのに……」
 泣きじゃくりながら晶は何度も繰り返した。
 けれど、そう繰り返している間にも、晶のペニスの先から溢れ出る恥ずかしい生温かい液体が、お尻の下に敷いたおむつに吸い取られてゆく。晶ちゃんは赤ちゃんなのよと決めつけられても仕方のない光景だった。
 実は晶自身は気づいていないのだが、この光景は智子が仕組んだ結果そのものだった。トイレのドアでのおもらしからまだ一時間も経っていないのに、急におしっこをしたくなることなど普通は考えられない。もしもそんなことがあるとすれば、例えば利尿剤などの薬物を使った上での誰かの企みに他ならない。そう、これはまさしく智子が仕組んだ罠だった。買い物に出掛けるまえに晶に飲ませたアイスコーヒーに智子は利尿剤を混入していたのだ。
 利尿剤の入手先は、晶を連れて行った病院の整形外科の医者だった。明光の保健室をまかされ、怪我をした生徒を何人も連れて行くようになって、智子と医者は顔見知りになった。そんな二人が深い仲になるのに、さほど時間はかからなかった。とはいえ、二人が深い仲になったのは、互いに好意を持ったからというよりも、互いが互いを利用するためだった。医者から見れば、自分よりも一回りも若い智子は性欲の捌け口にすぎなかった。病院の院長の娘と結婚したまではよかったが、妻になった女性のあまりの気の強さと高慢さに手を焼いていたところに現れたのが、美貌と素晴らしいプロポーションを持った智子だったから、医者がつい心惹かれたのも無理からぬことだった。智子の方も、三十才を目前にした熟れた体の持ち主だ。性欲を発散できる相手の出現は願ってもないことだった。ただ、智子には別の目的もあった。それは、一般には入手することが困難な様々な薬剤を手に入れることだった。その点、医者なら、よほど効力の強い薬剤でなければ簡単に処方箋を偽造することもできる。処方箋さえあれば、薬局で目的の薬剤を購入するのは造作もないことだ。むしろ、智子が医者に接近したのは、こちらの目的が主だったと言ってもいい。
 ことあるごとに智子は医者に処方箋を書かせて、睡眠誘導剤などの向精神薬も含む様々な薬剤を手に入れていた。智子がアイスコーヒーに混入したのは、そうやって入手してきたコレクションの中の一つで、どちらかといえば効き目の弱い利尿剤だった。効き目が弱いとはいっても、高校生の晶が廊下でおもらしをしてしまうほどの効果はあるし、数時間に渡る持続性もある。だからこそ、一度服用しただけで、晶は普通の状態に比べれば極めて短い間隔で強い尿意を覚え、とうとう我慢できなくなっておしっこを溢れ出させてしまったのだ。
 そして、まるでそんなことは知らない顔をして、前のおもらしも今度のおもらしもみんな晶本人のせいにしてしまう智子だった。それは、晶におむつを強要するための口実だった。――高校生の晶に赤ん坊のようにおむつを強要する理由。それは、そうすることが智子の欲望の現れだからに他ならない。
 その生い立ちのために、智子は若い男の子を弄び、好きなようにあしらい、屈服させることに異様なほどの悦びを覚えるようになっていた。若い男の子を屈服させる方法は幾つもある。体の大きな腕力もありそうな男の子が相手なら、まるで猛獣を飼い慣らすように鞭を振るう。頭のいい理知的な男の子が相手なら、徹底的に言葉でなぶりものにする。そうして、女の子と見まがうような男の子を相手にした時は、その愛くるしさを存分に引き出した上で、可愛がるようなふりをしながらひどい羞恥を呼びさますようにして屈服させる。晶を新しい獲物と決めた智子が選んだ方法は、晶に幼い女の子の格好をさせることだった。幼い、まだおむつの取れない赤ん坊のような格好をさせて、思いきり羞恥心を煽って屈服させることだった。そのための口実に、智子は利尿剤を使ったのだ。

 晶には永遠とも思える時間だったが、実際には三十秒ほどだろう。その間にようやく膀胱が空になって、ちょろちょろと止めどなく溢れ続けていたおしっこの流れが弱くなり、気がつけば止まっていた。
「もういいの? もうおしっこはおしまいなのね?」
 念を押すように智子は言った。
 おしっこの流れは止まったものの、まだ涙は止まらない。晶は何も応えられなかった。
「黙ってちゃわからないでしょう? でも、ま、いいわ。まだお喋りもできない赤ちゃんなのね、晶ちゃんは。じゃ、早く新しいおむつに取り替えてあげないとね。このままじゃお尻が気持ちわるいものね」
 晶が何も言わないのをいいことに、智子はこれでもかという感じで晶を赤ん坊扱いしてみせた。それでも、晶は一言も言い返せないでいる。何をどう言えばいいのかわからないし、なにより、何か言おうとして口を開きかけても、あまりの惨めさに涙声になってしまう。
 智子は右手で晶の足首を高々と差し上げたまま、おしっこを吸ってぐっしょり濡れた布おむつの端で晶の下腹部をそっと拭った。智子がおむつの端を動かすたびに、晶の肌に付着していた精液が少しずつ拭き取られてゆく。
「これでいいわ。これで晶ちゃんのおちんちんから洩れた白いおしっこも綺麗になったし、新しいおむつに取り替えてあげられるわね。――ああ、でも、汚れたおむつの入れ物が要るわね。ちょっとだけこのまま待っていてちょうだい」
 智子は晶の足首をカーペットの上に戻した。それまではお尻の丸くなっているあたりだけが布おむつに載っていたのに、脚の付け根のあたりまで、ぐっしょり濡れたおむつに触れる。ぞくりとするような不快感が晶の背筋を走った。
 涙が溢れ続ける両目をぎゅっと閉じた晶の耳に、寝室を出て行く智子の足音が聞こえた。




 待つほどもなく、戻ってくる智子の足音が晶の耳に届いた。
 智子が寝室に入ってくる気配に僅かに瞼を開いた晶の目に、智子が左手に提げたポリバケツが映った。間違いなく、それは、汚れたタオルや晶の制服を智子が投げ入れたあのポリバケツだった。
「大丈夫よ、バケツは空にしてきたから」
 薄目を開けてポリバケツを見つめている晶の視線に気づいた智子は、ほらというみたいにポリバケツを逆さにひっくり返してみせた。
「僕の制服は……」
 ふと不安を覚えた晶は、おそるおそる瞼を開いて智子に尋ねた。
「汚れたタオルと一緒に処分しておいたわよ。このマンションは地下にゴミ集積所があってね、どの部屋からもダストシュートが繋がっているの。だから、シュートに放り込むだけでおしまい。便利になっているのよ」
 こともなげに智子は言った。
「そんな、じゃ、僕の着る物が……」
「制服を残しておいても無駄になるだけよ。おむつで膨れたお尻に制服のスラックスは窮屈で穿けないもの」
 智子は晶のすぐそばに膝をついた。
「だって、でも、ギプスが取れたら学校へ行くんですよ。その時はどうすればいいんですか」
「その時はその時、また考えればいいの。とにかく、いったんダストシュートに放り込んだゴミはもう取り戻せないの。ほら、いつまでも駄々をこねてないで新しいおむつにしましょうね」
 晶の言葉に耳を貸そうともしないで、智子はふたたび晶の足首を一つにまとめて持ち上げた。
 晶のお尻が浮いた。智子は空いている方の手でぐっしょり濡れた布おむつを手前にたぐり寄せると、体の横に置いたポリバケツの中にまとめて放り込んだ。それから、デパートの袋を手元に引き寄せて、新しい布おむつを取り出し、片手で器用におむつカバーの上に重ね始める。
「はい、あんよをおろすわよ」
 晶の羞恥心を刺激するためにわざと幼児言葉で話しかけて、智子は晶の足首をおろした。
「あ……」
 晶の口から呻き声が漏れた。初めてお尻の下に敷き込まれた布おむつの感触に思わず呻き声を漏らしてしまい、今度は二度目なのに今また呻き声を漏らしてしまった。けれど、それも仕方のないことだろう。高校生の晶にとって、布おむつの柔らかさというのは、物心ついてからこちら一度も味わったことのない想像もつかない感触なのだから。
「いいわね、じっとしてるのよ。暴れたりしたら、またお仕置きだからね」
 お仕置きと言われて、晶は体を固くした。もう二度とお仕置きはご免だった。肉体の痛みと心の苦痛を同時に味わわさせられるあの屈辱的なお仕置きだけはどうしても避けたかった。人間は、自分で思っているより遙かに脆い精神しか持ち合わせていない。容赦なく加えられる折檻に、思うよりひどい怯えを覚えてしまうものだ。逃げ出すことのかなわぬ密室で嫌というほど与えられた折檻に、まだ若い晶の心は早くも屈服への道を歩み始めていた。
 智子は股当ての布おむつの端を掴むと、晶の両脚の間を通して、そのままお腹の上まで持ち上げ、おヘソのすぐ下にそっと置いた。お尻だけでなく下腹部全体が布おむつに包みこまれる感触に、晶は再び呻き声を洩らしそうになった。智子は股当てのおむつの中に右手を差し入れると、小さく縮こまっているペニスを掌に載せて、そのまま、先端をお尻の方に向けさせた。そうしておいて今度は横当てのおむつをおヘソのすぐ下で股当てのおむつに重ね、その上におむつカバーの左右の横羽根を重ねて、マジックテープでしっかり固定してしまう。そうすると、晶が少しくらい体や脚を動かしても、もうおむつがずれることもない。ペニスも、おむつで押さえつけられて、おヘソの方に上向きになることができず、お尻の方に向いたままになってしまう。そのせいで、おむつの上からちらと見ただけでは男の子特有の股間の盛り上がりが殆どわからなくなってしまい、童顔や体毛の薄い小柄な体つきと相まって、幼い女の子そのままの姿になってしまう。
「もうすぐだからね」
 智子はおむつカバーの前当てを持ち上げて、前当てのおむつと同じように晶の両脚の間を通して広げ、おむつカバーの横羽根に重ねた。横羽根と前当てもマジックテープで固定できるようになっていて、それを留めてから、左右に三つずつ縦に並んだスナップボタンもみんな留めてしまう。そうして、おむつカバーの裾からはみ出している布おむつを人さし指の腹で優しく押し込んだ。
「はい、できた。これでいいわ」
 智子は、たくさんのおむつでもこもこ膨れた晶のお尻をおむつカバーの上からぽんぽんと叩いた。
「じゃ、ブラウスも着替えなきゃね。いつまでもそんなブラウスじゃ可哀想だもの」
 智子は晶の腕を掴んで上半身を引き起こした。おむつで膨らんだお尻をぺたんと床について両脚を広げて座る晶は、とてもではないが男子高校生とは思えない姿だった。おむつのせいで両脚を左右に開きぎみにして床に座り、体に合わない大きなブラウスの中に埋まってしまいそうになっている晶は、本当に小さな、まだおむつも取れない幼い女の子にしか見えない。実は高校生の、だけどちょっと見には幼い女の子という奇妙な童女が、裾を汚らしい液体で汚したブラウスを身に着けている。けれどそれは誰に汚されたのでもない、自分自身のペニスから飛び出した自分自身の精液で汚してしまったのだ。なのに、誰か身も知れぬ男によって無理矢理に汚されてしまった少女のような、そんな倒錯的な姿でさえあった。
 智子はボタンを手早く外すと、両方の袖をさっと抜き取るようにして晶の体からシルクのブラウスを剥ぎ取った。なんだか、がんぜない幼女のブラウスを強引に剥ぎ取るような加虐的な悦びが体中を駆け巡る。そうして、その幼女が実は男子高校生なのだと改めて思い出すと、妖しい加虐的な悦びはますます激しくなるのだった。
「これもデパートで買ったきたのよ。一五〇サイズだから晶ちゃんにはぴったりの筈なんだけど」
 半ば強引に脱がせたブラウスもポリバケツに放り込んで、智子はデパートの袋からワンピースを取り出した。
「さすがに一五〇サイズはベビー用品コーナーには置いてなかったからガールズコーナーで探したんだけど、ほら、こんなに可愛いのよ。ガールズでも一六〇サイズになると大人びたデザインのばかりになっちゃって、可愛いのは一五〇サイズまでね。よかったわ、晶ちゃんが一五〇サイズを着られるくらい小柄で」
 智子が袋から取り出したのは、襟が丸くて幅の広い、ハイウエストのワンピースだった。胸元には小花のアップリケが縫い着けてあって、袖口は大きなフリルになっている、スカートの後ろに上下二段の飾りレースをあしらった、いかにも幼い女の子が喜んで着そうなワンピースだった。
「ぼ、僕なんですか? そのワンピース、本当に僕のなんですか」
 水玉模様のおむつカバーの他には何も身に着けていない姿で晶は唇を震わせた。
「晶ちゃんの他に誰が着るっていうの。一メートル七十センチ以上ある私が着られるわけないじゃない?」
 智子は両手で肩口を持ったワンピースを、サイズを確認するみたいに晶の体に押し当てた。
「で、でも、女の子の洋服なんて……」
「いいのよ、これで。だって、晶ちゃんはおむつをあてて暮らすのよ。おむつの上にズボンなんて窮屈じゃない。それに、おむつを取り替えてあげるたびにベルトを外してズボンを脱がせなきゃいけないから面倒だし。その点、スカートだったらそのまま捲り上げるだけでいいんだから便利なの」
 サイズを確認して満足げに頷いた智子は、ワンピースの背中に並ぶボタンを外し始めた。「だけど……」
「いつまでも我が儘を言ってるなら、またお仕置きよ。それとも、校長先生に報告しようかしら。――せっかく預かった寺本君だけど、治療に専念する気が無いようです。このままだと学業に復帰するのも難しいから退学を勧告した方がいいかもしれませんって」
 それが智子の切り札だった。名門・明光高校を退学になったりしたら、故郷に帰るに帰れない。明光を退学になったという噂は地元の町中にあっという間に広まり、家族・親類に至るまで顔を伏せて歩かなければならなくなるのは明らかだった。
「せっかく私が買ってあげたワンピースだもの、着てくれるわよね?」
 わざとらしく優しい口調で智子は言った。
 晶にできるのは、弱々しく頷くことだけだった。

 サイズだけをみれば、智子が買ってきたワンピースは晶の体に丁度合う筈だった。けれど実際に晶が身に着けてみると少し小さいようだった。晶がいくら小柄で華奢な体つきをしているとはいっても、実際の女の子と同じ体格というわけではない。女の子に比べれば骨太で、幾らかは肩幅もあるし、僅かとはいえ胸板も厚い。そのせいで、窮屈というほどではないにしても、本当なら十分袖のところが八分袖みたいになってしまったり、ウエストのあたりが少しだけ苦しかったりするというふうに、全体的に少し小さめかなという感じになってしまう。そんな中で、特に、もともと短めのデザインに仕立ててあったスカートが余計に短くなってしまうのが晶の羞恥を掻き立てる。晶の体に対して全体的に少し小さめのワンピースだから自然にスカートがたくし上げられる感じになる上に、大きく膨れたおむつカバーのせいでスカートも丸く膨らんでしまい、そのせいでますます丈が短くなってしまうのだ。水玉模様のおむつカバーはかろうじてスカートの中に隠れるものの、ちょっと脚を開いたり体を腰をかがめたりすれば、すぐにスカートの裾から見えてしまう、そんなふうだった。
「ちょっと小さかったけど、ま、いいわね。却って可愛らしくなったくらいだし」
 女児用のワンピースを身に着け、スカートを丸く膨らませてその場に佇む晶の体を頭の先から爪先まで舐めるみたいに眺めまわして、智子は満足げに頷いた。
「晶ちゃんも町中とかで見たことがあるでしょう? まだおむつの取れない小っちゃな女の子がスカートの下からおむつカバーを少し覗かせてお母さんに手を引いてもらってちょこちょこ歩いてるところ。うふふ、今の晶ちゃん、そんな女の子そっくりよ。本当に可愛いんだから」
 智子はワンピースのスカートの裾を整えながら晶に囁きかけた。
可愛いワンピの晶
 そう言われた晶の方は、真っ赤に染まった顔を伏せて口をつぐんだままだ。
「せっかくだからソックスも履かせてあげるわね。そろそろ涼しくなってくる頃だから」
 智子は、黙りこくる晶の返事を待つこともなく、やはりこれもデパートのガールズコーナーで買ってきたパステルピンクのソックスを晶に履かせた。足首のところに濃いピンクのボンボンが付いた、あまり長くないソックスだ。
「うん、これでいいわ。これで、すっかり女の子に変身ね。自分じゃトイレも行けない、おむつの取れない小っちゃな女の子。――自分の目で見てごらん」
 智子は、寝室の隅に置いてあった姿見を晶の目の前に持ってきた。
 大きな鏡にちらと目をやって、慌てて晶は目を伏せた。姿見の鏡に映っていたのは、丈の短いワンピースの裾からおむつカバーを覗かせている幼い女の子そのままの晶の姿だった。もともと肩に届くか届かないかという長さの髪を眉の少し上で切り揃えた髪型をしていることもあって、そんな格好をすると、ますます童顔に似合う。慌てて目をそらしても、いちど目にした自分の恥ずかしい姿は瞼に強く焼き付いてしまって、強く目を閉じれば閉じるほど、くっきりと目の前に浮かんでくる。
「じゃ、リビングに戻りましょう。すぐに夕食の用意をするから、待っている間、テレビでも観ているといいわ」
 首をうなだれて立ちすくむ晶の背中に手をまわして、智子はドアに向かって歩き出した。




 少しでも自由になる時間があれば、いつもの晶なら机に向かっている。けれど、病院から直接マンションに連れて来られたため、ノートも参考書も手元にない。それに、あったとしても、両手をギプスで固定されてしまっているめた、鉛筆を握ることはおろか参考書のページをめくることもできない状態だった。
 智子が言うように、今の晶にはテレビを観ることくらいしかできなかった。それも、普通の番組ではない。智子がリモコンを操作して選んだのは、幼稚園児くらいの子供を何人もスタジオに招いて人形劇をしてみせたり一緒に体操をしたりする子供向けの番組だった。晶にしてみれば、そんな番組を観せられて面白いわけがない。参考書に目を通すことができない今、せめてNHKの教育番組を観たいところだが、リモコンの小さなボタンを押すこともできなくて、智子が選んだ番組で我慢するしかなかった。
 ふとリビングの大きなガラス窓を見ると、外はもう薄暗くなっていた。シチューを煮込んでいるのだろうか、キッチンの方からいい匂いが漂ってきた。晶は急にお腹が空いてきた。いろいろなことがありすぎてこれまで忘れていたものの、そういえば、寮の食堂へ行く途中で階段から転げ落ちたために結局お昼は食べないままだった。食べ物だけではない。飲み物にしても、朝のお茶から今まで、智子が勧めたアイスコーヒー以外は口にしていない。しかも(晶自身は知らないことだが)智子がアイスコーヒーに利尿剤を混入したために短い間に二度もおしっこをおもらししてしまっていて、そのせいでかなり喉も渇いている。そんな晶にとって、子供向けのテレビ番組よりもキッチンから漂ってくる匂いに心を奪われるのも仕方ないところだ。
 思わず晶はテレビから目をそらしてキッチンの方に顔を向けた。
 晶の目に、キッチンとリビングを隔てるカウンターの横をまわりこんでこちらに向かって歩いて来る智子の姿が映った。
「どうしたの、晶ちゃん。ほら、テレビを観てごらん。お兄ちゃんやお姉ちゃんがいっぱいで体操をしているわよ。晶ちゃんも早く元気になってあんなふうにできるといいわね」
 床にお尻をつけて座っている晶のすぐそばに腰をおろして、智子は幼児をあやすみたいな口調で話しかけた。
「お兄ちゃんやお姉ちゃん……?」
 智子が何を言っているのかわからなくて、つい訊き返す晶。
「そうよ。だって、テレビに出ている子供たち、誰もおむつなんてしてないわよ。なのに、晶ちゃんはおむつでしょう? だから、晶ちゃんよりもあの子たちの方がお兄ちゃんでお姉ちゃんなのよ。そうじゃない?」
 智子はテレビの画面を指さした。確かに、おむつをしているような子は一人もいない。それに対して、晶は智子の手でおむつをあてられていた。おむつをあてられて、丈の短いワンピースを着せられていた。そんなふうに言われれば、テレビに出ている子供たちよりも晶はずっと小さな子なのかもしれない。あどけない顔でみんなでお遊戯をしている幼児たちよりもずっと手のかかる赤ん坊なのかもしれない。
 けれど、そんなことを認められる晶ではない。
「僕は、僕は……」
 智子の顔とテレビをおそるおそる交互に見比べて晶は何か言おうとした。けれど、あまりの屈辱感のせいで意味のある言葉にならない。
「僕は赤ちゃんなんかじゃない――晶ちゃんはそう言いたいんでしょう? このマンションに来てから何度も同じことを言っているから聞き飽きちゃったくらいよ。……ま、いいわ。せっかくの面白い番組も目に入らないくらいお腹が空いて喉も渇いているみたいね、晶ちゃんは」
 くすっと笑って智子は言った。
「じゃ、ちょっと早いけど夕食にしましょう。今日はいろんなことがあったから早めに夕食にして早めに眠った方がいいわ」
 勝手に決めて、智子は再びキッチンに向かった。

 夕食にしましょうと言ってキッチンに立った智子なのに、リビングに戻ってきた時に持ってきたトレイには、シチューの皿もサラダのボウルも載っていなかった。白いトレイに載っているのは、丸い透明の瓶が一本だけだった。それも、ジュースやミネラルウォーターの瓶などではない。
「はい、これが晶ちゃんの夕食よ。怪我をしてすぐだから、固い物よりも消化のいい物にしておかないとね」
 そう言って智子はトレイを床に置いた。トレイの上に載っているのは、いっぱいにミルクを満たした哺乳壜だった。いかにも晶の体を気遣ってというような言い方をしているが、晶は内蔵の病気ではない。本当のところ、消化がいい物を食べなければいけない理由もない。なのに智子がミルクを満たした哺乳壜を持ってきたのは、それで晶の羞恥心を煽るため、それだけが目的だった。決して暴力的ではないが、それが晶の心をいたぶる折檻であることに違いはない。
 晶は力なく首を横に振ったが、智子の両手が伸びてきて、あっという間に膝の上に横抱きにされてしまった。
「ほら、ちゃんと飲んで栄養を摂らないと怪我も治らないわよ」
 晶は脚をばたつかせたが、智子が左手を晶の首筋と胸元にまわし、右脚を晶の脚に絡めて膝の上から逃げられないようにしてしまう。そうして、空いている右手で哺乳壜を持ち上げると、ゴムの乳首を晶の唇に押し当てた。もちろん晶は拒んだが、智子は晶の唇を強引にこじ開けて哺乳壜の乳首を無理矢理に咥えさせてしまった。途端に、ゴムの乳首の先からミルクが滴り落ちて舌の上に白い膜になって広がる。
 普通、哺乳壜は、赤ん坊が自分から唇を動かして吸わなければミルクが出ないようになっている。さもないと、赤ん坊がミルクに咽せて窒息してしまう恐れがあるからだ。ところが、智子が咥えさせた哺乳壜は、晶が唇を動かさなくても勝手にミルクが流れ出してきた。それは、智子が哺乳壜の乳首に細工をして、ミルクが流れ出る穴を大きくしていたからだ。こうしておけば、いくら晶が嫌がっても、哺乳壜を強引に口にふくませれば、それだけでミルクを飲ませることができる。もしもそれでも晶が哺乳壜を拒んでミルクを飲まなければ、次第に口の中を満たしてゆくミルクが唇から溢れ出してくるだけだ。そうなったらなったで、まるで本当の赤ん坊のように口からミルクをこぼして着ている物を汚したことをからかって羞恥心をくすぐってやればいい。いずれにせよ、晶は智子が周到に仕組んだ屈辱的な罠から逃れることはできないようになっていた。
 最初こそミルクを飲もうとしなかった晶だが、乳首の先から流れ出るミルクが次第に口の中に溜まってくると、嫌々ながらも飲み込まざるを得なくなってくる。晶はおそるおそる喉を動かした。すると、どうしても舌や唇も動いてしまう。そうなると知らず知らずのうちに哺乳壜の乳首を吸うような格好になってしまって、ますます哺乳壜の中のミルクが口に中に流れ込んでくるのだった。晶が唇を動かすたびに哺乳壜のミルクが減って、その代わりに、ミルクの表面に小さな泡が浮かぶ。
「そうそう。上手よ、晶ちゃん。たくさんミルクを飲んで早く怪我を治そうね」
 智子は哺乳壜を大きく傾けた。
 不意に晶が乳首を吸うのをやめて、助けを求めるような目つきで智子の顔を見上げた。
「あら、どうしたの? もうお腹いっぱいになっちゃったのかしら」
 智子は僅かに首をかしげて哺乳壜の乳首を晶の唇から引き抜いた。ゴムの乳首の先から白い雫が一つ晶の頬に落ちて、そのままつっと顎先に流れる。
「お……おし……」
 口の中に残っていたミルクをゆっくり飲み込んで、晶はおずおずと口を開いた。けれど、なにか躊躇っているようで、なかなか言葉にならない。
「どうしたの? ちゃんと言わなきゃわからないじゃない」
 智子は哺乳壜を右手に持ったまま、晶の唇に耳を近づけるようにして言った。
「お、おしっこ……おしっこをしたいからトイレに……」
 ようやくそう言って、羞恥のあまり頬を真っ赤に染める晶。
「あら、おしっこだったの。おしっこをちゃんと言えるなんて、晶ちゃんはえらいのね」
 それこそ小さな子供を誉めるような口調で言って、智子は胸の中でほくそ笑んだ。実は、智子が哺乳壜に入れて持ってきたミルクの中にも、アイスコーヒーに混ぜたのと同じ利尿剤を混入していたのだ。アイスコーヒーの利尿剤の効力がまだ残っているところに新しい利尿剤を飲まされたのだから、晶にしてみればたまったものではない。ミルクの水分と相まって、思いもかけない激しい尿意に襲われるのも、当然のことだった。。
「でも、トイレなんて行かなくてもいいのよ。晶ちゃんは赤ちゃんだからおむつをしているのよ。おむつだから、おしっこはおむつにしていいの。トイレなんて行かなくていいのよ」
 胸の中でにやっと笑いながら、おだやかに言い聞かせるような口調で智子は言った。
「そんな、おむつにおしっこだなんて、そんな」
 晶は弱々しく首を振った。
「トイレに間に合わなくておもらしで廊下を汚しちゃったのは誰だったかしら。白いおもらしでショーツを汚しちゃったのは誰だったかしら。ちゃんとおむつをあててあげる前におもらしして、お尻の下のおむつを汚しちゃったのは誰だったかしら。そんな子にはおむつって決まっているのよ。自分でトイレへ行けない赤ちゃんはおむつなの」
「やだ。おむつにおしっこなんて絶対にやだ。僕はトイレへ……」
 僕はトイレへ行くんだと叫ぼうとして、けれど、智子が再び哺乳壜の乳首を晶の口に押し込んだために、言葉は最後まで続かなかった。それでもまだ叫び出そうとする晶の唇の端からミルクがこぼれ出してワンピースの胸元を汚してしまう。
「あらあら、白いおもらしでブラウスを汚しちゃったと思ったら、今度はミルクでワンピースまで。本当に困った子だこと。今度から、よだれかけも用意しておかなきゃいけないわね。――ほら、ちゃんと哺乳壜を持たないとまた汚しちゃうわよ」
 智子は、力なく体の両側にぶらんとしている晶の腕を持ち上げて、ギプスで固定された掌で包み込むようにして哺乳壜を持たせた。まるで力は入らないものの、両方の掌を合わせて支えさせてやれば、ゴムの乳首が唇から離れないように持っているくらいのことはできる。
 晶に哺乳壜を待たせて、智子はそっと手を離した。哺乳壜を落としてしまいそうになって、晶は慌てて両手に力を入れた。このまま哺乳壜を落として溢れ出るミルクでワンピースをこれ以上汚しでもしたら、それを口実に智子が晶の屈辱感を煽ることは明らかだった。
「そう、それでいいわ。晶ちゃんがミルクを飲んでいる間に、おしっこの方は私がちゃんとしてあげるからね」
 智子の膝の上で横抱きにされ、自分の手で哺乳壜を持たされてミルクを飲む晶。そんな晶の姿を目の前にしてぞくぞくするような加虐的な悦びにひたりながら、智子は、哺乳壜を離して自由になった右手を晶の下腹部に伸ばした。
「あん」
 おむつカバーの上から下腹部をまさぐる智子の絡みつくような手の感触に、哺乳壜の乳首を口にふくんだまま喘ぎ声をあげてしまう晶。
「ほら、ミルクを飲んでいる時に声を出すからミルクがこぼれちゃってるじゃない。せっかくの可愛いワンピースをこれ以上汚したら本当によだれかけよ」
 晶の頬を伝い落ちるミルクの雫をちらと見て、智子は晶の耳元に唇を寄せて囁きかけた。熱い吐息が耳たぶに吹きかけられて、晶は思わずぞくっと体を震わせてしまう。胸がどくんと高鳴って、下腹部が熱く疼く。
「あらあら、赤ちゃんのくせに興奮しちゃって。本当にいやらしい赤ちゃんだこと。でも、興奮でおちんちんを大きくしてちゃ、おしっこが出ないわよね。それじゃ可哀想だから、おちんちんが小さくなるおまじないをしてあげるわ」
 おむつカバーの上から晶のペニスを包みこむようにして智子は右手を動かし始めた。おちんちんを大きくしちゃってとは言っても、子供のように皮を被った少しばかり発育不全ぎみの晶のペニスだから、おむつカバーを内側から突き上げてエレクトしているわけではない。それでも、おむつカバーの一部がこんもりと盛り上がるくらいには興奮していた。
 ペニスがエレクトすれば、普通なら上向きになる。つまり、おヘソの方を向くことになる。しかし、おヘソとは反対向きにされて布おむつで押さえつけられてしまっている晶のペニスは、おむつカバーの中、窮屈な格好でお尻の方を向いたまま大きくなっていた。だから智子は、晶のお尻の穴よりも少しだけおヘソ寄りのあたりに右手を這わせた。お尻の方を向いたままエレクトしたペニスの先がそのあたりにあるからだ。智子の手は、すべすべの生地でできたおむつカバーの上からペニスの先をくすぐるように動き、ペニスの付け根をきゅっと握り締めるみたいに蠢いた。
「や……」
 晶の唇から再び呻き声が漏れて、唇の端からミルクが滴った。
「可愛い声を出すのね、晶ちゃんは。本当に女の子みたいな可愛い声だわ」
 晶の下腹部を揉みしだくように右手を動かしながら、智子は熱い息をふっと晶の首筋に吹きかけた。
「やだ……もうやだったら」
 許しを乞うみたいな晶の声だった。けれど、その弱々しい声のどこかにうっとりした響きが混ざっているのを智子の耳は聞き逃さなかった。
「やだって言いながら、晶ちゃんのおちんちんはどんどん大きくなっているわよ。女の子みたいな可愛い声で鳴くし赤ちゃんみたいにおもらししちゃうのに、おちんちんだけは高校生の男の子なのね。そんなの、ずるいんじゃないかしら」
 智子は、親指と人さし指でペニスの付け根のあたりをぎゅっと押しながら、中指の腹でペニスの先があるあたりをおむつカバーの上から強くさすった。直接、肌と肌とが触れるのではない。智子の指と晶のペニスとの間には布おむつがある。智子が指を動かすたびに、動物柄の布おむつが晶のペニスにまとわりつき、絡みつくように擦りあげる。これまで味わったことのない未知の感触は、けれど決して不快な感触ではなかった。むしろ晶は、いつしか、柔らかな布おむつの上からペニスをまさぐられる感触の虜になりかけていた。
 智子が、これまでと比べてとりわけねっとりと指を動かした。
「あ……」
 甲高い声があがって晶の体がのけぞった。
 智子の掌に、晶のペニスがどんくと脈打つ様子がおむつカバーを通して伝わった。
 晶の手から力が抜けて、口にふくんでいた哺乳壜がワンピースの上に転がり落ちる。
「またおもらししちゃったのね、白いおしっこを」
 智子は晶のペニスの上に掌を置いたまま嘗めるように言った。晶のペニスは大きく一度どくんと脈打った後、まだ何度かびくんびくんと小さく脈打って震えている。そのたびにペニスの先から白い精液を迸らせている様子が、智子には手に取るように想像できた。
 けれど、それはなんと惨めな射精だろう。晶が精液を迸らせたのは女性の性器に対してではなく、本当なら赤ん坊のお尻を包む筈の布おむつの中でだった。おむつの中に溢れた精液はどこにも行き場がなく、おしっこと違ってどろりと粘る精液はおむつに吸収されもせず、晶自身の下腹部にまとわりついて体毛の薄い肌をべっとりと汚すばかりだ。それに、胸元に転がり落ちた哺乳壜。晶の手から落ちた哺乳壜はワンピースの胸元に倒れたまま、乳首の先から白いミルクをとめどなく溢れさせている。晶は、哺乳壜から流れ出るミルクが自分のペニスから溢れ出る精液であるかのような錯覚にとらわれた。まるで、自分のペニスが胸元まで這い上がってきて精液をこぼしているように思える。精液を迸らせる晶と、精液にまみれて衣服を汚される晶。一瞬どちらが本当の自分なのかわからなくなってしまう。
「正直なものね。晶ちゃんのおちんちん、もう小っちゃくなってきているわよ。これで、おしっこもちゃんと出るわね」
 いつのまにか、智子の手の下で、晶のペニスは一時の怒張が嘘のように小さく縮こまってしまっていた。
 そうして、縮こまったペニスの先からは、成人した男性を象徴する白い精液に代わって、幼い子供と同じ透明のおしっこが流れ出し始めていた。
「あら、可哀想に哺乳壜を落としちゃってたのね。やっぱり赤ちゃんの晶ちゃんには自分のお手々で持つのは無理だったかな。はい、これでいいわね」
 ずっと前から知っているのに今になって気がついたように言って、智子は哺乳壜を拾い上げて晶の口にふくませた。こぼれてしまった分もあって、ミルクはもうあまり残っていない。残り僅かなミルクを余さず晶に飲ませるために、智子は哺乳壜を大きく傾けた。
「これで晶ちゃんはすっかり赤ちゃんになっちゃったのよ。だって、哺乳壜でミルクを飲みながらおむつの中におしっこをするなんて、赤ちゃんしかしないことだもの。いいわね、このマンションにいる間、晶ちゃんは赤ちゃんなのよ。晶ちゃんが赤ちゃんで私がママ。わかったわね?」
 左手で哺乳壜を支え、右手を晶のおむつカバーの中に差し入れておむつカバーの中の様子を探りながら智子は言った。智子の右手は、おしっこでぐっしょり濡れたおむつの感触を楽しむみたいにもぞもぞといつまでもいやらしくおむつカバーの中を蠢き続けた。




 智子はぐっしょり濡れたおむつを新しいおむつに取り替えてから、晶を連れて再び寝室に戻った。
「ワンピースも汚れちゃったから、ちょっと早いけど、おネグに着替えておねむにしましょうね。本当は何度もおしっこで汚したところをお風呂で綺麗に洗ってあげたいけど、今日は怪我をしたばかりだし、大事を取ってお風呂は明日からにしましょう」
 智子は晶をベッドの端に座らせて、デパートの袋から淡いピンクのベビードールを取り出した。ベビードールとはいっても、成熟した女性が身に着けるようなセクシーなナイティではない。幼い女の子が着るような、可愛らしくて清純な感じのベビードールだ。肩のところはノースリーブで、幅の広いリボンになった肩紐で留めるようになっている。生地は少し薄めの柔らかい生地で、ほんの少しだけ、生地を通して肌が見えるようになっている。それも、セクシーに露出するといった感じではなくて、体のシルエットをほんのり浮かび上がらせて可愛らしさを強調するのためだ。
 智子がワンピースを脱がせる時も、いかにも幼女めいたベビードールを着せる時も、晶は抵抗する素振りを微塵もみせなかった。抵抗しても無駄だということを徹底的に思い知らされたこともあるし、抵抗する気力そのものを失ってしまったこともあるけれど、一番の理由は、わけもなく襲いかかってくる激しい睡魔だった。まだ日が沈んで間がない。普段なら夜中の一時くらいまで机に向かって勉強している晶だ。こんな時刻に眠くなるわけがない。なのに、どうしても我慢できないほど眠くてたまらない。そのために、智子のなすがままにされる晶だった。
 ベビードールに着替えさせた晶を智子は自分のベッドに横たえて体に毛布をかけた。
 智子がミルクに利尿剤と一緒に睡眠誘導剤を混入したことを、ベッドに横たわるとすぐに寝息を立て始めた晶が知る由もなかった。

 翌朝、まだ暗いうちに晶は目を覚ました。眠りにつくのが早かったからというよりも、お腹が空いたのと喉が渇いたのとで我慢できずに目が覚めたというのが本当のところだ。
 目を覚ましてすぐには、晶は自分がどこにいるのかわからなかった。いつもの寮の部屋とは違うけどと思いながら手の甲で瞼をこすりかけた時にギプスが目に入って、ようやく昨日のことを思い出した。
「あら、目が覚めたのね、晶ちゃん」
 智子の声が聞こえた。
 気がつくと、智子はベッドの横、晶のお尻があるあたりに立っていた。とはいっても、急に智子が立ち上がったわけではない。智子はさっきからそこに立っていたのに、晶が寝ぼけていて気がつかなかっただけだ。
「あ……な、何をしてるんですか」
 なんだか嫌な予感を覚えて、晶はおそるおそる智子に声をかけた。
「たいしたことじゃないのよ。晶ちゃんのおむつを取り替えていただけ。晶ちゃん、おねしょでおむつを汚しちゃってたから」
 たいしたことじゃないのよ。晶にとっては信じがたいくらいに屈辱的で羞恥に満ちた行為を、こともなげに智子はそう言った。
「ほら、見てごらんなさい。ついさっき取り替えてあげたばかりのも含めると、一晩の間に晶ちゃんはこんなにたくさんのおむつを汚しちゃったのよ」
 智子は、ベッドのすぐ横に置いてあった大きなポリバケツを晶からも見える場所に動かした。
 智子の言う通り、大きなポリバケツがおむつでいっぱいだった。
「嘘……僕がおねしょだなんて、そんなの嘘だ」
 ポリバケツのおむつと智子の顔をおずおずと見比べて、晶は弱々しい抗議の声をあげた。
 けれど、智子の言ったことは本当だった。晶自身は気づいていないものの、夜中に何度か晶はおねしょでおむつを汚してしまっていたのだ。全ては智子がミルクに混入した利尿剤と睡眠誘導剤のせいだった。睡眠誘導剤のために気を失ったように眠ってしまい、目を覚ますこともなくおしっこを洩らしてしまった上に、そのことも憶えていない晶だった。
「嘘じゃないわよ。夜中におむつを取り替えてあげたのに、晶ちゃん、まるで気がつかずによく眠っていたわね。何度も何度も取り替えてあげたのに、すやすや気持ちよさそうに寝息をたてて。おむつを取り替える時にも目を覚まさないなんて、本当に赤ちゃんなんだから」
 智子は晶の頬を人さし指の先でつんと突いた。
 晶の顔がかっと熱くなる。
「でも、あんなに気持ちよさそうに眠っていたのに、どうして今ごろになって目を覚ましちゃったの? まだお日様も昇っていないこんな時間に」
 晶の頬をつついた人さし指を今度は自分の顎先に当てて智子は首をかしげた。
 お腹が空いたからと言うのもなんとなく躊躇われて、晶は何も応えなかった。なのに、急に大きな音を立ててお腹が鳴った。
「あ、そういうことだったの。そうね、昨日は哺乳壜のミルクを一本飲んだだけで眠っちゃったんだもの、お腹も空いてるよね。それに――」
 智子は少し間を置いて晶の顔を覗きこむと、意地悪そうな笑みを浮かべて言葉を続けた。
「――夜の間にあんなにおねしょしちゃったから喉も渇いてるんじゃない?」
 晶は何も応えられなかった。
「いいわ、少し待ってなさい」
 おむつでいっぱいのポリバケツを右手に提げて、智子は寝室のドアを開けた。

 しばらくして戻ってきた智子は、右手に空のポリバケツ、左手にミルクを満たした哺乳壜を持っていた。
「汚れたおむつを洗濯機に放りこむついでにミルクを温めてきてあげたの。これが欲しくて目が覚めたんでしょう?」
 智子は空のポリバケツをベッドの横に置くと、晶の目の前で哺乳壜をこれみよがしに振ってみせた。
 人は、空腹に対しては思うよりも耐えられるものだが、喉の渇きには極めて弱い。哺乳壜を満たすミルクを目にした途端、晶の喉が動いた。けれど、ミルクを飲みたいとは決して口にできない。そのミルクは、本来なら赤ん坊が使う筈の屈辱的な容器に入っているのだから。
「あら、欲しくないの。じゃ、いいわ」
 晶が押し黙ったままなのを見て、智子は、哺乳壜をポリバケツの上で傾けた。ゴムの乳首から流れ出したミルクが幾つもの白い雫になってぽたぽたとポリバケツの中に吸い込まれてゆく。
「駄目、捨てちゃ駄目」
 晶の意識とはまるで無関係に、そんな言葉が唇をついて出た。知らず知らずのうちに、まるで無意識に、晶は声にしてしまっていた。
「うふふ、体は正直なものね。あまり強情を張るものじゃないわよ。いいわ、このミルクは晶ちゃんに飲ませてあげる」
 智子は哺乳壜をゆっくり元に戻した。
「でも、その前に私のおっぱいをあげる。哺乳壜のミルクだけじゃ可哀想だものね。赤ちゃんはママのおっぱいを欲しがるものだものね」
 左手に持った哺乳壜をサイドテーブルの上に置いて智子がネグリジェの胸をはだけると、鮮やかなレモン色のブラがあらわになった。晶が息を止めて見守る中、智子は両手を背中にまわしてブラのホックを外したかと思うと手早く肩紐をずらして、右側のカップを豊かな乳房の下に引きおろしてしまった。まだ若々しい張りのある乳房に、つんと上を向いたピンクの乳首。
 どうしていいかわからずにただ体を固くするばかりの晶の隣に、智子がすっと体を滑り込ませた。
 思わず体をずらして離れようとする晶の体を智子が両手で絡め取って、そのまま強引に引き寄せる。
「いいのよ、遠慮しなくても。マンションにいる間、晶ちゃんは私の赤ちゃんだもの。私は晶ちゃんのママだもの」
 智子は晶の頭の後ろを右手の掌で包みこむようにして胸元に引き寄せた。
 晶の唇に乳首が触れた。
 晶は体をそらして逃れようとするが、頭一つ背の高い智子に抱きすくめられてしまうと、身動き一つ取ることもかなわない。
「ほら。ほらったら」
 智子は右手に力を入れて、晶の顔を更に引き寄せた。同時に、自分の胸を突き出して乳首を晶の唇にぐいと押しつける。
 智子が晶の背中にまわした左手にも力を入れると、晶の顔が智子の豊かな乳房に埋まってしまい、鼻がひしゃげて息ができなくなる。
「ぐ……む……」
 呻き声をあげ力なく首を振る晶の姿を眺める智子の顔には酷薄そうな笑みが浮かんでいた。
 片方の唇の端を吊り上げるような笑顔で、智子は晶の顔を自分の乳房に押しつけ続けた。
 そうして一分ほど経った後、ようやく智子は両手の力を緩めた。
 晶は慌てて智子の乳房から顔を引き離すと、大きく口を開いて空気を吸いこんだ。よほど苦しかったのだろう、目にはうっすらと涙さえ浮かんでいた。
「晶ちゃんがいけないのよ。せっかくママがおっぱいをあげるって言ってるのに遠慮ばかりして。だから、ついつい両手に力が入っちゃったのよ」
 晶が一息ついたのを見届けて、智子は優しく言った。言い方こそ優しかったが、これでもまだおっぱいを嫌がるようなら何度でも同じ目に遭わせるわよと晶に強要しているのは明らかだった。
「さ、いらっしゃい」
 智子が少しだけ右手に力を入れた。強引に晶の頭を引き寄せるような力の入れ方ではない。けれど、それは晶の体を気遣ってのことではなかった。私はもう無理矢理おっぱいを押しつけることはしないわよ。だから、その代わり、晶ちゃんが自分からおっぱいを吸いにいらっしゃい。さもないと、また苦しい目に遭わなきゃいけないのよ。――智子は、無言でそう言っているのだ。
 しばらく躊躇って、何度も浅い呼吸を繰り返して、ようやく晶はのろのろと頭を動かした。智子の右手に引き寄せられるまま、乳房に顔を寄せて、ピンクの乳首をおそるおそる口にふくむ。
「そう、それでいいのよ。さ、吸ってちょうだい。おっぱいは出ないけど、でも、赤ちゃんはママのおっぱいを吸うのが大好きな筈よ。だから、晶ちゃんも喜んでママのおっぱいを吸ってくれるわよね」
 もう智子は晶の頭を強引に引き寄せるようなことはしなかった。けれど、晶が勝手に体を引き離せないよう、改めて後頭部を右手で包み込み、左手を背中にまわすことは忘れない。
 晶がおずおずと舌を動かし始めた。最初はおそるおそる舌の先を乳首の先端に押し当てて、それから、乳首と乳房の境目のあたりに舌を伸ばす。
 少し慣れてきたのか、続いて唇も動き始めた。哺乳壜の乳首を吸う時のようにただ力を入れるだけの動きが、次第次第に唇の間で乳首を転がすみたいに動きに変わって、いつしか、唇と舌が一緒になって智子の乳首を責めたてるようになる。
「そうよ、上手よ、晶ちゃん。もっと吸ってちょうだい」
 熟れた体を持つ智子にしてみれば、まだ若い高校生に愛撫のテクニックを期待するつもりはない。一回り以上も若い高校生がどんなに頑張っても、経験を積んできた分別盛りの、たとえば例の救急病院の整形外科医みたいな中年男性にテクニックでかなうわけがないことをよく知っている。はっきり言ってしまえば、性欲を処理したくなったら例の医者をホテルに呼び出せばそれですむことだ。だから智子は、晶をはじめとする明光の生徒を性欲の捌け口として見たことはない。性欲を向ける相手ではなく、あくまでも支配欲を満たすための獲物、無理矢理に屈服させることで悦びを覚える、そんな対象だった。だから、智子が晶に自分の乳首を吸わせるのも、性的な快楽を得るためではなかった。晶に、自分自身が智子の支配の下に置かれた無力な存在なのだということを確認させるためだった。赤ん坊のようにおむつをあてられて排泄を管理され、スカートの裾からおむつカバーが見えてしまうようなワンピースを着せられて外見も管理され、幼児が使う哺乳壜でミルクを与えられて食事までも管理されるような、無力で弱々しくて自分では何もできない存在なのだということを身をもって晶に思い知らせるために、成熟した体の持ち主である智子の乳首を吸うように命じたのだ。
 しかし、そこまで冷徹に罠を仕組んだ智子だが、一つだけ、思いもかけない感情が心の中に湧き起こってくるのを感じた。それは、晶が舌と唇を動かすたびに乳首から伝わってくる心地よさだった。性的な鋭い快感とはまた違う、もっと柔らかな心地よさだった。例の整形外科医との性交の時は、乳首を吸われたら、それだけで下腹部が痺れるような快楽を伴う。けれど、晶に乳首を吸われている今感じるのは、体中が暖かくなってくるような、生きていることを実感させるような、そう、まさしく性ではなく生に対する悦びとも表現できるような心地よさだった。それが何なのか最初は戸惑った智子だが、なぜとはなしにふと気がついた。それは、おそらく、我が子に授乳する時に全ての母親が覚える悦びなのだろう。成熟した命が新しい命に自らの体で作り出した命の源を与える時に例外なく覚える悦びなのだろう。初めのうちは渋々のように智子の乳首を口にふくんだ晶なのに、今は、自分から進んで智子の乳房に顔を埋めるようにして乳首にむしゃぶりついていた。その姿を目にした瞬間、理由もなく直感した智子だった。そうして、その心地よさに思わず目を閉じてしまう智子。
 晶のおむつを何度も取り替えていたせいで昨夜は殆ど眠っていない。その眠気と心地よさとが相まって、晶の体を胸に掻き抱いたまま、智子はいつのまにか安らかな寝息をたて始めた。

 智子が寝息をたてていることに気がついても、晶はさほど気にしなかった。すぐに目を覚ますだろうと思っていた。
 なのに、そのまま、もう一時間近くになろうとしていた。
 さすがに苦しくなってきた。智子の豊かな乳房で鼻を押し潰されて息もできないというようなことはないものの、ずっと体の同じ側を下にしたままの姿勢を続けるのは楽ではない。それに、乳房から唇を引き離そうにも、眠りながらも智子の右手が晶の後頭部を包みこむようにして頭を引き寄せているから、それもできない。晶の唇は、乳首を口にふくんでからこちら、一時も智子の乳房から離れたことはないのだ。鼻でしか呼吸ができない状態が一時間近くも続けば苦しくもなってくる。加えて、空腹と喉の渇きだった。もともと、晶が暗いうちに目を覚ましたのは空腹と喉の渇きのせいだった。それをもう一時間も我慢しているのだ。それも、ミルクの入った哺乳壜を目の前に置いたまま。いくら哺乳壜が屈辱的でも、中に入っているミルクは、今の晶にはどうしても必要な物だった。それを目の前にして一時間も「おあずけ」させられる苦痛。そうして、次第に高まってくる尿意。昨夜眠る前に飲まされたミルクに混入した利尿剤の効き目は、弱くなりながらもまだ残っていた。そのせいで、目覚める直前におねしょをしてしまったのに、もうおしっこをしたくなってきているのだ。
 そんな、幾つもの苦痛がまとめて晶に襲いかかっていた。
 声を出して智子を起こそうにも、智子の乳房で口を塞がれているため、それもできない。両手を突っ張って体を引き離そうにも、ギプスで固定された両手ではそれもままならない。
 少し迷った後、思いあまって、晶は智子の乳首に思いきり噛みついた。智子の目を覚ます方法はそれしか思いつかなかった。
 智子の目が驚くほど大きく開いた。同時に今にも叫び出しそうに大きく口を開いたが、あまりの痛みに呻き声も出せない。
 智子は力まかせに晶の体を突き離すと、晶が歯をたてた方の乳房を両手の掌でそっと包みこんだ。
「な、なんてことをするのよ!」
 ぜいぜいと喘ぎながら、ようやく智子は声を出した。両方の瞳には怒りの炎が渦巻いている。智子にとって、苦痛は誰かに与えるもので、誰かから与えられるものではない。
「あ、あの……だって、あの……」
 思いがけない智子の剣幕に晶はしどろもどろだった。女性の乳首がどんなにデリケートで敏感なところなのか、晶は知らない。知らないからこそ、力まかせに噛みついてしまったのだ。
「お黙り。よくも私の乳房に傷を付けてくれたわね。今度ばかりは許しません!」
 思わず晶の体が縮こまってしまいそうになる、智子の本性を剥き出しにしたような怒鳴り声だった。
「ご、ごめんなさい。そんなに痛いとは思わなかったんです。痛いとは思わなくて、あの、早く目を覚ましてほしくて……」
 怯えているのが明らかな晶の声だった。
「そう、ふぅん、痛いとは思わなかったんだ。女性のバストがどれほどデリケートなところか、晶ちゃんは知らなかったんだ」
 晶の言葉に、それまでの怒りをあらわにした声が嘘のような、低く静かな声で智子は言った。それが、晶の耳には却って不気味に聞こえる。
「いいわ。じゃ、私が教えてあげる。どれほど痛いものなのか、私が晶ちゃんに教えてあげるわ」
 智子はベッドから床におり立つと、晶の体を自分の体のすぐ近くに引き寄せた。
「許して、お願いだから許してください」
 ベッドの上に横たわったまま、晶は震える声で懇願した。
「駄目。絶対に許してあげない。だって晶ちゃんはこんなことをしたんだから」
 智子は自分の乳房を右手で持ち上げるようにして晶の目の前に突き出した。乳首の周りには、晶の歯型がくっきりと残っていた。出血こそないものの、僅かに赤く腫れあがっている。
「お仕置きは嫌ぁ」
 晶はベッドの反対側の端に逃げようとして体をくねらせた。
 それを智子が両手で押さえつけてしまう。
「晶ちゃんをいじめるわけじゃないから心配しなくていいわよ。もう二度と悪いことをしないように『しつけ』をしてあげるだけなんだから」
 智子は体を左手で押さえつけておいて、右手で晶の足首を高々と差し上げた。昨日から何度もおむつを取り替えられる時に取らされている恥ずかしい姿勢だ。
 おむつを外してお尻をぶたれるんだと思った晶はぎゅっと目を閉じて奥歯を噛みしめた。
 智子は左手でおむつカバーのスナップボタンを外して前当てを開き、横羽根を広げて、布おむつを一枚ずつ晶のお尻の下から自分の手元に引き寄せていった。けれど、晶の予想とは違って、布おむつが残り一枚になったところで智子が手を止めた。そうして、再びおむつカバーの横羽根と前当てをマジックテープとスナップボタンでしっかり留めてしまう。
 晶はおそるおそる目を開けた。おむつカバーの中におむつを一枚しかあてていないために、なんだか頼りない感じがする。
「ほら、立っちして」
 大柄な智子は小柄で華奢な晶の体を軽々と抱き上げると、ベッドから抱きおろして床に立たせた。ベビードールの裾がふわっと舞い上がって水玉模様のおむつカバーが丸見えになる。
「晶ちゃんは今どんな格好をしているか自分でわかってるわね? そう、おむつの取れない赤ちゃんなのよ、晶ちゃんは。それも、ワンピースやベビードレスがとてもよく似合う女の子の赤ちゃん。女の子の晶ちゃんに、女の子のバストがどんなに敏感なものか、今からちゃんと教えてあげるわね。言葉じゃなく、晶ちゃんの体に」
 わざとらしい優しげな声で言ったかと思うと、智子は晶が着ているベビードールの胸に左手を差し入れて、左側の乳首を親指と人さし指でぎゅっと掴んだ。それも、昨日トイレのドアの前でそうしたような晶の乳首を弄ぶような掴み方ではない。親指と人さし指の爪の先を立てて思いきりつねるみたいにして掴んだのだ。
 悲鳴をあげることもできずに晶は体をのけぞらせた。あまりの痛さに顔が歪む。
「痛いでしょう? そうよ、女の子のバストはこんなにデリケートなのよ。それを心に刻みつけるためには、これだけじゃ足りないわね」
 智子は左手の指先にますます力を入れながら、右手を高々と振り上げて晶のお尻に向かって力いっぱい振りおろした。
 激しい音が響いて晶のお尻が揺れた。
 何枚もおむつをあてた上から叩かれても、さほど痛みは感じないですむ。けれど、おむつが一枚だけだと、おむつカバーの上から叩かれても、素肌を直接ぶたれたのと殆ど同じくらいの痛みを覚える。それも、体の大きな智子が力まかせにぶつのだから、痛みは半端ではない。
 乳首とお尻。同時に与えられた想像を絶するような痛みに、晶は今にも金切り声をあげて叫び出しそうに大きく口を開いた。しかし、あまりの痛みに悲鳴さえ出ない。
「まだよ。ちゃんと教えてあげるんだからね、晶ちゃんの体に」
 晶の乳首に爪を突き立てたまま、智子は何度もお尻をぶった。おむつカバーの生地を通して、ぴしゃん!という音が部屋中に響き渡る。
「許して、もう許して……」
 ようやく晶の唇から漏れてきたのは、許しを乞う、絞り出すような呻き声だった。
 おむつカバーの裾から透明な雫が幾つも溢れ出して晶の内腿を床に向かって伝い落ち始めたのは、晶の唇から呻き声が漏れた直後のことだった。
 少し前から激しい尿意を覚えていた晶は、乳首とお尻の痛みに耐えかねておもらししてしまったのだ。ちゃんとおむつをあてていれば、多少のおしっこはおむつがみんな吸い取ってくれるから、おむつカバーから漏れ出すことはない。けれど、今、晶のお尻を包みこんでいるおむつは一枚だけだった。残りはついさっき智子が外してしまっていた。
 智子が晶に一枚だけおむつをあてたのは、これでもかというくらい晶の羞恥心を煽るためだった。高校生にもなっておしっこをおもらしするなんて、想像もできないような惨めなことだ。けれど、それは一瞬のことだ。高校生にもなっておむつをあてられるなんて、羞恥に身悶えするような仕打ちだ。けれど、おむつをあてていれば、おしっこを外に漏らすことはない。どちらも、まだ救いはあるのだ。しかし、おむつの中におもらしして、おむつからおしっこが漏れ出したとしたら。赤ん坊でもないのにおしっこでおむつを汚してしまい、そのおしっこがおむつから漏れ出す様子を他人の目にさらされたとしたら。そうして、いったんはおむつに吸収された筈のおしっこで自分の内腿を濡らしてしまったとしたら。こんなに惨めで屈辱的で羞恥に満ちた行為が他にある筈もない。そんな仕打ちを晶に与えるために、わざわざ智子は晶のおむつを一枚だけ残したのだった。
「あらあら、おもらしまでしちゃって。もうそろそろ私が教えたことを体で憶えたみたいね」
 すっと目を細めて、ようやく智子は晶の体から手を離した。
「あ、そうだ。もう一つだけ教えておくことがあったんだわ。――これから私のことは『ママ』って呼ぶのよ。何度も教えてきた通り、晶ちゃんは赤ちゃんなんだから。いいわね?」
 やっとのこと苦痛から解放されて肩で息をしている晶の顎先をくいっと持ち上げて智子は言った。
「……はい」
 うっすらと涙を浮かべた目を力なく伏せて晶は小声で応えた。
「はいだけじゃないでしょう?」
 智子は晶の顔を正面から覗き込んだ。
「……はい、ママ」
 ちらと智子の顔を見た晶は、弱々しく肩を落として応えた。
「それでいいわ。じゃ、いい子になったご褒美に、おむつを取り替えてからミルクをあげるわね。晶ちゃんがずっとずっと欲しがっていた哺乳壜のミルクよ。ミルクを飲んだら、もう一度おしっこしましょうね。晶ちゃんは赤ちゃんだからおむつにおしっこするのよ。わかったわね?」
「はい、ママ」
 立っている気力もなくした晶はそう応えて、自分のおしっこで濡れたカーペットの上にぺたんと座りこんでしまった。




 晶が智子のマンションに連れて来られて一週間が過ぎた。
 およそ考えられる限りの屈辱的な折檻を受けて、晶はすっかり智子に言いなりになってしまっていた。
 だが、身勝手なことに、そうなると途端に智子は晶から興味を失う。智子が求めているのは、屈服させるべき相手であり、その相手を服従させる行為、屈服に至る過程そのものだ。だから、いったん相手が自分の言いなりになってしまえば、それでもう用済みというわけだった。無抵抗に服従するような者に興味はない。
 かといって、それは、満足というには程遠い。智子は晶に新たな屈辱を与えて再び妖しい悦びにひたるために、そして、次の獲物を罠にかけるために、自らの巣から外界へ這い出る準備を整えていた。

「じゃ、出かけてくるわね。すぐに帰ってくるから、おむつが濡れても我慢して待っててちょうだいね」
 そう言って晶に向かって手を振ると、智子は玄関を出てドアを閉め、外から鍵をかけてエレベーターホールに向かって歩き出した。
 ひとり残された晶は何もすることがなかった。一週間の間に、近くのスーパーへ短い買い物に出かけるたびに智子はスーパーの隣にある玩具店で幼児向けのオモチャやヌイグルミを買って帰っていた。そのおかげで、リビングは、本当に子供がいるかのような光景になっていた。けれど、両手が使えないために、そういったオモチャで暇つぶしをするわけにもいかない。もっとも、両手が自由だとしても幼児向けのオモチャで遊ぶ気にもならないだろうが。
 仕方なく晶は、智子がスイッチを入れていったテレビを観ることにした。テレビに映っているのは、決まって智子が晶に観せる幼児向けの番組だった。その番組が始まると、智子はまるで本当の赤ん坊にするように晶を膝の上に座らせてテレビを観せるのだった。そうして、「ほら、お兄ちゃんとお姉ちゃんがいっぱいね」とテレビを指さした後、晶のお尻をおむつカバーの上からぽんぽんと叩くのが日課になっていた。それは、「あんなに小っちゃな子でももうおむつが取れているのに、高校生の晶ちゃんはまだおむつなのね」ということを思い知らせる無言の確認だった。けれど、その羞恥に満ちた確認を晶は否定することはできなかった。智子がミルクに利尿剤を混入して飲ませているせいで、晶はおよそ一時間ごとにおむつを濡らしてしまっていたからだ。哺乳壜でミルクを飲まされるたびにおむつを濡らしてしまう、まさに生きたミルク飲み人形にされてしまった晶だった。
 事実、もうそれが習い性になっているのか、今もテレビを観ているうちに、おむつが濡れ始めていた。ここ二日ほどは、さほど尿意を感じなくても、いつのまにかおむつが濡れているということが多くなっていた。おそらくは利尿剤による頻尿の結果だろうが、本当の原因にまだ晶は気づいていない。いや、気づいているのかもしれないが、そのことを智子に告げたところでどうしようもないと思って諦めているのかもしれない。今となってはそれほどまでに智子に屈服してしまっているのだ。
 濡れたおむつが徐々に冷たくなってくる感触にも、晶は慣れっこになってしまっていた。そんなふうにして濡れたおむつで下腹部を包み込まれたままテレビの幼児番組を観ていると、なんだか本当に自分が赤ん坊に戻ってしまったかのような錯覚にとらわれることもある。テレビに映っている子供たちは誰もおむつなんてしていない。おむつをしているのはテレビを観ている晶だけだった。しかも、おしっこでおむつを濡らしてしまうのも平気になってしまっている。そんな晶が赤ん坊でなくて何だろう。自分自身のことをそんなふうに思うことが多くなっていた。そうして、そう思っていたことに気づくたびに怖くなって自分の肩を抱きすくめる。ひょっとしたら、本当にこのまま赤ん坊返りしてしまうのではないだろうか。大きな体をして、いつまでもおむつの取れない赤ん坊に戻ってしまうのではないだろうか。ふとそんな恐怖におそわれて激しく首を振るのだった。
 却って、ひとりでいる時間の方が辛い。智子と一緒だと、いつお仕置きされるか、いつ折檻を受けるのかと気が気ではないから、自分の置かれた状況を思い煩っているゆとりもない。その方がいっそ気が楽だった。晶は、智子の帰りを待ちわびている自分に気づいた。母親が帰ってくるのを待ちわびる幼な子のように。あるいは、飼い主の帰りを待ちわびる子犬のように。
 気がつけば、智子が出かけてからもう一時間を過ぎようとしていた。そういえば、「いつもの買い物じゃないから少し時間がかかると思うの。その間、おしっこが漏れないようにしておかなきゃね」と言って、晶のおむつをいつもより多めにあて直して出かけた智子だった。晶の体が小さく震えて二度目のおしっこが溢れ出る。それまで冷たかったおむつが、流れ出たばかりのおしっこでほのかに温かくなる。どこかうっとりしたような顔つきで、晶はおもらしを続けた。おむつを汚せば智子が少しでも早く帰ってきてくれるという気さえする。

 智子が戻ってきたのは、それからまだ三十分ほど過ぎてからだった。窓の外はすっかり暗くなっている。
 リビングに入ってくるなり智子は晶のおむつカバーの中に右手を差し入れた。だけど、中の様子を探るまでもない。
「あらあら、ぐっしょりだこと。お尻、気持ちわるいでしょう? すぐに取り替えてあげるわね。――あ、でも、その前にこれを見てちょうだい。晶ちゃんへのプレゼントよ」
 おむつカバーの中に差し入れた右手をすぐに抜いて、智子は白い大きな紙の箱を晶の目の前に置いた。
「プレゼント?」
 なぜとはなしに嫌な予感を覚えながら晶は智子の手許を見つめた。
「そう、とても素敵なプレゼントよ」
 智子が蓋を外すと、真新しいブレザーが見えた。
「マンションにやってきた日に晶ちゃん、制服を汚しちゃったじゃない。あと一週間でギプスが外れたら学校へ行けるんだし、制服が無いと困るから新しいのを注文しておいたの。学校に届いたっていう連絡があったから、それを取りに行っていたのよ」
 智子はブレザーの肩のところを両手で持って箱から取り出すと、晶の目の前で広げてみせた。
「え、でも……」
 晶の顔がこわばった。折りたたんで箱の中にしまってある時には気づかなかったが、こうして広げてみると、それは明光の制服でなかった。明光の制服と同じ紺色で似たようなブレザーなのだが、それは、明光の姉妹校である啓明学園の制服だった。
 啓明学園は、明光と同じ学校法人(つまり、智子の父親が理事長を務めている学校法人だ)が経営する学園で、中学・高校の六年間を通した一貫したお嬢様教育で知られている女子校だ。智子が晶の目の前で広げたのは、その啓明の制服、それも、大人びた雰囲気のある高等部の制服ではなく、どちらかというと可愛らしさを強調した中等部の制服だった。
「これが上着で、下の方はこれ」
 智子は、ブレザーの下に重ねてしまってあったスカートを取り出して、これも晶の目の前でブレザーと組み合わせるようにして置いた。明るいグレーの下地に少し濃いグレーとグリーンのチェックを組み合わせた生地でできていて、細かいプリーツをあしらったスカートだった。
「こ、これを僕が?」
 晶の顔が真っ赤だ。マンションにやって来てしばらくは何かあるとすぐに顔を赤くしていた晶も、屈辱と屈服の生活に慣れてきたようで、最近は以前ほど顔色を変えることもなくなっていた。そんな晶が久しぶりに見せる羞恥の表情だった。
 智子の体の中を妖しい悦びが駆けめぐる。
「そうよ、これを着るのは晶ちゃんよ。学校へ行けるようになっても両手のリハビリには時間がかかるから当分はおむつをあてたままになるじゃない。だったら、スラックスは穿けないでしょう? かといっておむつカバーが丸見えじゃ恥ずかしいものね。それで、スカートの制服をお願いしておいたの。ちゃんと校長先生のお許しもいただいているから心配は要らないわ。その証拠に、ほら」
 智子はブレザーの胸元を指さした。
 ブレザーの胸元に縫い付けてあるエンブレムは、確かに、啓明のものではなく、晶が慣れ親しんだ明光のものだった。啓明の制服に明光のエンブレムが縫い付けてあるのだった。
 晶の顔がますます赤くなる。かといって智子に逆らったりしたらどんな折檻が待っているかしれたものではない。晶は無言でブレザーのエンブレムを睨みつけた。
 と、妙なことに気がついた。明光は、学年によってエンブレムの色が違う。一年生は爽やかなコバルトブルー、二年生は深いグリーン、三年生は渋いブラウンというふうに決まっている。なのに、晶の目の前にあるブレザーに縫い付けてあるエンブレムは、そのどれでもない色をしていた。智子が指さしたエンブレムは、目にも鮮やかなピンクだった。
「うふふ、気がついたみたいね。そのエンブレムは晶ちゃん専用、他の誰のでもない、晶ちゃんだけのエンブレムなのよ」
 真っ赤な顔に不思議そうな表情を浮かべる晶を面白そうに眺めて智子は言った。
「僕専用のエンブレム?」
「そう、晶ちゃん専用よ。おむつをして学校へ行くような子、明光には晶ちゃんしかいないわよね。でも、みんな、そんな晶ちゃんを可愛がってくれると思うわ。スカートの下におむつをあてた晶ちゃんのこと、みんな、妹みたいに可愛がってくれるわよ。来年の春になって新入生が入ってきたら、新入生たちも晶ちゃんのこと、先輩だなんて思わないでしょうね。たぶん、その次の年も。学年なんて関係なく、晶ちゃんはいつまでもみんなの可愛い妹でい続けるのよ。それを示すのがこのピンクのエンブレム」
「そんな……そんな、いつまでもおむつをしているわけじゃないのに」
「あら、そうかしら。そう言い切れる自信がるの?」
 問い質されて、晶は思わず黙りこんでしまった。おむつを汚すことにあまり躊躇いを感じなくなってきているのは本当だ。さっきは、冷たくなってきたおむつの中におもらしして、おしっこの温かさにうっとりさえしてしまった。高校生の自分がまさかいつまでもおむつが外れないなんてことはないだろう。そう思う。思いたい。だけど……。
「ま、いいわ。おむつが取れたらその時にはちゃんと明光の制服を着せてあげる。でも、それまではこれが晶ちゃんの制服よ。せっかくだからサイズを合わせてみましょう」
 言いながら、とっくに智子の指は晶が着ているワンピースのボタンにかかっていた。背中に並ぶボタンを手早く外して晶の両手を上げさせて、すぽんと引き抜くみたいにしてワンピースを脱がせると、制服の箱から純白のブラウスを取り出して着せる。同じ啓明でも高等部の生徒が着るブラウスは襟が細くて直線的なカットになっているのに対して、中等部のブラウスは幅の広い丸襟で、袖口もふんわり膨れた仕立てになっている。
「いい子だから、そのままじっとしているのよ」
 智子はブラウスの首筋にエンジ色の大きなリボンを留めてからブレザーを着せて、全体の形を整えるように両手で何カ所かを軽く引っ張った。そうして、晶の手を引いてその場に立たせると、体全体で晶の体重を支えながらグレーのプリーツスカートを穿かせてサイドのファスナーを引き上げ、裾の乱れを整えた。
「これでいいわ。とってもお似合いよ」
 女子中学生の装いに身を包まれた晶の姿を正面から見おろして、智子は腰に手を当てて頷いた。
「スカートの丈も丁度いい感じね。あまり丈が長いとスカートを穿き慣れていない晶ちゃんにしてみれば歩くのにまとわりつかれて嫌になるだろうし、それに、おむつを取り替える時も邪魔になるものね。これくらいがいいわ」
 智子は丁度いいわと言うが、実のところ、智子が用意したスカートの丈はとても短く仕立ててあった。じっとしているだけでも、おむつカバーがようやく隠れるか隠れないかというくらいのミニサイズで、少し大股に歩こうものなら、スカートの裾からおむつカバーが幾らか覗いてしまうのは確実だった。
 ブレザーとプリーツスカートにおむつカバーの組み合わせは、ひどく倒錯的な姿だった。しかも、それを身に着けているのが男子高校生だから尚更だ。
 スカートの丈が短いことは、鏡を見るまでもなく、実際に身に着けた晶にわからないわけがない。
「こ、こんな格好で学校なんて行けません」
 救いを求めるような上目遣いで智子の顔を見上げて、晶は何度も首を振った。
「大丈夫よ。晶ちゃんが学校の階段で怪我をしたことはみんな知っているし、そのせいで学校をお休みしていることも知っているわ。それに、来週月曜日の朝礼で校長先生がみんなにちゃんと説明してくださることになっているのよ。晶ちゃんはスカートの制服で登校することになります。それは、当分おむつが必要だからスラックスを穿くことができないからですって。そんなふうに前もって説明してもらうから、心配することなんて何もないのよ。スカートの裾からおむつカバーが見えても恥ずかしがらなくてもいいの」
「だって、だけど……」
「はい、わかったら、おむつを取り替えましょうね。このままだと本当に風邪をひいちゃうから」
 晶の言葉を途中で遮って、智子は床の上に大きなバスタオルを広げ始めた。が、何か思い出したみたいに手を止めて、何か企んでいそうな表情でこう言った。
「あ、でも、もう一つプレゼントがあったんだっけ。――いいわよ、入ってらっしゃい」
 智子が言うと、一人の若い男性がリビングに姿を現した。どうやら、呼ばれるまで廊下で待っていたらしい。
「な、中谷君?」
 不意にリビングに入ってきた男性の顔を、信じられない思いで晶は振り仰いだ。姿を現したのは、晶と同級生でクラス委員長の中谷徹也だった。
 しばらく呆然としていた晶が、はっとしたような顔つきになって智子の背後にまわりこんだ。今の自分の姿を改めて思い出し、徹也の目から逃れようとしているのだ。
「大丈夫、隠れなくてもいいよ、寺本君。ううん、寺本君じゃなくて晶ちゃん。そうだ、晶ちゃんだった。――そう呼ぶように沢村先生から言われてたんだっけ」
 女子中学生の装いに身を包んだ晶の姿を少し照れたような表情で、それでもじっと見つて徹也は言った。
「プレゼントといっても物とは限らないわ。晶ちゃんへのもう一つのプレゼントは中谷君なのよ。晶ちゃんも気に入ってくれると思うんだけど」
 智子は、自分の後ろに隠れようとする晶の背中を押して強引に徹也の目の前に立たせた。
「一週間も学校をお休みしていると勉強についていけなくなっちゃうじゃない。あと一週間で晶ちゃんは学校に戻るんだから、その前に遅れを取り戻しておいた方がいいと思うの。それで、中谷君にお願いしたのよ。送り迎えをするから私のマンションに来てくれるように。もちろん、晶ちゃんの事情はみんな話しておいたわ。おむつのことも、おむつのせいで女の子みたいな格好をしていることも。それに、一時間に一度はおもらししちゃうことも。だから心配しないで中谷君に勉強を教えてもらえばいいのよ。お兄ちゃんに甘える小っちゃな妹みたいに」
 いかにも晶の今後のことを思ってというような智子の説明だった。
 が、智子の本心がそんなところにあるわけがない。いうまでもなく、智子の目的は晶に更なる屈辱を与えて、苦悶にもだえる表情を存分に眺めることだった。そのために晶と同級生の徹也を利用することにしたのだ。
 クラスの中でも華奢で愛くるしい男の子を女の子に見たてて疑似恋愛の対象にするという行為は、男子校ではさほど珍しくないことだ。特に、幼い頃から勉強に明け暮れて女の子と一度もつきあったことのない生徒が殆どの明光のような進学校では殊更そんな傾向が目立つ。そんな中、徹也も例外ではなく、入学式で晶の姿を見かけてから、晶の顔が瞼に焼き付いて離れなかった。もっとも、徹也に限らず、相手が晶のような小柄で華奢で女の子みたいな童顔の男の子だったら誰でもそうなってしまう。だから、晶自身は気づいていないだろうが、級友たちみんなが晶に気をかけているといっても過言ではない。つまり、徹也にとっては、クラス中の全員が晶を狙うライバルというわけだ。そんなところに、智子から思いもかけない申し出があった。晶が学校へ戻るまでの一週間、マンションで晶の面倒をみてほしい、そして、学校へ戻ってからも何かと世話をやいてあげてほしい――そんな申し出だった。徹也にとっては、またとないチャンスだった。ライバル達を後目に、ひとり晶に近づくことができるのだから。徹也はその場で智子の申し出を快諾した。そうして、授業が終わった後、智子は徹也を車に乗せてマンションへ連れて来たのだった。
「そうだよ、寺本君――晶ちゃん。みんな僕にまかせておけばいいよ。でも、本当に可愛いな。知り合いじゃなきゃ、本当に中学生の女の子としか思わないよ。お世辞じゃないよ」
 徹也は眩しそうな顔で晶を見つめていた。リビングに足を踏み入れて初めて晶の姿を見た時、驚かなかったと言えば嘘になる。いくら車の中で智子から説明を受けていたとはいえ、まさか啓明の制服を身に着けた晶が待っているとは思わなかった。だけど、驚いたのは本当に僅かな間だけだった。啓明の制服を着て恥ずかしそうに徹也の視線から逃れようとする晶の姿に、徹也は一瞬で虜になってしまった。それまでも可愛いとは思っていたが、そんなものとは比べものにならないほどいとおしく感じられた瞬間だった。男の子相手の疑似恋愛というよりも、本当に女の子に一目惚れしてしまったような、そんな気さえする。
「よかったわね、晶ちゃん。徹也お兄ちゃん、晶ちゃんのこと可愛いって誉めてくれたわよ」
 智子は、晶がその場から動けないよう両手で肩を掴んで言った。
「じゃ、中谷君。これから晶ちゃんのおむつを取り替えてあげるから、中谷君もちゃんと見ていてね。これからは中谷君にお願いすることも多くなると思うから、ちゃんと見て憶えておいてほしいの」
 思いがけない言葉に、晶は、はっとしたように智子の顔を見上げた。
「だって、そうでしょう? 学校へ戻ったら、いつも私が一緒というわけじゃないのよ。そりゃ、なるべく保健室にいるよう心がけるけど、いつ誰が怪我をして病院へ連れて行かなきゃいけないかわからないの。そうなったら、晶ちゃんのおむつを取り替えてあげられないじゃない。それに、朝と夜はここで食事できるけど、お昼は寮の食堂なのよ。まだちゃんと両手を動かせない晶ちゃんにご飯を食べさせてあげる人がそばにいなきゃいけないじゃない。つまり、私のお手伝いをしてくれる人が必要なの。その点、中谷君だったら申し分ないわよ。クラス委員長でしっかりしてるし、勉強も教えてもらえるし。――お願いできるわよね、中谷君」
 智子は諭すように晶に言って、最後の方は徹也に顔を向けた。
「まかせてください。結婚した姉に子供がいて、その姪っ子のおむつを取り替えるの手伝ったこともあるんですよ。だから、だいたいのことはわかるつもりです」
 ひどく真剣な表情で徹也は応えた。
「それは心強いわね。でも、本当の赤ちゃんと違って晶ちゃんはおしっこの量もすごいわよ。それに、赤ちゃんのおしっこだとあまり汚く感じないけど、こう見えても晶ちゃんは本当は君と同い年の男の子よ。そんな晶ちゃんのおしっこで濡れたおむつを触っても大丈夫?」
 まるで無遠慮に、ずけっと智子は言った。
「もちろん平気です。晶ちゃんのおしっこで濡れたおむつなら、汚いどころか、むしろ……」
 最後まで口にすることなく、徹也はほんのり顔を赤くして言葉を濁した。
「それならいいわ。安心して晶ちゃんをまかせられそうね」
 自分の企み通りの進展に、智子は胸の中で高笑いしていた。
「それじゃ、晶ちゃんはバスタオルの上に横になってちょうだいね」
 智子は、胸の内を覚られまいかとするようにわざとらしく事務的な口調で言って、まだ身をよじる晶の体を無理矢理バスタオルの上に横たわらせた。おそるおそるといった感じで徹也が手を伸ばして智子を手伝う。
 いつまでも抵抗を続ける晶も、自分よりもずっと体の大きい二人に押さえつけられ、燐が燃えるような光を宿した智子の瞳に見据えられると身動きできなくなってしまう。
「そう、いい子にしているのよ。でないとお兄ちゃんに笑われちゃうわよ。晶ちゃんはおむつを取り替えている間もじっとしていられない赤ちゃんだって。ね、中谷君」
「え? いえ、あの……」
 徹也にしてもどう応えていいのかわからない。それに、啓明の制服を着た晶をバスタオルの上に強引に押し倒したことに微かながらひそやかな悦びを覚えている自分に戸惑い、智子の言葉もちゃんと聞こえていない。
「ま、いいわ。じゃ、始めるわよ。まず、スカートをこうしてお腹の上に捲り上げるところからね」
 徹也の胸の内を見透かしたような笑みを浮かべて、智子は晶のプリーツスカートの裾をそっと持ち上げた。ただでさえ丈の短いスカートの裾からは、もうおむつカバーが半分ほど見えている。智子の手がスカートを晶のお腹の上に捲り上げると丸見えになってしまう。
「いや……」
 女の子みたいな声をあげて晶はぎゅっと目を閉じた。
 その表情に、徹也の下腹部が熱く疼く。なんだか、まるで、女子中学生を力づくで自分のものにしているような錯覚にとらわれる。罪悪感と淫靡な悦びがない混ぜになった感情に体中がほてってくる。
「おむつカバーにはいろいろなタイプがあるんだけど、これが標準型といったところかしら。ほら、腰紐があるわね。この腰紐は、おむつカバーがずり落ちるのを防ぐためにあるの。特に、おしっこで濡れたおむつはとても重くなってすぐにずり落ちちゃうから、そうならないように強く結んでおくのよ」
 智子は、おむつカバーの腰紐を何度かくいっくいっと引っ張ってみせてから両手の指で手早く結び目を解いた。
「それから、スナップボタン。ここがマジックテープになっているのもあって、そっちの方がサイズ合わせには便利なんだけど、デパートにはマジックテープで柄物がなかったからこれにしたの。あまり力を入れて外そうとするとスナップボタンを縫い付けてあるところが破れちゃうから気をつけてね。ただでさえ、このあたりからおしっこが滲み出すことが多いんだから」
 全部で六つあるスナップボタンを智子は丁寧に外した。
「スナップボタンを外してから、ここ、腰のところ、ここがおむつカバーの横羽根っていう部分にマジックテープで留めてあって中のおむつを押さえつけるようになっているの。ここも外すわよ」
 べりりっという音を立てながら智子がおむつカバーの前当てと横羽根とを留めているマジックテープを剥がした。そうして、手にした前当てを晶の両脚の間に広げる。
「さっき言った横羽根っていうのがこれ。これもお互いにマジックテープで留めるようになっているのよ」
 もういちどマジックテープを剥がす音が聞こえた。
「これでおむつが丸見えになったわね。ほら、ご覧なさい。おむつはお尻の方がよく濡れていて、おヘソのあたりは殆ど濡れていないでしょう? どうしてだかわかる?」
 おむつカバーの横羽根を晶のお尻の両側に広げて、智子はおむつを指さして言った。
「どうしてって言われても……」
 徹也は小さく首を振った。
「簡単なことよ。晶ちゃんのおちんちんがお尻の方を向いているから、それだけのことよ。じゃ、どうしてそういうふうにしてるか、それはわかる?」
「……いえ」
 徹也は再び首を振った。
「おちんちんが上を向いていると、どうしてもおヘソのあたりが濡れちゃうのよ。でも、おヘソの周囲の肌はとても薄くてデリケートな部分なの。少しのことで肌荒れして、おむつかぶれにもなりやすいのよ。だから、おヘソの周りが濡れないようにおちんちんをお尻の方に向けるようにしているの。大事なことだから憶えておいてね」
 智子の言うことは本当だった。けれど、そんなに気を遣わなければならないのは幼児の頃だけだ。大人になってしまえば、デリケートな部分とはいってもそこまで注意する必要はない。なのに智子が晶のペニスをお尻の方に向けておむつで押さえつけるのは、晶の羞恥心を刺激するためだった。お尻の方に向けたペニスからおしっこが溢れれば、まるで女の子がおむつを濡らしてしまった時のように後ろの方が余計に濡れる。おむつを汚してしまうだけでもひどい羞恥を覚えるのに、智子はそうやって晶の羞恥をますます強く刺激しているのだった。けれど、本当のことを徹也に告げるわけがない。もっともらしい理由をつけて説明するだけだ。
「はい」
 智子の思惑通り、徹也は生真面目な表情で頷いた。
「じゃ、いよいよおむつね。おしっこをたっぷり吸ったおむつはこんなふうに肌にべったり貼り付くのよ。これは気持ちわるいから、なるべく早く取ってあげてね」
 智子は先ず横当てのおむつをおむつカバーの横羽根の上に重ねるように広げた。それから、ぐっしょり濡れた股当てのおむつの端を持ち上げて、べったり肌に貼り付いているのを、濡れ紙を剥がすようにしておむつカバーの前当ての上に広げる。
「ほら、見てごらんなさい。晶ちゃんのおちんちん、さっき言った通り下を向いているでしょう? でも、考えてみれば不思議だと思わない? 中谷君もそうだと思うけど、若い男の子って、ちょっとした刺激があればすぐに大きくなって上を向いちゃうじゃない。おむつをあてる時、私の手が晶ちゃんのおちんちんに触れることも多いわよ。だから、本当は晶ちゃんのおちんちんを下にを向けておむつをあてるのは難しい筈だわ。そんな時、どうすればいいと思う?」
 悪戯めいた微笑みを浮かべて智子は徹也に言った。
 徹也は無言で首を振るばかりだ。
「そんな時はね、おちんちんがおとなしくなるおまじないをしてあげるのよ。どんなおまじないなのかは中谷君もよく知っていると思うわ。――中谷君は日に何度くらいしているのかしら」
 おちんちんがおとなしくなるおまじない。もちろん、その意味は徹也にもわかる。わかるけれど、日に何度くらいそんなことをしているのか、目の前の女教諭に答えられるわけがない。徹也の顔がかっと熱くなった。
「答えられないなら答えなくていいわ。でも、さっきも言った通り、おヘソの方は濡らしちゃいけないの。だから、おむつをあてる時はおちんちんを下に向けてあげること。これは絶対よ。で、そのためには、おまじないをしてあげなきゃいけない。だから、中谷君が晶ちゃんのおむつを取り替えてあげる時は中谷君がおまじないをしてあげることになるの。できるかしら?」
 智子は少し意地悪な口調で言った。
「……できると思います。いえ、できます」
 徹也は少しだけ考えてから、迷いを断ち切るみたいにきっぱり応えた。無理をして言っているのではない。それは徹也の本心だった。他の人間を相手にそんなことをしろと命じられたら巌として拒むだろう。けれど、そうする相手が晶だったら――晶のペニスになら、そうすることはできる。汚らしいとは微塵も思わない。それは徹也の本心だった。
「中谷君ならそう言ってくれると思っていたけど、実際にその言葉を聞いて安心だわ。それと、あと、晶ちゃんのおちんちんの周りを見て何か気がついたことはない?」
「あ、あの、ひょっとしたら僕の勘違いかもしれないけど、寮のお風呂で何度か見た時は晶ちゃん、アンダーヘアがあったような気がするんですけど……」
 智子に訊かれて、徹也は自信なさそうに応えた。もともと晶は体毛が少なくて、恥毛も完全には生えそろっていないのか、まばらで薄かった。それを級友たちに見られるのが嫌で寮の風呂でも、こそこそと隠しながら体を洗っていた。だから、徹也にしても、はっきり見たわけではない。
「そう、晶ちゃんも少しはおちんちんの周りにヘアが生えていたわ。たぶん中谷君のに比べればとても貧弱な生え方でしょうけどね。でも、いくら少なくても、ヘアがあると肌に付いたおしっこをちゃんと拭き取れなくておむつかぶれになりやすいの。だから、すべすべの綺麗な肌にしてあげたのよ。それに、ヘアの生えた赤ちゃんなんて見たことがないしね」
 おむつかぶれ云々はこじつけに過ぎず、最後の言葉が智子の本心だった。あなたは私がいないと何もできない赤ちゃんなのよ。そう晶に身をもって教えるためにヘアを剃ってしまったのだ。それは、晶に服従を誓わせるために晶の体に刻み付けた刻印だった。
「それじゃ、次はおむつを取り替えるわよ。でも、おむつの上に晶ちゃんのお尻が載っているから、このままじゃ取り替えることはできないわね。だから、こうやってお尻を浮かせるのよ。ちょっと力が要るけど、女の私にもできるんだから中谷君なら大丈夫よ」
 おむつを取り替えるたびに何度もそうしてきたように智子は晶の両方の足首を一つにまとめて掴むと、高々と差し上げた。晶のお尻が浮いて、徹也は晶のお尻を正面から覗きこむような格好になる。
「それで、空いている方の手で濡れたおむつをたぐり寄せて、そのままポリバケツに放りこんじゃえばいいわ。それから、新しいおむつをこんなふうに」
 智子は、バスタオルを広げる時に一緒に用意しておいた新しい布おむつを晶のお尻の下に丁寧に敷きこんだ。
「なるべくシワにならないように気をつけてね。できるだけ肌と密着せさておいた方がおしっこが漏れ出さないから」
 股当てのおむつを晶の両足の間を通してお腹の上に広げてしまえば、もうお尻をおろしてもいい。智子は晶の足首を床の上に戻すと、前当てのシワを取りながらペニスの位置と向きを直した。
「さっきも言ったけど、この時におちんちんが大きかったらおまじないをしてあげてね。で、後は横当てをあてて、おむつカバーの横羽根を」
 智子は、股当てのおむつと直角に横当てのおむつを組み合わせて、その上におむつカバーの横羽根を重ねた。
「ここで右と左の横羽根をマジックテープでしっかり留めておかないとおむつカバーの中でおむつがずれるから気をつけて」
 智子は、徹也の注意を促すために何度も横羽根のマジックテープを留めたり外したりを繰り替えしてから、おむつカバーの前当てを横羽根に重ねた。
「あとは、前当てをこうして横羽根に合わせてマジックテープで留めてから、ボタンを留めて腰紐を結べばいいわ。最後に、裾をちゃんと確認して」
 智子は、おむつカバーの裾からはみ出ているおむつを指の先で押し込んだ。
「これでおしまい。できそう?」
「あ、はい。姪っ子にしてあげたのと大体同じだからできると思います」
 妙に興奮しているらしく、徹也は僅かに息を荒げて言った。
 その間、晶は目を閉じたままだった。そうしていれば自分がどんなことをされているのか、直に見ないで済む。だが、周りの様子が見えないだけに却って耳と感覚が鋭くなっていた。智子や徹也の手が触れる感触や、徹也の荒い息遣い、絡みつくみたいな智子の声といったものが、自分が今何をされているのかを余計にありありと告げているように感じられてしまう。

「本当ならこれでいいんだけど、せっかくだから、もういちどおむつをあて直してみましょうか。中谷君の練習のために」
 ぎゅっと瞼を閉じている晶の顔に目を向けて智子が言った。
「え、今すぐですか?」
 それは徹也にとっても思いがけない言葉だった。
「そうよ、憶えたことはすぐに復習しておかなきゃ」
 智子は軽く頷いた。そうして、ポケットから何か取り出すと、それを徹也の目の前に差し出して言葉を続けた。
「それに、これを使うにはおむつを外さないといけないから。本当はさっき済ませておくつもりだったんだけど、中谷君におむつのあて方を教えるのに気を取られていて、これのことをすっかり忘れていたのよ。これが何なのか、中谷君、わかる?」
「あ、あの……お尻に入れる薬ですよね?」
 智子が手にしたイチジク型の容器が何なのか徹也にも一目でわかったが、なぜとはなしにちゃんとした呼び方を口にするのが躊躇われて、少し曖昧な言い方で答えた。
「そう、お浣腸よ。よく知っていたわね」
 徹也と違って、智子は何の躊躇いもなかった。
「はい……子供が何日もウンチしない時、姉が使っていました。それを見たことがありますから」
 白いつるつるの小さなお尻に突き立てられたプラスチック製の丸い浣腸の容器。それを目にするたび、どういうわけか胸が高鳴って顔を熱くほてらせたことを徹也は思い出した。
「それじゃ使い方も知っているわね。いいわ、晶ちゃんのおむつを開けて、中谷君がしてあげて」
 智子は浣腸の容器を徹也の手に押し付けた。
「え、僕ですか?」
「嫌だ、そんなの!」
 徹也の声と晶の声が重なった。
「晶ちゃんはとても神経質な子らしくて、ちょっと環境が変わっただけでお通じがなくなっちゃうみたいなの。私のマンションへ来てからも全然駄目で、だから二日に一度、お浣腸でお通じをつけてあげているのよ」
 マンションに引き取られてからこちら、晶にお通じがないのは事実だ。けれど、それは、晶が神経質だからというよりも、ちゃんとした食事を与えられていないからだ。哺乳壜のミルクだけという食事ばかりでは、まともにお通じがある筈もない。が、智子は本当のことを徹也に告げる気はない。
「たしか、来月には学校の合宿所で集中学習合宿があるんだったわよね。一週間、合宿所に泊まり込む予定になっている筈だけど、そうなったら晶ちゃん、お通じがない日が一週間も続いちゃうかもしれないのよ。それじゃ可哀想だから、お浣腸でお通じをつけてあげてほしいの。そのための練習よ」
 晶の声なんて聞こえないようなふりをして、智子は徹也の目を正面から見て言った。
「わ、わかりました。そうですよね、そんなことになったら晶ちゃんが可哀想ですよね」
 徹也は自分を納得させるようにわざと大きく頷いてみせた。晶が可愛そうと口では言いながら、頭の中では、イチジク浣腸の容器をお尻に突き立てた幼い姪の姿を思い浮かべていた。晶にあの時の姪と同じ格好をさせるんだと思うと、体が熱くなって下腹部が疼いてくる。
「嫌だ、そんなの!」
 もういちど叫んで、晶が身をよじった。
「駄目よ、いい子にしてなきゃ」
 智子の手が伸びて、おむつを取り替える時そのままに晶の足首を高く持ち上げた。その姿勢にさせられると、もう晶にはどうしようもなくなる。

 おむつの上にお尻を載せて、そのお尻が、足首を高く差し上げられているためにおむつから少し浮いている姿が、幼い姪の姿とだぶって見えた。白いすべすべの肌も、ぷるんと張りのある小ぶりのお尻も、きゅっと締まったお尻の穴も、どれも幼い姪を徹也に思い出させる。けれど、晶は幼い女の子ではない。高校生の男の子だ。高校生の男の子が女子中学生の制服を着せられて、おむつの上にお尻を載せているのだ。
 そして、そのお尻に徹也が浣腸の容器を差し入れようとしているのだ。
 晶はずっと肩を震わせて、浅くて回数ばかり多い呼吸を繰り返している。これまで何度か智子の手で浣腸をされたことはある。だけど今度は、徹也の手で浣腸を施されるのだ。智子は養護教諭だ。浣腸されても仕方ないと思えないこともない。けれど、同級生の徹也の手で浣腸されると思うと、いいようのない羞恥に胸が満たされる。
「ノズルの先は滑りやすい素材でコーティングしてあるからお尻に入れるのは難しくないけど、少しでも痛くないようにお尻をマッサージしてあげた方がいいわよ」
 おぼつかない手つきで浣腸の容器を晶のお尻に近づける徹也に、たしなめるように智子は言った。
「でも、マッサージってどうやるんですか?」
 浣腸の容器を持った手を止めて、徹也はおずおずと訊いた。
「簡単なことよ。肛門の周囲の筋肉をほぐしてあげればいいの」
 智子は、空いている方の手を晶のお尻に伸ばした。そうして、中指の腹でお尻の穴の周りを軽く押すようにして揉み始める。
 もちろん、優しく揉むだけでは済まない。時おり、間違って手を滑らせたみたいなふりをして菊座を指の先でくすぐるのも忘れない。智子がそうするたびに晶の腰がぴくっと動いて、切なそうな喘ぎ声が漏れ出る。それは、浣腸を施すたびにそうしてきた成果だった。マンションに晶が連れて来られて、まだ一週間。浣腸も数回しか受けていない。それでも、そのたびに智子は丹念に晶のお尻をマッサージし、可愛い菊座をいたぶり弄んでいた。何人もの若い男性の体を弄んできた智子の手にかかれば、晶自身もまだ知らない幾つもの恥ずかしく敏感な部分を感じやすくさせるのは雑作ないことだ。
 喘ぎ声が漏れ出るたびに晶のペニスがぴくぴく震える。晶の喘ぎ声を耳にし、晶のペニスが震えるのを目にして、徹也の方も、自分のペニスが熱くなるのを感じた。
「こうすればいいのよ、わかった?」
 ひとしきりいやらしいマッサージを続けていた智子が不意に手を止めて徹也の方に振り向いた。
「は、はい」
 胸の高鳴りを気取られまいとわざとらしい生真面目な表情をつくって徹也は頷いた。
「なら、いいわ。もうこれでいいと思うから、お浣腸してあげて」
 智子は、晶の足首を高く差し上げたまま、すっと体を退いた。
 それまで智子が膝をついていた場所に今度は徹也が膝をついて、浣腸の容器を晶のお尻におそるおそる近づけていった。
 ノズルの先が晶の肛門に触れた。ぎゅっと閉じている晶の瞼が、よく見ていないとわからないほど小さく震える。
 智子の指で菊座をいたぶられた時よりも更に切ない喘ぎ声が聞こえて、浣腸の容器のノズルが晶のお尻の穴に吸い込まれた。徹也にしてみれば無理矢理ノズルを押し込んだ覚えはない。どちらかといえば、勝手にノズルが吸い込まれてしまったというような手応えだった。
「今は細いノズルしか無理だけど、訓練すれば、もっと太い物でも入るようになるのよ。そうなったら、もっと晶ちゃんを悦ばせてあげることができるわよ。徹也君もそう思うでしょう?」
 智子が何を言っているのか、最初は徹也にはわからなかった。
 が、しばらくすると、おぼろげながら意味がわかってくる。途端に、徹也は全身の血がたぎるような思いにとらわれた。徹也は頬を真っ赤に染めると、慌てて晶のお尻から顔をそむけた。
「ほら、何をしているの。ちゃんとしないと、デリケートな粘膜に傷を付けちゃうわよ。ちゃんと見て、お薬を入れてあげなきゃ。でも、急いじゃ駄目。優しく、ゆっくりね」
 智子に言われて、徹也は改めて自分の手許を見つめた。右手には浣腸の容器があって、そのノズルは、晶の真っ白なお尻を貫いている。
 徹也はごくんと唾を飲み込んだ。
「容器の丸いところを押せばいいのよ。ゆっくり握り潰すみたいに」
 智子に言われるまま、徹也は右手に力を入れた。
 僅かな手応えがあって容器の胴体が凹む。
「あん……」
 晶は僅かに体をのけぞらせた。真っ赤な唇から喘ぎ声と一緒に熱い吐息が漏れ出る。
 微かな、本当に微かな抵抗に逆らって容器の胴体を握り潰すと、薬液が晶の腸に注ぎ込まれる。その様子を想像する徹也のペニスは、いつしか、トランクスの中でいきり立っていた。まるで、浣腸の容器ではなく、自分のペニスを晶の肛門に突き立てているような思いにとらわれる。浣腸の薬液ではなく、自分の精液を晶の肛門に注ぎ込んでいるような気がしてくる。
「そう、それでいいのよ。上手よ、中谷君。本当に上手よ」
 どこかとろんとした目をして浣腸の容器を持つ徹也に、智子は甘い声で囁きかけた。
 息遣いを荒くして、徹也は右手を力いっぱい握り締めた。
「ああん」
 勢いよく流れ込んでくる冷たい薬液の感触に、晶は悲鳴のような声をあげて激しく首を振った。
 その声に、もう一滴も残っていない薬液を尚も晶の肛門に注入しようとするように何度も何度も容器の胴体を押し潰す徹也だった。




 浣腸を施した後のおむつは徹也があてた。幼い姪のおむつ交換を手伝ってはいても、それに、一度くらい智子から手ほどきを受けたとはいっても、慣れない徹也が実際にやってみるとなかなか上手くできなくて、時間だけがかかってしまう。
 そうしている間にも、晶の腸に注入した薬液が効いてくる。
「トイレ、トイレへ行かせてください。……もう我慢できません」
 やっとのことで徹也がおむつをあて終えるのと殆ど同時に晶が苦しそうな声で呻いた。
「まだ駄目よ。お薬を入れてまだ十分も経ってないじゃない。そんなんじゃ、せっかく入れてもらったお薬だけが出ちゃって、ウンチは出てこないわよ。もう少し我慢しなさい。それに、わざわざトイレへ行く必要もないじゃない。私がお浣腸をしてあげた時はいつもおむつの中にしちゃうんだから、今日もそうすればいいじゃない。いつもみたいに」
 『いつもみたいに』というところを殊更に強調して智子は言った。
「だって、だって……中谷君が見てるのに」
 自由にならない両手でお腹を押さえながら、晶は何度も首を振った。
「あらあら、何を言ってるの。中谷君――優しいお兄ちゃんにお浣腸をしてもらったんでしょう、晶ちゃんは? お浣腸をしてもらっておいてウンチを見られるのは恥ずかしいだなんて、ちょっと変だと思うけどな。お兄ちゃんだって、可愛い妹がどんなウンチをするのか見てみたいんじゃないかしら。ね、中谷君?」
 智子は半ば強引に徹也に同意を求めた。
「え? あの、でも……あ、は、はい」
 迷いながら、とうとう徹也も微かに頷いた。正直言って、晶があの白いぷるんとしたお尻でどんなウンチをするのか、見てみたい気持ちはある。ひどく変態じみてるなと自分でも思うものの、晶のお尻を浣腸容器で貫いて薬液を注ぎ込んだ後だと、今さら格好をつけることもないだろうという気にもなってくる。
「ほら、優しいお兄ちゃんは晶ちゃんのウンチを見てあげるって言ってくれてるわよ。だから、もう少し我慢しておむつの中にするのよ」
 そう言って、智子は晶の両手を掴んで上半身を引き起こした。
「やだ、触っちゃ駄目!」
 我慢に我慢を重ねているところに急に体を動かされたものだから、もう少しでお尻が緩んでしまいそうになる。
「こういう時は、お尻のことばかり気にしてちゃ駄目なのよ。何か他に意識を集中できることをみつけて気分をまぎらわせればいいのよ。――たとえば、こんなふうに」
 晶の腕を掴んでいた両手を離して、やおら智子は徹也のベルトの金具に指をかけた。
「え、何?」
 驚いたのは徹也の方だった。智子が何をしようとしているのか、見当もつかない。
「気分を変えるには、口の中に何か入れればいいのよ。ガムを噛むとかキャンデーをなめるとかすれば気がまぎれるわ。いつも哺乳壜のミルクばかりだから、たまにはお兄ちゃんのミルクを飲ませてもらうといいわ。気持ちよくて、ウンチのことも忘れられるわよ」
 言いながら、智子は徹也のベルトをすっと引き抜いた。
 制服のスラックスがすとんと落ちて、柄物のトランクスがあらわになる。トランクスの前の方が大きく盛り上がっていた。いきり立ってしまったペニスのせいなのは言うまでもない。
「な、何をするんですか、先生。こんなこと急に……」
 面白いほどうろたえながらも、徹也は、怯えの表情を浮かべて慌てて顔をそらす晶の様子をちらと覗き見た。一瞬だけ見えた晶の怯えた顔に、徹也の下腹部がますます熱く疼き出す。相手が男の子だということはわかっている。
徹也と晶
わかっているつもりだけれど、もうどうしようもなかった。半ば冗談めかした疑似恋愛が、いつのまにか本気になっていた。本気で晶を陵辱したいと願っていた。
「晶ちゃんを自分のものにしたいんじゃないの? 今がチャンスよ。今のうちにものにしておかないと、クラスの誰かにとられても知らないわよ。ううん、クラスどころか学校中が晶ちゃんを狙っているんじゃないかしら」
 トランクスをそっと引きおろしながら、智子は晶に聞こえないよう徹也の耳元で囁いた。
 ぎょっとしたような表情で徹也は智子の顔を窺い見た。
 そのまま、息を止めて智子の顔を睨みつける。
 そうして、こくんと頷いた。
「それでいいわ。じゃ、トランクスを脱ぎなさい。自分の意志で自分の手で脱ぐ方がいいと思うわ」
 そう言って、智子は徹也のトランクスから手を離した。
 その代わりに徹也自身の手が伸びてきて、少しだけ迷った後、さっとトランクスを引きおろしてしまう。
 表面に血管の浮いた赤黒いペニスが、凶々しい大蛇のように鎌首をもたげた。
 それを目にした途端、晶は、その場に凍りついてしまったかのように身動き一つ取れなくなってしまった。顔をそむけることも目をそらすこともできないでいる。
 上半身を起こしたために、お腹の上に捲り上げられていたスカートの裾が太腿のあたりまで滑り落ちてきておむつカバーを隠したものの、まだ半分ほどはスカートの裾から見えている。おむつカバーから伸びた無毛のすらっとした脚の内腿がひくひくと小刻みに震えているのがわかる。
「ほら、お兄ちゃんの方は準備ができたわよ。さ、飲ませてもらいましょうね」
 智子は晶に言って、徹也に目配せをした。
 徹也がぐいと下腹部を突き出した。それに合わせて、智子が晶の頭を後ろから押す。
 晶のぷっくりした唇がペニスの先に触れた。徹也の背筋がぞくっと震える。
「ほら、お口を開けて」
 智子は晶の顎を持ち上げた。
 が、晶は頑なに唇を閉ざしたままだ。
「遠慮しなくていいのよ、晶ちゃん。お兄ちゃんは晶ちゃんにミルク飲んでほしくてたまらないんだから」
 智子は晶の頭を徹也のペニスに押しつけている右手にますます力を入れながら、口調だけはわざとみたいに優しく言った。
 哺乳壜に付いているゴムの柔らかい乳首ではなく、猛々しく屹立した肉棒だ。固い木の棒を唇に押し当てられるのとかわらない。晶がいくら拒んでみても、真っ赤な唇は次第にこじ開けられてゆく。
「ほら、お兄ちゃんのを咥えていいんだよ、晶ちゃん」
 ペニスの先に当たる晶の唇の感触に体中を疼かせて徹也は優しく言った。
 それでも、唇を半ばこじ開けられても、晶は必死になって徹也のペニスを拒み続ける。
 不意に徹也の顔つきが変わった。
「咥えるんだ、晶!」
 誰も耳にしたことのないような徹也の荒々しい声だった。本人にはそれと覚られることなく智子が周到に徹也の欲情を煽ったせいなのは言うまでもない。
 いつも穏和な徹也がそんな声をあげて怒鳴ると、ひどく迫力があった。晶は思わず身を縮こまらせて肩をすくめてしまった。体がこわばって、逆にそのせいで唇の力がふっと抜けてしまう。
「ぐ……」
 途端に、晶の舌は徹也のペニスに押さえつけられてしまった。生臭い匂いが口の中いっぱいに広がる。
「哺乳壜でミルクを飲む時と同じようにすればいいのよ。哺乳壜の乳首の先を舌で嘗めて、唇を動かして乳首を吸うのと同じよ。ほら、いつもみたいにしてごらん」
 智子は、徹也のペニスを口にふくんだ晶の頬を人さし指の先でつんとつついた。
「む、ぐ……」
 徹也のペニスで舌を押さえつけられているために言葉にならない。
 それでも晶は盛んに首を振って智子の言葉に逆らう。けれど、それが却って徹也のペニスを刺激する結果になった。首をふるたびに晶の舌の上を徹也のペニスが滑り、晶の唇が徹也のペニスに触れる。
 ただでさえ大きくエレクトしていた徹也のペニスが、ますます猛々しくいきり立つ。晶の口の中で、徹也のペニスがそれまでにも増して太く大きくなってゆく。
「ま、それでもいいかしら。結果は同じなんだから」
 晶の抵抗が却って徹也のペニスをエレクトさせる様子を面白そうに眺めながら智子は誰にともなく呟いた。
 と、急に、晶が首を振るのをやめた。それまであんなに激しく首を振っていたのに、ぴたっとやめてしまった。
 ぐるるるとお腹が鳴る音が聞こえてきた。耳を澄ませる智子の耳に、もういちど、今度はぎゅるるという音が聞こえる。
 晶は、ギプスで固定された両手で自分のお腹を押さえた。苦しそうな表情で体をかがめる。けれど、徹也のペニスを咥えているせいで顔を伏せることはできない。晶は、憎悪と屈辱と懇願の入り交じった目で上目遣いに智子の顔を見上げた。
 便意に耐えかねているのは明らかだった。
「そう、お兄ちゃんのミルクだけじゃ気をまぎらすことができないのね。じゃ、こんなとこもしてあげる。これでウンチのことは忘れられるかしら」
 晶の表情を見て取った智子は、おむつカバーの上から晶のペニスに手を触れた。
「晶ちゃんは頑張ってお兄ちゃんのおちんちんを気持ちよくさせてあげなさい。お兄ちゃんが気持ちよくなればなるほどミルクがたくさん出るんだから。その代わり、晶ちゃんは私が気持ちよくさせてあげる。ウンチのことなんて本当に忘れられるくらいに気持ちよくさせてあげる」
 智子の手がさわっと動いた。
 晶の体がびくっと震えて、思わず唇を閉じてしまう。それが徹也には心地よい愛撫になる。徹也は晶の肩に手を載せて晶の体を引き寄せた。そうして、ますます深く自分のペニスを晶の口にふくませる。
 智子の手の動きは絶妙だった。おむつカバーの上からなのに、晶の感じやすいところを熟知しているかのように揉みしだく。
 だが、智子自身が興奮しているような様子はまるでない。晶を責める手も、感情にまかせた激しい動きではなく、計算尽くの、ねっとり絡みつくような動きだった。妖しい悦びの光を宿した瞳も、冷徹に二人の様子を見つめていた。顔に浮かぶ表情は氷の微笑だった。
 智子にとって、晶はペットみたいなものだ。それも、そこいらを駆けまわっている雑種ではない。明光という血統書付きの毛並みのいいペットだ。最初はきゃんきゃんと鳴き喚いていたものの次第に彼我の力の差を思い知らされ、服従を余儀なくされた無力な子犬だ。それも、雄犬なのか雌犬なのかさえ判然としない哀れな子犬。そうして徹也は、飼い犬である晶と番(つがい)にするために智子が連れて来た新しい雄犬だ。智子が仕掛けた罠に落ち、もともと胸の中に抱いていた不埒な欲情をこれでもかというくらい煽られ、小さな子犬と交わることしか考えられなくされてしまい、新たなペットとして智子に飼い慣らされることを宿命づけられた新しい獲物だ。
 智子は今、二人が通う高校の養護教諭ではなく、二匹の子犬を厳しく訓練するブリーダーの顔をして二人の様子を観察していた。

「ん……」
 徹也のペニスを咥え、唇の端からよだれの糸を引いた晶の口から言葉にならない声が漏れた。
 智子の掌の中でペニスがびくんと震えて、そのすぐ後、はっきりそれとわかるくらいどくんと激しく脈打った。
 思わず晶は唇を噛みしめた。
 晶の歯と唇が徹也のペニスを締めつける。
 徹也の顔が歪んだかと思うと、その直後、体をのけぞらせて思いきり腰を前に突き出した。
 奥歯を噛みしめていた緊張の表情が緩んで、半分ほど瞼を閉じたとろんとした目で天井を見上げる。
 晶の唇の端から溢れ出ていたよだれの筋が白く濁ってきた。
「あらあら、二人一緒に出しちゃうなんて本当に仲のいいこと」
 晶のおむつカバーから手を離して、智子はわざとらしい感嘆の声をあげた。
「でも、晶ちゃん、せっかくお兄ちゃんが飲ませてくれたミルクをこぼしちゃ駄目じゃないの。ちゃんとお飲まないと、制服にお兄ちゃんのミルクの匂いが付いちゃうわよ。うふふ、やっぱり、これからは、ミルクを飲む時はよだれかけが要るかしら。可愛い晶ちゃんなら、ブレザーの制服によだれかけも似合うかもしれないわね」
 言いながら、智子はポケットからハンカチを取り出して晶の唇の端から顎先をそっと拭った。
 徹也のペニスはもう小さくなり始めていた。なのに、晶はさっきまでのペニスの太さに口を開けたままだから、その隙間を通して口の中が丸見えになっている。晶の口の中は白く薄い膜に覆われていた。とりわけ、白い膜に包まれたせいでサーモンピンクに見える舌がひくひくと震えている様子がなまめかしい。
 徹也の方も、いっこうにペニスを晶の口から引き離そうとしない。余韻を楽しむかのように、晶に咥えさせたままにしている。
 ひょっとしたら何も考えられなくなっているのだろうか、肩を押さえつけていた徹也の手が今は力なくだらりと垂れさがってしまっているのに、晶も身を退こうとしない。
 突然、ぶりりという、少しくぐもった音が響いた。その音が晶のおむつカバーの中から聞こえているのはわざわざ確認しなくてもわかる。
「よく我慢したわね、晶ちゃん。でも、もういいわ。そうよ、たっぷり出しちゃっていいのよ。たっぷり出して、ウンチで汚れたおむつをお兄ちゃんに取り替えてもらうといいわ」
 智子は、おむつカバーの上から晶のお尻をぽんと叩いた。柔らかいウンチなのだろう、おむつカバーがぐにゅっと凹んで小さなシワができた。
 びちびちびちという音が部屋中に響き渡って、甘い匂いが漂う。食べ物らしい食べ物は一切食べさせてもらえず、哺乳壜のミルクしか口にできないでいるために、ウンチの匂いもまるで本当の赤ん坊みたいになってしまっている晶だった。
「そうだよ、晶。晶のおむつはいつでもお兄ちゃんが取り替えてあげるからね。ミルクがほしくなったいつでも飲ませてあげるからね。これからはいつも一緒だよ、晶は僕の可愛い妹なんだから。まだおむつの取れない小っちゃな妹なんだから。お兄ちゃんがいないと一人じゃ何もできない妹なんだから」
 徹也は、自分の精液と柔らかいウンチでおむつカバーの中をぐちょぐちょに汚してしまった晶の頬にそっと自分の頬を押し当ててそう言うと、ペニスを晶の口から抜いた。
 元の大きさに縮こまった徹也のペニスの先から、晶のおむつカバーに白い雫が滴り落ちた。

 新しいペットを番(つがい)で手に入れることに成功した智子は満面の笑みを浮かべて目を細めた。
 窓の外には怖いほど冴え渡った星空が広がって、細い三日月が銀色の冷たい光を放っていた。



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