化け猫屋敷  ≫  化け猫の独り言  ≫  


ゆとり教育と独創性


 筆者が子供のころにくらべると、近年はゆとり教育といって学校の授業数を減らし、教える内容も簡略化される傾向にあった。これによって日本人の学力が大幅に低下したという反省から、これを見直す機運も高まってはいるが、どうなることであろうか、些か心もとない。平成元年の国家公務員I種試験の総合試験で教育問題を取り上げ、「好景気で官僚のなり手がないからと、公務員試験の問題数を減らし、レベルも下げるようなことをしていては、日本国はやがて滅びる」と論じて人事院に警告してやったのであるが(このときは首席合格)、文部科学省までは伝わっていなかったようである。(爆)
 そのゆとり教育でどうなったか。円周率は3.14ではなく約3、というのは単なる喩え話に過ぎない。図形で言うなら、中学3年生で教えていた内容の大半を高校の数学Aに移したことのほうが余程問題であろう。中学校では教える内容を極端に減らし、授業時間数も減少したため、基本的な問題の模範解答だけを覚えさせて終わりになってしまうのである。
 ところが、授業があまりにも手抜きになった結果、逆に生徒の独創性を伸ばす余地が出てきたという皮肉な結果を先日目の当たりにしてしまった。ここでは、ある問題を生徒たちがどう解答したかを見ながら、ゆとり教育の功罪について考えてみたい。


問題

 右の図で、2直線 l,mは並行であり、五角形ABCDEは正五角形です。このとき、∠xの大きさを求めなさい。

(熊本県立高校入試問題より)


 この問題を3人の美少女がどう解答したか、順に見て行こう。


秀才T嬢の解答

 素直で明るく爽やかな美人の彼女、決してクソ真面目な優等生ではなく、勉強も課外活動も遊びも、そつなくこなしている。特別頭の回転が速いわけではないが、こつこつと勉強して、常に上位の成績を保っている。化粧をしてくると大人の女性にしか見えないが、子供っぽいところも残っていて可愛い。
 彼女の解答は実にオーソドックスなもので、平行線の錯角を利用して教科書どおりに解いた模範解答である。


天才I嬢の解答

 頭の回転は速いが激しい性格で、成績にムラがある彼女ではあるが、概ねT嬢に匹敵する成績を修めている。ところが彼女には大学に進学する意思はなく、ある種の芸術家を目指している。彼女が時折見せる表情には鬼気迫る妖しい美しさを感じることがある。(=^^=;;
 彼女の解答を見ると、原図から大きく外側にはみ出すことなど気にもせず、三角形の内角の和を利用して見事に正解を導き出している。いかにも芸術家の解答なのである。


奇才K嬢の解答

 滅多にお目に掛かれないほど頭の回転が速く、要領の良い彼女であるが、やはり大学進学の意思はなく、ある種の職人を目指している。全く勉強する意思がなく、遊んでばかりいるが、中程度の成績を保っている(保っていると言うよりは、頭がいいから下がらないだけである)。なかなか可愛いのだが、こんな調子なのでいつもボロクソに言われている。
 そんな彼女、授業で習ったことなど覚えているはずがない。迷ったら取り敢えず直角三角形を作っておけば計算が楽だろう・・・という発想で図のように補助線を引くなり、一瞬で正解を導き出してしまったのである。
 ゆとり教育の新課程では習わなくなった内容も、彼女には全く関係ない。自分が思いついた解き方の途中で必要になった定理は、その場で証明して使ってしまうことさえある。勿論彼女がその定理を勉強して知っている訳ではなく、問題を考えている過程で、直感で思いつくのである。

 以上の3人の解答、勿論全部満点である。しかし、日本の教育ではみんながT嬢の解き方を出来るように教えてきた。ところが、ゆとり教育と称して授業が手抜きになったために、I嬢やK嬢のように独創性を発揮できる環境が整ってしまったのである。教えずに考えさせる、これは確かに教育の基本ではないか。あとはI嬢やK嬢のような才能が活かせる世の中であることを祈るばかりである。

 さて、この問題を化け猫(=^^=)流の変な解き方で解くことをみなさん期待してらっしゃるに違いない。図を作るのが面倒なので、説明だけにするが、いくつかご披露しよう。

妖怪化け猫(=^^=)の解き方その1

 まず、直線lのAより左の点をL、右の点をL’、直線mのCより左の点をM、右の点をM’としておく。
 △BACにおいて、AB=BCだから、これは二等辺三角形である。
 よって、∠BAC=∠BCA=36°
 これより、∠CAE=108°−36°=72°
 よって、∠L’AC=23°+72°=95°
 ここで、∠L’ACと∠MCAは平行線の錯角であるから等しい。
 よって、x=∠BCM=∠MCA−∠ACB=95°−36°=59°

妖怪化け猫(=^^=)の解き方その2

 直線CEが直線lと交わる点をFとする。解き方その1と同様に、△DCEが二等辺三角形であることから、∠AEC=72°となり、その外角の∠AEF=108°
 よって、∠AFE=180°−23°−108°=49°
 これと錯角の関係にある∠ECM’も49°である。
 よって、x=180°−∠ECM’−∠ECB=180°−49°−72°=59°

妖怪化け猫(=^^=)の解き方その3

 点Eを通り、直線l、mに垂直な直線と直線l、mとの交点をそれぞれP,Qとする。
 ∠PEA=180°−23°−90°=67°
 ∠DEQ=180°−108°−67°=5°
 ∠DCM’=360°−5°−(360°−108°)−90°=13°
 x=180°−13°−108°=59°

 実はこの問題、五角形のどの対角線を引いても解くことが出来るし、直線l、mに垂直な直線をどこに引いても解くことが出来るのである。これをK嬢に説明して興味を持たせ、数学者に育てる・・・なんてことは出来るはずがなかろう。今日も彼女は勉強をサボってマンガを読んでいる。


その後のK嬢

 K嬢が真価を発揮したのは、図形の問題だけではなかった・・・

問題

 a+b=15・・・(1)
 a^2-b^2=135・・・(2)
 を満たす自然数 a,b を求めなさい。

秀才T嬢の解答(=模範解答)

 (2)より、
 a^2-b^2=(a+b)(a-b)=135
 これに(1)を代入して、
 15(a-b)=135
 ∴a-b=9・・・(3)
 (1)、(3)より a=12, b=3・・・(答)

奇才K嬢の解答

 b^2>0 より a^2>135
 11^2=121, 12^2=144 であるから、a>=12
 更に a+b=15, a,b は自然数より、a=12, 13, または 14
 1)a=12 のとき、(1)より b=3
  a^2-b^2=144-9=135 で題意を満たす。
 2)a>12 のとき、b<3
  a^2-b^2>12^2-3^2=135 で不可。
 よって、a=12, b=3・・・(答)

実際のところ、問題を見た瞬間に、a=12, b=3 を思いついたらしい。(=^^=;;



化け猫の独り言    化け猫屋敷に戻る