ワインの大嘘


 ワインについて一般に言われていることで、かなりの嘘がまかり通っている。面白いものを選んでまとめてみることにする。

山梨県と南関東のワイン消費量

ロゼワインの製法と飲み方

ソムリエの意味

ワイン名の読み方

 
山梨県と南関東のワイン消費量

 国税庁の発表によると、人口一人当たりのワイン(酒税法で果実酒に分類されるもの、シードルや果実酒規格のプレミックスカクテル等を含む)の消費量を都道府県別にまとめると、以下のようになるそうである。

順位1位2位3位4位5位6位7位8位9位10位
都道府県山梨東京北海道大阪長野京都神奈川宮城千葉山形
消費量(L/人)7.466.803.092.792.782.652.572.512.432.40

 この数字から、山梨県の人はよくワインを飲む、また、東京都民に比べると南関東3県、特に埼玉県の人はワインを飲まない・・・と短絡的に考える人が少なくない。また、これを見て、山梨県の人は一升瓶入りのワインを毎日飲むなどということを、まことしやかに語る怪しい評論家が少なくない。
 しかし、冷静に考えると、国税庁が各県民一人ひとりのワイン消費量をアンケート調査して集計する筈などない。この数字は、各都道府県内の小売店の果実酒販売量を人口で割って計算しているだけなのである。したがって、この数字は実際の各都道府県民のワイン消費量をあまり反映してはいないことを銘記すべきである。
 まず、山梨県。筆者も山梨県、それも勝沼町に住んだことがあるが、普通の山梨県民は普段ワインなんか飲まない。まずはビール。あとは焼酎であろう。普通の日本人と同じである。では、どうして山梨県のワイン販売量が多いのか? それは観光客が買い求めるからである。山梨県の人口たるや、県庁所在地の甲府市でも20万人、山梨市や塩山市は3万人を大きく割り込んでおり、全県で80万人ほどである。これは川崎市や世田谷区よりもずっと少なく、政令指定都市になっていない地方都市とその周辺の町村を合わせたくらいしかないのである。そして、勝沼町は人口1万人に満たない小さな町であるが、東京から100kmあまりの距離にあり、毎年秋を中心に大勢の観光客が首都圏から押し寄せてくる。その観光客がワインを買ったり飲んだりするだけで、県民一人当たりのワイン販売量を大きく押し上げるのである。
 次に、南関東3県。埼玉県は表には出ていないが、消費量は12位、2.26リットルとなっている。神奈川、千葉、埼玉県の人は東京都民に比べて3分の1しかワインを飲まない。やはり東京はお洒落だ・・・とんでもない誤解である。関東は東京への極端な一極集中が問題となっていることからも分かるとおり、デパート、ワインショップやレストラン等が集中している。神奈川、千葉、埼玉各県民は、東京でワインを買ったり飲んだりする機会が非常に多いのである。また、大手メーカーの小売部や、通信販売の会社も東京にあるものが多い。これらの販売量は、実際には全国の消費者に飲まれるワインを含んでいることになる。このようにして販売場所が東京に集中するために、非常に大きな数字となるのである。
 ところで、以前ソムリエ協会のテキストに、一人当たりのワイン消費量が最も多い国はルクセンブルクであると書かれていた。ソムリエ協会の役員たちは、ルクセンブルク公国(いわば江戸時代の藩がそのまま国になったようなイメージでよかろう)がどれほど小さな国であるのか、そしてそこを訪れる観光客が人口に比べてどれほどの比率であるのかを、恐らく知らないのであろう。(笑)

 
ロゼワインの製法と飲み方

 ロゼワインなるものがある。暫く前までは、国産のワインメーカーの多くが、輸入濃縮果汁で作った出来損ないのワインもどきに糖分を加えて味付けしたものを白ワインとして売っていたが、更にそれに要らない赤ワインを混ぜ、ロゼワインとして売っていたらしい。最近はメーカーも良心的になり、このようなワインの生産をやめて、安価なフランスワインの輸入に切り替えるところも出始めた。喜ばしい限りである。
 さて、そのロゼワインであるが、ワインの入門書のようなものを見ると、作り方が色々書いてある。曰く、赤ワインを仕込み、1~2日経ったところで搾れば、色の薄い赤ワイン、つまりロゼワインが出来る。曰く、黒ブドウと白ブドウを混ぜてつくる。しかし、筆者が普段飲むロゼワインで、このようなつくり方をしたものは存在しない。
 普通のフランスワインのロゼは、どのようにつくるか? 簡単な話である。赤ワイン用のブドウで普通に白ワインをつくればよろしい。色の濃い目のロゼは? それはブドウの果皮の色素が多いのである。ボルドーのかなり濃い色のロゼは? あれは赤ワインを仕込んで、味を濃くするために果汁の一部を抜き取るが、その抜き取った副産物でワインをつくるのである。ちなみに、赤ワインを仕込んで1~2日経って搾ったら、余程発酵が下手でない限りは、渋みの少ない赤ワインになってしまう。また、白ブドウに少量の黒ブドウを混ぜて仕込んだら、色が悪く、渋みのある赤ワインの出来損ないになってしまうのである。ドイツのロートリングは混ぜてつくるが、決して重厚な赤ワインほど長期間漬けておくわけではない。そもそも赤ワインをつくってもロゼのような味にしかならない寒い国だから、このようなものが出来たのであろう。
 次に、ロゼワインの飲み方。「ロゼワインは白ワインと赤ワインの中間であるから、魚料理にも肉料理にもよく合う。したがって、フルコースをロゼワインだけで通すことが出来る。」なんて書いてある本はもうないと思うが、昔はよく見かけたものである。ロゼワインはうっすらと色の付いた白ワインと考えるべきである。味わいも成分も白ワインに近い。濃厚な肉料理には凡そ合うものではない。
 では、ロゼワインはどのような場合に飲むか。フランス人が真っ先に考え付くのは中華料理と夏の昼間の食事であろう。中華料理は魚料理も肉料理も味付けが根本的に異なるものではないし、古典的なフランス料理のように濃厚な味付けの肉料理は存在しない。白でも赤でもそれなりに合ってしまうものであるが、フランス人はロゼを合わせるのが定番である。また、真夏の食事はそれほど重いものを摂らない。そこでよく冷やしたロゼワインは食欲をそそる。また、パリの庶民は白ワインを飲むことは稀であるので、夏はロゼワインと相成るのである。
 ロゼが魚にも肉にも合う・・・中華料理の話の一部だけ聞いて誤解した日本人が誤って伝えたものであろうか?(謎)

 
ソムリエの意味

 「うちの店は良いワインを選ぶためにソムリエを雇っています」というワインショップがあったりする。また、ワインアドバイザーでは信頼できないからソムリエが必要だなどという話もよく聞く。これは出鱈目な話である。まずは日本ソムリエ協会が実施している資格試験の概要についてまとめておこう。

 ソムリエワインアドバイザーワインエキスパート
受験資格実務経験(飲食店等勤務)実務経験(酒販店等勤務)特になし
一次試験共通(ワイン全般の知識、公衆衛生と食品保健)
二次試験(口頭)
二次試験(試飲)4種類4種類(共通)
二次試験(実技)××

 ワインの具体的な知識を試されるのは一次試験であり、これは全資格共通問題である。公衆衛生と食品保健について出題されるのは、ソムリエが飲食店従業員であり、厚生労働省が資格認定の後ろ盾になっているからである。ワインと食中毒は関係ないのであるが、ワインだけ扱っていられるソムリエが少ない現状においては、飲食店の専門職として、このような知識を身につけておくのは大変良いことである。
 二次試験の口頭試問はかつては面接であったが、受験者の増加に伴い、テープで読み上げられる問題に解答する形式になった。内容的にはペーパーテストでも良さそうなものであるが、レストランや酒販店でお客様に、あるいは友人とワインの話をしていて尋ねられたことに即答できる能力を試すために口頭試問の形式を採っているものと思われる。内容はソムリエはレストラン関係、アドバイザーは販売関係の問題が若干多めになっているが、3資格とも基本的なレベルと量に差は見られない。
 試飲は全資格ともほぼ同等のものが出るが、ソムリエだけ共通になっていないのは、受験者の増加に伴って試験日をずらしただけの理由であろう。白ワイン・赤ワイン各2種類であったり、1種類はワイン以外のもの(リキュール、ブランデーなど)にしてみたりするが、何れにせよその飲物の特徴を記述(現在は選択肢)したり、産地や銘柄などを当てたりするものである。
 ソムリエだけに課される実技試験は、お客様に見立てた試験員を相手にワインの注文を取り、栓を抜いてグラスに注ぐまでを滞りなく出来るかを見るものである。
 さて、ここで分かることは、試験のレベルは全ての資格で差がなく、活動の場によって違う資格を認定していることである。ソムリエを取るのに必要なことは、飲食店の給仕として何年か働いている実績と接客能力だけであり、ワインの知識と鑑定能力のレベルそのものは他の資格取得者とまったく変わらないのである。したがって、デパートのワイン売り場にソムリエバッジを付けた人がいるということは、単にレストランの仕事にあぶれた給仕崩れがアルバイトしているということに過ぎない。
 もっとも、大きなレストランで何年もソムリエの仕事をちゃんとやっていれば、他の資格保持者に対して優位性があることは否めない。仕事で高級ワインをテイスティングする量が明らかに多いからである。しかしながら、ソムリエ資格保持者は全国的に余っていて(恐らく資格保持者の9割は本来の仕事に就いていない)、レストランの白服(給仕見習)がソムリエバッジを付けている店も少なくない。彼らはワインの説明どころか、既にリストを見て自分でワインを選んでいる客からの注文を受けることすら許されていなかったりする。これでは何年勤めていても、全くあてにはならないのである。
 ところで、これらの資格試験は思ったよりも公正に行われている。女優の川島なお美さんは現在は名誉ソムリエとして活動しているが、それ以前に試験を受けてワインエキスパート資格を取っている。彼女は実際にワインスクールに通って勉強しているし、ソムリエ協会の講習会にもこっそり出席していた。決してソムリエ協会の話題作りのために合格させたのではなく、本当に資格取得に必要な能力を身につけてから取得しているのである。
 その川島さんと同じ時に取ったのであるが、机の中に入れっぱなしのワインアドバイザーバッジがある。写真をアップしようと思ったが、うちのデジカメは安物で接写することが出来なかった。

 
ワイン名の読み方

 日本でよく飲まれているワインにはフランス産、イタリア産、チリ産、ドイツ産など、英語以外のヨーロッパ語を用いている国のものが多い。しかしながら、ソムリエやワイン輸入業者の従業員の多くはそれらの言語に精通していないばかりか、全く学ぼうともしない輩が少なくない。そのため、頓珍漢な読み方をしている例に事欠かない。気が付いたものを片っ端から載せて行こう。綴り字の直後が誤った読み方、括弧内が言語の正しい読み方に近いと思われる片仮名表記である。以後、面白いものを見つけたら随時追加して行くつもりである。

ボルドー
・Château シャトウ(シャトー):英語しか読めない評論家が英語式に二重母音にしてカッコいいと思っているらしい。
・Sauternes ソーターン(ソーテルヌ):単なる英語読み。
・Barsac バルザック(バルサック):母音に挟まれていないsが濁るはずがない。作家のBalzacとの混同か?
・Château Laville Haut Brion シャトー・ラヴィーユ・オー・ブリオン(シャトー・ラヴィル・オー・ブリオン):ville はヴィルでしょう・・・
・ボルドー方言を無視してパリ読みしたものも多いが、ここでは省略する。

ブルゴーニュ
・Fixin フィクサン(フィッサン):これは方言の問題もあるので致し方ないが、現地で聞けば分かるはず。オーセー・デュレス、アロース・コルトンもxを変な読み方する人がいる。
・Montrachet モンラッシュ(モンラッシェ):単に最後の文字を見間違えただけ。(笑)
・Long Depaquit ロン・デパキ(ロン・ドゥパキ):アクサンの付いていないeの発音に注意。

その他
・Pommery ポメリー(ポムリー):これも基本的な発音の規則を知らず、英語読み(?)した例。
・Moët et Chandon モエ・エ・シャンドン(モエ・テ・シャンドン):伝統的にはリエゾンする。若い人ならしないこともあるか?
・Bas Armagnac バ・アルマニャック(バ・ザルマニャック):流石にこれはリエゾンするでしょ。
・Graacher グラーヒャー(グラーハー):aの後のchがヒになる筈がない。



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