フランスの習俗とワイン文化(序)


 これは,筆者が2年間にわたるフランス駐在から帰国し,提出した報告書の序文のほぼ全文である。会社や個人名に関係する部分について改変してある点はご了承願いたい。



仮名序

 明治維新以来早百三十年を経たが、其の間本邦の近代人達は嘗て古の知識人が漢学を学ぶが如くに西洋の文物の学習に余念が無かった。今日我々は西洋の文物を能く知って居る様ではあるが、西洋は日本から余りにも遠く、果たして其の底流にある精神を正しく理解して居るかと云うと甚だ心許無いのである。平成元年の税制改革以来九年目に入った今、安価なワインの普及に依って日本中にワインが溢れ返って居る感があり,我々にとっては慶ばしい限りである。しかしワインの消費量が一時的に増えても、ワインを日常的に飲む国とは全く異なる文化・精神を持つ日本人である以上、嘗て幾度かあった一過性の流行の轍を踏む恐れ無しとは言えない。ワインを飲ませる為にワイン生産国の真似をする必要は毛頭無いが、ワインの普及・啓蒙の為には彼等の文化を理解し、知らしむる事が有効であろう。其の為には現地で其の実態を見聞するに若くは無いのである。筆者は縁有って欧州事務所に赴任し、フランスで二年間を過ごし、本場のワインとフランス料理を経験して来た。此処に欧州事務所における活動に関する報告書を記す。総論各論混在して居て纏まりが無く又誤謬も間々有るかも知れぬが、備忘録として役に立つ事もあろうと思うし、此れが皆様に少しでも欧州事務所に関して考えて戴く機会になれば幸いである。そして又此れを御読み頂いた方々に少しでも欧州の、殊にフランスの習俗が分かって戴ければ何よりである。フランスの習俗を知ればワインの文化を知る事が出来、業務にも何某かの役に立つ事もあろうと考えるからある。


真名序

御維新以来既経百三十年。本邦近代人学西洋之文物如嘗士大夫習漢学。雖我們現在既能識西洋之文物。不可不云彼我之距離不近也。雖我們今日能飲西洋之葡萄酒。不可不云不識其文化也。欲看其真実者。不可不征其地。欲識其実状者。不可不見其地。勧君莫躊躇旅。勧君須訪葡萄酒生産国。
陛下御宇于今九載。葡萄酒満秋津洲之内。我們在○○○而扱葡萄酒。嬉哉。
我有縁而往巴里。暮二周星。飲葡萄酒而食法国之料理。茲記報告書。曰備忘録。曰雑感。曰無用。不知名符其実不符。唯欲記法国之俗。識法国之俗者可享葡萄酒之文化。享葡萄酒之文化者可知○○○也。

 二千六百五十七年五月十九日 ○○○株式会社欧州事務所前駐在員農学博士 藤原朝臣忠親


料理とワインのページ   ホームページ