日本国憲法第54条では、
(1)衆議院が解散されたときは、解散の日から40日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から30日以内に、国会を召集しなければならない。
なんていう細かい話が載っている。こんなことまでわざわざ憲法に書かなくても、公職選挙法にでも書いておけばいいじゃないか・・・性善説ならそうなる。しかし、性悪説に立って考えると、こうなってしまうのである。
首相が突然独裁者となり、衆議院を解散したとする。ここで国会全体が自動的に閉会になる。
(2)衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
国会が閉会すると、議員の不逮捕特権はなくなる(第50条)。ここで、首相が参議院議員の反対派を無理矢理別件逮捕させると、参議院の緊急集会での議決は自由に出来ることになってしまう。議決には総議員の3分の1以上の出席があればよく、その過半数の賛成で良いのであるから、全体の2割足らずしか賛成者がいなくても、理論上は法案を通せることになっているのである。(第56条)
しかし、上記(1)と、
(3)前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後10日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。
この規定があれば、衆院が解散してから最大でも80日以内に、新しく選ばれた衆院によって承認されなければ、参議院で勝手に議決した法律は効力を発生しないことになる。
ところが、これらの規定の一部が憲法ではなく、公職選挙法に書かれていたとすると、まず独裁者首相はその公選法を改正(改悪)して、衆議院を解散しても、総選挙を行う時期は首相が任意に決められるようにしてしまう。そして、総選挙をやらないうちに、次々と自分のやりたいように法律を作ってゆけば良いのである。
次に総選挙が行われるときには、それらの法律はすべて独裁者の意図する効力を発揮した後で、総選挙で選ばれる者たちも、みんな独裁者の言うことを聞く者だけになっている。そして、再開した国会で憲法が改正(改悪)されるかも知れないのである。
以上の話は、平和ボケした日本人には無茶苦茶な話のように感じられるであろうが、実際に似たようなことが行われている独裁国家は世界にいくつも存在しているのである。
註:筆者の本名を御存知の方へ。同名の憲法学者は筆者とは別人です。念のため。(笑)