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古典将棋の正しい楽しみ方


 大将棋が指されなくなった最大の理由は中将棋の登場であろう。対局に丸一日掛かる大将棋よりは、半日で終わる中将棋のほうがテンポ良く楽しめるため、中将棋に人気を奪われたに違いない。これはちょうど、戦後麻雀の一荘戦が廃れ、現代では半荘戦が主流になったことと似ている。
 しかしながら、麻雀の一荘戦には半荘戦にはない楽しみがあることは、一荘戦を経験したことのある者には説明するまでもない。南場くらいまでは、じっくりと大きな手を狙うことが出来るのであるが、現代の半荘戦ではそんなことをしていたら、すぐにゲームが終わって負けてしまうのである。同様に、大将棋も中将棋にはない楽しみがある。中央で獅子が威張っていても多数の小駒を両側から繰り出すだけのスペースがある。また、麒麟や鳳凰に加えて飛龍や猛牛等も参加して獅子を追い掛け回したり、序盤から中盤にかけての面白さは中将棋にはないものである。終盤を睨んで、成ると走り駒になる駒を如何に温存するかという駆け引きも大将棋ならではの醍醐味である。
 ところがこの大将棋、序盤だけで1時間、中盤前半の睨み合いに1時間、駒の交換が進んで終盤に入るまでに更に2時間、終盤に入ってからも大勢が決するまでに数時間、忙しい現代に、なかなか指していられる人はいないということになる。中将棋だって数時間は掛かるので、普通の人は敬遠してしまう。現代人にとっては、早く打てば1時間ちょっとで終わる囲碁が限度のようで、それ以上時間が掛かるゲームは不向きのようである。
 しかし、現代人はそんなにも時間がないものであろうか? 例えば麻雀をする。半荘1回で終わる筈はない。普通は数半荘はやるので、何時間もやっていることになる。つまり、中将棋1回分は時間を費やすのである。あるいは、友達同士で酒でも飲んだら、やはり同じくらいの時間が掛かる。中には麻雀をしながら酒を飲むという人もあろう。休日など、昼過ぎから夜まで酒を飲み、食事を摂りながら麻雀を打つのも楽しいものである。こうなるともう、8時間くらいやってしまうのである。また、若い人ならパソコンゲーム、場合によっては対戦式のゲームを何時間もやり続けることもあろう。その時にも、手許には飲物やお菓子があったりするものである。
 実は筆者は古典将棋とはこのようにして楽しむべきものであると考えている。大将棋が上達しても段位が貰える訳でもない。中将棋なら段位もあるが、現状では世間で通用するものでもなかろう。それよりも、休日に友達と酒でも飲みながら、世間話などしつつ、じっくりと楽しむのが一番である。とかく現代人は生真面目に考えがちであるが、鎌倉時代の歌合せなどの絵を見ると、判者や歌人の前には皿や器がいくつかと箸が描かれていることがある。現代の短歌の会で酒を飲みながらやることはあまり考えられないが、和歌や連歌など、本来はこうして楽しむものだった筈である。
 誰か休日に筆者と酒を飲みながら大将棋を指そうという酔狂な人はいないものであろうか。



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