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ブランド物について


 先日,物の怪の集まりがあった時に,女流うわばみ系シスアドのM嬢がさりげなくルイ・ヴュイトンのバッグを提げていた。スマートなモデル体型の彼女が,ジーンズのジャケットにこのバッグを提げている姿は実に絵になっていた。ジーンズとの組み合せはパリではちょっと考えられないが,エレガントな雰囲気を漂わせるM嬢の装いは,新しいモードだと言えば十分に納得できるものであろう。
 ところで,このルイ・ヴュイトン,日本ではフランス語の読み方も分からない小娘がビトンとか言って喜んで持っている姿をよく見かけるが,パリ16区の元住民としては噴飯物である。ブランド物というものは,ヨーロッパでは,それなりに地位も収入も素養もある者だけが持つものなのである。
 高級ブランドを持つような人は,まず立派な家に住んでいなければならない。パリでは一戸建てはあり得ないが,16区か17区あたりの高級アパルトマン,あるいはど真ん中ならサン・ルイ島にでも住んでいることが望ましい。アパルトマンの広さは,家族で住んでいるのなら150平方メートル位は欲しいところである。一人暮らしでも,50平方メートルは最低限必要である。身分は勿論カードル・シュペリウール,つまりエリートであることが必須条件である。
 また,ブランド物は一点豪華主義では話にならない。洋服から靴,小物に至るまで,それなりの品質のものをそろえる必要がある。その中でも一点豪華主義を目指すなら,キャルチェの時計のかなり高級なものでもしていることであろうか。そういう女性をエスコートする男性は,やはりドミニークのスーツなどさりげなく着こなして,ルノーならサフラン,メルセデスならEクラス以上,あるいはフェラーリにでも乗って来なければならない。そして,彼女も彼も,パリ市内ではメトロなど余程のことがない限りまず乗らないし,子供の頃から長距離列車は一等車しか乗ったことがない。恐らく飛行機のエコノミークラスなど,見たこともない筈である。食事の時には食前酒にシャンパーニュを開けるのが当たり前。夕食に出掛けるとしたら,銀食器を使っていないような店に入るようなことは考えられないのである。この階級になると,サッカーを見ることはまずない。盛装して,昼間ならロンシャン,夜ならバスティーユに出掛けるに違いない。
 さて,振り返って,日本で「ビトン」とやらを愛用している小娘はどうであろうか。父親は集団就職で東京へ出てきたサラリーマンで,2DKの文化住宅に住み,母親はパートでスーパーのレジを打っている。娘は専門学校の学生で,コンビニでアルバイトをしている。まだ,悪いアルバイトをしていないだけよしとしよう。
 そのような娘がユニクロの服を着て,ルイ・ヴュイトンのバッグを提げ,池袋駅のいけふくろうの前で立っている。そこへ現れたのが,破れたジーンズにTシャツ姿の,長髪にピアスをした若い男性である。二人は山手線に乗って渋谷へ向かい,食事をするのはカジュアルな店。飲むのは発泡酒とチューハイであろう。あるいはその男が彼女を車で迎えに来たとしよう。乗って来たのはローンで買った中古のユーノス・ロードスター・・・。
 あるいは,ブランド物を愛用しているのは東京で一人暮らししている若いOLかも知れない。常磐線沿線の15平方メートル程のワンルームマンションに住み,毎日満員電車で通勤している。そんな彼女が電車の中で毎日提げているのはルイ・ヴュイトンのバッグ・・・。
 日本ではなかなかヨーロッパの上流階級のようには行かないのは分かっている。しかし,ある程度のブランド物になると,やはりM嬢のような,しかるべき収入も教養もある,美しい大人の女性でないと似合わないと思うのであるが,如何なものであろうか。



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