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幻のゲーム大阪ムシ


 古典将棋に関わり出してから、その他のボードゲーム、カードゲームにも若干興味を持つようになった。ここに、現在では幻のゲームとなっている花札の競技方法の一種、大阪ムシ(一説には大阪虫と書く)のルールの詳細を書き留めておこう。このゲームはその役の名称から、「藤桐三光(ふじきりさんこ)」と呼ばれることもある。花札というのはローカルルールの宝庫で、この大阪ムシにも多数のローカルルールがあるのかも知れない。ここでは、昭和初期に大阪の比較的アングラな世界で行われていたルールを完全に再現する。大阪ムシは鬼の存在によって極めてスリリングなゲームになっているのだが、これがどうして今日殆ど行われなくなったのか謎である。

基本用語

五つ三光相手が藤および桐を、自分は三光の役を完成させ、役の得点差が5点となった状態。
雨のカス。雨を取ることは出来ないが、それ以外の任意の札を取ることができる。
先手。札を配り、先にゲームを開始する。
親見両競技者が札をめくってその優劣で親を決めること。
決まり既に1組取られ、残りが2枚になった札。あるいは、場に2枚手に2枚あるなどして、鬼以外では相手に取られる心配のない札。
桐を4枚揃えた役。10文。
食う鬼で他の札を取ること。
三光現在表菅原と呼ばれているもの。松二十、梅十、桜二十の3枚を揃える役。25文。
三十五
三光
藤または桐と三光の2役を完成させ、役の得点が35点となった状態。
三枚物最初に場に同じ札が3枚出たもの。この3枚を重ねて置き、残りの1枚を出した者が全てを取る。
四十五
三光
藤、桐、三光の3役を完成させ、役の得点が45点となった状態。
十五三光相手が藤または桐を、自分は三光の役を完成させ、役の得点差が15点となった状態。
初代その札がまだ一度も取られていない状態。他に3枚の札があるので、優先して取る。
滑る鬼に付けた札が雨だった場合、あるいは場に鬼しかない状態でめくった札が雨だった場合。このとき、鬼には次の競技者のめくり札を付ける。
叩く二十または十が出ていない状況でカスどうし、あるいはカスとタンを合わせて取ること。
付ける最初に場に鬼が出た場合、1枚目のめくり札を鬼に合わせること。
二十五
三光
藤、桐が割れる、あるいは藤桐見合いで三光をした場合、役の得点が25点となった状態。
ビキ後手。
藤を4枚揃えた役。10文。
藤桐見合一方が藤を4枚揃え、他方が桐を4枚揃えたため、役の点数が差し引きゼロになった状態。
札を配った後に残った16枚の札。
割る相手が役に関係する札を取った場合、残りの札を取ること。あるいは役に関係した札を取りあえず1枚(組)取っておくこと。
割れる役札が双方に分散して当該役が成立しない状態。

使用する札と親見
 牡丹と萩を除いた40枚を使用する。親見(親決め)の際には以下の順に優先される。

  一月:松二十、松タン、松カス(太いほう)、松カス(細いほう)
  二月:梅十、梅タン、梅カス(花の数が多いほう)、梅カス(花の数が少ないほう)
  三月:桜二十、桜タン、桜カス(枝が中央)、桜カス(枝が端)
  四月:藤十、藤タン、藤カス(蔓あり)、藤カス(蔓なし)
  五月:菖蒲十、菖蒲タン、菖蒲カス(葉がまっすぐ)、菖蒲カス(葉折れ)
  六月:雨二十、雨十、雨タン、雨カス
  七月:桐二十、桐カス(黄色)、桐カス(字数の多いほう)、桐カス(字数の少ないほう)
  八月:坊主二十、坊主十、坊主カス(山の高いほう)、坊主カス(山の低いほう)
  九月:菊十、菊タン、菊カス(花が健全)、菊カス(花が萎れ)
  十月:紅葉十、紅葉タン、紅葉カス(黄色が2枚)、紅葉カス(黄色が1枚)

 なお、カブカルタがないときに花札でオイチョカブをする場合、現在では桐と雨を抜くのが一般的であるが、当時の大阪では上記の40枚で行うのが一般的だったようである。

競技の開始と進行
 前回の勝者、目上の者、たまたま札を出したものなどが先に札を切り、場に置く。相手から順に親見をし、上述のように親を決定する。親は再び札を切り、左手で相手に差し出す。相手は札を伏せたまま何枚か取り(切るという)横に置くか、切らない場合には人差し指か中指の爪の先で札の上をごく軽く叩く。親は残りの札の上から順に、場に4枚、相手に4枚、自分に4枚、相手に4枚、自分に4枚、場に4枚出して(場の札だけは表向ける)、残りの札を置く。切った札は上に載せる説と下に入れる説がある。
 先ず各自手を確認し、同じものが4枚あった場合は手四で5文の勝ちとなり、勝ったほうが親となって次のゲームに移ることができるが、有利だと思えば黙ってゲームを続行しても構わない。次に場を確認する。同じ札が4枚あった場合、すべて親の取り札になり、3枚あった場合にはそれを重ねて置き、残りの一枚を出したものが全て取ることになる。
 親から順に1枚ずつ手札を出し、山から1枚めくる。なお、雨に関しては特殊ルールがあるため、その扱いについては次項で述べる。

雨の特殊ルール
 雨は二十、十、タンの3枚とカス(特に鬼と呼ぶ)とは別物として扱う。
 二十、十、タンのうち二枚を取った者は、残りの1枚を自動的に貰える。例えば最初に場に十が出ていて親がタンを合わせて取った場合、ビキが手に二十を持っていても、それはいずれ場に捨てるしかなく、捨てた瞬間親の取り札となる。あるいは、双方のどちらかが山から二十をめくった場合にも、自動的に親の取り札に加えられる。最初に場に2枚出た場合、他の札の3枚の場合と同様に重ねて置き、残りの一枚を出したものがまとめて取る。最初に場に3枚出た場合には3枚を重ねて置き、鬼を取った者の取り札となる。最初に場に3枚と鬼が出た場合、雨は親の取り札となる。
 鬼を出した者は、その時点で場にある任意の札(雨と三枚物を除く)と合わせることが出来る(これを食うと言う)。そうするとその札が後で1枚残ることになるが、鬼で食った者がその札も取ることが出来る。したがって、例えば松のカスどうしが既に取られているとき、松のタンを食えば、松の二十も自分のものに出来るのである。初代の札を食った場合、あとでカスを叩くことが出来れば大物を手に入れることが出来るが、失敗すると単にカス2枚を食ったことになることもある。
 鬼が最初に場に出ていた場合、親の最初のめくり札を自動的に鬼に付ける。これは強制なので、例えば場に桜の二十が出ていて桜のカスをめくったとしても、二十を取ることは出来ず、鬼とカスを合わせて取る。ビキが桜のタンで二十を取れば、鬼はカス2枚を食ったことになってしまうのである。めくり札が雨であった場合、滑ると言って、鬼と合わせることが出来ない。場に雨が出ていればそれと合わせて取ればよいし、出ていなければそのまま場に残す。鬼は次にビキがめくり札を付ける。(もしビキも雨を出せば、再び滑って次に親がめくり札を付ける。そこでも滑れば次にビキが付ける。)
 場に雨と三枚物以外の札がないときに鬼を場に出した場合、次のめくり札を付ける。鬼を手から出した者はそのときのめくり札を付ける。めくり札が鬼で場に食える札がない場合、次の競技者がめくり札を付ける。雨をめくって滑るのは上述の場合と同様である。

役と得点の計算
 双方8枚の手札を出して山をめくり終わったら、先ず役を確認する。役は藤(藤を4枚揃える、10文)、桐(桐を4枚揃える、10文)、三光(松二十、梅十、桜二十を揃える、25文)の3種類だけである。役の点数に応じて札のやり取りをする。例えば自分が藤をして、後の役が割れた場合、相手から十文分の札を貰う。次に、勝っているほうが自分の札から115文分の札を出し、残りの札を数えて得点とする。昭和初期には1文1銭くらいで賭博が行われていたらしいが、詳細は不明である。

競技の際の留意点
 大阪ムシは最後まで札を取り切った上で役と得点を競うゲームである。したがって、役と得点の合計の期待値が大きいほうから取ることが肝要である。例えばいずれも初代の場合に、菖蒲の十をカスで取るか、桐のカスどうしを取るかであるが、桐を叩くことの是非を別にすれば後者が有利である。なぜなら、藤と桐は4枚取れば10文の役。2枚取れば割れて0文、取れなければ相手に役がついて−10文だから、一組取るごとに10文の価値が加わる計算になるため、カスどうし合わせても12文の値打ちがあるのである。梅の十を取るか坊主の二十を取るかは、三光が出来そうか割れそうかで、ケースバイケースで判断するしかない。役に絡まない札に関しては、雨(取れば自動的に35文)、三十坊主(二十&十)、二十五、二十一、十五、十一、六(タン+カス)、二(カス2枚)の順となる。雨の重要性は言うまでもないが、十五をしっかり取ることも意外と軽視できない。
 鬼で何を食うかは悩ましいところである。例えば手に松二十と梅十があり、場に桜二十が出てきて自分が桜を持っていなければ、迷わず食ってしまえば三光が出来たも同然である。あるいは場に桜タンが出ていて手に桜カスがある場合、桜タンを食って、桜を叩くことも視野に入れれば、かなりの確率で桜二十を取ることが出来る。また、有効な戦法として、あらかじめ叩いておいて決まりになった札を食いに行く手もある。相手が二枚手に持っている場合には確実に食える。桐の二十は32文の価値があるので迷わず食えるが、桐カスは悩ましい。他に食うものが十五しかないなら、最低でも12ある桐カスを食えばよい。藤はもっと安心して食えるが、最高でも25文にしかならない。鬼で何を食うかも、結局は点数と役を合わせた期待値で考えるしかない。
 鬼が存在するために、決まり札を取れるとは限らないことを忘れてはならない。中盤以降、鬼がまだ出ていなければ、決まりでも大切な札は出たらすぐに取る必要があるのである。



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