B氏は受け取った中の1通のメールを見て不審に思い、そのメールの中身を見る前に確認してみることにした。X社ではM社のメーラを使用し、内容をプレビューするように初期設定しているが、B氏はセキュリティ上の問題を考慮し、このプレビュー機能をオフにしてあったのである。
B氏はIPAのサイトにアクセスし、ウイルス情報を調べた。
http://www.ipa.go.jp/
果たして、そこにはまさに、B氏が疑念を抱いたメールと全く同じ、Re: Your Password! という件名のメールで送られてくる、発見されたばかりの新種ウイルスに関する緊急情報が発信されていた。このウイルスメールは、X社で使用しているメーラでプレビューしただけでも危険で、開くと確実に感染するようであった。
B氏は直ちにこのメールを削除するとともに、別の建物にいる情報システム部全員にメールを打ってから帰宅した。
情報システム部は遅くまで勤務している社員もいるし、会社のメールを自宅に転送している者が殆どである。B氏はすぐに対応が取られ、かつ全社員に注意を促す連絡がなされるものと思っていたのである。
ところが、翌朝出勤したB氏が早朝会議を終え、午前9時半過ぎにメールをチェックすると、前日の午後9時過ぎまで、Re: Your Password!のウイルスメールが複数受信されていた。そして、午後10時半に受信したウイルスメールについて、サーバでウイルスを自動的に削除したことを通知するメールが届いていた。しかし、情報システム部からウイルスに関する情報は一切発信されていなかった。
B氏が慌てて情報システム部に電話を掛けようと受話器を取った瞬間、新しいメールが受信された。発信者は情報システム部長であった。
社員各位
昨日より、Re: Your Password! という件名で送られてくるウイルスが
流行しています。
もしこのようなメールを受け取ったら、開封せずに削除してください。
以上
さて、このウイルスに関してX社でどれほどの被害が出たかというと、実は感染は一切なかったそうである。X社では業務にインターネットメールを使用することが出来る社員は殆どいなかったのであった。
数日後、B氏が友人のK氏にこの話をしてみた。すると、K氏は言った。
「うちなんか、もっと酷いよ。うちの事務の女の子、いつもメールを打ち合って、お昼どこへ行こうとかアフターファイブはどうするとかやってるんだ。」
「それならいいじゃない。みんな、ちゃんとメール使えるんだから。」
「ところがね、僕がメール打ってると、女の子がきくんだ。課長、誰にメールですかって。得意先のAさんに見積書を送ってるんだと言うと、彼女、いったい何て言ったと思う? 『えっ? メールって、仕事にも使っていいんですか???』だって。」