和声学今昔


 数年前から副業で女子高生に色々と教えているのだが、何故か和声学を教えなければならなくなってしまった。中学・高校時代に勉強した本を引っ張り出すのも気が引けるので、新しい教科書を買おうと書店へ行った。最初に見たのが東京藝術大学の教科書。全3冊でかなりの分量であるが、詳細に渡って網羅されている。いや、ちょっと待った。音大生に教えるのではなく、普通科の高校生が大学受験をする際に知っていたほうが良い(知らなくても何とかなるかも知れない)、あるいは音楽科を受験する中学生も使うかもしれないという程度の話である。冷静になって、初歩的なことしか載っていない、薄っぺらい入門書を買って来た。
 しかし、数十年ぶりに新しい本を買うと、世の中随分と変わっているものである。昔は長三和音はTWXのように書き、増三和音は右上に+を加えた。短調の上中音上の三和音ならV+である。短三和音は横棒を省いて線だけで書いて(小文字で代用する人もいたのかな?)ll、Vlのように書いた。減三和音の場合は右上に半濁点のような○を加えてVll゜となったのであるが、今は全て区別せず、UVYZなどが並んでいるし、短調でもTWである。これでは記号を見ただけで音の響きをイメージすることが出来ないではないか。
 更に驚いたのが転回和音の表記法が根本的に変わってしまったことである。昔は三和音の第一転回(バスが三音)はバスと根音が6度になるので、T6と、右下に数字の6を書いたものである。第二転回の場合、バスと他の2音が4度と6度になるので、T46(← 実際には6の文字は4の真上に来る)と、右下に4、右上に6を書いて、これを四六の和音と言った。ところが、現在は第一転回はT1と右上に1を、第二転回はT2と右上に2を書くだけである。
 しかし、転回和音の表記はこのほうが分かり易いかも知れない。昔は属七の第一転回はバスの導音と下属音、属音の音程で五六の和音X56、第二転回は同様に三四の和音X34、第三転回に至っては右下に2を書くだけX2であり、慣れればどうと言うことはないが、初学者には紛らわしいものであったのかも知れない。そういえば属九の第四転回はどう書いたのだっけ?そんな和音、使う筈もないから要らないのか…。(笑)
 えーっと、T ll6 T46 X7 T は今風に書くと T U1 T2 X7 T でいいのかな…。そうこう言っている内に、新しい表記法にもすぐに慣れてしまった。そうだ、ナポリの六はどうやって表記したらいいのだろう?いや待て、そんなややこしいものは教える必要がない。それよりもこの教科書、そのままでは使いにくい。さっさと初歩のオリジナル教材をまとめねば…。




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