35年前のド田舎の電話


 子供の頃,市内局番のない(つまり市外局番が6桁の)所に住んでいた。最初は直通では掛けられなくて,電話機にはダイヤルがなく,右側に付いているハンドルを回す方式であった。これを回すと交換手に繋がり,「28番の○○さん,お願いします。」と電話したい先を告げると,繋いでくれたのである。
 市内通話は余程回線が混んでいない限りすぐに繋がった。市外通話も隣町への通話なら大抵すぐに繋がった。しかし,遠方に掛けようとすると大変である。
 「もしもし。」
 「もしもし,おはようございます。56番の化け猫ですけど,東京のこれこれに電話したいんですが。」
 「はい。東京のこれこれですね。お昼前には繋がると思いますよ。」
 そして,運が良ければ1時間後くらいに電話が鳴り,交換手が東京に繋がったことを告げて,初めて東京と通話が始まるのである。回線が混んでいると,半日待たされることも珍しくなかった。
 若い人は笑うかも知れない。しかし,インターネットや携帯電話に関して現在皆さんが置かれている状況はこれと全く同じなのである。例えば,大晦日の夜半から元旦の早朝にかけて,携帯電話で通話やメールをしようと思ったら,何回もやり直して,どうにかすると1時間くらい繋がらないではないか。あるいは,特定のプロバイダやサイトが混み合うと,すぐに使えなくなり,数時間待たされることもざらなのである。
 昔の電話には,今では考えられない良さがあった。
 「もしもし。」
 「もしもし,こんにちは。化け猫ですけど,2時間ほど出掛けますが,もし化けコアラさんから電話があったら,4時頃戻ると言っておいて下さい。」
 2時間後。
 「もしもし。」
 「もしもし,化け猫ですけど,化けコアラさんから電話ありました?」
 「はい。また4時半くらいに掛けるとおっしゃってました。」
 「ありがとうございます。」
 留守番電話機など発明されていなかったし,そもそもそんなものは必要なかった,のどかな時代のことであった。



ITバブルを茶化すコーナー    化け猫屋敷に戻る   化け猫屋敷掲示板(=^^=)m   級シスアド連盟