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通訳に求められる資質


 相変わらず英会話はブームのようである。これからの国際社会で働くためには、英語が出来ないと・・・というのは、ある意味もっともであるし、結構なことではある。しかしながら、実際のビジネスで英会話が必要になる日本人がどれほどいるのであろうか。そして、実際に必要となる立場の人間で、本当に必要なレベルの会話が出来る者はどれほどいるものであろうか。些か心もとない。
 そういう訳で、多くの場合通訳が必要となる。通訳にも色々あるが、国際会議で同時通訳するような通訳はおいといて、普通に使うのは、一応専門の会社から派遣された通訳、学生アルバイトに毛の生えたような通訳、あるいは自社の従業員の中で語学に堪能な者、といったところであろう。
 そのような通訳に必要な資質とは何であろうか。文法的に正確に訳すとか、そんなことはどうでもいい。日本的な発想による発言を、相手にも理解できる形で伝えるためには、とにかく機転を利かせる必要があるのである。
 有名な話であるが、昭和の中ごろ、日本のある国会議員がアメリカで演説をした。英語は敵国語だという教育を受けた彼は当然英語など話せるはずもなく、日本語で演説して通訳が訳していた。
 「アメリカは日本語で米国、米の国と書きます。アメリカは日本人にとって米と同様に必要不可欠、とっても大切なものなのでございます!」
 ここで通訳さん立ち往生したそうであるが、これでは通訳失格である。「日本人が生きて行くためにはアメリカが不可欠である」と彼が言っているのであるから、その真意を伝えることを考えるべきである。例えば、最初のセンテンスは無視して、
   America is the most important and indispensible country for Japanese people. It's like rice, our essential food.
とでも言っておけば、何か変な喩えだとは思いつつも、聴衆は拍手くらいはしてくれたに違いない。
 また、先日こんな話が実際にあったそうである。英語を殆ど話せないある会社の社長が、通訳を入れてアメリカ人とひとしきり商談して、最後に「ひとつよろしく」というつもりで、"One, please." と言ったところ、相手のアメリカ人が狐につままれたような顔をしたのは良いとして、通訳もどうフォローしていいか分からずに黙ってしまったそうである。
 しかし、one は色んな物を受けて使える言葉なのだから、それを our business か our contract あるいは our proposal はたまた your co-operation などを指しているようにこじつけて、素早く説明してしまえばいいではないか。例えば、ほんの一言、
   He means he hopes your co-operation.
あるいはもっと砕いて、
   He says, "Good job, please."
 これくらいの機転が利かない通訳では、お金を貰えるプロとは言えないのである。
 筆者自身、英語やフランス語の通訳を少しやったことがある。しかし、実際に自分の商談で外国人と話すことが必要になったら、通訳を雇ってみたい。そして、その通訳が正しく訳せなかったところだけ、自分で追加して説明すれば安心である。



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