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タイピング 〜 運指法の謎


 今時,タイプライターを使う人はいないだろうし,ワープロ専用機を使う人すら少ないだろうが,皆さん,相変わらずパソコンのキーボードを打っている。このパソコンのキーボードというものは,基本的にはタイプライターそのままであるから,コンピューターなるものが日常に入り込んで来た時に,タイプライターが打てる者は非常に円滑にコンピューターを操作することが出来た。欧米ではいやしくも中等教育を受けた者でタイピングが出来ないなどということは考えられないから,コンピューターを使おうと思うような人は誰でもキーボードからの入力が容易に出来たのである。ところが,日本ではこのキーボードがコンピューターへの最初の障壁になってしまい,残念ながら,その状況は今日に至るまで変わっていないのである。
 さて,この文章を見ている人は,印刷して読んでいる酔狂な人を除けば,現在目の前にキーボードがある筈である。そのキーボードをよく見てみよう。一番上の段が「12345・・・」,2段目は「QWERT・・・」,3段目は「ASDFG・・・」,そして4段目は「ZXCVB・・・」である。この配置は実はアメリカ式で,ヨーロッパでは若干の違いがあるという話は今回はやめにしておこう。それよりも,どうしてキーが斜めにずれて並んでいるのかと疑問に思われる方もあろうかと思う。
 左手の小指で「1QAZ」,薬指で「2WSX」・・・と打つのであるから,これらが縦に1列に並んでいた方が打ち易いと思われる方も少なくなかろう。各列を少しずつずらした形で並べているのは,かつての機械式タイプライターで,各キーの中心から活字に繋がる金具を配置したなごりである。パソコンのキーは電線で繋がっているし,どう押しても絡み合って止まることはないので,今ではこのような配置にする必要は特にない。しかし,欧米では殆どの人が従来のタイプライターに慣れていたために,当初からこのような配置を取ったのである。

1
2
3
4
5
6
7
8
9
0
BS
Tab
Enter
Caps
Shift
Shift
左小指
人差指
人差指
右小指

現在通常用いられる運指法


 実際,パソコンがマイコンという名で普及し始めた頃,キーをジグザグにせず,一直線に並べたパソコンが存在した。それはシャープのMZ−80K2で,キーが見事に碁盤の目に並んでいたのである。また,6年前にフランスで見たパソコンは,ご丁寧にキーボードが「5TGB」と「6YHN」の間で左右に分かれていた。
 実は,私はこれらのパソコンでは高速で(50ワード以上)入力することが出来ない。私が25年以上前に,当時としてもかなり古い教本を用いて習ったタイピング法では,現在通常行われているものとは,指とキーの対応が異なるのである。2列目と3列めは現在と同じであるが,数字は左手小指が「1」,「2」で,薬指が「3」,中指が「4」で,人差指は「5」と「6」を担当する。右手は人差指で「7」と「8」,中指が「9」,薬指が「0」で,小指は「−」から右を担当する。一番下の段では,左手小指は「Shift」のみ,薬指が「Z」,中指で「X」,人差指は「C」と「V」である。右手人差指は「B」と「N」,中指が「M」,薬指は「,」,小指が「.」から右の担当である。

1
2
3
4
5
6
7
8
9
0
BS
Tab
Enter
Caps
Shift
Shift
左小指
人差指
人差指
右小指

私が用いている運指法


 さて,私はキーボードの形が変わらない限りは,この打ち方を変えるつもりはない。何故なら,このほうが現在通常行われている方法よりも高速で入力できるからである。
 例えば,「D」のキーを中心に見てみよう。ここに左手の中指を載せてみる。この指を一番上の段に自然に伸ばすと,本来は「3」ではなく,「4」に触れる筈である。いや,「3」に触れたと言う人は,そういうタイピングに慣れているからに過ぎない。キーボードをよく見てみよう。「D」からは「3」よりも「4」のほうが明らかに近いのである。高速でタイピングする時は,指の動きが1ミリでも少ない方が良いに決まっている。特に,左手が上の段で左に大きくずれるのは,かなりのタイムロスになるのである。
 私の打ち方の方が速いのにはもう一つ理由がある。現在主流の打ち方では,「0」と「−」をどちらも右手小指で打つことになる。文章の中に少しだけ計算式や数字をハイフンで繋いだ記号が入って来た時に,一々テンキーへ右手を飛ばしていてはタイムロスとなる。この時,「0」と「−」を同じ指,それも小指で打つのは非常にやりにくいのである。
 一番下の段は,すべてのキーがちょうど上の段のキーの真ん中の位置にあって,どちらの打ち方でも距離に違いはない。ところが,もう一つ上の「Q」の段と比べると,現在主流になっている方法の弱点が見えてくる。「Hi, Taro.」と打ってみよう。現在の打ち方では,「i」→「,」と「o」→「.」,特に後者が非常に打ちにくいことが分かる。これは言うまでもなく,キーの位置がほぼ1個分近くずれているためである。ついでに「9.0」と打ってみよう。これ以上説明は要るまい。
 ところで,私の打ち方がかつて主流だったのには,もう一つの理由がある。私の打ち方では,「,」と「.」が薬指と小指になっている。昔の機械式のタイプライターを打つ時に,最初に言われることは,この2つのキーは弱く打たなければならないということである。この2つの文字はタイプされる面積が極めて小さいので,指の力が1点に全部掛かってしまい,あまり強く打つと紙に穴を開けてしまうことになる。そこで,初心者がうっかり強く打たないように,力の弱い薬指と小指をこれらのキーに当てたのである。上達するとこれらの指も力が出るようになるが,その頃には自然とこの2つのキーは軽く打つ癖が付いていることになる。ちなみに,私はパソコンを打っていても,この2つのキーを軽く打つ癖が抜けていないようである。


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