あにまるくっきんぐ


まぁ、食費とは案外馬鹿にならないもので。
どんなにムダを節約しても、たくさん食わなきゃ死ぬやつがいる以上は限度がある。
――全部、金でまかなえばの話。


プーレのパーティ(昼ごはん編)

「食べ物いないかなぁ〜……。」
がさごそ茂みの中をうろつきまわる子供、もとい正体は獣が1匹。
お腹をすかせているらしく、なんだか動作が鈍い。
だが、何日も食べていないのか、可哀想にと思うのは間違いだ。
「う〜ん……食べられそうな草もないなー。どうしよう。」
こちらもこちらで、足元の草を漁っている。
もっとも、めぼしいものが無いようだが。
「こっちもねぇ……。クーポーのー実ぃ〜〜!!!」
「グリモーうっさーい!ヒート!!!」
ネズミのたいまつくらいにしかならない黄色っぽい炎が、
グリモーめがけてとんでいく。
「あっちぃぃ〜〜〜!!!!」
見事にグリモーの頭に着火された。
火はどんなに小さくてもなめてはいけないという良い見本だ。
ちなみに古魔法であるヒートは、黒魔法のファイアよりも熱かったりする。
「うるさいよ!もぉ〜っ、おなか空いてるんだったらさわがないの!!」
「それよりオレの頭に火がついてることを気にしろよ!!!」
グリモーの頭には、ゆらゆら揺れるお熱い黄色っぽいお飾りがついたままだ。
当然、別名はヒート。
「うるさいと、アクアじゃなくて今度はラファールつかってあおっちゃうゾー★」
「だめだよパササ〜。グリモーは食べ出がないんだから食べちゃだめぇ〜。」
エルンがとめてくれたが、それは倫理面の問題ではないらしい。
仲間のピンチだというのに、食べ出のあるなしで片付けられてしまった。
「お前ら二人そろって何でオレをいじめんだよーーー!!!
さっさと火ぃ消してくれよ〜〜〜!!」
「しかたないな〜、よいしょっト。」
グリモーの頭に手を当てて、炎をわしづかみにするパササ。
一見ぎょっとするが、どうも古魔法は術者に怪我をさせないらしい。
あっという間に、ヒートはおとなしくパササの手に戻った。
もちろん燃されたグリモーの髪は帰ってこない。

「ところでさ〜、どうやったらモンスター来るかなぁ?」
エルンの台詞を聞きながら、パササは火をお手玉。
町の広場でやれば、これでお金が稼げそうな気もしないでもない。
「んー、だれかがけがをして弱ったふりをするとか?」
「ナイスアイディアだな!で、だれがおとりをやるんだ?」
そのとき、全員がそろってグリモーを指差した。
しばしの沈黙。
「……なんでオレなんだよぉぉぉぉぉ!!!!」
「えー、だってグリモーってやられ役だしぃー。」
何気なくひどいエルンの発言に、グリモーは早くも心の中で半泣きだった。
「いっつも不幸なんだから、もう今さらこれくらい大丈夫だっテ!」
「なんだとーーーー?!!!ぜってーやだかんな!!!!」
いつも不幸なのは、半分は自分の不運だがもう半分は仲間のせいだ。
せめて一個だけでも不幸を減らしたいグリモーは必死で抵抗する。
「もー、グリモーったら……。
わがままばっかり言わないの!!!」
ドゴッ。
「はひ……しゅびばしぇん……。(はい……すいません……。)」
「わかればいいよv」
語尾にハートを付けて笑顔で言われると、
かわいい顔してやる事ひどすぎとか言う台詞が頭をよぎったが、
いったら違う世界に逝きそうなのでやめておく。

で、結局グリモーはその辺で死んでいた鳥の血をこすりつけた布を持たされて囮になった。
ちなみに残りの3人は風下の茂みに隠れている。
身を隠すときは風下というのは、獣とモンスターの常識。においは風に乗って流れるものだ。
「う〜、オレって……何でこんなにいじめられてんだろ。」
いじめられているというよりは、遊ばれている事に気がついていないグリモー。
彼の運は、故郷の森林火災で生き残った時点で一生分使い果たしたのかもしれない。
出来れば運も計画的に使いたいものだ。絶対無理な話だが。。
「うっう……オレって、オレって、何?」
(グリモー、なんで泣いてるのかナ〜?)
さっき付けたヒートがもったいないので、落ち葉や枯れ木を放り込んでどんどん大きくしている。
勿論、食べられそうなターゲットが着たら放り込む算段だ。
とはいっても、あまりに大きくしすぎると周りが暑くなって術者がばててしまうからそこは考えている。
(モーグリは泣き虫なのかなぁ?
よ〜し、後でなぐさめてあげないとねぇ〜。)
明らかに何かが違う。
(ちょっとやりすぎたのかもよ……さすがに。)
だが、今更囮を変えるわけには行かない。
近くにかぎ慣れた魔物の匂いがしたからだ。
まだ遠いが、ターゲットは恐らくデスビューティー。平たく言えば動く食獣花。
冒険者も恐れるこんなモンスターを食べる気なのだから、悪食にも程がある。
しかし、花の蜜は甘くておいしいし、花びらだって以外にいけるのだ。
(あ、きたみたい。)
うぞうぞと根を動かし、囮のグリモーに近づいていく。
グリモーは顔を引きつらせていたが、
利き手にしっかりとモーニングスターを構えて待ち構えている。
ちゃんと仲間が援護してくれるのはわかっているが、それでも怖いものは怖い。
「う、うおりゃー!」
モーニングスターを振り回し、食べようと近づいてきたデスビューティーにぶつけた。
が。
「や、やべ!」
茂みから援護に飛び出たプーレの頭にクリーンヒット。
当然喰らった当人は昏倒。そして、ぶつけた本人は蒼白。
「いっけー、ヒート!……て、グリモー何してるノ?」
ヒートでデスビューティの花部分を焦がすと、あっさり動かなくなった。
黒焦げにする前に、術者の意思でヒートはまたパササの手に戻る。
こんな事は黒魔法ではできっこない。
MPは呼び戻すたびに消耗するし、出来ない魔法も勿論あるが、便利な事だ。
「い、いやなんでも……あります。」
「なになに〜?どうしたのぉー?」
今回は何もしていないエルンが、パササが退治したのを見計らって出てきた。
「グリモーが何かやっちゃったみたイ。」
「またぁ?なにしたのぉ〜。」
またというのがグリモーには引っかかったが、実際何かしたので文句は言えない。
言おうか言うまいか。頭の中を二つの選択肢がぐるぐる回る。
魔物のせいにしようと思わない辺り、損をする性格が良く現れている。
「じ、じ、じじ……。」
「もー!グリモー、虫になってないではっきり言えヨ〜!」
「あれ、プーレどうしたの〜?うっわ〜、おっきなたんこぶだぁ……。
ねー、これだれがやったの?」
恐れていた瞬間がやってきた。
「もしかしてさー……グリモーとカ?」
ぎくっと言う書き文字が現れそうなほど、グリモーは心臓が跳ね上がった。
動物の勘は鋭い。このパーティ全員にいえることだが。
「な〜んてね、そんなわけ……え、あるノ?」
動物の勘や読心術に頼るまでも無く、
グリモーの顔に答えははっきり書いてあった。
彼が観念してうなずいたのだ。
『ば……。』
パササとエルンが、そろって一拍間をおいた。
『バッカやろーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!』
その声の凄まじさは、周りの動物たちが騒音で逃げ出すほどだったという。

「も〜、ほんとグリモー馬鹿なんだからぁ〜!」
言いながら、しとめた獲物にパササとエルンはがっついている。
花の蜜をちゅーちゅー吸った後、
花や葉っぱと胴体をナイフで適当にざく切りにしてそのまま食べるのだ。
グリモーはプーレを戦闘不能に追い込んだので飯抜きだ。
「フェニックスの尾っぽないんだヨ〜?!」
「はい……すいません。」
いつものきかん坊が、嘘のように馬鹿丁寧だ。
わがままなくせに妙に気の弱いところがあるのは、
元々臆病で神経質なモーグリだからなのか。単に仲間が怒ると怖いからなのか。
「とりあえず〜……これだけじゃ足りないからもっとご飯とってキテネ★」
「よろしくぅ〜♪」
これだけ喰っておいてまだ喰うかといってはいけない。
腹ペコになったこの2人の食欲は、ヘルシーな植物モンスターごときでは収まらないのだ。
ベジタリアンなチョコボやモーグリとは違う。
パサラとカルンは毒があっても歯が立てば食べられる究極の悪食、もとい雑食だ。
「ダイジョブ、いざとなったらこれ投げてネ〜。」
「そ、そんなぁ〜〜〜……・・。」
一人ではモンスター退治も命がけな彼に渡されたのは、
今日何回再利用されたかわからないヒートだった。
たいまつに灯されたそれは、炎嫌いのグリモーなのに何故か唯一の味方に見えた。
黄色っぽい炎が、同情するように大きく揺らめいている。
その後彼は言われたとおりに一人で狩りに出かけ、
死にかけながら雑魚モンスターを山ほど狩ってきたのだった。
ちなみにプーレがどうなったかは、また別の話。


一方その頃。
バロンでめでたく即位した新・国王セシルの元に、カインが新しい案を抱えてやってきた。
「……で、カイン。これが君の勧める軍の兵糧の節約法かい?」
体裁だけはきちんとそろっている書類を見て、セシルが顔を引きつらせる。
『遠征における軍の兵糧調達』と銘打ったその案は、
要するに出向いた先のモンスターを狩って食べるというものだった。
「ま、ゲテモノ食いにはぴったりだろ?」
「人間には、食べられるモンスターに限度ってものがあるんだけどね……。
ていうか、食べたらまずい物ばっかりだし……これ。」
この案は当然却下の判を押された。
仮にも竜騎士団隊長であるカインにしては、やけにあほな案だ。
「そうか。よし、法案の査定Lv1クリアっと……。」
却下の判が押された書類を満足げに眺めた後、
カインはどこからか取り出したメモ帳に書き込んだ。
「って、僕を試してたのか?!」
「当たり前だ。お前は最近まで帝王学をやってないんだから、
まずこの辺で眼力を養わせないとえらい目にあうぞ。」
眼力も何も、普通こんな案にうなづく馬鹿が居るだろうか。
鍛えてくれているのか、単に遊ばれているのか。
何故かそこに迷ってセシルは頭を抱えた。

―END―  ―戻る―

別名グリモー不幸物語。彼はどうしてかいじられ役です。ラストは何故かセシルとカイン。
どうしてそうなったのか、今となっては定かではないです。