蒼空に馳せる




旅の途中に、ふと見上げた空。
それには一点のかげりもなく、ただ青かった。
セシルがこうして空をきちんと見たのは、久しぶりの事だ。
気がつけば空を見上げる余裕も失っていた事に、彼はそこで始めて気がついた。
「……うらやましいな。」
何かを意識したわけでもなく、ただ言葉だけが口をついてこぼれる。
地に生きる者達には、決して手が届かない領域。
その遥かな高みのどこかには、神々が住まう領域があると昔聞かされた。
  
  

けれど、いくら大空を翔る翼があったとしても、決してそこには届かない。
今は飛空艇を手に入れて、ゴルベーザの悪しき野望を止めるために世界を駆け回る日々。
そしてついには、わずかな手がかりから地底への道さえも切り開いた。
けれどそこに至るまでは、文字通りの茨の道。
愛する人は無力さゆえにさらわれて、親友は己に刃を向けた。
旅の途中で出会った人々も、次々に失った。
幾度も出会いと別れを繰り返し、虚偽と真実に幾度出くわしただろう。
そうしているうちに、空を見上げるゆとりは消えた。
余裕を失った事に気がつけないほどに急いた心は、立ち止まった時に初めて気がつく。
ああ、今まで自分はこんなにも焦っていたのか、と。
あわてて走る子供が、道の脇に咲く小さな花にも気がつかないように。
そして、いつの間にここまで来たのだろうかとも思う。
ともかく必死だった。大切なものを失うまいと。
狂猛なる悪しき者達を打ち砕かんと。
けれども力無き故に想いは空回り、願い虚しくクリスタルは奪われた。

―今度こそ僕は、護れるんだろうか……。―
土のクリスタルと引き換えに、というと語弊はあるが、愛するローザの命は守った。
洗脳が解け、親友であるカインは再び力を貸してくれることとなった。
失ったものは数多い。
けれど、取り戻せたものや新しく手に入れたものもまた、数多い。
悲観的な思考にとらわれていたばかりに、
こうして空を眺める今まで気がつきもしなかったが。
恐らく、それだけ必死だったのだろう。今までずっと。もしかしたら、今もまだ必死でいるままかもしれないが。
―いつか。―
こんな息つく間もない日々も、思い出として静かに振り返る事ができるようになるのだろうか。
寄せては返すさざ波が、波打ち際の小石を丸く削るように。
時の流れという圧倒的な大河が、つらい記憶も楽しい記憶も、優しく風化させてくれるだろうか。
真っ白な紙も、いつかは薄汚れた茶に染まる。
そうなったらきっと、
追憶の痛みを伴わずに誰かに語ることもできるだろうか。
だが、思い直したようにセシルは首を軽く横に振った。
そんなことは、今考えても仕方がない。

―今、しなければならない事は、いつか後悔しないように生きる事だけ……。―
セシルの名を呼ぶ声がする。物思いにふける時間は、もう終わりだ。
「今行くよ。」
過去はもう、しばらく振り返らない。過ぎた事を今更変えることなど、出来はしないのだから。
だから、過去にとらわれていても仕方がない。
それでもセシルは思う。
自分は弱いから、きっとすぐにまた過去を見てしまうだろう。
だからその時は。

青い空に、過去の悔恨を解き放とう。
過去に囚われて、前に進む力を失わないために。


―END― ―戻る―

ほとんど勢いだけで書いたので、なんだか意味不明です。
一応、セシルの独白で。内容が薄い……SSをきれいにまとめるのは苦手です。
使いたいセリフを思いついても、そこまで繋げられない、その先をまとめきれないのオンパレード。
やりきれない……。 文が短いのに掲載に踏み切ったのは、単に文の元になる絵があったからです。
ペンタブ直書きの割には、髪の線が上手くいきました。