それもまた一側面


凪さん(@musubikatana0)の女審神者・一葉ちゃんと山姥切国広の話。
一葉ちゃんの設定と元絵はこちら→刀結(別窓) 


刀剣男士の個体差は、存外あるものだということを、演練の場で知った。
「どうした?帰らないのか。」
「ううん。ちょっと、気になって。」
ぼうっと立ち止まったままの主・一葉に、彼女の山姥切が怪訝そうに問いかけた。
一葉の視線の先にいるのは、いかにもノリの軽そうな男の審神者と、その近侍らしき山姥切。
周りには、他の刀剣もいる。
主と仲間の軽口に、山姥切が眉を吊り上げて声を荒げている光景。
演練の会場はにぎやかで、あいにく会話までは細かく拾えない。
それでも男審神者に仕える彼が、一葉の元の個体と比べると感情の揺れ幅が大きく見えた。
彼女は、つい両者の顔を見比べる。同じ造作なのに、表情の差で印象は大きく違う。
「……やっぱり、違う。」
「何を考えていたのかと思えば、そういう事か。」
仕草でようやく合点がいき、一葉の山姥切は大きく息をついた。
「あんただって、話す相手が違えば態度も変わるだろう。それと同じ事だ。
あそこの『俺』は、たまたま『ああなる』相手と巡り会ったに過ぎない。」
かの山姥切と一葉の山姥切は、別に大きく根底が異なるわけではない。
刀剣男士は、人間の双子やクローンとは違う。顔が同じなら性格も同じだ。
無論顕現後の経験で差は出るが、精神も根底は変わらない。
あの男審神者の山姥切は、たまたま一葉の山姥切のような振る舞いが出来ない相手に巡り会っただけの事だ。
「……少し、思ったんだ。ああいう山姥切も、結構居るから。」
「あんたは気にしすぎだ。
俺も、あそこの『俺』も、別に自分を曲げて主に合わせているわけじゃない。」
一葉が疑問点を具体的に口にする前に、山姥切はその意を汲み取る。
主が何を思っているのか、彼にはおおよそ推測が付いていた。
「分かるの?」
「分かるとも。」
目をぱちぱちと瞬かせて、彼女はきょとんとした顔をする。
彼の言葉は淡々としていたが、何ら疑いの余地はないと言外に語っていた。
「……あなた達は、やっぱり不思議だ。」
「そうか?」
「うん。」
直接言葉を交わしたわけでもない別個体の心中を、一葉の山姥切は当然のように断言した。
だが、その言葉が不自然ともおかしいとも思えない。
それはやはり、彼らが人ならざる存在であるが故なのだろう。



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本丸の個体差のお話。大本は一緒でも、その後過ごした相手や環境で振る舞いには差が出るよなと。