一葉本丸の春夏秋冬


凪さん(@musubikatana0)の女審神者・一葉ちゃんと山姥切国広の絵につけた短文。
「#刀さに版この絵に文章をつけるとしたら」というタグのネタ。
一葉ちゃんの設定と元絵はこちら→刀結(別窓) ※元絵はメニューバーの茶色い小鳥アイコンへ
目次
▼春 
▼夏 
▼秋 
▼冬 









▼春

今日は絶好の花見日和。
執務の合間に、縁側で桜を見ながら一休みしたらどうかと、
一葉と山姥切を誘ったのは、山姥切の兄弟刀・堀川だった。
「ちょうど、今日が満開ですから。
こんな日に、執務室で根を詰めてたらもったいないですよ。」
人懐こい笑みを見せながら、堀川は一葉にそう声をかける。
「ありがとう。これは……お花?」
器の中にゆらゆらと花弁を漂わせるのは、塩漬けの八重桜。
実物を今回初めて目にした一葉は、興味津々といった面持ちで覗き込んでいる。
「桜湯……歌仙か?」
季節に応じて洒落たものを供するといえば、ぱっと思いつくのはやはり彼だ。
「そうだよ。あ、僕は長谷部さんの所にも持っていくから。
2人でゆっくりしててね。」
そう言って、堀川は去っていった。
「お花見かぁ……。」
桜湯を口にしながら、しみじみと一葉が呟く。
「桜の下で、お弁当を広げたりするの、やってみたいかも。」
「……いいんじゃないか、やっても。短刀達も喜ぶだろう。」
「本当なら、遠くに出かけてやるみたいだけど……。」
「細かい事を気にするな。
花見は要するに宴会だ。騒げれば何でもいい。そういうものだ。」
いつものごとく取り澄ました山姥切の返事に、
そういうものかと、一葉はぼんやり聞いていた。







▼夏

祭りがあるのだと、声を弾ませてチラシを持ち込んだのは誰だったか。
混雑に、人並みの育ちと程遠い人生を歩んだ主を連れ出して、人酔いしたらと、
そんな心配も一瞬過ぎりはしたものの。
息を呑んで、きらきらと目を好奇に輝かせた彼女を見たら、連れ出してやりたくなった。
見るもの全てが珍しいのか、書物の知識と現物をしみじみ比べて、
いつになく浮かれているように見えた。
「あ、両手が塞がっちゃった……。」
綿飴を買った所で、しまったという声音で主は言った。
先に買っていたりんご飴があったから、手が塞がるのも当然だ。
「どっちから食べよう……。」
「綿飴はすぐにしぼむぞ。そっちから片付けた方がいい。」
「そうなんだ。持たないね……。」
そう言って、主は俺の勧めに従って、綿飴をかじり始めた。
邪魔そうに見えたりんご飴は、さりげなく俺が預かる。
食べる間、人目を気にせず済むように、布の中に主を入れてしまう。
綿飴に夢中らしく、気付いた様子はない。
背後では、花火が始まる音がした。








▼秋

うだる暑さが過ぎてしまえば、実りの秋がやってくる。
衣替えを急いで済ませて、今日は月見の晩。
「寒そうだな。」
「そんな事ない。羽織だって着てるもの。」
子供ではないのだ。冷えるのを見越した装いはしていると、一葉は言い返す。
「もう夜は冷える。見栄を張るな。」
女に冷えは大敵だろうと言って、
山姥切は自分が羽織っていたものを、一葉にかぶせた。
「私、丈夫なんだけどな。」
「それは人間の中での話だろう。」
過保護だねという、主の文句は、虫の声に紛れて聞き漏らした振りをした。









▼冬

今回の出陣先は、ちょうど冬の戦場である。
現在拠点を構えるこの場所も、大変冷え込む。
「ううーん……どういうルートがいいかな……。」
「焦るな。まだ時間はある。」
いたって真剣に、行軍ルートを思案する一葉。
それに声をかける山姥切。いつもの本陣の風景である。
だがしかし、和泉守は、2人の現状に大いに疑問を呈していた。
2人の首に巻かれたマフラー。それがどう見ても、一本の長いもので。
―あれはどうなんだ……。―
まさかそのまま進軍するわけはないだろうと思いながらも、
彼は先程からぐるぐる考えてしまっていた。



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ツイッターのハッシュタグに便乗。一葉ちゃんの口調再現が、実の所一番さじ加減が難しかったという。