嘆きに堕ちた神の果て




紅葉さん(@rion_vir_yume)の女審神者・真宵ちゃんの本丸が壊滅した後の話。
真宵ちゃんの設定→審神者設定(別窓)

※刀剣男士の闇堕ちネタ。下記ツイートにある、超絶バッドエンドをイメージ。
元ネタ:https://twitter.com/rion_vir_yume/status/718841956420300800
https://twitter.com/rion_vir_yume/status/718848497508687872


審神者の死でおかしくなる刀剣と言う話は、実の所珍しくない。
要するにどういう関係性を築いていたか、それが問題なのだ。
生前の審神者と仲睦まじかったからと言って、その死に発狂するわけではない。
お互い依存する関係であったとか、どこかが不健全な関係が良くないとは言う。
要するに、片割れが消えたら、残った方の精神も崩壊するような関係だと良くない、という推測だ。
その上で、審神者の死に方に諦めがつかない要因がある事が、発狂の大きな要因である。
理不尽に大切な主を奪われた怒りと悲しみが、彼らの精神を狂わせるのだ。
では、そうやって発狂した刀剣は、どんな運命をたどるのか。
普通は、強制的に政府の術士が刀解するなり、仲間が叩き折るなりで鎮圧される。
外部に影響するような問題にはならず、後でその刀剣は供養されてお終いだ。

ここで、そうならずに大事に至った過去の実例を紹介しよう。
昔々、審神者制度が始まって間もない頃の事件だ。
刀剣達に溺愛された、まだ年端も行かない双子の審神者が居た。
身寄りもない彼らを刀剣達はとても不憫に思い、我が子のように可愛がった。
しかし可哀想な事に、彼らは揃って非業の死を遂げてしまう。
その後は大変だった。本丸の刀剣の、ほぼ全員がおかしくなった。
命からがら本丸を逃げ出したこんのすけが、政府に緊急事態を訴えた。
政府はすぐに本丸のゲートを封鎖したが、遅かった。
亡くした主の面影を求めた刀剣達は、主と同じ背格好の男女の双子を求めて、各時代をさまよい始めたのだ。

それからはもう大変だった。
発狂した刀剣達は散り散りばらばら、どこに降り立ったかも分からない。
別の本丸所属の刀剣男士の感覚だけを頼りに、人海戦術で捜索した。
堕ちたとはいえ、元は同じ刀剣男士。彼らの感覚でなら、現れる前兆を掴む事が出来たのだ。
だが、彼らは説得で正気に戻せなかった。
政府はやむを得ず、見つけ次第折って回る事を決断する。
各本丸に討伐命令を出し、特別に報奨金も出すほど力を注いだ。
それでも収束するまでに、多くの時間と人手もかかった、まさに悪夢だった。

さて、何故こんな過去の例を引いてきたのか。
その悪夢が、更なる脅威となって再来したためだ。
本丸中の刀剣が発狂したその本丸は、先日亡くなった藤花の審神者のものである。
ここの場合、さらにたちが悪かった。
前例では正気だったこんのすけすら発狂し、発覚自体が遅くなったのだ。
事態が明るみに出たのは、こんのすけからの定期連絡が途絶えた事がきっかけだった。
こんのすけの連絡が途絶えるのは、すなわち異常事態。
政府が独自に取得した本丸内の映像は、案の定一目で分かる異様な光景だった。
政府は慌てて本丸のゲートを封鎖したが、担当部者は恐慌状態に陥る。

そもそもからして、亡くなった藤花はまともな死に方ではなかった。
彼女の刀剣達には、現世に戻った際の交通事故と説明されたが、実際は違う。
彼女を霊力増強研究のサンプルとして使うため、政府のとある部署が謀殺したのだ。
生かしたままでは、研究協力が得られないと見越しての独断だった。

その部署は、かねてから人権意識に欠ける施策が多い一派だった。
彼らにとって、審神者は刀剣男士を維持するための人型兵器。
勝つために、国際的に禁止されているクローン製造もすべきという主張も辞さない。
霊力増強研究というのも、内容はお察しだ。
要するに、国際法に触れない範囲で凡庸な審神者を霊力増強するという目論見である。
生来持ち合わせない霊力をいきなり与えられるリスクは、二の次以下だった。
ともかく、その一派の凶行がかつての悪夢を再来させたのだ。
刀剣達が発狂し、亡き主を求めて時空をさまようあの悪夢を。

しかも今回は、前例よりも格段に状況が悪い。
藤花の審神者が要する刀剣達は、彼女の霊力を受けて非常に力が強かった。
他の本丸の刀剣では対抗するのは非常に難しく、本霊を引っ張ってくるしかないとまで言われたほどだ。
だが、そんな危険な事はもちろん出来ない。
どこの世界に、生産工場を前線に出す馬鹿は居るのだ。と言う訳で、政府は頭を抱えてしまった。
誰も倒せない狂戦士達が時空に野放し。倒せない遡行軍を増やしたようなものだ。
そして、そこにさらに悪い知らせが入る。
出陣同行する審神者が、何と発狂した藤花の刀剣に最優先で襲われたという。
かろうじて部隊は撤退できたものの、審神者は深手を負ってしまったとの事だった。
自分達が失った主を持っている同源別個体が憎らしかったのだろうか。
あるいはと、ある役人は思った。
あの一派が霊力増強研究の被験者として、襲われた審神者を選んだのかも知れないと。
藤花の刀剣は、主と同じ霊力の名残でも感じて、よそから奪い返そうとしたのかも知れない。
その辺りの真相は不明である。調査はまだこれからなのだ。
しかし、調べる時間も彼らは与えてくれない。
あちらこちらで目撃報告が上がり、案の定手の付けられない実力で暴れているという。
原因を作った一派はさすがに処罰が下ったが、それで発狂した刀剣達が治まるわけではない。
困り果てた彼らは、ひとまず各本丸に注意喚起を促した。
遭遇したら戦わず、即時撤退。特に審神者連れは危険が高い可能性がある事。
少しでも早く気付くため、部隊の偵察力は高める事。
該当箇所で歴史改変が起きていた場合も、いったん無視して後で修正すべしと。
何の解決にもなっていないが、それ以外に手はなかったのだ。

「でも、どうやって彼らは知ったんでしょうか。」
藤花を担当していた女役人が、震える声で言う。
訃報を告げに言った彼女も、担当していた審神者の本当の死因を知らなかった。
それなのに、本丸に居た彼らがどこでその死の真相を知ったのか。
こればかりは全く見当も付かなかった。
「分からん。神のみぞ知る、としか言えん。」
上司である男は渋い顔で言った。
前例の通りなら、彼らの説得は不可能。破壊以外に手立てはない。
だが、強過ぎる彼らの破壊はまず無理難題。
どうすればいいか、数多の非常事態の前例を知る彼らも途方に暮れてしまったのだった。



―END―  ―戻る―

収拾が付かなさそうな、超絶バッドエンド。
ちなみに、何とか死んだ主の遺体を手に入れて突きつければ、主の死を悟ってどうにかなるとの事。