付喪神の放浪歌



紅葉さん(@rion_vir_yume)の女審神者・真宵ちゃんと、彼女の刀剣達が登場する小話。
真宵ちゃんの設定→審神者設定(別窓)
4本全て、サージュシリーズの歌詞の内容が元ネタで、タイトルの括弧内が曲名。
内容は大まかにループ開始→ループ途中(正気)→ループ中(闇堕ち)→ループ終了


郷愁回帰(zu-fao jen-din;)

絶望の淵で涙も枯れた。羽根をもがれた黒揚羽が地に落ちる。
千切れた羽をかき集め、呆然と立ち尽くす我が身に、届く慰めの言葉などなく。
付喪として生を受けて以来の苦悩の中、ようやく訪れた穏やかな日々。
それを亡くした慟哭が、どうして癒えようか。

藁にも縋る心地で願う。もう一度あの声を聞きたいと。
この無慈悲な現実を打ち払い、あるべき世界に立ち返る。
そこにあるのは希望か絶望か。構う事無く時を遡る。
狂った未来に抗い、過ぎし平穏に手を伸ばす。

幾度の失敗を繰り返しただろう。もはや己が心の形も忘れた。
ただ胸の内に残る願いの残滓が、この身を突き動かすままに征く。
過去を忘れるほどの悲しみを超え、笑顔を向けてくれた彼女のために。

皆の想いを携えて、かすかな可能性に挑もう。

あの日、血反吐を吐く想いで叫んだ。もう一度目を開けてくれと。
壊れたゆりかごを弔い去る。絶望の終わりか始まりか。恐れる事無く時を遡る。
さすれば過ちをすり抜けて、悲劇を先回りできるだろう。
この手で夢を取り戻す。忌まわしき現を切り捨てる。
俺は諦めない。あんたは生きろ。
俺が迎えるその日まで、決してその命を散らさぬように。


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世界の少女(Class::CIEL_NOSURGE;)

幾度愛して、失っただろうか。指折り数えて口ずさむ、同じ轍を踏んだ過去。
流れる血に乗り、命は消えゆく。死に行く体を脱ぎ捨てて、無垢な魂は飛んでいく。
去り行く人をなくさぬように、数多のえにしを頼りに手繰る。
輪廻の果てに消えゆく魂と、離れてしまわないように。
半ばで絶たれた日々を取り戻すことが出来た時、
叶うのは誰が夢見た未来だろうか。
問いかけるように、いつか聞いた数え歌を歌う。
遠い世界の果てに祈れども、輪廻の環の中、正しい巡りからはぐれ彷徨う。
秩序なき浮世は、いつか俺達の楽土となるだろうか。
明日へのかすかな道筋を辿り、一日でも長く未来に繋ぐ事が出来たなら、
そこに夢や希望はあるだろうか。
掻き消えんばかりの希望を、繰り返す出会いに託して祈る。

彷徨うは業を抱えた付喪神。襲う悲劇は前世の因果。
神の牢に繋がれた審神者(にえ)の重苦は絶え間なく。

取り返しの付かない咎を、命を絶やした深い傷を。
全て許してしまう主の耳に届かぬ所で、囁き歌う罪の数え歌。
三千世界にただ一人と、心捧げた主の幸を願う。
されど御饌(みけ)を食む者は、幾度生が巡れど引きも切らず、未だ嘆きが去る事はない。
誰が為に憂うのか。魔除けの花を物言わぬ黒絹に飾り物思う。
再び共にと希い、主の元へと皆集えども、幸を願う心は曇り迷い、真に想えるはずもない。
それでも甘露を求める有象無象を蹴散らして、
巡り会うたび何度でも、愛しき主と心を結ぶ。


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黒刀渇望(Class::EXSPHERE_NOSURGE;(beta))

消え失せろ。
目障りな刀も偽りの安寧を享受する本丸も。紛い物の庭も自然も。
狂った世界も、俺と主を阻む全ての障壁も。
俺以外の刀は要らない。疾く速やかに、全て全て消え失せろ。
消え失せろ。無に帰せ。鉄に溶け還るがいい。それこそがあるべき姿。
消え失せろ。無に帰せ。刃を折って還るがいい。それこそがあるべき姿。
全ての刀を、甘い檻から解き放とう。
刃を折り、鉄に溶かし、鋼の器の破壊をもって。
その血こそが、我が渇きを潤す慈雨となる。
その血こそが、我が安息をもたらす光となる。

この手で作り上げよう。至高の美(死)を。
あんたの命を咲かすも散らすも、全て俺の手の上で。


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回帰唄(Class::DISTLLISTA)

時の彼方に置き去りにした、遠い過去の想いに帰ろう。
過ちを積み重ね、本当の想いが枯れ絶えた世界から。
刹那の平穏しか得られぬと諦めた、頑なな心が解けて溶ける。
楔を切り裂いたのは、擦り切れるほどの繰り返しの中に生まれた奇跡。
数多の罪を赦そうという、優しくも鋭い言葉の刃を受け入れよう。
それを受け入れねば、前に進めぬのだから。

もう一度、俺達が真に願った日々のために踏み出そう。
共に手を取り合い、今度こそ幸せを掴むため。
失った想いを、もう忘れぬように。
いつしか思い出せなくなっていた、共に苦楽を分かち合ったあの日に帰る。
ついに亡くさずに済んだ愛しい主。その細い指が、俺を正しき道へと導いてくれる。
時の流れよ巻き戻れ。今度こそ永の幸を築くために。
もう一度、すべてが始まったあの地に還ろう。



―END―  ―戻る―

実際の真宵ちゃんの国広君は、ループ中にループの自覚はないけれど、あくまでイメージ。