天然無機物な少年達



ミネラルタウン。どこかの国の、どこかの外れにある田舎町。
住人は皆親切な人ばかりで、平たく言えばのん気なところだ。
現に、パトロールに出ている警官が一人しか居ない。
ここ数十年、大きな事件もおきていないからだ。
そんな平和ボケといっても差し支えの無い町に、一人の少年が今年の春からここに住んでいる。
名を、グラスという。

元々彼は他の町に住んでいて、この牧場に来たのは幼少期に迷ってそこを訪れた一度だけ。
しかし今は、ここに住んでいた亡き老人の後をついで、
たったの3年で牧場を立派にするために働いている。
あまり口数は多いほうではないが、人付き合いはそこそこ上手い。
本業の牧場も、確実に立派になってきている。そして何故か女性の受けもいい。
だが同年代の男性には、生ける最終兵器として恐れられているという。

「あ〜……やってらんないよ。ったく、もう。」
悪態をつきつつ、頭の上にカゴを載せたまま走るグラス。
愛用品であるそれには、たくさんの自然の収穫物や作物が詰まっていた。
かきいれ時の夏。暑いわ忙しいわ、コロボックル達が役立たずだわで、もう大変だ。
これで出荷する野菜や果物が安く買い叩かれていたら、もうやってられない。
多分、出荷業のザクをクワでどついていただろう。
「お、グラス。何してんだ?」
道を急ぎ足で通っていると、雑貨屋帰りのリックがグラスを呼び止めた。
ちなみに彼は、牧場の近所にある養鶏場で母や妹と共に生活している。
「ん、ボックルどもをこきつ……いや、雇いに行ってた所。」
暑くて頭が回らないためについつい口を滑らしたものの、
やはり暑さでまいっているリックは気がついてない。
「へ〜……ああ、お前のところ一人だもんな。」
一人で納得してうなづいている。
もっとも、グラスにしてみればかなり都合がいい事だが。
「まあね。で、何か用かい?」
しばらくめぼしい行事も無いし、目だった問題も起きていないはずなのだが。
とりあえずカゴを地面に下ろしてみる。
いくらなんでも、頭にこれを乗せたまま聞くのは色々な意味で少々つらい。
「ああ。実は、ちょっと頼みがあるんだ……。」
少々バツが悪そうにリックが口を開き、耳元でひそひそと何かを伝えてくる。
それを聞いて、グラスは唖然とした。
「はぁぁーー?!」


ザクッザクッと、つるはしやクワが振るわれる音がする。
グラスはクワを振るう手を一時休め、額から伝う汗を手でぬぐった。
「ったく、何で俺までこんなことしなきゃいけないのさ……。」
裏山のふもとにある、滝の裏の鉱山。
グラス・リック・クリフ・グレイ・カイの3人はざくざくと鉱山の中を掘っていた。
地下一階のため、夏でもひんやりとした空気が漂う。
「ほんとだよ。ったく、お前らばっかじゃねーの?
オレまで臨時休業する羽目にしやがって。」
グラスに同意したのは、夏だけこの町にやってくる都会の住人・カイ。
調子がよく面白いので女子供には好かれるが、
人を馬鹿にしたところがあるので同性には年齢問わず嫌われ者である。
ちなみに、グラスも心中では嫌いという噂があるが、真相を聞くものはいない。
「うるさい!文句はリックに言えよ!!」
むきになって怒鳴り返したのは、鍛冶屋の祖父の元で修行中の青年・グレイ。
男としてのプライドは高く、血の気が多い。
最近、図書館の受付をしているマリーが気になっているという噂だ。
その性格のせいか、こんな風に自分の失敗をなかなか認めないこともある。
「なんだと〜?!」
リックまで怒鳴り始める始末。
もはやグラスは、馬鹿馬鹿しくて付き合っていられなかった。
だが、クリフが必死に帰ろうとする彼を押し留めているので帰れない。
ちなみに、クリフも他の場所からやってきた青年。
昔何か会ったようで、今は毎日教会に通って懺悔している。
彼もグラスやカイ同様、引っ張ってこられたらしい。
「頼むよグラス〜……おれじゃあこの面子を止められないんだ〜!」
泣き付かれたため、仕方なく付き合うことにした。
そもそも、こうなった原因は昨日のある事があったためだ。

それは、昼前の頃だった。
「おいリックー、ちょっとこいよー!」
どういう風の吹き回しか、グレイが珍しく養鶏場にやってきた。
町の若者は、けっこう仲がいい。
とはいえ、それぞれ仕事もあるので酒場でもなければ会うことは少ない。
お互いの家や職場に買い物以外の用事で訪ねるとなると、さらに珍しいことである。
皆、それぞれ仕事や都合があるから当たり前だ。
丁度鶏の世話と卵の出荷が終わったリックは、
作業用の軍手を外しながら話を聞くことにした。
「グレイじゃないか。何でつるはしなんか持ってるんだよ?」
訝しげに問うと、にんまりと何か企んでそうな表情をグレイが浮かべた。
つるはしを片手に。つるはしと養鶏場。不釣合いな組み合わせである。
鉱山にでも誘う気だろうかとリックが思った。
するとグレイは、こう続けた。
「裏山のとこに鉱山あるだろ?
あそこでやりたい事があるんだよ。ちょっと、付き合ってくれないか?」
リックの予想通りの反応。
少々迷ったが、そう時間はかかりそうもないし、今日の仕事は終わっている。
今は暇なことだし、少しくらいならと思ったリックは、グレイの用事に付き合うことにした。

そしてやってきた鉱山。
「でもさー、何でこんなところにきたんだよ?」
つるはしでどんどん深く掘り進むグレイに、リックは思わずそう問いかけた。
ちなみに手伝いのリックはクワで掘っている。
「いやさ〜……ちょっと、じいさんに内緒で作りたいものがあってよ。」
女がらみか。リックは何となくピンと来た。
ちょっと視線が泳いでる辺り、怪しい。
「ったく。で、探してるのはどんな鉱石なんだよ?」
ぼろぼろ出てくるクズ鉱石でないのは分かる。
と、なると銅・銀・金・それとも他の物だろうか。
「ミスリルだよ。ほら、あの青いやつ。」
あぁ。と、リックは納得した。
よく、グラスが使っている光景を見かける水色のじょうろや斧。
彼に聞いたところ、鍛冶屋でミスリルと代価を払って鍛えてもらったといっていた。
リックも鍛冶屋には点検のために行くが、ミスリルで鍛えたものは持っていない。
1つ5000Gと高価なので、病弱な母の薬代があるリックには買えないのだ。
「グラスが持ってる道具に使ってあるやつだろ?
すごく丈夫で、しかも強いっていう。」
グレイが深くうなづいた。
しかし、硬くて丈夫な分、素人目にもあれは扱いが難しいと思うのだが。
「あれさえあれば、俺にだっていいもんがつくれんだよ。お、あった!」
どうやら、見つかったらしい。グレイの前に、青く輝く鉱石が現れた。
「やれやれ、やっとだな。っと。」
リックが思いっきり腕を伸ばして、どんと壁に寄りかかる。と。

ガラガラガラガラ……。

突然、岩が崩れてきた。
『ギャァァァ!』
襲い繰る岩に、慌てふためいて逃げ出した。
幸い、崩落が極局地的だったことと、あまり大きな塊がなかったことで、
怪我も奇跡的なことに擦り傷と打ち身程度で済んだ。
ところが。
その時、グレイは折角見つけたミスリル鉱石とつるはしを。
リックは、今度の日曜日に病院で払うはずだった病弱な母・リリアの薬の代金を。
2人仲良く、見事に落としてきたのだ。
そして、それら探すために3人巻き添えにして今に至る。

「大体日曜に払う予定の金なんて持ち歩くかな、普通……。
昨日は火曜日だろー?」
呆れつつも、見つからない限り返してもらえないことを悟っているグラスは、愛用のクワでひたすら掘る。
他のメンツはつるはしで掘っているというのに、
どういうわけか、このクワは鉱石を掘っても刃こぼれ一つしないらしい。
「そりゃ、日曜に渡すのが予定だったけど……。忙しいと忘れるだろ?
そういうグラスだって、この前トーマスさんに頼まれてた用事忘れたじゃないか。」
リックが言っているのは、今月上旬の日曜日のことだ。
グラスは町長のトーマスから、足の悪い老女・エレンに自分の代わりにアップルパイを届けてくれと頼まれていた。
が、あまりの忙しさについ忘れていて、結果見事にすっぽかしたのだ。
「あぁ、いつも暇こいてるサボりまんじゅう頭の依頼のこと?
そんなのとっくの昔に忘れてるよ。
あ、エレンばあさんには自家製の菓子つきで後でお詫びに行ったけどね。」
さらっとグラスが吐いた黒い発言。
最後の言葉が、申し訳程度のフォローにも聞こえない。
〔うわ、ひでぇこいつ!!〕
その場にいた、男衆(黒発言の当人以外)全員が同じ事を考えた。
グラスの黒い一面が、少し露見した気がする。
「そ、それにしてもさ、なかなか出てこないよな。
もうずいぶん探してるのに。」
この雰囲気をどうにかしようと、クリフが必死に話題を変えた。
そう言われて時計を見れば、もう探し始めてから3時間も経っている。
そして、今居る場所は地下4階。
銅や銀がごろごろしているエリアで、まだ金やミスリルはたまにしか出ない。
ちなみに普通は、こんなに時間をかけて掘り進む事はない。
だが今回は、落とした物を探すために一階一階全部掘って回ったのだ。
その間、グレイとリックの喧嘩は絶えることは無かった。
その影で二人をなだめるのにクリフは必死だったし、
グラスはあまり喧嘩がひどいだけ、二人の上で斧を振り上げて黙らせたりといった具合。
最初にその技を披露したときは、クリフのみならずカイにも止められたのだが。
「そろそろまた休まない?
休憩入れないと、石掘りなんて持たないって。」
どかっと地べたに腰を下ろして、ちょいちょいと他のメンバーを手招きする。
リックを除いたメンバーは、さっさと座り込んで休憩に入る。
カイに敵がい心を持つリックだけは、少々渋い顔しながらそれに従った。
「なぁグラス、前から思ってたんだけどさあ……。」
クリフが、遠慮がちに小声で話しかけてきた。
「ん?」
愛用のカゴに寄りかかりながら、話を聞くそぶりを見せる。
(カイとリック、なんであんなに仲が悪いんだ?)
彼は二人とさして付き合いがない上、リックがカイと仲が悪い理由を話さないので知らないのだ。
グラスは立ち聞きしてしまったから知っている。
もっとも、聞きたくて聞いたわけではないのだが。
(ああ、リックの妹居るだろ?ポプリっていうふわふわした子。
カイのやつが気があるらしくってさ、兄貴としては許せねーってさ。
でも、当のポプリがカイに気があるから余計むかついてるって話。)
抑揚の無い声で、淡々と説明した。
リックの妹・ポプリは可愛らしい顔立ちで、性格も子供っぽいところがある。
その上相手が夏しか来ない軽い男だから余計、らしい。
兄の目には、世間知らずの妹をたぶらかす悪人にしか見えないのだろう。
(あ〜……そういえば、誰か言ってたなぁ。)
などとひそひそ話している二人を、遠巻きに見る残りの三人。
「あいつら何はなしてるんだ?まさか、逃げようなんて思ってないだろうなぁ?」
リックが、じと目でこそこそ会話を続ける二人を見る。
内容が聞こえてこないので、余計に勘ぐってしまう。
「えー脱走?!おいおい、そりゃ無いじゃん……ずるくない、それって?」
カイは、実はここまで来る間に一回脱走を試みていた。
勿論、本業の方に戻りたかったからである。
が、地獄の門番のごとき迫力で襲ってきたグレイとリックに挟み撃ちにされ、その時点で諦めた。
都会の家族の下に、無言の帰宅なんてごめんである。
(おい、カイ……。死にたくなかったら、町長は怒らせてもグラスだけは怒らせるなよ。
あいつが切れたら、それこそ生命の危機に関わるからな!)
グレイが、グラスの方を気にしながらカイに耳打ちした。
これだけは忠告しておきたいのだ。
「え、何で?」
いまいち分かっていないカイが、目をぱちくりさせる。
(馬鹿、声がでけーよ!聞こえたらまずいんだろ!
っと……とにかく、グラスを怒らせたら3日はまともに寝られないぞ。
それだけは言っとくぜ。お前のためだから。)
切羽詰った表情でそう言われても、やはりカイにはぴんと来なかった。
夏しか居ないので、グラスと付き合いが浅いせいだ。
後は、ここの住人には珍しく毒気がある位か。プラス、さっきの黒発言。
「そーかぁ〜……?」
いまいち危機感が沸かないカイは、納得していない様子でぽりぽりと頬をかく。
と、話が終わったグラスが何か放り投げてきた。
3人は、何かと思いしばし首をかしげる。
アルミホイルに包まれているため、中身がわからない。
「なぁグラス、これなんだ?」
リックが問うと、グラスはクリフにもそれを渡してからこういった。
「ん、俺の一日分の弁当。だから、中は全員ばらばら。
皆結構疲れただろ?それでも食べて、もう一がんばりしよう。」
グラスの相変わらずな淡々とした物言いと今までしていた話のせいか、
恐る恐るといった手つきでアルミホイルを開けてみる。
そもそも彼の料理がおいしいかどうかすらよくわからない。
「お、おれのは当たりみたいだ。わ〜、卵サンドかぁ〜……。」
クリフが、ほっとした表情で息をつく。
彼は家庭の味に飢えているため、いわゆる手料理に弱い。
作り手が、男か女かということにはあまり関係なく。
「えーっと、オレのはきのこのソテーか?」
リックがもらった料理は焼いてあるため、退色して何のきのこかよくわからない。
グレイの方は、おそらく同じきのこを使ったと思われるきのこご飯だった。
ちなみにカイはごく普通のオムレツ。
「お、うまそうだな。いっただっきまーす。」
そう言ってきのこご飯にかぶりついたグレイとほぼ同タイミングで、全員が料理をほおばった。
むしゃむしゃと、うまそうに食べている。
が。
『?!!!』
突然、リックとグレイを襲った猛烈なめまいと痺れ。
平たく言えば、全身の力を吸い取られるような感じだ。
一気に体力が奪われてふらふらになる。
「お、おい……グラスてめぇ……な、何入れたんだよ……!!」
思わず腹や喉を押さえる二人。
どこと無く、痙攣を起こしたようにぴくぴくしてるが。
「い、言わないと・・なぐ、殴る……ぞ!」
顔を真っ青にしたリックが痙攣(?)しながら言っても、
どう見たってゾンビ復活の瞬間である。
いつも強気なカイまでもが、カタカタ震えて怯え始めた。
「カイ、寒いのか?」
卵サンドをはみながら、クリフが怪訝そうに尋ねた。
「そんなわけあるかー!!お前感覚いかれてるぞクリフ!!
オレは、落し物探しじゃなくてサバイバルホラーに来させられたのか?!
おい、何とか言えよグラス?!」
怒鳴られた当の本人は、どうやって持ち歩いていたのかカレーうどんをすすっていた。
あっという間に食べ終えた後、のん気に水筒のスポーツ飲料を飲んでいる。
そして、飲み終えて口の周りをぬぐってからようやくこちらを向いた。
「うるさいな……。ちょっとした罰ゲームだって。」
『「ちょっと」したーーー?!!』
ちらりと、カイとクリフが後ろで苦しんでいる二人を見た。
これで『罰ゲーム』レベル、らしい。
なんて恐ろしい男だ。
と、いうかすでにこれは傷害事件という気もするが。
ここを出たらすぐに、警官のハリスに訴えるべきだろうか。
いや、そんなことをしたら最後、呪い殺されかねない。
「で、でででも何で二人にそんなものを……??」
かなりどもりながら、冷や汗かきつつ尋ねてみた。
すると、彼は表情を変えずにこういった。
「上で散々喧嘩して、俺の邪魔したから毒キノコ入りの料理食わしてみた。」
今度は黒を越え、さらりと悪魔発言。
冷静に考えて、料理なのだからあらかじめ仕込んできたはずで。
と、言うことは2人がけんかすることを予想したうえで、わざわざ作ってきたことになる。
見たくなかった他人の裏面を見るということはこういうことか。
その上、本人は隠す気0だ。
「ぐ、グラス……お、お前って……。」
思わず後退る。こいつは、自分の邪魔になる人間なら平気で消せるのでは……。
などという思いが頭を掠めた。
「大丈夫だって。ほら解毒剤。それで痺れは取れるはずだけど?
放っておいても、1,2分で痺れは取れるけどさ。」
幸い、殺意は無かったようだ。
だがこのままでは、いつ殺されてもおかしくない気がする。
ともかくリックとグレイは、生きて地上に戻るため早々に休戦協定を結んだ。
もちろん喧嘩が収まったことで、作業効率が上がったことは言うまでもない。

それから30分後。
「あ、あったぁ〜!」
グレイが、つるはしに当たったものを見て歓喜の声を上げた。
天使が頭上でラッパを鳴らしている。
そこにあったのは勿論、無くしたつるはしとあの日見つけたミスリル鉱石。
落ちてきた岩のせいで、つるはしは柄が折れてしまっているが。
「ていう事は、この辺か?!」
それを見たリックが、そこら中をがむしゃらにほっくり返す。
すると、岩の隙間に挟まっている薬の代金が入った封筒が有るではないか。
あわてて取り出して封筒の状態を確認すると、
やはり落ちてきた岩の衝撃でずいぶんぼろぼろになっていた。
札は何とか無事だったのだが、一部の小銭が割れてしまっている。岩がクリーンヒットしたのかもしれない。
「あっちゃー……。どうすりゃいいんだよこれ。」
見つかったのはいいものの、リックはがっくりと肩を落とした。
小銭とはいえ、お金が原形をとどめていないと激しくへこむ。
それを、グレイとクリフが懸命に慰める。
「ま、まあ見つかっただけいいだろ?」
「そ……そうそう。それに、町の銀行で取り替えてくれなくても、
さっき掘ってて見つけた小銭があるじゃないか。」
掘ると時々見つかる金袋は、隅々まで掘ったおかげでそれなりの金額に達していた。
それに、グラスが探し物ついでに、ちゃっかりカゴに入れたたくさんの鉱石もある。
「それに、後で俺に穴掘り賃も払うんだろ?
小銭の一枚二枚なんて、気にすることないって。」
「ああ……って、何だよそれ?!
おれは、そんな事一言も言ってないぞ!!」
危うく乗せられかけ、あわてて否定した。
まったく、油断もすきもあったものではない。金に余裕があるくせに、何故かがめつい。
ボーっと聞き流していると、時々何を言うかわからないのもグラスの怖いところだ。
「おい、見つかったんなら早くかえろーぜ。
早く太陽が見てー!」
カイは、いかにもせいせいしたといわんばかりの表情で、一人さっさと帰る支度を始めた。
「あ、おい一人だけ先に帰るなよ!」
すかさずリックの罵声が飛ぶが、そんな事お構いなしだ。
「いいだろ、見つかったんだから。じゃ、お先……」
リックの言葉に口を尖らせつつ、カイがはしごに足をかけた瞬間だった。

ガラガラガラガラガラ……。

『ぎゃーーー!!』
カイがあわてて飛びのいた瞬間、はしごに岩が3、4個当たって倒れてしまった。
当たり所が悪かったのだろう、倒れてきたそれは使い物になりそうに無い。
出口自体は塞がっていないので、不幸中の幸いといったところか。
「……壊れた、な。」
ミスリル鉱石を抱えたグレイが、呆然としてつぶやく。
どうやら最近、この辺りはもろくなっているらしい。グレイは、呆然としている割に冷静なことを考えていた。
「うん……。」
倒れたはしごを眺めながら、クリフも同じようにつぶやいた。上の階は、ジャンプしても当然届かない。
「カイ。」
グラスが、抑揚の無い声でカイに話しかける。
彼の声に抑揚が無いのは癖なのだが、何故か背筋に寒いものが走る。
「責任、取ってもらおうか。」
思わずカイはビクっと身をすくませる。だが、グラスの行動は皆の予想を裏切るものだった。
「まぁ、どいてな。」
カゴから取り出したフック付きのロープを振り回し、素早く天井の穴付近の出っ張りに巻きつけた。
その技は実に鮮やかだった。
「ふぁ〜……。」
感嘆したように、リックが間抜けな声を漏らした。
彼は町にいる間にレンジャーの訓練でも受けたのだろうか。馬鹿なことだと思いつつも、そう考えてしまう。
「さ、登るよ。ただし、一人ずつだけど。」
あっけに取られるほかのメンバーをよそに、
グラスはさっさと上に登り始めていた。
愛用のカゴも、いつの間にか背中に紐でくくりつけている。
その状態でどうやってと思っているうちに、
あっという間にグラスが登ってしまったので、
リックたちもじゃんけんで適当に順番を決めて登る事にした。
『じゃーんけーん……』

一番目は、行いが良いのかリックに決まった。
二番目はクリフで、3番目がグレイ。そして最後がカイだ。
皆素早く登ったので、すぐに最後のカイの順番が回ってきた。
「おーい、次行っていいか?」
だが、カイ以外の全員が上り終わったとたんに、何故かこそこそ相談し始めた上のメンバー。
怪訝に思ったカイが声をかけると、グラスが話を中断して振り向いた。
「あ、まって。これとこれとこれを渡しとくよ。」
上から降ってきたのは、2食分の食料と酒が入っていたとおぼしき大きな水入りペットボトル。
ついでに寝袋。どういうつもりだろう。
「へ?」
カイは寝袋とその上に放られたアイテムを見ると、
ぽかんと口を半開きにして再びグラスの方を見上げた。
グラスの顔に、黒い笑みが浮かんだ気がしたのは気のせいだろうか。
「じゃ、グッナイ。」
「え゛っ?あ、おい!」
しゅびっとグラスが左手を上げ、一瞬でロープが引き上げられる。
慌てて手を伸ばしたが、空しく宙を切っただけだった。
「安心しろーカイ。明日グレイが拾いに来てくれるってよ!」
にやにやしながら、リックがカイを上から見下ろす。完全にグルだ。
なぜ一番まともそうなクリフが止めてくれなかったのか。
それはカイにとって永遠の謎だ。
だが、この暗い鉱山に置いていかれる事を知った彼の脳は、それどころではない。
「お、置いてかないでくれぇぇ〜れぇぇぇ〜れぇぇぇぇ〜……。」
徐々に遠くなる情けないカイの声を背に、4人の少年たちは鉱山を後にする。
ミネラルタウンは、今日も平和だった。


―完―  ―戻る―

ENDでもいいんですが、今回は「完」で。貯蔵庫に一時あった漫画と同じ、うちでの激レアジャンル牧場物語。
うちの主人公は計算高くて真っ黒です。何でこんなに黒いかは聞かないで下さい。
喋らない分、アテレコとかで性格を捏造しやすいんで。(関係あるのか?
例のごとく?題に意味は無いです。

(2006/5/4 文章修正)