にくきぅ連盟




カボックの拠点でつかの間の休息を取るクレイン一行。
次の目的地が遠いので、しっかり準備もしなければいけないが。
さて、久しぶりにクレインがビオラの店に行き、調合してもらった物が一つ。
それがこの、にくきぅ手袋。
動物の足の裏についているあれがついたラブリーな手袋だ。
普段ビオラにセンスが無いダサい等々ずけずけ言うリイタも、大絶賛の一品である。
何しろ彼女は大のにくきぅ好きなので、
クレインが誰が装備すると聞く前にこれをさらっていった。
「にくきぅ〜にくきぅ〜♪いや〜ん、もうサイコー!」
ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに。
ダイニングに来てからもう30分以上観察しているが、
彼女は飽きることなくにくきぅ手袋のにくきぅをつついて遊んでいる。
「リイタはホンとににくきぅが好きなのにゃ〜。」
「つーか、ありゃもう中毒じゃねーの……?」
「俺もそう思う……。」
いくら好きだって、あそこまで長い時間ずっとつついているのはちょっと考えられない。
デルサスとノルンはのんびりティータイムとばかりに紅茶とおやつをつまんでいたが、
おやつのコスモせんべいとくまさんパンはもうすぐなくなりそうだ。
ちなみにクレインは午後一番にはじめた錬金術の調合がついさっき終わり、
おやつに加わっていたところである。
「何こそこそ話してるんだ?」
『ぎゃーーーーー!!!!』
後ろから聞こえた予想外の声に、デルサスとクレインが飛び上がる。
「にゃ゛!!二人ともいきなり耳元で騒がないでほしいにゃ!!」
「ご、ごめん。」
猫娘らしく、尻尾をブラシみたいに逆立ててノルンが怒る。
「なんだよアーリンか……びっくりさせんなよ。」
「それはこちらのセリフだ。で、何を話してたんだ?」
どことなく憮然とした様子で、アーリンが荷物を降ろす。
話し掛けただけで化け物が出たような反応されれば当然だ。
彼は今まで買い出し係で出かけていたので、当然話しのネタは知らない。
「いや……リイタがさっきから、
今日ビオラの店で作ってもらったにくきぅ手袋でずっと遊んでるんだよ。」
ほらと、クレインはベッドの近くに敷いてあるカーペットに座り込んでいるリイタを指す。
「もう30分くらいあのままにゃ。
あんまりずっとおんなじことしてるから、ノルンは眠くなってきたにゃ〜……。」
「ふーん……おい、リイタ。」
大して興味なさそうな返事を返しつつ、
しっかりリイタに声をかけた。
「んー何よ……?あ、アーリンおかえり。」
やっぱりというかなんと言うか、
にくきぅに夢中で気がついていなかったらしい。
「それはおもしろいのか?」
「うん!アーリンも触ってみる?ほんっとに本物のにくきぅの感触がするよ〜!」
はいっとアーリンの前に差し出されるにくきぅ手袋。
(おいおい……リイタの奴アーリンに何言ってんだよ。)
触るわけ無いだろこいつがといいたげな目で、リイタをみるデルサス。
(その前に、おもしろいのかって……。)
(意外にゃー。)
確かに意外だと、クレインはうなずく。
大体いつも無駄話をせずにソファや壁に寄りかかって休んでいるアーリンが、
他人のしていることに興味を持つと言うこと自体珍しい。
「ほぅ……ちょっと触ってもいいか?」
「うん、いいよ。」
ぷにっ。
〔触っちゃったーーーーーーー!!!!〕
デルサスとクレインが声にならない絶叫を上げた。
何たる大ショック。冷静沈着でおふざけとは無縁なクールな男だと信じていただけに、
そのショック、いや衝撃は大きかった。
「……。」
ぷにぷにぷにぷにぷに。
「どう?気持ちいーよね?!」
きらきらとリイタの目が輝いている。
にくきぅを押すアーリンは、それとは対照的にあまり表情が無い。
もともと表情が顔に出ないせいか。
(ノルンはともかく……アーリンが気に入るのか?
今、さりげなく連打したけど。)
ひそひそと男2人が顔を見合わせて小声で会話を交わす。
24歳と17歳。傍から見ればあほな光景である。
(んな馬鹿な。あいつそーいうキャラじゃ無いだろ。)
と、言うかそうだと言ってくれという気持ちでデルサスは冷や汗を流していた。
「……これはいいな。気に入った。」
「え、アーリンも好き?!意外〜♪」
フッとアーリンが微笑した。
地がいいから悔しいくらい男前だが、つっこむべきは当然そこではない。
『気に入っちゃったーーーーー!!!!!』
もはや我慢できずに絶叫する男二人。思わず立ち上がった拍子にがたっと音が立った。
「うるさいにゃ!お菓子にされたいかにゃ?!」
切れたノルンにウイングスタッフを向けられ、慌ててホールドアップ。
情けない男2人。しかしお菓子に変えられて誰かの胃袋に消える最期はごめんだ。
「いや、それは勘弁……。」
「また触らせてくれないか?」
にくきぅ手袋をリイタに返しながら、
アーリンは不気味な位機嫌よさそうにたずねた。
「もちろん!だって、アーリンも今日からにくきぅラブ同士だもんね〜♪」
「そうか、わかった。」
混乱する間に事態に置いていかれかけた2人に、
更なる衝撃が追い討ちで襲い掛かる。ギャーッとデルサスが悲鳴じみた声を上げた。
「お、おいなんだそりゃ?!『わかった』って何だよオイ?!こら、つっこませろお前ら!!
特にアーリン、お前!!!!」
「ど、同士……。って、アーリン笑わなかったか?!」
ビシッとアーリンを指差す
「ノルンは賛成にゃ〜。仲良くなるのはいいことにゃ!」
「そ、そういう問題かな。」
「別に俺は同士でもかまわないが。デルサス、なぜそこで怒る?」
心底不可解そうなアーリン。
「おまっ……18歳男のプライドはどうしたーーー?!!」
ちゅどーんとデルサスのバックで火山が火を噴いた。
デルサスの脳内世界では、にくきぅの魅力に目覚めた17歳男はいけないらしい。
「もー、さっきっからうるさいよ!アーリンがいいって言ってるんだからそれでいいじゃない!」
「デルサス……。」
もうあきらめたほうがいいと、クレインが目配せした。
「はぁ……もう、勝手にしてくれ。」
とうとうデルサスもあきらめ、脱力したようにうなだれる。
敗北した男の哀愁と一種の絶望感をお供に鬱々と座り込んでしまった。
「ねー、明日買い出し行った後、一緒に遊びにいこうよ!
酒場と同じくらいおいしいところ見つけたんだ〜。」
「ああ、構わない。」
「……。」
なぜか突然意気投合した二人を、クレインは複雑そうに傍観する。
仲が悪いよりは仲が良いほうがいいに決まっているのだが、
色々な意味で妙に納得がいかない展開だ。
(思わぬ急接近だなー。うかうかしてっととられるぜー?)
「そういえばアーリンって、動物が好きらしいにゃ……。」
にくきぅ手袋をそれはそれは大事にしまいこむリイタと、
買ってきた荷物の整理に追われるアーリンを見ながら、急にノルンがそんなことを言い出した。
ドサクサ紛れにろくでもないことをいったデルサスを、
しっかりメイスでぶちのめしてからノルンの方を向く。
「そんなことどこで聞いたんだ?」
「昨日、寝言でふかふか……毛皮最高……って、言ってたにゃ。間違いないにゃ!」
精一杯アーリンの口調を再現しようとしてしきれていないノルンのセリフを聞いて、
クレインはおろか巨大なたんこぶをこしらえたデルサスも灰になりそうだった。
「毛皮……。」
「最高……。」

翌日。
リイタとアーリンが出かけたあとに、クレインはデルサスとノルンを連れて魔法屋にやってきた。
「あ、クレイン君。今日もいいものそろえておいたよ……。」
ポッと顔を赤らめながらクレインに応対するビオラは、最近もうあたりまえになってきた。
ここまで露骨に好意を示されているのに、なぜクレインは気が付かないのか。
ノルンにも不思議で仕方が無い。
「今日はクラフトを3つもらいたいんだけど、あるかな?」
「うん。はい、これ。」
てきぱきと棚からクラフトを取り出し、丁寧に紙袋に詰めて口を折り曲げる。
まぁ、これは衝撃に反応する爆弾なので、丁寧なのはあたりまえだが。
「じゃあ、これで。」
「ありがとう。……うん、ちょうどね。
そうだ。そういえば、さっきリイタが来てた。
アーリンさんといっしょだったから珍しかったよ。」
受け取ったお代をつり銭箱にしまいながら、
クレインとノルンにとって思いもよらぬことをいった。
「何か買ってったのかにゃ?」
「うん。とってもうれしそうに、―――。」


一方そのころ。
「たっだいまー!って……あれ、誰もいないよ?」
「出かけたのか。」
よくあることだが、カギもかけずに家を空けるとは無用心だ。
別にそんなに金目のものがあるわけではないが。
「もー、せっかくお土産買ってきたのにさめちゃうじゃない!」
リイタはぷりぷり怒りながら、
昨日アーリンに話を振った店で買ってきた料理を乱暴にテーブルに置く。
今日食べたものがあんまりおいしかったので、同じ物をテイクアウトしたのだ。
店で食事をしていたらお約束な冷やかしにあい、困惑すると言う一幕もあったが。
「お〜……、帰ってきてたのかー。」
ちょうどそこで、奥からおきぬけと思しきぼさぼさ頭のデルサスがやってきた。
ボケーっとした間抜けな顔をしている。
「あれ、居たの?」
「んー、疲れたから寝てただけだよ。って、お前それ……!!」
デルサスの頭から眠気が消え、代わりにサーっと顔から血の気が引く。
「えへへ、また買っちゃったv」
「……。」
リイタの手元で燦然と輝くにくきぅ手袋。
デルサスはもう、二の句がつげなかった。


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イリスのアトリエ小説……やっちゃいました。色々な意味で。
アーリンのキャラがさりげなく壊れてます。
と、いうかクリアして無いくせに書いちゃいました。いいのか……。
以前の日記にも書きましたが、クレイン・リイタ・デルサス・ノルン・アーリンの5人好きです。
たぶんこれからもほぼ5人1セットで行くでしょう。
あえて小分けにするならクレインとリイタとか。くっつかないかなー。
あと……今回やったリイタとアーリンとか。こっちはあくまでコンビで……。
ちなみにトリオもいれるとバリエーションがもっと増えますが、語ると長いのでこの辺で。