最愛の相棒



セシルが即位して、何ヶ月かたった。
周りの声や、各国との外交上の利便など、様々な人の希望と思惑の果てに即位したセシルの周囲は、ようやく落ち着いてきた。
何しろ、スタート直後から難題続きだったのだ。
月の陰謀が絡んでいたとはいえ、各国に侵攻したことによりバロンの信用は地に落ちた。
また、短期間で度重なった侵攻は兵を疲弊させ、かさむ戦費を補うために上げられていた税で庶民も疲弊した。
舵取りを間違えれば、バロンの国力も低下しかねない。
王に後継者が居なかったのに、王家の血筋を引く貴族達が誰も名乗りを上げなかったのは、
一つはこの重い課題のせいといっても過言ではないだろう。
こんな難題と向き合う羽目になるくらいなら、継承権を放棄した方がましらしい。
そう暗に言わしめるほどの代物だったのだ。
しかし、それでも新王は決めないといけないと大臣以下が考えた結果が、
庶民に圧倒的な人気を誇り、各国の王族と個人的な付き合いがあるセシルだった。
前例のない荒唐無稽な人事ではあったが、結局賛成派が多数を占めた。
世界を救った英雄の一人という輝かしい功績は、
これから出直しを図るバロンを大いにアピールできる、無二の人材だったということなのだろう。

時計の秒針が一定のリズムを刻む音が聞こえそうなほど、静かな夜。
バロン城の左の塔の最上階には、未だに明かりが灯っていた。
「即位してからというもの、つくづく自分の無力さを痛感させられるよ。」
「そんな事ないわ。あなたは良く頑張ってるじゃない。」
書類仕事にいそしむセシルに、体が温まるように甘くないカフェオレを出した。
夜は冷えるし、コーヒーばかり飲むと胃が荒れてしまう。
「ありがとう。」
「どういたしまして。ねぇ、でももう少ししたら寝ないとダメよ。」
いくら現場で叩き上げの騎士で体力に自信がある上に、
若さもあるといっても、無理は禁物だ。
そもそも寝不足は体に悪い。
「でも、まだやる事が残ってるんだ。まだ寝られないよ。」
「だーめ。疲れてるときに色々やろうとしたって、頭に入らないわよ。
それより、今日ゆっくり休んで明日元気になってから取り掛かった方が、
能率はずっといいと思うんだけど?」
「ははは……分かった。敵わないなあ。」
正論で来られては敵わないと、セシルは白旗を上げた。
学生時代や現役の騎士時代、色々な時に夜に根詰めたことも多かったが、
なにぶん肉体派の職業だったから、翌日に響いて内心ひどい思いだったことも時々あったものだ。
それにローザは、こう見えて頑固だから絶対に引っ込まない。
付き合いが長いし、セシルは妻のことはそれなりに理解しているつもりだ。
「じゃあ、私も手伝うからぱっぱと済ませちゃいましょ。
2人の方が能率はいいものね?」
「そうだね。助かるよ、ローザ。」
「いいのよ。お仕事が一杯残ってると、あなたは寝つきが悪くなっちゃうんだもの。
夫の快眠のサポートも妻の仕事よ?」
冗談っぽく言って、ローザはくすくす笑った。
彼女もやはり、夫のことはよく理解している。
他に気を取られることがあると、セシルは熟睡できないタチだと分かっているのだ。
「やっぱり君は最高のサポーターだね。」
「もうセシルったら、おだて上手なんだから。」
「本当のことだからだよ。
僕1人だったら、同じ仕事で何時間かかるか分からないしね。」
セシルが言っている事は、本人にしてみればお世辞でも大げさでもなんでもない。
隣で仕事を手伝い始めた王妃という名の有能な補佐は、
セシルにもこのバロンにもとてもありがたい存在である。
きっと今夜の仕事も、遠くないうちに片付くだろうと確信して、セシルはもうひと踏ん張りしようと密かに気合を入れなおした。


―完―  ―戻る―

書きかけをまたも発掘してみました。
セシロザで検索してご来訪になる方がいらっしゃるようなので、ちょうどいいかもしれません。
このカップルの持ち味はくっついた後の安定感かも。
ちょっとやそっとじゃお互いの関係までは揺るぎそうにないんですよねぇ。
ゲーム中で紆余曲折すでにやってるせいなのか。ローザはしっかりしてるから、きっといい王妃になるんでしょうね。