Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ

   BMP7314.gif 聖者の行進? BMP7314.gif 〜チョッパーBD記念
 



 スペアリブにチキンの照り焼き。詰め物をした七面鳥だって土地もあるらしいが、ありゃあ復活祭でも食えるもんだし、鷄の方がふかふかでジューシーだからな。いい鷄が手に入ったから、何なら韓国薬膳の“サムゲタン”も作っちまおうか。朝鮮人参に八角と金華ハム、餅米を詰めて白湯で煮詰めてよ。それと、アボガドとタカアシガニとセロリのオーロラサラダに、カナッペにはオニオントーストとキャビアにサワークリームのディップ。ジャーマンポテト風スティックフライに小柱よせコロッケ、ピザはシンプルにマルガリータを。甘鯛のテリーヌに伊勢エビのポワレに、キノコとベーコンのマカロニグラタンに、フルーツの盛り合わせ。それからそれから忘れちゃいけない、

  「な、なにをだっ?」
  「勿体ぶんなよ、サンジっ。」

 ルフィとチョッパー、お子様クルーたちが、大きな瞳をさらにわくわくと見張りつつ、テーブルに身を乗り出しているお向いにて。大きめの皿をきゅきゅっと磨きながら、魅惑の御馳走メニューを様々に並べるシェフ殿であり。
「スポンジもふかふかなでっかい3段のケーキと、生クリームたっぷりのチョコレートパフェ。これがなくっちゃあ、お前らには“パーティー”じゃねぇんだったよな。」
「おお、そうだぞっ!」
「酒がなくともケーキは絶対必要だぞっっ!」
 自分にとっては異論以外の何物でもない雄叫びが聞こえたせいだろう。がっつりと筋骨の盛り上がった肩を板張りの壁に凭れさせ、うたた寝しかけていた剣豪さんが、ちらりと薄く目を開けかけたが、くすりと苦笑すると再び目を伏せる。フェミニストなサンジが何はなくとも優先する女性陣が“甘いものよりお酒の方が…”というクチの面々だから、そっちの準備を怠るコックさんじゃかなろうし。それにそれに、クリスマスとその直前、お誕生日を迎える小さな船医さんこそが主役の宴だ。大人げなくも我を張ることはなかろうと、あっさり思い直してのこと。
「という訳で、料理の方はプランもバッチリだ。テーブル・デコレーションや何やの方はどうなってんだ?」
 設営担当の美術班々長へとお声をかけたサンジへ、
「こっちも準備は万端だっ。」
 秋島海域のこの季節だってのに割と暖かいからな、甲板にテーブル出して、電飾や金銀のモールやオーナメント飾って、派手派手豪華な逸品に仕上げて見せてやろうじゃんかと、鼻息も荒く薄い胸をどんと叩くウソップで。飾りつけにと豆電球を内蔵した可愛らしいオーナメントもたっくさん作り溜めしていたらしい発明王は、同じく愛らしい規模の打ち上げ花火も準備しているらしく、
「何たって世界中が沸く大イベントのクリスマスに競り勝った、我らが船医の生まれた日だっ。」
 これを盛大に祝わなくてどうするかと、大きく胸を張って何やら長々と弁舌を振るい始めた演出家さんのことは、
「わぁ〜〜〜〜〜vv
 祝われる側の当のご本人様が瞳をウルウルさせつつ聞き入っているのを良いことに放っておいて。
(笑)
「じゃあ、テーブル・セッティングの仕上げの方はあたしがやるわ。ロビンはツリーの飾り付けをお願いね?」
「ええ。あのミカンの木ね。」
 甲板に大きなテーブルを出したり、メインマストの見張り台から船端やキャビンまで、モールや紙テープを渡して飾るといった、大掛かりなセッティングには、船長さんや剣豪さんが、助監督 こと 航海士さんの指示にしたがって駆け回り、
「ウソップ、この電飾、点かねぇぞ?」
「ああ、待て待て。それのためにと昨夜から自転車こいで溜めた電池がこっちに。」
 ようやっと我に返った総監督さんが、下手に掻き回して段取りを崩すなと言いたげな勢いにて、わたわたと慌ててキッチンキャビンから出て行って。さっきまではここが中心で沸いていたのにね。頭数が急に減ったからか、遅いめの昼食の後の主船室は、不意に騒がしさの範疇外へと追いやられる。ルフィやウソップと賑やかに会話を交しながら、手際よく食器を洗っていたサンジも、今はオーブンに向かっていて。晩餐のパーティーで並べるそりゃあ沢山な料理の数々を、同時進行という段取りの良さで仕上げている真っ最中。淡い色のシャツを着て、しゅっと締まった背中はね。例えば…肩やかいがら骨の辺りなんかが雄々しく盛り上がってるゾロに比べたらずんと細いのに、不思議だね。そりゃあ毅然としていて、何とも頼もしい。いつだったか立ち寄った都会島の街で観れた、大所帯の団員を抱えているオーケストラの指揮者さんみたいに、堂々としてて立派なの。
“料理には自信満々でいるからなんだろな。”
 勿論、ご本人に言わせれば、喧嘩での腕っ節や女性への心遣いやモテモテ度へも、お料理と同じくらいに自信満々な彼なのだろうけれど。

    「なあなあ、サンジ。」
    「ん〜?」
    「何か手伝うことないか?」
    「あ〜? お前はじっとしてな。」
    「だってさ。あ、そだ。クリームの泡立てとか。」
    「そんなもん、馬鹿力もちのアホ剣士にやらせるから良いよ。」
    「じゃあさ、じゃあさ。果物の飾り切りとか。」
    「それは俺がやった方が早いだろうがよ。」
    「う〜〜〜。じゃあさ、じゃあさっ。」
    「チョ〜〜〜ッパー。」

 テーブルの上へ身を乗り出して、躍起になってる小さな子供を振り返り、
「お前はな、今夜は主賓なんだ。俺様の料理のアシスタントが凄げぇ上手なのは認めてるが、今夜の料理をお前が作ってんじゃ意味がねぇだろうがよ。」
「う〜〜〜〜。」
 二人っきりの時は、凄っごくやさしいサンジ。ゾロが“アホラブコック”とかコソッと言うのへは、敏感に“ぴきぃ〜んっ☆”てすぐさま こめかみに血管が浮いちゃうくらい気短かなくせにネ。ルフィがつまみ食いするのへは、容赦なく蹴り飛ばすくせにネ。チョッパーが相手の時はネ、あんまり“ゴチャゴチャうるさいっ”とか“邪魔だっ”とか、簡単に振り払うような言い方はしないの。前に“なんで?”って訊いたらね、船の中で一番子供だから、なんだって。ちゃんと言葉を尽くしてやんなきゃ、大人じゃねぇんだって。
「ほれ。これでも食ってな。」
 ほいと、目の前につき出されたのは、真っ赤な上へなお赤い飴をかけてコーティングしてある、割り箸に差されたリンゴ飴。
「わあ〜〜〜vv
 小ぶりなリンゴだったけど、それでもね。チョッパーの小さい蹄よりかは大きくて。
「ここで食えな。外でルフィに見つかったら、俺もって騒いで喧せぇからよ。」
「えと、うんっ!」
 カプッて齧れば、ぱりぱりって剥がれた飴は甘いけど、中のリンゴは少ぉし酸っぱくて。そのバランスが美味しくて。美味しいよぉって笑ったら、サンジもなんでだろ、嬉しいってお顔になるんだよ?
「あや、あたた…☆」
「んん? どした、虫歯か?」
「ちがうの。甘いのに口の中が急に酸っぱくなって。」
 サンジがあんまり優しく笑うからさ、こっちも釣られて笑ったから。そいで変なとこに甘いのが入っちゃたんだろな。変な奴ってカカカッて笑って、サンジはくるりとオーブンの方を向いてしまって。
「もう少し待ってろよな。ここが一段落ついたら、ケーキのデコレーション始めるからな。」
 生クリーム塗るの、少しだけ手伝わせてやっからよと。お母さんみたいな背中が言ったのへ、うんって大きく良いお返事。真っ赤なイチゴや砂糖菓子のトナカイさんに、粉砂糖の雪を降らせて仕上げる、真っ白でふかふかなケーキが完成する頃にはね。辺りの海も宵の帳(とばり)に静かに沈んで、真珠色のお月様や粉砂糖をまいたみたいな銀河の帯が、バースデイ・パーティーをやさしく照らしてくれることでしょう。


  ――― あのねあのね、ドラムではそれどころじゃなかったから、
       クリスマスも、ケーキやリンゴ飴も知らなかったの。
       ドクターの研究のお手伝いをしたり、
       ドクトリーヌに医術を教えてもらうのでそれは忙しかったのと。
       ワポルに腹を立ててたのとで、それどころじゃなかったからね。
       今だって毎日ドタバタ忙しくって。
       平和で安泰な静かな航海よりも、
       先の見えない冒険にわざわざ飛び込むことの方が多くって。
       やっぱり真剣勝負な日々に変わりはない…筈なんだけれどもね。
       それでも…楽しいことの方が一杯なんだ。
       怖い想いや悔しい想いも一杯したけど、
       通り過ぎちゃうとね、
       楽しかった、頑張ったって気持ちの方が勝ってるの。


 まだまだ腰の引けてる時のが多い、海賊としては初心者な船医さんだけれど。特別な仲間たちと挑む格別な航海は、自分のことを“化け物”と言ってた、やさしいのに独りぼっちだったトナカイの坊やを、少しずつ少しずつ雄々しく育んでもいるようです。



  
Merry X'mas!
      &
      Happy Birthday! to TONY TONY.Chopper!




  〜Fine〜  04.12.23.


  *うああ、なんだかバタバタしていたもんだから、
   うか〜っと忘れて通り過ぎるとこでした。危ない危ない。
(焦)
   本誌の方では大変な展開になってるそうですが、
   アニメでは“DBF”の終盤戦。
   やっとのことでチョッパーを取り戻せたルフィたちであり、
   でもって…何でこれが“引き分け”なんでしょうか?
   2勝1敗でルフィたちの勝ちじゃないの?
   ………じゃなくって。
   ゾロに“男だったら、ふんどし締め直して、腹くくってなっ”と言われて、
   煮るなり焼くなり好きにしなと、
   椅子の上で踏ん反り返る船医さんが可愛くてたまりませんでしたvv

ご感想はこちらへvv**

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