Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ


   BMP7314.gif やっぱり こーでないとvv BMP7314.gif


陽にか潮にか白く晒された、
石作りの建物の群れが紺碧の海にはなかなかに印象的。
丘の上には牧草地が広がる、
よくある中規模の島の小さな港町は、年に一度の星祭りで沸いており。
ここいらの海域のイベントや名所なんかを紹介する情報紙には、
毎年恒例、伝統の楽しい星祭りと書いてあったけれど。
屋台もかき氷の早喰い競争も、スイカ割り大会も、
特に物珍しいそれでなし。
美人コンテストは、
神様からの宣詞によって選ばれたお嬢さんが
そのまま島の神殿へ巫女として云々というよな催しらしいから、
それなり荘厳なのかもしれないが、
どっかで聞いたことのある、よくある運びでもあって。

 「何だ、それほど目新しいもんはないみたいだな。」

補給は急を要するほど必要でもなかったけれど、
ログを溜める必要はあったのでという係留。
賞金が出る競争には出来るだけ参加して来てねと、
財務大臣からそれは判りやすくも言い含められた上で、
昼間のうちの賑わいの中へ送り出された麦ワラ海賊団の男衆たちだったが。
雑踏あふれる街路沿いに居並ぶ食べ物の屋台も、
ヨーヨー掬いや輪投げといったちょっとしたゲームの類も、
どこにでもあるよな店ばかりだし。
伝統の星祭りと謡っているにしては、あまりに画一的で、しかも、

 「気のせいでなければ、
  どっかの親方が一手に仕切ってるって感じよね。」

 「お、さすがはロビンちゅあんvv」

食べ物関係のソースの香りが同じだとサンジが気づき、
ロビンはロビンで、
会計用のカウンターに置かれた手提げ金庫が、
一気に買い揃えましたと言わんばかり、
どの屋台のもまったく同じ型だったからと、
やはりあっさり見抜いたらしく。
大人たちが そんな薄っぺらい拵えを見抜いた上で
祭りの雰囲気へ“何だかなぁ”と呆れていた一方では、

 「お、うんめぇ〜vv」

石積みの街路のやや古びた感も強い、
裏通りの路地のどん突きの一角。
地元の人でもなきゃ来ないだろう場所にて、
いかにも手作りな屋台の焼きそばに、
彼らの船長さんが舌鼓を打っておいで。
傍らでは隻眼の剣豪が、
角の擦り減った短い石段に腰掛けて、
何の変哲もないコップにつがれた酒へ、
美味い美味いとやはり相好を崩しており、

 「表の通りでは、
  こんな深みのある辛口なんて見なかったがな。」

酒に目がないだけでなく、そこそこ通でもあるゾロが呟いたのへ。
屋台の向こう側、足がちびかけた丸いいすへ腰掛けていた初老のおじさんが
褒められたのは嬉しいがという複雑な顔で、ヘッと鼻で笑い、

 「当たり前よォ。
  こりゃあウチの島の名代の蔵元が、
  指名した店にしか卸さねぇ逸品だからな。」

料理だってそうだ、
この祭りの日にだけ どっかから来て商売してやがる連中のと
一緒くたにされちゃあ困ると。
岡持ちを提げて戻って来たお嬢さんへ視線をやりつつ応じてくれて。

 「ああ、まだ居て良かった。」

海が間近い町住まいにしては色白で、
頬にちょっぴりそばかすが散っていて愛らしい少女。
すらりとした脚を惜しげもなく晒した短いズボンに
ロゴつきTシャツという素朴な装いのまま、
細い路地へと降りる擦り切れた石段からこちらを見やり、
肩で息をしつつも朗らかに笑う。
行きずりもいいとこで、しかも素晴らしい速度の食べっぷり。
自分の足が間に合わないで、
そのまま立ち去っちゃうんじゃあと案じてくれたらしく。
屋台へ駆け寄ったそのまま、
岡持ちの差し込み式の前蓋を引き上げて、
中からラップの掛かった大皿を取り出した。
ちょっぴり湯気で曇った中には、大きめの肉まんが積まれており、

 「これが、さっき言ってた梅漬け豚肉のおまんじゅうだよ。」

梅漬けの実を餌に交ぜて育てた豚肉使ってて、そりゃあ風味がいいし、
側生地もこの島産の小麦粉の風味が出ていて美味しいんだよと、
はいと差し出せば あっと言う間に3つほど持ってかれていて。

 「んまい、凄んごい美味いぞっ。」

あぐあぐ頬張るお顔がまた、何とも幸せそうだったらないと、
世話好きでもあるらしいお嬢さんが ふふーと嬉しそうに微笑って見せる。

 「だって何だか、この島自体を褒めてもらったみたいで。//////」

それが嬉しいという笑顔なのが、何とも素直なお嬢さんであり。

 「…確かに美味いな、こりゃ。」
 「あ、サンジっ、いつの間にっ。」

そりゃ俺へって持って来てくれたんだぞと、
6つはあったおまんじゅうの一つを横取りされたと憤慨するルフィだが、

 「こっちの焼きそばのソースもいい香りだ。
  おっさん、なかなかの腕と見たが、
  何でまた表通りに屋台を出さねぇんだ?」

熟成された逸品じゃねぇかと、
そこは腕のいいコックだ、
香りだけでそこまで判るらしいサンジが訊けば、
彼とともに現れたお連れの頭数、
ふぞろいなコップで良く冷えた清水を出しつつ、
そばかすの少女が肩をすくめた。

 「祭りの間は無理なのよ。」

主催している商工連合にとんでもない支度金を出さないと、
場所とりも出来ないし、
売り上げだってほとんど持ってかれるから、
ウチみたいな小さな店じゃあ意味ないの、と。
大きめの鉢へは、こちらもこの島の名産か、
香ばしい かりんとう、
別のガラス器にはひょうたん型のマンゴーを捌いたのを盛って、
どうぞと出してくれつつ話してくれて。

 「商工連合?」
 「うん。5年ほど前から急に立ち上がったというか、
  神殿の神職さんが連れて来た、
  お祭りのときだけここいらを仕切ってる組み合いぽい人たち。」

ちょっぴり忌々しそうに溜息をこぼす彼女へ、

 「ミリア、よさねぇか。」

屋台のおじさんが制すように声を掛ける。
その気配から何とはなく下地もうっすら見えて来るというもので、

 “はは〜ん。”
 “のんきな島へ突然現れた筋もんってとこかな。”

グランドライン後半の航路上と言えば、
よほどの猛者しか航海出来ない 途轍もない海だと言われているが、
そこに生まれて住まう人々は また別で。
前半の航路というそれなり苛酷な道程に
ふるいにかけられた荒くれしか通りかからぬ海域ではあれ、
海軍や大物海賊に守られて長々と安泰な諸島などなら、
外海と変わらぬほど長閑な土地もあったりするもの。
そんな希少な楽園だったところへ目をつけた胡散臭い連中がいて、
年に僅かな稼ぎどきを良いように食い物にしているというところかと。

 「でも、確か此処って
  近くに海軍のお声がかりの総督が駐留してなかったかしら。」

群島海域一帯を代々で治めておいでの総督が、
海軍から師団を借りて監視の眸を光らせていたはずと。
お初の土地でも情報収集は怠りません、
海賊団随一の知恵者、ロビンお姉様が
黒耀石のような双眸を瞬かせ、優雅な所作にて小首を傾げると、

 「ええ。
  その総督様のお声がかりなもんだから、
  皆して逆らえないんだな。」

ミリアお嬢さんが吐息をつきつつ、その懐ろに丸いトレイを抱え込む。

 「もともとこの島の星祭りは、
  せいぜい島の旬の名産を食べに来る人が主で、
  補給物資を持って来る業者の人とかにしか知られてなかったのにね。」

確かに、島の岬にある神殿へその旬の作物を奉納する儀式もあったけど、
長いこと無人だった神殿だけに、
例年、町の人たちが海が荒れないようにと祈るためだけの代物だったのに、

 「先代の神職さんの親戚だとかどうとか言って、
  新しい神主さんがやって来たのが5、6年前だったかな。」

一応、お払いも祈祷もするし、
結婚式やお葬式へも ちゃんと心得があるようだし。
専門の人が来たのは頼もしいって、最初のうちは仲良くしていた、
古ぼけてた祠や住まいも島の皆で修理したって話だってのに、

 「いきなり、この星祭りを仕切り始めてね。」

本来の由来というのがあって、
それを守らないと天罰が下るとか言い出して。

 「神殿へ供物を捧げる巫女を
  毎年選ばないといけないって。」






     ◇◇



潮騒が心地良い子守歌に聞こえるような、それは静かな宵の中。
篝火が焚かれて煌々と明るい神殿の壇上に、
数人の少女らが古風なローブという衣装で並んでいる。
いかにも島育ちという、ちょっぴり含羞みを滲ませた十代の少女らの中、
一人だけ妙に垢抜けた娘さんがいて。
衣装もとびきりの高級品だろう上絹を使って目立っておいでで、

 『総督様のお嬢さんで、
  今の形の祭りが始まってこの方、
  毎年間違いなく選ばれているのよね。』

神様からの“ご信託”で選ばれているので、
贔屓や細工があるというわけではないらしいと、
ミリアちゃんが小首を傾げていたのも無理はなく。
そして、そんな肩書のお嬢さんが毎年花形になる祭りなものだから、
親ばかな総督様のお覚えもおめでたく、
地域の情報誌のみならず、ニュース・クーの広告欄にまで
詳細が紹介されているほどの規模へと急成長したはいいが。

 『島へ来るお客からは、
  画一化されちゃって面白みがないって言われてる。
  昔からの常連さんほど祭りの日だけ来なくなりつつあって、
  あたしたちもつまらない限りなのよね。』

美味しいことで評判だった料理も出せないんじゃあ
無理して屋台出しても意味がないしと、
肩をすくめたミリアちゃんが言うことにゃ、

 「では、候補のお嬢さんたちには
  “アンブロシアのしずく”を飲んでいただきましょう。」

仰々しくも 神様からの賜り物、
神の食べ物という意味の名を冠されている何か。
小さなグラスに入った金色の液体を飲み干すのが“審判”だそうで。
巫女として選ばれたお嬢さんのみ何の支障もないけれど、
そうでない者には神をたぶらかそうとした天罰が下り、
喉を焼くよな味のものになってしまうのだとか。

 『あれって凄く濃くした酢じゃないのかな。』

そんなものを飲んでは喉だって胃だって痛めようし、
顔だって引きつって当たり前。
ただ、いつもいつも、どんな順番でグラスを選んでも、
総督様のお嬢さんだけが当たりを引き当ててしまうそうで。
可愛らしい島の娘さんたちは
途轍もなく酸っぱいものを飲んだ引きつり顔を
電伝虫で群島じゅうに中継されてしまうので、
恥ずかしさの余り、他の島へ渡れなくなる人も居たほど。

 『匂いとかに違いはないのか?』

1つだけ違うんなら、どこかで見分けようもあろうにと、
鼻自慢のチョッパーが訊いたが、
そこはどの代の挑戦者もかぶりを振るばかりだったそうで。

 『どれも同じで、ばらなのか花の匂いがするばかり。
  そそぐ器も同じだし、色も濃さも同じ。』

何より、大きな水差しから皆の眸の前でそそぎ分けられるので、
どんなトリックも使いようがないはずとのこと。

 『そそぐ係も疑いの声が出始めたものだからって、
  島の娘らが受け持つようになったくらいで。』

どうにも誤魔化しようはないことだし、
それに、もはやそんなことを争う気にもなれないと、
ミリアちゃんも後ろ向き。
だがだが、そうも言ってられない話があって。

 『確かに画一化されて来たお祭りだからと、
  その総督様からもクレームがあったらしいわよ?』

 『何でそんなことが判るの? お姉さん。』

自信満々に切り出したロビンだったのへ、ミリアがキョトンとしたものの、
壁に耳あり障子に目ありを実践出来るお姉様だけに、
麦ワラの面々には特に不審もないまま、路地裏でのお話は続けられ。

 『お嬢さんのたっての願いだから、目を掛けてやって来たけれど、
  これ以上の進歩も変化もないなら
  ニュース・クーへの掲載は
  さすがに来年からは無理だって言われたらしくって。』

あら美味しいと、
これも島の名物らしい桜もちエビのかき揚げをカリサクと堪能しつつ、

 『それじゃあいけないって、
  島の名物料理を地元の奴ら締め上げてでも作らせましょうなんて、
  妙な太鼓判押していたのが、
  微妙なナマズ髭みたいな眉をしたおじさんだったけど。』

そこまで言ったその途端、

 『それって、神職のゼーラさんじゃないよ。』

ミリアが何てことと息を飲み、屋台のおじさんが歯咬みする。
これはやっぱり、よくあるケースらしいものの、

 『今年の祭りだけ引っ掻き回しても、
  あとあとで皆さんへ報復が向くのじゃあ意味がないわね。』

この手の騒ぎに付き物なのが、そういう後腐れだ。
幼いころから性分の悪い大人たちに振り回されて来た顔触れも少なくはないがため、
そんな道理はすぐにも知れるし。
普通一般の善良な人達ほど、
そういう手合いの専横には従うしかないのも判らぬではない。
かと言って、自分たちが叩きのめしても、
勝手にやったことですと立ち去ったのが通じたとしても、
それだと、翌日からはまた やはり何ら変わらぬ専横が続くだけ。
電伝虫でロビンから呼ばれて
サニー号はフランキーとブルックに任せて後から加わったナミが、
その辺りのネックを渋面作って呟けば、

 『そこはわたしたちに任せてvv』

ロビンとチョッパーがにんまり笑い、

 『その総督のお嬢さんが
  二度とこんな島に来るものかと思えば一件落着だと思うの。』

 『? そうね、きっとそこがポイントだとは思うんだけど。』

限られた海域限定とはいえ、
神様に選ばれた巫女なんていう神々しい姿を
電伝虫で実況中継される誇らしさは、
女性としての虚栄心に結構な効果をもたらすはずで。
それが嬉しくってしょうがないから、
パパへのおねだりもありの、
その結果、
総督様からの毎年の祭りへのバックアップも続いているのだろうし、

 『その時点から、からくりがあると?』
 『ええ。でもそこはそう難しいことじゃあないから。』

新しい土地に上陸すると、時間の許す限り、
古代の遺跡がないかを見て回るのが、ロビンの自分へと課した使命。
神殿があると聞き、それなりの古い文明もあったのかなと、
あちこちざっと見回っている中で、おもしろいものを見つけたらしく。

 “これを飲んでおいてって話だったけど。”

今年も勝敗は決まっているんだろうに、
候補が誰もいないんじゃあ様にならぬとばかり、
無理から…港や酒場に亡き祖父の借金があるとかどうとか、
いきなり言われて駆り出されたお嬢さんたちが、
ミリアから言われたのが、
小さな木の実をあがらないおまじないだから舐めててという一言。
コーヒー豆みたいなその木の実は、
何だか癖のある感触がしたが、特に苦くも甘くもなくて。
それからと、皆へ配られたのが、アンブロシアという飲み物だ。

 「さあ一気に飲み干して。」

神職のなまず眉のおじさんが、それは凛々しい声を張って言い放ち、
壇上に居た娘さんたちが一斉に小さな杯を口へ当てて飲み干したところが、

 「…………あれ?」
 「何か甘くて美味しい。」
 「うん。オレンジジュースみたい。」

島の娘らが全員無事で、その代わりのように、

 「ひぃいっっ!!」

真っ赤な顔になって、口元歪め、喉を押さえたのが、
ここ数年ほど勝ち誇ったような顔で巫女に選ばれ続けていたお嬢様。

 「どどういうことよ、ごれは、、、
  あんたっ、あたしを、だ、だましたばねっっ!」

涙や鼻水まで出て来る苦しさに、座り込んでもがき始め。
見かねた侍女だろう付き添って来ていた婦人が、
上着をかぶせると護衛らしい男衆を招いて運び出させる。
途中からなんて滑稽なという笑い声も起きており。

 「…ゼーラ殿。
  今回の仕儀、総督様へお伝えしますので。」

これにてお見限りも同然な一言に、
自分の将来を見越したか、がくりと膝をついた神職はもはやどうでも良い。
中継係だった男衆らが、忌々しげな顔となり、
何が起きたのかも知らない観光客らが、ただ笑いさざめく中、
駆け出してっては、少しずつ頭数を増やしてゆく面々を、
大外から見守っていた目が幾組か。
古びた山道の石段を上がり、神殿の裏手で落ち合った顔触れは、
昼のうち 屋台であんまり器用とも言えない手つきで、
同じ味のジャンクな食べ物を作っていたおじさんたちで。

 「ジャンクなのが悪いとは言わない。」
 「ただ、料理にも祭りにも真っ当な想い懸けてねぇのが気に喰わねぇ。」

本来の主役のはずが、
祭りに背中向けて路地に集まり細々と身内だけで集まっている、
そんな島の衆のたまっている広場へと。
こんな騒ぎが起きなかろうと、
秘伝のレシピをもぎ取るために駆けつけるつもりだったらしい、
どこか胡散臭いばかりのおじさんたちが、

 「…っ。」
 「なんだ、ごらぁっ!」

駆け抜けんとしていた路地の頭上から、
位置も態度もいかにも上からという尊大な声を掛けられ。
乱闘にこそ慣れがありそうな揮発性の高そうな面々、
ギョッとしつつも、威嚇を込めての吠えながら
一斉にそちらを見やれば、

 「せっかくの祭りだ、盛り上がろうと思ってな。」

着流しに見えなくない長衣紋に、腰には大太刀を三振りも据えた、
それは鋭角な気魄をたたえた屈強精悍な偉丈夫と、

 「無粋な害虫は とっとと駆逐だ、馬鹿野郎。」

金髪にダークスーツ、端正な面立ちをした、
それは引き絞られた痩躯がシャープな印象のする青年とが。
それぞれに余裕の構えの仁王立ち、
石垣のような塀の上から、
いかにも自信満々な表情のまま 見下ろして来ているではないか。

 「なんだ、このくそガキがっ!」
 「一端のクチ利いてんじゃねぇよっ!」

長い棍棒やら、中にはどこに隠し持っていたものか、
中華包丁にしては幅も丈もありすぎの三日月型に反り返った蛮刀を手に手に、
飢えた野犬さながら、ががうっと吠えてそれを振り回して見せたものの。

 口角から泡を飛ばすよな、それはいきり立ってた連中を
 二人の勇者、小さく苦笑して見下ろすと

ザッと風切り、その身が宙へと舞い上がる。
片やは あそびの多い衣紋に風をはらんでの、
それで滞空時間を稼いで見えたほどゆったりと。
通りの一方へその身を泰然と投じる飛翔も雄々しいそのまま、
なだれを打って駆け寄る一党を、それはさっくり振り返り。
ついでに やはりさっくりと、
いつどうやってと誰も気づかなんだほどのなめらかさ、
腰から抜いてた和刀の切っ先で、ぶんっと半円描いてしまえば、

 「ガッ!」
 「ぎゃっ!」
 「痛たたたっっ!!」

ざくり・どかどか、斬られた者やそれが倒れ込んで突き飛ばされた者らが、
飛び掛かった勢い以上の勢いで、
逆走ならぬ逆行よろしく、道の端まで届きそうなほど吹っ飛ばされ。
その、もう一方の道の端では、

 「おーら、おらおらおらっ!
  コックの風上にも置けねぇ エセ料理人には折檻だっ!」

それはなめらかに立て続く、
足蹴りの連続技というの、他でも稀に見ないでもなかろうが。
軸足を踏み変え、旋回しての回し蹴りを交ぜ込み、
踏み切りの冴えも見事に連打攻撃が一通り続いたそのまま。
地に手をついての側転もどきからも
縦横無尽に途轍もない破壊力の爪先が飛んで来るわ、

 「ぎゃあっ!」
 「はがっ!」

それが失速してやっと止まったかと思いきや、
こんのやろと振り下ろされた、
膨大な鋼の切っ先が薙いだのは残像に過ぎなくて。

 「え?」

足場は片側の石垣だけだが、そこにも駆け上がった影はなく。
キョロキョロしていれば
向背から仲間の半分が吹っ飛ばされて飛んで来るわ、
その頭上から、

 「どこ見てやがるか、節穴がっ!」

信じがたいがそれは現実。
何もない空の真ん中、小刻みに駆け上がってたさっきの青年がいて、

 「覚悟しなっ!」

ぶぶんっと振られたそのまま、覇気を込めたその右足が、
明々と炎をまとい始め、
その高さから燃え盛る隕石のように
一気に降って来ようというのだから……合掌。




島の住人の皆様は、
用心のためもあって、住居近くの広場に集められていたが、
そこへと長い槍を手に駆け込んで来た人影が。
この島の祭りを仕切ることで莫大な稼ぎを手に入れていた、
偽物神職の、

 「ゼーラっ」

神殿の会場で大きに落胆したはずが、
何とか我に返ったそのまま、意趣返しのつもりか、
身長と同じ程もあろうかという槍を、
自身の周囲へぶんっと弧を描いてぶん回す。

 「貴様らっ、
  大人しくワシの言うままになっておればよかったものをっ!」

それなりの心得がありはしたのか、
鋭い切っ先が干し出されてあったシーツを切り裂き、
はたまた、陽よけの幌に大穴を空けたほどの無残な凶行を見せたため、

 「きゃあっ!」
 「父ちゃん、こあいよぉっ。」
 「こっちへおいでっ!」

女性が悲鳴を上げ、子供らを親御が引き寄せる恐慌状態になりかかり。
人々のそんな慌てぶりの落ち着きのなさへ、
それを見て少しは相好を崩しかかったエセ神職が、だが、
ぱーんっと後頭部を叩かれて吹っ飛ぶ。

 「ぎゃあっ!」

いかにも手作り風、レンガで縁取った花壇の向こう。
それもまた石積みの塀へと叩きつけられた初老の偽神職へ、

 「おい、そんな下んねぇもん振り回してんじゃねぇよ。」

腰に手を当て、こちらは長柄のスリングショットを構えたウソップが、
ガバと振り返って来たゼーラとやらへ向け、
何やら袋へ詰め込んだままのスリングショット、
ぎりりと引き絞ると思い切り放てば、

 「わ、わあっ!!」

そこから止めどなく飛び出したのは、
チョッパーが山の中で捜し当て、
ロビンと二人で摘むだけ摘んだ“ミラクルフルーツ”の実の山で。

 『これは舐めると独特のアクが舌を覆ってしまうの。』

特にイガイガとした感触までは沸かぬのでさほど不快感もなく、
ただ、舌の味蕾という部位が覆われるので、
味覚へ鈍感になってしまい、
レモンや原液のままの酢を飲んでも、酸っぱさは全く感じない。
せいぜい砂糖をまぶしたグレープフルーツほどにしか感じないので、
一時期、酸っぱいヨーグルトや
黒酢を飲むダイエットにいいと話題にもなったほど。

 『そうは言ってもとんでもない刺激物を飲むには違いないから、
  食道や胃を痛める恐れがあるし、何より舌が馬鹿になりかねない。』

昔観た海外刑事ドラマにも、この実を使った犯罪が出て来ました。
馬鹿騒ぎするパーティーの最中、
罰ゲームだと言われ、
得体の知れない飲み物を飲まされる被害者が、
そのまま胃を溶かされて死亡。
事前にミラクルフルーツを舐めさせられていて、
口に入れてもそうまで劇物と気づかないまま、
トイレや下水管に使うよな強酸性の洗剤をすんなり飲まされたんですね。

 『今回の場合は、この実を総督閣下のお嬢さんが舐めてたワケで。』

毎回途轍もない酢を飲んでたのはご同様なので、
体のことを思えば 一人だけ楽をしていたとは言えないワケだが。
それでもあんまり悪質だったのでと、
今回は逆に、彼女にだけ偽物の実を与えて
どんな辛さと恥ずかしさを他のお嬢さんがこうむったかを味あわせた次第。

 「おっさんも飲むか? 特別に5倍に濃縮してあるバルサミコ酢をよ。」
 「ひぃいいいぃ〜〜〜〜っ!」

ほれほれと神殿に用意されてたあの水差しを振りかざせば、
みっともなくも尻で後ずさりする神官殿なのを、
住人の皆さんで掴み掛かっての縛り上げるの見守りながら、

 「ま、総督殿とやらが理不尽な軍勢を寄越して来たのが、
  ある意味 おっさんには幸いだったかもだがな。」

でなけりゃ、ここにルフィが来ていたとこだと、
小ぶりなアパートやら家屋やらが建て込んでいる広場からは
あいにくと望めもしないが。
そんな住宅地の向こう側、
ウソップが何とはなしに見遣った、
青い青い海の広がる沖合にては。
娘さんが悔しさつのってパパへと電伝虫で何か連絡したらしく。
小さめの巡航艦がこちらへ向かっているらしかったが、
それの航路へ進み出たのが、
羊の顔を舳先につけた、小さな小さな外輪船で。

 「こらぁ、そこのボート、邪魔だ退かぬかっ!」

拡声器で怒鳴られても何のその。
舵を取っているビキニブラにダメージジーンズ姿のお嬢さんのすぐ後ろ。
麦ワラ帽子を目深にかぶった少年が、
その腕をぶんぶんぶんと勢いよく振り回すと、

 「退くのはそっちだっ!」

それは軽快なお返事一喝。
この程度の相手では物足らんと言いたげな、
よいしょレベルのパンチをそ〜れと一発繰り出すと。
小さめとはいえ巡航艦が、
その舳先から船体全体を浮き上がらせて、
あっと言う間にくりんと引っ繰り返って見事転覆してしまう。

 「わあっ!」
 「総員退避っ。」

突然にも程があろう突発事へ、
慌てふためきながらも、
何とか救命ボートを出してお仲間を拾いあげる海軍兵士らに向かい、

 「あんたらの大将に言っときなさい。
  自慢のお嬢さんがとんでもない無様を披露したことは、
  電伝虫でここいらの海域全部に知れ渡ったからってね。」

あんたたちには何のことだか判らずとも、
そんな小っさいネタでこうまでやらかした総督様には、
ちゃんと通じるだろうからと言い放ち、

 「悔しかったら、麦ワラ海賊団を探すことね。
  あの島名物の桜もちエビ、
  今日の水揚げは全部あたしらが戴いたから。」

後半は何言ってるナミさんだったか、
まったく判らなかったルフィらしいが、

 『ああ言っておけば、
  島の人たちは関係ない、
  あたしらこそが暴れ回った主管だってことになるでしょう?』

それに、エビをもらったのもホントだしと。
揚げてよし、焼いてグラタンやパエリアに入れてよしの、
ぷりっぷりの美味しいエビをご褒美にといただき、
新しい島を目指し、出港してった小気味のいい海賊の皆様のこと、
こそりと語り継がれることになったのは後世のお話……。





     〜Fine〜  14.07.27.


  *久し振りの大所帯ならでは版のお話です。
   もうちょっと時間をもってゆっくり練るべきだったかもですが、
   今はそういう余裕を取るのが難しいのでどうかご容赦。
   毎日の蒸し暑さ、少しでも払拭できるお手伝いになれば幸いです。
   それにしても
   ウチってフランキーさんとブルックさんがいつもお留守番だなぁ。(笑)

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