Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ


   BMP7314.gif 嘘はつけない ついてない BMP7314.gif


足元に堆積していた 少し湿った枯葉の厚みも気に留めず、
肩幅よりも広めに開いた両脚を、ぐんと意識して踏ん張って。
腰を落とした構えは頑としてただただ強靭で、
何にもたじろがない彼の強かな心意気をそのまま表しているかのよう。

 「……。」

閑とした乾いた空気の中、
肘までを覆う袖の陰で、彼の二の腕が屈強な筋骨を盛り上げたのが判る。
三本も腰に提げている大太刀のうちの一本、
白鞘の大業物、和道一文字の鯉口手前へ片手を添え、
その柄へおおいかぶせるように右手を回り込ませ。
いつも以上に不機嫌そうな絞られた表情が、
その冴えをするすると鋭く研ぎ澄まし、
静かな集中をますます深めていったその末に、

 ひゅっ・か、と

宙を翔った刃の風鳴りが短く聞こえ、
頭上の木立が織りなす天蓋の狭間から降り落ちていた陽光を
一瞬だけ閃いた銀線が弾き飛ばして軌跡を残す。
居合い抜きで言う“据え物切り”、
水平方向への直線という瞬発的な一閃は
実は結構難易度が高い技だそうだが、
それを駆け回りながら的確にこなせる、もはや化け物じみた腕持つ剣豪、
それがこの、元海賊狩りのロロノア・ゾロで。
先程の鋭い斬撃を放った折は揺れもしなかった耳元の3連のピアスが、
身を起こす動作でちかりと揺れたそれと同時、
すぐ傍らにそびえていた、
大人の胴ほどもあろうかという大木が、それはゆっくり倒れてくる。
樹皮を切り裂き、内部の維管束を引き千切ったなりの
がつりとかざくりとかいった物音が立たなんだのは、
剣豪殿がそこまで極めた手腕を披露したから…ではなくて。

 「わ、わ、ゾロ、ありがとうだぞvv」

わくわくとつぶらな瞳を輝かせていた小さなトナカイさんの御所望で、
そりゃあ甘い匂いのする、ふわふかな大木を切り倒した彼だったからだったりし。

 「あ、ずりぃなチョッパー。」
 「なんだよっ、ルフィが枝の一本も下へ落としてくれないからだろっ!」

既にこの場に姿がなかった船長さんの方はと言えば、
もう少し奥まったところにあった、ひときわ大きな巨木にとっとと登っていたからで。

 『なぁんかいい匂いしねぇか? この森。』

我らが麦わら海賊団の航路上に いきなり現れた小さな孤島。
それほど特徴があったわけでもない小さな小さな島は、
人々が住まわって里を形成するほどの規模もなく、
もとより、ログポースが差してた先とか、
そんな地へ連なる群島の端っこでもないようで。
通過の途上にあった浅瀬の大きいの、
川で言う中洲みたいな存在だろうとロビンが言い。

 『ほら。途轍もなく大きな貝が打ち上げられて、
  二進も三進もいかなくなったか
  そのまま島みたいになってたところがあったじゃない。』

あんなようなものなので、ログとなる磁場もなく、
指針では示されぬ存在なのだろという話。
それでも豊かな緑が生えてはいるので、
水や果物、新鮮なたまごや肉系の食料の収穫が出来るやも知れぬと、
狩猟目的での上陸と相成ったのだが。
食べ物への勘と鼻はいいルフィが、チョッパーやサンジよりはやばやと“それ”に気づいて。
クンクンと嗅いだ末にかぶりついたのが手近な木。
おいおい、ちゃんと朝飯をたらふく食っただろうがと呆れたクルーたちだったれど、
むしり取られた幹の跡がどう見ても。

 『…これって、バームクーヘンに似てない?』

一歩ほど踏み出して、手を添えた幹の柔らかさに唖然としたナミが、
その手前に咲いていたツユクサに気付き、
瑞々しい柔らかさを視覚へも伝える、
可憐な青い花弁を微笑みながら眺めていたものの、

 『これ、マシュマロだわ。』

そのまま手を伸べ、摘み取った花を自分の鼻先にまで近づけてから、
胡散臭そうに目許を眇めてしまうところは、
不思議な現象に出くわすと、それなり懐疑的になるべきとする
ある意味当たり前な慎重さの表れで。
それへと真っ向から相対すかのよに、

 「うめぇ〜〜〜〜〜vv」

何の疑いもないままに、
ケーキと同じ食感&風味のする不思議巨木へかぶりついたまま、
シロアリかという行動、
口から前進しつつ頂上までを上り詰めるという荒業をやってのけたのが我らが船長。

 「わあいいな、ルフィvv」

彼だとて木登りが出来ないわけではないけれど、
食べた端から脆くなって折れないかなぁなんて、
それもどうかという心配を抱えてか、踏み出せないでいる船医さんなの見かねたゾロが、
先程の大技を振るい、
大きめなバームクーヘン樹木を切り倒してやったというわけで。

 「こちらの茂みにはマカロンが実ってますよ。」

パステル調の焼き菓子がそのままに、
チュウリップを思わせる茎へ1つずつ実っており。
骸骨だから目はないはずのブルックが、そんな眼窩を精いっぱい見開いて驚いている。
何でもありの新世界だが、これはまたメルヘンなことよと、
あまりの理不尽さへ一同が唖然とする中で、
だって現実じゃんかとばかり、あっさり順応してしまうルフィやゾロとは
普段だったら 真っ先に一線画すはずの狙撃手さんが、
今日ばかりはどこかしみじみとした笑顔でいるのが日頃にはないことで。
というのも、

 「何か“ボーイン列島”を思い出すよな」

バーソロミュー・くまによって飛ばされ、図らずも二年間の自主トレ期間を過ごすこととなったのが、
豊かな食べ物が自然に生えていた不思議島、ボーイン列島で。
おいはぎの森「グリンストン」の食べ物で生き物たちを肥えさせて、
定時になると中央部に向かって大地がせりあがって傾き、
巨大な食虫花(not only 虫)が豪快な食事をするというとんでもないところだったらしく。

「あ、そういや言ってたな。ホラ話で。」
「だ〜か〜ら。ホラじゃねって言ってんだろうが。」

早速噛みつくウソップなのを、柳に風と受け流し、
ジャケットから取り出した紙巻へと火をつける。
本当は信じてやってもいいくらい思っているのだろうに、
そんな憎まれを連ねるところがサンジなのであり。
そんな二人を、巨大なバームクーヘン、にそっくりな
抱えるほどもあろうという太さの幹も立派な巨木、
もはや二本目、によじ登っていたルフィが見下ろして、

「サンジとしちゃあ、いい羽根伸ばしになるんじゃねぇか?」
「へ?」
「だってよ、ここに居るうちは料理も休めんじゃね?」
「あ"」

結構なお味のスィーツばかりが居並ぶ島なので、
確かに、常に腹ペコ 自称育ち盛りな連中に
“飯はまだか”と始終急かされるお忙しさからは解放されそうであるものの、

「〜〜〜〜〜。」

いやあの、それってなんて言うかこう…と。
たちまち、お顔を複雑そうに曇らせて、
物申ししたくなるような複雑微妙な表情になっちゃったシェフなのが正直といや正直なもの。
下手な言い訳はしたくはない、というか。
別に苦行だなんて思ってないのにというか。
お前らこそ、いつも大変だろうからと
奇襲があっても大人しく見てななんて言われたら収まってられねぇだろうがとか。
いろいろがもぞもぞと一緒くたになって頭の中で掻き回されていて、
それらがあたふた一気に出て来ては、何とも無様なのがもっと悔しいと、
微妙な機微に口を塞がれかけてた、実は気位もちょっぴりお高いコックさん。
そこへ降って来たのが、

「でもねぇ。」
「そうね。さすがは自然の産というところかしら。」

ナミとロビン、女性人二人がお顔を見合わせて頷き合っていたのは、

「素材の甘さだけで十分そうなものや、
 もっとさっぱりした生クリームの方が合いそうなものも、
 ハチミツが余計だったり、これでもかと甘かったりするのよね。」

植物へのこの言い方もどうかだが、
一体どこで見たか聞いたか、
パフェのように口金で絞ったのかと思わせるような、
エッジの立った生クリームでデコレートされた、
花だか実だかもそこいらにはあふれているのへと。
そうと評したそのまま、
それはあっさり風味なのか、それとも金塊(インゴット)に似ていることからか、
椿みたいな茂みに実ってたフィナンシェを摘まむナミが、

 自然界での淘汰を持ってくるならば、
 生き残った者が適合できた強い種ってことになるのだろうに、
 こういう存在である以上、
 食べられちゃった一番人気の種類が残ることは本来出来ないわけでしょ?

と、自説を振れば、

 ああでも、たくさん食べてもらうことで、
 排泄って手段で種を運んでもらって生態系を広げたのが植物なのよね。
 だから、味覚がない鳥だけがついばめるよう
 とんでもなく辛く進化した唐辛子とかが存在するわけで、と。

ロビンの方も冷静なお説を返し。
なかなかにインテリジェンスな会話をしつつ、
こちらも隣の樹にたわわに実っているシンプルなマフィンを手にしており。

 「あああ。ナミっさん、ロビンちゅあんvv」

ちょっとだけ救われましたと、浮上してきたらしいコック殿。
な、なにか爽やかな飲み物持って来るねと、
舞い上がったままに駆け出しかかるのへ、
そこへのとどめになったのが、

「俺としたら、
 サンジの作ったのだと“美味くて止まらない”って食い分けは出来てっけどな。」

大きなヤシの実みたいな中に、ババロア風のブラマンシェが詰まっていたの、
パカリと割って“んまいんまいvv”と じかにがっついていたその口で、
だからこそ恐らくは裏も表もないのだろう素の言いようを放った船長さんだったものだから、

 「……バカやろがぁ。」

男に言われても堪えはしねぇとかどうとか、
もにょむにょ口の中でつぶやきながら、
森の外、岩場に接岸していたサニー号へと駆け戻ったコックさんが、
ちゃんと全員へのライムスカッシュ、
スペシャルなシトラスミックスフレーバー 角切り寒天入りを
大きなパンチボウルになみなみとそそいで、
いそいそ抱えて戻って来たのが、

 「おやまあ、なんて素直な。」
 「判りやすい奴だよなぁ。」

ブルックやフランキーといった大人の顔ぶれには、
何とも微笑ましい顛末だったそうな。






     〜Fine〜  15.09.26.


 *冒頭のゾロさんの
  居合い抜きっぽい一連の殺陣の描写を書きたかっただけというのが、
  書き始めの動機でしたが、仕上げてみたらば あら不思議。
  なんでかサンジさんの話になっておりましたvv
  二十代のころは、ビールやジントニックといったアルコールの方が好きで、
  たばこも吸ってたせいですか、
  甘いものは胸やけがしたので避けておりましたが。
  体調が悪くなったのを切りに そういうのから足を洗った(?)ころ、
  久々に食べたスィーツは案外とさっぱりしていて、
  ずんと進化してたのにおばさん驚いたもんです。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

レスもこちら**


月下星群TOPへ