Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ


   BMP7314.gif 人によっていろいろ BMP7314.gif


この島のお宝といや、
どういう理屈か真珠の表面へ別の鉱物の透明な膜が張り、
水晶のコーティングのようになったその下で、
どういう光の屈折がかかわるものか
本来の濃密な輝きがますますと虹色をおびてのそれは美しい、
水晶真珠のことだろに。

「だってのに。」

新世界でもその名が知れ渡りつつあり、
凶悪非道というよりも何だか愉快で関わると胸が空く奴らだとの評価もぐんぐんと急上昇中、
そんな風評の主だと…あとで判った奇妙で微妙な凄腕海賊たちが持ってったのは、
頑丈そうな樽に詰めた島の泉の水が1ダースほど。
水晶真珠は例年通りに商人が来たのへ渡すことが出来、
今年は知名度も上がっててねぇと、いつもの年より倍ほどもの取り引き値をつけてくれて。

「…だぁってねぇ。」

実を云やあ ナミもまた、
自慢の審美眼が本物だと見極めたそれ、水晶真珠が欲しかったのではあったれど。
集めつつあったそれを見せられて、
間違いなく目がベリーと化し、うひゃあっと喜んだのも束の間、

『何か見覚えあんなと思ったら、カエルの卵みたいだよな、これ。』
『そうだな。黒いのとか特にな。』

チョッパーと二人して、そりゃあ希少な黒真珠のをそうと言い、
あひゃひゃひゃと大笑いしてくれたのがどうしても耳から離れずで。

「あんな風に言われちゃあ、
 そうは思わない人の前でだって滑稽さがよみがえるってもんじゃないのよ。」

せっかくの宝珠だったのに玉なしだと、
がぁっくりと肩を落として見せたほどに、すっかり諦めたらしく。

「けれどナミさん、この泉の水だって珍しいんだぜ?」

積み込んだ樽のうちの一つをさっそく開けたサンジがワクワクして言うには、
古い植物の地層をくぐる過程で、
何かしら発酵した実ばかり集まったところを通って濾過されたのか、
ほんのりと酒精の成分を含んだ性質が絶妙で、

「料理によし、薬の溶剤としても良しで、
 勿論、果実を漬けこみゃあ一級のサングリアもお手の物vv」
「それに、里の人らから退治してと頼まれたオオバケラッタ猪も仕留められたしvv」

そっちは実は、怪しい猟師たちを追い払ってという依頼だったの、
どう聞き間違えたか、そ奴らを追い回す格好になってたイノシシの群れを追ってたルフィらが、
猟師のおじさんたちごと海沿いの崖から吹っ飛んだのを受け止めた岩場にて、
見事仕留めてしまったのをどうぞどうぞと譲られた。
酒はどうでもいいが、上質な肉がたんまり手に入ったのは嬉しいぞと、
今宵はバーベキューだぞとそれは楽しそうに沸いている。

 『定年となって交代なさった世界政府からの新しい総督様が、
  水晶真珠は世界政府が管轄することとなったので全部献上せよとお言いでね。』

そもそものコトの発端は、食材補給にと立ち寄った小さな島にて耳にしたそんな愚痴。
小さいがこれでも結構長い歴史のある島で、
あんたらみたい通りすがりの船を相手に補給への商売でやってきた島だけど、
小さいのに色んな資材が豊富なのは、此処だけの話、単価の大きな名物があったから。

 『美しいお嬢さんが多いからでしょうかvv』
 『何をお馬鹿なこと言ってんのよ♪』

キャハハと朗らかに笑った雑貨屋のお嬢さんは、だが言われてみりゃあ結構な美人で。
そこいらで愛想よく笑っている看板娘らもなかなかにレベルは高い。
人の風貌の美醜には関心がないクチ、ルフィやゾロが気付いたのは、

『どっかで見たよな雰囲気ではあるな。』
『うん、俺も思った。』

もしかして人魚の伝説とかないかとウソップが訊けば、

『おお、よくご存じだね。』

この島には大昔は人魚たちが遊びに来たって伝説があって、
時々は心無い海賊に追われて来たり攫わられたところから逃げて来たりという話も入り混じり、
そういった歴史の結果か、住人の大半がその人魚たちと結ばれた人らの末裔であるらしく。

『そういう血筋のせいかねぇ。
 島の十代の女の子たちはみんな、水晶真珠が入ってる貝が水の中で見分けられるのさ。』

肉厚なカカジキマグロのローストを
野菜やタルタルソースと一緒に挟んだ豪快なサンドイッチを提供しつつ、
年季のいった屋台のおじさんが話してくれて。

『その珍しい真珠をちょっと遠い海域まで売りに出ていたものが、
 最近じゃあ向こうから買い付けに来てくれて、
 それで手に入る外貨でいろんな物品を補充していたわけだけど。』

 だがねぇ。こうまで政府や海軍の基地から離れた海域の話だし。
 代々の上の方々も、
 群島としての自治と同じでその辺への勝手を許してくれてたのにねぇ。

4年に一度の住民改めの際に、
新しい総督様がいきなり、水晶真珠の話をなさり、
今の今まで税を集めなかっただけでも温情だ、
これまでのそれをいきなり出せと言われても法外すぎて払い切れなかろうから、
その代わり、これからはその真珠を住民改めの際に必ず全部差し出せと、
交代の顔見せの折に言い置いていかれてねと、
大きな肩を落として見せる。

『今度の住人改めは来週でね。』

まま、島の中だけなら畑もあって牧場もあるし、腕のいい職人もいる。
温暖な土地だし、緑の森も豊かで、
勿論のこと漁にだって出てるから、さほどに物資が足りぬという土地じゃあないが。
これまではそれこそ航路の途中に絶対必要な補給のためにと
襲撃しないでいてくれた大きな海賊団が、
こんな状況となったと聞きつけてその目こぼしを辞めるやもしれぬ。

『新世界ってのはそういうところなんだよ。』

何の武装もしない非力な身で、生産だけに勤しんでりゃあいいって生き方はなかなか難しい。
誰かに守られ、搾取されつつでしか、永らえることは出来ないのも当然で。
せめて担当海軍が真っ当な顔ぶれだったならねぇと、
これは客人だった、そちらも麗しいお嬢さんの言いようへ
いやいやいやそんなおっかないこと言うもんじゃないよと、
窘めるように言い返したおじさんだったが、

 『…その住人改めって、もしかして四季島の艦が来るのかしら。』

黒髪も艶やかに映える、知的な横顔を海へ向け、
ロビンが何かしら思い当たりでもあるのかそんな言いようをし。
そんな名じゃあなかったよと、通達の書面を見せてくれたのじっと眺めると、

『…判ったわ。
 どうやら考え違いをなさっているようだから、私どもで何とかしてあげてもよろしくてよ?』

日頃はルフィが言い出すのをナミやウソップが厄介なと制し、
それを傍観しているだけな彼女が、珍しくもそんな突飛なことを言い出して。

『その代わり、ご褒美を頂戴な。』

微妙絶妙な酒精の混入した泉の水を、
付近に散らばっている古い樽へ詰めて持ってってもいいかしら。
おう、あすこの水は動物たちも呑んだ端から具合悪くするから
島のもんは飲みもしねぇ。
そんな物騒なもんでいいなら持って行きなとあっさり許され、

「まさか、偽もんの総督閣下だったとはね。」

ロビンが口にした“四季島の艦”とは、海軍所有の文官が運営している特別な艦の名で、
武装兼任の将校ならともかく、
ただ単に地域を治める任だけ任される総督の配置などへ持ち出されるそうで。
自身に手足となる配下がない分の守りも兼ね、
結構重装備の艦だから、そういう機微に通じているならすぐ判るとか。
そういう名が出てこない、他にもやたらと穴だらけな申し送りの書面へ、
あらまあとの苦笑が絶えなんだロビンが、

『そういう悪さ、見過ごすのはよくないでしょう?』

ウフフと笑い、
一応は海賊船を沖合に係留し、小舟で上陸した自分たちへの監視をしていたらしい、
それも偽の総督様の使いの一行、あれとこれとと目串を刺しての、さて。

『大イノシシが惹きつけられる匂いか、判ったぞ。』

そうと依頼されたチョッパーが調合した匂い袋。
ウソップが見事なスリングショットの妙技で
視察団一行のそれぞれへと小粒の破砕弾にて浴びせかけ、

「あれは傑作だったよな。」

まずはとロビンが、手近な市の立つ島まで、通信に通信を重ねるってやり方で、
手の届く限り情報をかき集めてならず者や海賊関連のそれらを精査し、
ここいら界隈の商いを統括している連中へ繋ぎを取って、

  あんたたちが美味しい商売にしている水晶真珠、
  横から掠め取られかかっているよ、と

ご注進にという一報を割り込ませた。

『今までは独占して言い値で買ってたそれを、
 向こうは役人だと偽っての大上段から全部持ってく気だ。』

『いいのかい? 美味い汁だけじゃあない、
 してやられた腑抜けだって格好で、アンタらの面子も潰れるよ?』

『そ奴らを捕まえて、半ば公開して傷めつければ、
 本当の値打ちもばれるが それでも商品の独占は続けられる。』

『どうせ海軍は来やしない。これまでだってほったらかしだったんだからね、
 海賊同士で潰し合ってくれた方が手間はないなんて罰当たりな連中からしか目は届いてないのさ。』

様々な方向や周波数を使いこなし、さも多数の密告者が居ると見せかけて、
煽りに煽って苛つかせ、海賊商人たちの腰を上げさせ、
沖合にあった我らが麦わらの一味の船で最後の威嚇をして、
島の裏側へと向かわせてから、

『峰撃ちにも入らん空拳だ、安心しろ。』

何でか鼻息荒く追って来る大きなイノシシに追いかけられた監視役の一行を
回収役の海賊らが眼下の海上へ回った断崖の近くで待ち構え。
腰を落としての一応は敵への構えを取り、

『そ、そこをどけぇっ!』
『コケ脅しか、このサンピンっ。』

ただただ助かりたいがため、息も絶え絶えになりつつ八つ当たり半分に
言いたい放題をがなった偽の使者殿たちだったのへ。
サンピンはどっちだかという苦笑を浮かべ、
刀の柄へと添えられた、頼もしい手が動いたかどうかも、ずぶの素人には見えない一閃、

 ひゅっ・か、ざくりと

島までお礼参りに来られてもかなわぬだろうと、無傷で吹き飛ばした剣豪もお見事で。

「1ダースいたのを一回の薙ぎ払いで宙へ飛ばすなんて、
 ゾロさんの腕はますます冴えておりますねぇ♪」

私、インスピレーションが沸きましたよ。
星屑切り裂くシューティングソウルって歌が出来ましたと、
何だかコミカルな曲を奏で始めるブルックへ、
そのついでにと崖から落とされた大イノシシを捌いた宴、
島の沖からも離れつつあるサニー号にて、早くも繰り広げておいでの陽気な彼らで。

 「…にしても、ニコ・ロビン。手前は一体何の目当てがあった?」

他の連中ははぐらかせても俺はそうはいかねぇぜと、
其れもまた小さめの樽ほどありそうなジョッキになみなみとコーラを注いだのを手に、
フランキーが船端に立つ麗しの考古学者嬢へ声を掛ければ、

「大したことじゃあないのよ。」

ふふふと楽しそうに笑ったお姉様、
動物らがふらふらと酔っぱらうことで人さえ寄せ付けぬままだった
酒精の泉のほとりに散らばっていた樽には、
紙がなかった時代の書類の代理だった木の札、所謂 “木簡”が使われていて。
そこに綴られていた伝承だの伝記だの、何だか面白そうなのでと持ち出したかっただけだったそうで。

「私にはお酒もオマケ。」
「そうと言いつつ、味わってるじゃないのよvv」

ワインを割ってちょうどいい風味のサワードリンクになる、確かに程よい泉水で。
大海に沈みゆく夕日をグラス越しに眺め、
それをそのまま賑やかで頼もしい仲間の上へも掲げてから、
くすすと笑って誰へともなくの乾杯と杯をあおったお姉さまだったそうな。






     〜Fine〜  18.03.18.


 *ちょっと久々に海賊団のお話を一席。
  ばたばたしていたその煽りで、アニワンもまともに観てないなぁと、
  思い知っての一気書きです。
  そういや所帯も大きくなってるせいか、
  今放映中の一味にはゾロさん出てないんだよね。
  ロビンちゃんもローさんも別行動だったよね。
  サンジの実家も絡んでのビッグマムとの攻防とあって話がでかいけど、
  次のワノクニ篇も途轍もない話になりそうで、
  このままで追いつけるのかなぁ、自分。とほほん。

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