Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ

   BMP7314.gif 60年目の宝箱 BMP7314.gif 〜ドリー夢小説
 


          




 空の彼方まで見通せそうなくらい、小気味のいいほど“すこーん”と。雲の少ないままに良く晴れた日が続くのが、この時期のこの海域の気候の特徴。海から吹きつける風もそんなにも強くはなくて、波も凪いで静かなもの。ここ“グランドライン”は世界で一番物騒な魔海なんて言われてる航路だそうだけれど、島々の磁気が強すぎて磁石が使えず、そんなせいで航行が難しいってだけの話で、海自体はそんな怖くはないと思うんだけどもな。だってホント、例えばウチの島なんか暢気なもんだもの。港の先こそ海軍の守りの内にあるとは言っても、島の中は“世界政府”の直轄地って訳じゃあない。昔からの自衛権がちゃんと保護されてるまんまの土地柄だし、ずっとずっと長いこと続いてる“お祭り”だって廃れちゃいないしね。20年ほど昔にゴールド・ロジャーって海賊が、この航路にお宝を隠したって言われてて、それを目指して他の海賊たちが大挙してやって来はしたけれど、根性が続かず。仕方がないからお宝は諦めて同じ海賊を狙い始めた。そうなると“弱肉強食”の道理で強い者しか生き残れず、厄介な凄腕海賊ばかりが妙に密度が濃い格好でこの航路にばかり居合わせることとなった。だから、航行が難しい航路になってしまった…ってのが“魔海伝説”の真相なんじゃないのかななんて言われてる。あ、こんな話、詰まんない? ごめんね。でもあたし、海賊って本物を見たことがないのよ、うん。だってこの島には、少なくともここ百年ってもの、そういう輩たちは来たことがない。だからこその、お祭りがいまだに残ってるほどで、さっき言った海軍が、割と早くからここいらの海域の群島を厳しく監視していたからか、それとも…大したお宝なんてないような孤島ばっかだと見切られているのか、おとぎ話の中の悪漢って形で出て来る海賊しか、あたしらは知らない。どこまでも澄み渡った空と同じくらいに、どこまでも人の良い、どこまでも純朴な人たちばっかりの、島であり町や村だったんだけどもね。

  「よお、。」

 港に開けた市場から小高い丘へと続くなだらかな坂を、買い物の荷を背負ってのんびりと歩いていたらば、やな奴に声をかけられた。あ〜あ、ヤダヤダ。今日は行きの道でも市場でも顔を合わせなかったからサ、このまま会わないままかってホッとしてたのに。よほど暇なのかしらね。こんなトコでウロウロしてるくらいなら、下手なりに剣の鍛練でもしてりゃあいいもんを…って。そんなされるのも、あたしらには面白くないことなんだけれど。
「何だよ、そんな不景気な顔しやがって。」
「そぉお?」
 知らん顔のまま足早に振り切ってやろうと思ったんだけど。取り巻きの馬鹿共が、道を塞いで通せんぼなんかしやがって。こんな小娘に、あんたら何人がかりだい。
「待ち遠しいよな、剣術大会。いよいよこの週末だもんな。」
 そうねと、渋々ながら相槌を打ってやれば、糸みたいに細い目をますます細めて にたつきながら、
「今年の大会は特別だ。何たって 60年に一度っていう節目の大会だって言うしよぉ。」
 白々しい。だからこそ、あんたみたいな蚊トンボもどき門外漢までが目の色変えて張り切ってるんだろうに。ここ最近初めて聞いたことみたいに言わないでよね。相変わらず、回りくどいって言うか、何が言いたいのかはっきりしないトンチキなんだもん。ひょろひょろしたウラナリ野郎の相手していられるほど、あたしだって暇人じゃあない。
「通してくんない? あたし、今日は色々と忙しいの。」
「へへえ? 一体何がそんなに忙しいんだい?」
 不思議なことみたいに聞いてくる。気に障る奴よね、相変わらずサ。
「聞いたぜ。兄貴が怪我しちまったんだって? 試合には出られねぇんだってな。」
 ………うるさいなぁ。その怪我だって怪しいもんじゃないのよ。母さんは滅多なこと言うんじゃないって言ってるけれど、どう考えたって…投網を引っ張り返すような大きな魚がいきなり出るわきゃないじゃないのよ、あんな狭苦しい岩場の漁場でサ。
「残念だったよなぁ。あれで結構 腕も立つお兄ちゃんだったのによ。」
 これみよがしの勝ち誇ったような言いようをするってだけでも、自分たちがやりましたってわざわざ言いに来たよなもんなのにね。証拠はなかろうと開き直れるからか、それともそういう理屈だってのが分かってないのか。…恐らくは後者だろうな。村中の公認っていう大馬鹿だから。
「で? 言いたいことはそんだけ?」
 あんたのお弁舌を聞いてる暇はないと言うとろうがと、うんざりした顔を隠しもしないでいたらば、そんな不景気な顔を“悔しがってる”それだと勘違いしたらしいから。その誤解だけは解いてやろうと、こちらもわざとらしくも大きく溜息をついて見せ、
「さっきから聞いてりゃ、分かったようなことを一人前に並べ立ててるけれど。道場に通わなくなったのも、女のあたしに負けてばっかでカッコ悪くなったから。毎年の運動会には、どういう訳だか親戚筋の誰かが必ず危篤になるんで、ここ何年か出たことないなんていう、判りやすい運動音痴のあんたは、肝心な試合にも出ないんでしょう? 見物人に過ぎないもんが偉そうに言ってもサ、意味ないんだよね、実際の話。」
「う…。」
「ウチは兄さんが出れないんなら出れないで、若衆の中にも腕っ節の強いのは幾らでもいる。何なら あたしだっているんだ。あんたを相手にするんだったら、あたしでも十分だろうからね。」
 勝ち目がなくなって口惜しい…だなんてこれっぽっちも思っちゃいない。こちとら卑怯なことをされて迷惑だっていう不快感しか持ってないんだ、はっきり言って。判る? んん?と、斜
ハスに構えて余裕の態度を取って見せれば、
「ぐう…。」
 おお、一丁前に言葉に詰まったぞ。皮肉や厭味なんて言ったところで、カチンと来るとか何とか言う前に“理解出来ない”んじゃないかって思ってたんだけど。
(笑) そっか、体面とか面子とかには敏感だもんな。あたしに勝てないってのがみっともなくて、道場に来なくなったのもそのせいなんだろし。どうよと言わんばかり、フフンと鼻先で笑って見せてやったら、取り巻きの連中もさすがにどっちの分が悪いのか…女に負けてるってのが公認なのがみっともないってのは理解出来るのか、勢いを無くしてバツが悪そうに視線をあちこちへ逸らし始めたけれど、
「う、うるせぇなっ!」
 おお、蚊トンボ坊っちゃんたら逆ギレか? 先程までの余裕はどこへやら、細っそい目と同じくらい細っそい眉を狭いおでこに吊り上げて見せ、語気を荒げて噛みついて来る。
「とにかく、今度の祭りの大会じゃあ俺んチが勝つんだよっ。そいでもって、スルタンの祠は俺らが頂き…っ。」
 ホントの腹積もりだとはいえ、そこまで言うつもりはなかったか。これでも“隠し事”にして来たらしい企みの一端、ついつい言いかけて慌てて両手で口を塞いだウラナリ坊っちゃんだったけれど。こっちにしてみりゃ、やっぱ その話かいと、相手の口から直に聞けた本音へますます呆れただけ。肩を竦
すくめて、行く手を塞いでたチンピラをチロリと睨み、そこを退きなと顎をしゃくったところが、
「通さねぇって言ってるだろうが、よっ。」
 これ以上引き留めたって、自分たちが惨めになるだけだろうにね。よほどのこと、あたしが悔しがって泣くとこでも見たかったのかしらね。このままでは引っ込みがつかないのか、退くどころか逆にこっちの肩へと手を伸ばして来たもんだから、半分くらいはついついという反射で…手が勝手に動いてた。腰のサッシュベルトに差してた細身の刀…短刀とか鐔のない匕首
あいくちみたいな型だけれど、脇差より少しばかり短いくらいって長さのあるもの。そうね、見た目は和楽器の能笛に似てるかな。それを逆手で引き抜いていて、わざとに光を刃の表面で反射させて見せる。すると、

  「…っ、ひっ!」

 熱湯でも浴びたかってくらい大仰に、一番大きく後ろへと身を引いたウラナリで。女の繰り出す剣へこうまで及び腰になってんだもんな。これで偉そうにしてるかね。そんな反応へますます呆れたけれど、
「な、何だよ。そんな物騒なもん出しやがってっ。」
 あちゃ、ちょっと不味かったな。自己防衛には違いないながら、試合会場でもないのにこんな刃物を振り回すのは普通に“ご法度”だ。鞘ごと引き抜くつもりが、ついつい鯉口切っちゃったらしい。
「うっさいわね。気安く触ろうとしたからでしょう?」
 自己防衛よと一応の弁明はしたけれど、こっちが“不味いな”と思ったこと、微妙に嗅ぎつけられたかも?
「道場でもない、ましてや大会中でもないってのに、そんなもん振り回しやがってよ。」
「判ってんのか? 傷害未遂だぞ?」
 そんなこと言ってたら、コップを手に取ってみただけでも“傷害未遂”だ。こんな場合は、正確には“暴行未遂”っていうんだよ…なんて、暢気に揚げ足取りをしている場合じゃない。相手にすりゃあ、是が非でも“権利書”が欲しいんだもの、どんないちゃもんだってつけて来かねないって状況だってのにサ。これって重々 迂闊だったかも? あたしって今一つ冷静さが足りないっていうか、ノセられやすいところが玉に瑕なんだよね。どうしたもんかと、出した刀を引っ込めも出来ないまま、固まりかかっていたところが、

  「うるっせぇな、さっきからごちゃごちゃと。」

 突然、聞き覚えのないお声が、どこからか割り込んで来てハッとする。いかにもうんざりしておりますという、威嚇半分、投げつけるような調子の不機嫌そうな声音だったけれど。それと同時に…妙に芯のピンと張った、力強い良いお声でもあって。
「昼寝くらい のんびりさせろよな。」
 あの、昼寝って…。(う〜ん/笑)なだらかな坂道の片側は、仕切りの柵が続く向こうに…そのまま海までの見晴らしも絶景な、羊の放牧用の草原が丘の裾野まで広がるゆるやかな角度の斜面。それとは反対側になる丘の頂き側はというと、雑木林の木立ちの連なりが丁度途切れてて、海風に晒されて朽ちかけた、白っぽい石の壁やら建物の跡やらがちょこっとばかり連なっている。昔ここに住んでた人たちの集落があったんだけど、海賊を始めとする多くの船が外の海から入って来だしたことで、港の方がどんどんと栄え出したんで、そっちへ移ってしまったその跡だ。不意な声はそっちから聞こえて来たらしく、
「だ、誰だっ!」
「出て来やがれっ!」
 あまりに堂の入った口利きだったのが、相手の格をそのまま伝えていたのは、あたしにも判ったし、ウラナリの取り巻きどもにも何となく察することは出来たらしい。そんな相手の姿が見えないままなのが、よほどのこと落ち着けなかったか、少々おたつきながらそんな声を放ったところが、
「男がくだんねぇことでごたごた喚く声ってのは、特に癇に障っからよ。落ち着いて寝てらんねぇんだよな。」
 間にあった障害物で遮られていない、くっきりと鮮明な声がして。あたしの立ってる位置より少し後ろ、石壁が膝の高さくらいまで崩れ落ちてた辺りから、ぬうっと道の方へ出て来た人がいる。深みのある良い響きのお声にようようマッチした、彫の深い面差しの、男臭い風貌をした若い衆。短く刈られた髪が牧草より少し淡い緑色なんて珍しい色合いで、片方の耳にだけ金の棒ピアスを下げてたりもする洒落者風だけど。上背はあるし胸板はがっつりしているし、それに…不貞々々しい態度の何とも場慣れしてることvv
「しかも女一人に何人で掛かってやがるかな。」
 あはは…あたしが思ったのと同じこと言ってるよ、この人。これは頼もしい助っ人が出て来たのかなと。そうと判断したその途端に…皆してそっちに注意が行ってた隙をつき、抜いてた短刀を鞘へと戻して。腕に抱えてた買い物のカゴを揺すり上げるようにして懐ろへ抱え直すと。自分を挟んで睨み合うウラナリたちとそのお兄さんとが直接向かい合う格好になるよう、壁の側へサササッと素早く身を譲る。あなた方の喧嘩の真ん中に女のあたしが居てはお邪魔ですよねと、勝手に“彼らが主体の諍い”だって方向へ話を持ってこうとしたんだけれど。そんなあたしの調子の良い“意図”がすぐさま読めたか、それにしては…迷惑そうというよりは軽い、しょうがねぇなという苦笑を口許に浮かべた彼であり。
「一応は刀を提げてんだな。」
 向かい合った連中が、それぞれの腰に剣を差してるのを見てそうと言い、
「さっきこの子が刃
っぱ抜いたのをどうこう言ってたみてぇだが、大の男がこれみよがしに剣を提げてるのへは何も咎めはねぇんだな。」
 ちょいとばかり…小馬鹿にするみたいな言いようをし、

  「日頃から剣を提げてるっていやぁ、
   海軍か警官か、それとも…海賊くらいのもんだろうによ。」

 唇の端をだけ吊り上げて、不敵に笑ったそんな彼もまた、強かそうなその腰に、何と3本も刀を提げている。前へと突き出させた柄の上、肘から先の腕を軽く載せている姿勢からは、すぐさま抜きはしないと思わせてもいるけれど。………そんなのカモフラージュだと、あたしには判る。わざと隙を作っているんじゃない。肩から腕からすっかりと力を抜いてるって重々判るのに、それと同じくらいに…何したってどこから突っ込んだって、あっさりと弾き返されるんだろうなっていう、微妙な“間合い”ううん“ゆとり”を感じ取れる。踏み込んで間合いを詰めれば、その分 引いて躱すのだろうな。横から回り込んでも、きっとダメだ。もしかして本身を抜くこともないまま…柄や鍔のところででも受けたまま、あっさり釣り込まれて たたらを踏んで、遊ばれるように振り回されてから突き飛ばされて終わり。
“…この人、強い。”
 これでも伊達に道場に通ってるあたしじゃない。刀鍛冶の仕事は…他の土地ではどうだか知らないが此処では、女のあたしには残念ながら継げないから。せめて刀を扱う人の力量が見通せるようになりたくてと、そんなつもりからの修養中の身。だから、判らなくてどうするという、彼のレベルの高さだったのだけれど、
「へっ、だったらどうだってんだ。その伝で言うなら、お前は海賊か? それにしちゃあ、迫力がねぇじゃねぇか。」
 ………ああ、やっぱりなぁ。ウラナリには嗅ぎ取れなかったらしい。てれんと力を抜いている様子に大した相手ではないと思ったか、大上段からの物言いをし、主人のそんな空威張りっぽい言いように根拠のない励みを得たらしく、
「そいつは女だてらに道場で木刀を振り回してるような奴なんだ。女扱いするこたねぇっての。」
 取り巻きの若いのが、微妙に理屈のおかしな言いようを並べてくれた。女だてらって言いながら、女扱いしないでいいですって? 木刀振り回していても女は女だって言い方をしときながら、女扱いしなくても良い、何人がかりになっても卑怯じゃないってか? それってどういう順番な理屈なのかねぇ。ムッと来たあたしが身を起こしかかったよりも一瞬前、

  ――― じゃきり、と。

 鍔鳴りの音がして、銀色の何かが宙を閃いた。鏡をちらりと降って、その表が一瞬光ったような。そんな光が…彼と奴らの間にいたあたしの前の空間を、ツバメみたいな素早さで飛んで行ったような。そして、

  「…い、いたたたたっ!」

 片側からいきなり沸き立ったのが、ウラナリの尻馬に乗って囃し立てた男の無様な胴間声。あたしを指さすのに使った短い目の棒を持ってた腕を、ぶらんと下げて、みっともない悲鳴を上げている。一体何が起きたのか、他の誰にも判らなかった。だって、彼とそいつとの間合いには結構な距離があったのだから、たとえ刀を抜いたのだとしても微妙に届かない。それに、こっちの彼は腕を伸ばしたり身を乗り出したりなんて仕草や態度は取らなかったんだもの。尚のこと、何がどうしたんだかという展開だったのだけれども、
「オーバーな奴だな。」
 くくっと低く笑ったのは、乱入者の彼であり、
「たかだか剣圧浴びただけで言うこと利かなくなるとはな。鈍
なまりすぎってもんだぜ。」
 刀の柄の先、把頭に手を置いて、ちょいと目許を眇めて見せる。剣圧って…それって物凄いことだってばさ。つまりつまり、この人、あの一瞬っていう刹那に、ただ刀を抜いただけじゃなく“鋭く振った”ってことになる。しかも、その剣圧…剣撃で生まれた“風”というか気配というのか、そんな圧力だけで筋をやられちゃうほどの攻撃に変えちゃうだなんて。
「…凄い。」
 そういうのがちゃんと理解出来た あたしはともかく、
「あわわ…。」
「な、何が起きたんだ?」
「坊っちゃん、痛てぇよぉ〜。」
「しっかりしなっ、すぐに医者に診せてやるぜっ。」
 情けなくも泣きわめく男を2人がかりで引き摺るように道を戻ってったせいで、頭数も減った。それで一気に心細くなったらしく、さっきまでの空威張りもどこへやら、
「きききき貴様っ! こいつが どうなっても良いのか!」
「あ、こらっ! 離してよっ!」
 とっさのこととは言え、二の腕を掴まれて、そのまま引き寄せられかけたもんだから、こ〜れは あたしも不覚だった。人質というより楯代わりにするつもりだったわね、あんた…っと、怒鳴りつけてやり掛かったそのタイミングに、

  「何しとるかっ! こんのクソ外道がっ!」

 ありゃりゃ、何かまた割り込んで来た人が。どこからか駆けて来たんだろう、その前触れというか、近づいて来た気配さえ拾えなかったほど、あまりにあっと言う間すぎて。それはまるで、天からいきなり降って来たかのような突然さだったのだけれども。方向的には…真横からの飛び蹴りが見事に横っ面へと決まって。あたしを手元へ引っ張り寄せかけてたウラナリ野郎が、そりゃあ気持ちよ〜く、文字通り“吹っ飛んで”って道の上へ倒れ込んでしまった。取り巻きたちは大慌てだ。坊っちゃんは無事かと心配しなきゃいけないし、手練れが増えたことへも油断出来ないし。
「…ど、どっから飛んで来た、お前っ。」
「大丈夫ですか? マドモアゼル。」
「聞けよっ、人の話!」
「お怪我はありませんか? こんのクソまりもには、女性を庇おうって時に必要な心得ってのがありませんからね。」
「…何をぅ?」
 新手のこの人もまた、どうやら剣士さんの知り合いらしく、でもその割には…喧嘩を売るような言いようをしたくせに、全然そっちは見ないまま。ウラナリに捕まりかけてたあたしの手を、こう…恭
うやうやしいって風に両手で捧げ持って、ムードのある低い声にて“無事でしたか?”と案じて下さった。落ち着いた表情を浮かべたお顔の何とも端正なこと。剣士さんもネ、いかにも雄々しい腕自慢って感じで、男臭くて渋くてカッコいいんだけれど。こちらの彼は、目許すっきりの細面ほそおもて。そりゃあ端正なお顔をしていて、芝居に出てる役者さんみたいだったのvv 絹糸みたいな金髪を長いめに伸ばしてて、体つきはしたたかに細身。しゅっとした立ち姿にダークスーツの直線の輪郭がよくよくハマってて、ちょっと斜ハスに構えて薄く笑って見せる、いかにもクールな雰囲気もなかなか決まってたしね。
「お、お前ら、の知り合いかっ?!」
 飛び蹴りがよっぽど決まったのか、ウラナリ蚊トンボは目を見開いたままで気を失ったらしくって。しょうことなしに取り巻き連中が“がうわう”と噛みつくように吠え立ててたんだけど、
ちゃんていうのか〜。かわいいお名前だなぁvv
 あ、鼻の下が伸びちゃった。せっかくクールで凛々しかったのに、ちょっと…面白いトコもある人かもだな♪ あははvvと笑ったら、尚のこと、にこにこと笑ってくれたお兄さんへ、
「おい、あほコック。」
 剣士さんが忌ま忌ましげな声をかける。途端に、
「あん? 誰に言ってやがんだ? こんのクソはげが。」
「誰が禿げとるか。何でまたこんなところに沸いて出たんだよっ。」
「このお嬢さんの窮地を察したからだってんだ。大体、お前な。こんな麗しいお嬢さんを放っぽっといて、そんな胡散臭せぇ野郎どもと遊んでんじゃねぇよ。」
 まずはお家までのエスコートだろうが、レディの前で埃立てるなんざ言語道断だっての。うるせぇな、埃を一番立てやがったのはお前だお前。あのひょろモヤシを吹っ飛ばした拍子に、どんだけ砂が飛んだと思うよ。何を…っと。な、なんか身内同士での喧嘩に発展してませんか? お二人さん。置いてけぼりはあたしだけでなく、当初の喧嘩相手だった連中も同じことで、
「…な、なんなんだ? こいつら。」
 だから、こっちに訊かれても判らんというに。ウチへの客人があるなんて話も聞いてないし、第一、どっちのお兄さんにも面識ないし。
「やるかっ、貴様っ!」
「おうよ、望むところだぜっ!」
 あわわわ…。そんな本気で睨み合って…刀抜いてどうすんの、お兄さん。お知り合いなんでしょうに、本気モードで角突き合わせて…あわわっ、そっちのお兄さんも煙草に火ぃ点けてる場合ではないのでは?
「じゃ…じゃあな、。」
「今日のところはこの辺で。」
 あ、こらっ! あんたら、何とかして行きなさいよっ! 元はと言えば あんたらがっ! 放っぽって逃げる気なのっ!待…っ


   「何してんの、あんたたちっっ!」


 ……………おおう。このどさくさに紛れて、尻に帆かけてこそこそと逃げ出そうとしていた連中ごと、大きなお声で恫喝した人が現れて。あまりの迫力がまるで、小さい頃に誰もがお世話になった、近所のおっかないおばさんの怒声を思い出させたか、

  「どっひゃあぁぁっっ!」×@

 まだ正気に戻ってないらしいウラナリを御神輿みたいに担ぎ上げ、鬱陶しい取り巻き連中、飛び上がったのをそのまま合図にでもしてか、跳ね上がったそのまま“どぴゅん”と勢いをつけて。あたしが来た道を港の方へと戻って行ったのでありました。後に残されたのは、その怒声にやっぱり身をすくめてしまったあたしと、今にも掴み合いの喧嘩を始めかけていたお二人さんだけ。自然な反応として、声のした方を向いてたあたしは、その“声の主”を視野に収めていたんだけれど。そこに立っていたのは、
「ナミさ〜んvv
「何やってんのよ、二人とも。」
 呆れておりますと目許を眇めた、あたしとそんなに変わりないくらいの、若い女の子がたった一人。腰に拳を当てがって立っているばかりだったの。


   ………今の凄まじい怒号って、ホントにこの子が出したの? ねぇ?



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  *久々の“ドリー夢小説”です。
   欲張りさえしなければ、そんなにも長いお話にはならないと思いますが、
   よろしかったならお付き合い下さいますようにvv