Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ

 

   BMP7314.gif 君は君。 BMP7314.gif 〜剣豪BD記念作品(DLF
 

 

 枝分かれしてないままに よく撓
たわむ幹が特徴的な、いかにも南海風な木々が砂浜を囲んでいる。背の高い梢にて、幹ごと揺らす潮風にさわさわと、波の音を真似ながら なぶられている厚手の葉。それを青くクールに濡らす月光と、夜陰の藍とに染まっていた無口な砂浜の上に、今はオレンジ色の炎が軽やかに躍っている。時折パチパチとはぜる焚き火を囲んで、波の音をB.G.M.に、尽きないお喋りをして過ごす秋の宵。ログの通りの航路の果てに、新たに辿り着いた島は小さな小さな無人島で。補給はさして出来そうになかったけれど、今が食べ頃な果物の数々と、遠浅で綺麗な砂浜が広がる、何にもしない骨休めには丁度いい、たいそう静かな島だったから。到着した昼間は果実の採取と探検ごっこや渚のお散歩で半日を過ごし、水平線を境にした空と海との双方で、鮮烈な茜を紫紺が追いかけて塗り潰す、どんな一流の染物師でもこれは表現出来なかろうグラデーションも見事な、何ともスペクタクルな落陽を夕べに堪能して。それからそれから、焚き火を囲んでのバーベキューを味わいながら、それはにぎやかにお喋りの花が咲いていたのだけれど。いつの間にやらその話題、先日のハロウィンでの仮装大会という真新しい記憶からもう少しほど逆上り、これまでの様々な冒険の中での、変装仮装の体験談の暴露大会になっており。

    「俺なんかあの海軍の要塞島では水兵の恰好をしてたんだぞ?」
    「あっと言う間にバレたんだろうが。制服着ただけなんて、そんなもん変装とは言わねぇよ。」
    「あーっ、バレたっていや、お前とルフィだってそうだったって話じゃないか。しかも、お前の場合、得意ジャンルの厨房に居てあっさりバレたってんだろーがよ。」
    「あれはこのバカが調子に乗りやがったからで、俺のせいじゃなかったんだってばよ。」
    「俺っ、俺も俺も、あの島でお医者に化けたぞっ!」
    「化けたって…。」
    「あんたは元から“お医者”でしょうが。」
    「でもっ、あん時は“謎の医者”だったんだから、化けたんだって。」
    「…そういや、あの時かけてたヒゲつき鼻メガネは、どこで手に入れたの、あんた。」
    「コバトさんの机の引き出し。」(ホンマか?/笑)
    「ナバロンといや、ナミさんのナース姿もお綺麗でしたvv
    「あら、ありがとvv」
    「あ〜〜〜っ! そういえば、ロビンっ。お前、あん時、尉官の制服着て“監察官”とかに化けてなかったか?」
    「そうだったかしらね。」
    「そんな偉そうなものに化けてたの?」
    「さすがはロビンちゅあんっvv 美人は度胸もピカイチっvv
    「…そうなのか?」
    「美人って怖いんだな。」
    (う〜ん)

 TVオリジナルを知らない方には不親切な話題ですいません。(うう…。) 空島から青海へと降りて来たその最初に、選りにも選って海軍の要塞島の内海へと飛び込んでしまった…なんてことを体験した彼らであり。その折に…追跡の目を誤魔化すのに、巨大な世帯であるがため、個々人までのレベルでは互いに見知ってないことを逆手にとって、様々な変装をして急場をしのいだことが俎上に上った。海賊は捕まり次第“極刑”だというのに、海軍基地でそんなお茶目をやらかす辺り、相変わらずにお気楽な連中…なのかも知れず。あんな特殊なケースはともかくも、辿り着いた土地の環境や状況に合わせて、結構 色んな恰好をして来た彼らでもあって、
「まま、女性の変装はね。日頃の装いやお粧
めかしの延長上にあるんでしょうから、別人への成り済ましが見事に嵌まってたって不思議はありませんてvv
 船の上でも華麗に美しく、様々ないで立ちになっては目の保養をさせて頂いている綺麗どころのお二人だから。どうかこれからもよろしくvvと、眸をハートにしてのお追従を送るシェフ殿も。この船の男衆たちの中では唯一、日常の普段着をあれこれとお着替えしている洒落者であり。
「………それにしても。あいつだけは、どんなカッコしても決まりませんよね。」
 ハロウィンナイトでは、結局 見張り台から降りて来ませんでしたしねと、吸血鬼に扮してたシェフ殿が矛先を向ければ、
「っていうか。変装なんてしたことはないだろ、一回も。」
 一番縁の多い“ミイラ男”に化けてた狙撃手さんがやれやれと肩をすくめている。さすがに…砂漠の国や極寒の島なんていう究極の気候条件下では、それらの環境に耐えるための“装備”をしはしたが、気がつけば…どの場合でも、オリジナルの姿へと一番最初にあっさりと戻ってた人だったような。
「空島で腹巻きしてなかったのは、泳いで濡らしたからなんか?」
「らしいわよ。」
 さすが、あまり一緒に居た訳でもないのに…姿だけはちゃんと見ていたらしい。そんなことを訊いた、こちらさんも“化ける”なんて高度なものには縁遠いルフィでさえ、
「あんたも。いつぞやのアリスちゃんは可愛かったわよねぇ。」
 ………そういや やりましたな、ウチでは。忘れとった訳ではありませんが、今や1億の男が“アリス・コス”経験者。う〜ん…。
(笑) 何のお話?と小首を傾げる、チョッパーやロビンには、ナミが“後で写真を見せたげるvv”とウィンクつきでクスクス笑い、
「大体、要塞島で一番最初に取っ捕まってたって事からしても分かんだろうが。」
「…そういや、そうだよな。」
 自分たちの侵入がさほどまで広まってなかった段階で、あっさりと一番最初に捕らえられてた不器用男で、
「ホントに策ってもんが浮かばなかったらしいわよ。」
とは、あの最中に彼の3本刀を取り上げようとしたナミさんの言。
「3本も提げてりゃ目立つに決まってる刀も持ったまま、物陰に隠れようともしないで、胸張ってウロウロしてたんですもん。」
 あそこまで考えなしな男だったとはね、呆れたわ〜と、さして声を低めもしないナミなのは、彼女が怖いものなしの航海士さんだったからだが。こうまでつけつけと言われて、なのに、

  『何だと、このアマ』

 いつもの忌ま忌ましげな反駁が返って来ないのは。肴にされてるご本人、ヤシの幹に凭れて一足先に夢の世界の住人となっていたから。昼寝こそよくするが、宵になって順当に眠くなってる姿をさらすのは珍しいこと。むしろ真夜中の方がしゃんとして起きてるような男なのだが、今は…分厚い胸板の前へ頼もしい腕をがっしりと組んだまま、雄々しい筋肉が撓やかに盛り上がった肩の上で少しばかり頭を前へ倒した姿勢になって、胡座をかいた窮屈そうな恰好で、くーかくーかと眠っている。
「…よっぽど疲れたんだな、ゾロ。」
 心配そうに呟いたチョッパーの頭上にて、さしものナミでさえ、
「そりゃあ、まあねぇ。」
 感慨深げな声を出す。この現状へは、不思議と皆さんからの理解もあるようで、
「スコール降りしきる中で海に落ちちゃった誰かさんを探すだなんて、無謀極まりないことやってのけたんですものねぇ。」
 この島に着く直前のこと。どこからが海面だか分からなくなるほどの勢いで、それは凄まじい驟雨が甲板へも叩きつけ、風雨に揉まれて大荒れに荒れていた海へ…不意を突かれて波に攫われ、暗い海中へと呑まれてしまった船長さん。それを追って、荒らぶる波を物ともせずに海中へと飛び込み、見事救い上げたという…無茶苦茶なことをやり遂げてしまった剣士さんであり、
「もはや条件反射じゃないっすかね、あの忠犬ぶりは。」
「サンジくんもそう思ってた?」
 夜中のように真っ暗だった嵐の中であり、自分の命さえ危ないこと。なのに、躊躇なく追ってしまった辺りの盲目さは大したもので。それもまた、ある意味で立派に不器用な“一本気”から出ていることなのかもと。はぁあと肩をすくめて苦笑したご一同。疲れ切ってるらしき剣豪さんが相手では反応がなくってつまらないからと、言葉で嬲るのもほどほどにし、自分たちの話題へと明るく立ち戻ったのでありました。






            ◇



 静かな島でのんびり過ごした1日でも、それなり眠気はやって来るもの。相変わらずに2桁の時間帯への突入と同時にうとうとしだした船長さんを皮切りに、船医さんもほどなくして、眠たげに目許をこしこしと小さなお手々で擦り始め。果物をたくさん添えてあった甘いカクテルとはいえ、結構飲んだ狙撃手さんも日が変わらぬ前に撃沈し。そうなると…じゃあ後は大人たちだけでと、実は一番のうわばみたちである女性陣が“船へ上がって飲み直しましょうよ”という仕切り直しとなり、そのお給仕にとシェフ殿が着いてゆき…で。島の浜辺は本来の静けさを取り戻す。そんなに冷え込む海域ではなかったが、それでも夜間の戸外だ、焚き火は必要だろうに。

  “声くらい掛けてけっての。”

 人にさんざん、機転が利かないの不器用のと言っておいて、火の番を言い置かないずぼらさはどうだよと。いい加減さではいい勝負な連中へと口許を曲げつつ、炎へ薪を足した大きな手。そんな動作の連動が揺すったか、
“………んにゃ?”
 ふと。目が覚めた人物がある。自分から寄ってった結果か、誰ぞが気を利かせて寄せたのか。適度に堅くて寝心地のいいお膝へと、横合いから乗り上がるようになってうつ伏せていたルフィであり。視野の中、無造作な仕草で薪を放った大きな手が、そのまま戻って来て…自分に掛けてあった毛布の襟元や裾を直してくれるのが、
“…えへへvv ///////
 妙に嬉しくて口許がほころぶ。ホントはこんなことへ気が回らない筈なゾロなのにな。ああ、ちょっと大雑把だし、こゆとこはゾロらしいのかな。大事な刀を腰から抜いて、避けてあるその同じ場所へ、自分の帽子もそっと置いてある。そんな風に対処してくれるのもドキドキと嬉しい。クドイようだが、この男は細やかに気が回る人物ではない。サンジのように如才なくマメで融通が利くなんて、逆立ちしたって無理だから。となると。そんな彼が、そんな彼だのに、きちんと心得ていて忘れず処してくれることは、どれもこれも不器用さんの精一杯の気配りであり、だからこそ…特別さも いや増して無性に嬉しいルフィであって。すると、

  「…くだらねーこと、話してやがったな。」

 独り言にしてはよく聞こえたし、大きな手がもそりとこちらの髪をまさぐったので、
“ありゃりゃ。”
 起きちゃったって気づいてたんだ。
「その場しのぎが出来たって、嘘の上塗りが間に合わなくなって窮地に追い込まれてちゃあ一緒だろうが。」
 髪をくぐって地肌に直接触れてる、太い指の温かさや擽ったさ。それらへますますとにんまりしつつも、
「寝た振りして聞いてたんだな。」
 狸寝入りなんて ずっこいぞと、顔を持ち上げて反駁する。あれから随分と時間が経ってる話題だったのにね。変装という“こーとー技術”を使いこなせない不器用者だと、皆から馬鹿にされたことを指してるゾロなんだなと、ルフィにもあっさり通じている。この呼吸の合いようもまた、日頃は当たり前なこととして馴染んでいるから…わざわざこんな風に顧みもしないけれどもね。
「デカい声で騒いでやがったからな、聞こえないでどうするよ。」
 ふんと怒ったような言い方をされたのにね、温かくって嬉しいポイントなので、口許がにまにまとほころんでしようがない。よいしょと腕を伸ばして、身をずり上げて。そんなこっちの所作を見て、内側の肩をとんと突いたゾロであり。
「わ…。」
 バランスを崩し、膝の上から突き飛ばされたような格好で…いつの間にか伸べてた腕の中に受け止められてる。そこでくるりと仰向けに体を反転させられ、ぐいって懐ろへって引き寄せられたら…お膝抱っこの出来上がり。乱暴なんだか手慣れてるんだか、
「む〜〜〜。」
 ビックリしたじゃんかと口許を尖らせても、ふふんと笑って反省はしない。いい態度じゃんかとムッとして、ふかふかの頬を胸板にぐりぐりと擦りつければ、ますます破顔してしまうゾロだったから…。

  “しまった、ゾロって擽ったいトコがないんだった。”

 なんか、普通の“いちゃいちゃ”を出歯亀してるだけになりそうなんですが、お二人さん。(苦笑) むむうと膨れつつも見上げたお顔は、やっぱり不敵そうな…ちょっとだけ擽ったそうな笑いを浮かべてるばっかりで。
“…くそぉ、カッコいいじゃねぇか。///////
(おいおい)
 この人を故意に困らせるのは、ルフィにはなかなか至難の業であるらしい。
“天然の破天荒さでなら、いっくらでも困らせてくれるんだがな。”
 それもどうかと。
(笑) まだまだ夜中だ、早く寝直しなと、あやすように抱えてやっていたのだけれど、
「………なんだ?」
 妙に まじっと、こちらを見上げているルフィなのに気がつく。ちょいとはしゃがせたから“二度寝”出来なくなったのかななどと、保育士さんのようなことを懸念している剣豪さんに、

  「ん〜〜〜。やっぱりゾロって他の姿は想像つかねぇなって。」
  「はぁあ?」

 だからさと前置いて、
「どっかの町で事務員やってたり、商売人になってたり。山で樵をやってたり、城の衛士とか海軍の将校とか。色々考えてみてたんだけどよ、どれもこれも似合わねったら♪」
 しししっと楽しそうに笑って、
「変装とかじゃなく、仕方なくそういう職についたとしてもさ。凄げぇ“らしく”ねぇよなって、そんなこと思っちまったんだな。」
 ………悪かったわね、そういうお話も書いてて。
(爆) じゃなくって。
「やっぱ。ゾロはゾロなんだなってvv
 変装とかその場しのぎの小細工とか、そういう方面での機転が利かない不器用男。そんな自分に焦りもしないで、下手にじたばたしない彼だというのは、むしろ“彼らしい”ことだと思うし、策が出ないままに…たとえば捕まってしまっても、何となれば脱走くらい朝飯前だという余裕がある男だから、であるのなら。そんな泰然として居るところこそ、自分が見込んだ逸物らしさ。一本気で融通が利かない。そんな彼であることが、不器用だと罵られていても…何でだか嬉しかったかなって、今更のように実感し直した船長さんであるらしい。着実に腕を上げてるゾロ。そして…自分のこと、一番判ってくれてるゾロ。史上最強の座は先々でも絶対譲らねぇけどサ。譲らねぇってわざわざ意識してるほど強い強い奴が。こっちの力量とか心意気とか、ちゃんと腹ん中で把握しててくれてる、評価しててくれてるってのは、しびれっちまうほど嬉しいことだからサ♪ こんなワクワクをくれるゾロが、やっぱり好きだなあって嬉しくなるvv


   「ゾロはゾロ以外になる必要ないんだし。」


 どこか弱々しい月光の中なのに陰りもしないで、にぱーっと力いっぱい笑った童顔のパワー。それが、我知らず、彼の故意でもないままに…こちらの胸倉をぎゅううと掴みしめたような気がして、

  “…こいつめ。///////

 ドキッと来るような言い回し。日頃はあれほどにもお馬鹿なくせに、何でこうも…物事の肝をちゃんと絶妙に押さえているかなと。天然ならではの無敵の求心力には、相変わらずに歯が立たない未来の大剣豪様。こんな調子なもんだから、剣豪さんの方でも船長さんから離れる気なんて、毛頭ございませんようで。青いお月様にまたぞろ何か誓い合ってアテられてしまうその前に、とっとと退散しとうございます。



  ――― あ。
      どした?
      ゾロ、明日…じゃなくて今日は誕生日じゃなかったか?
      …そうだったかな?
      やたっ、一番だvv おめでとうなvv
      ………サンキュな。



  〜Fine〜  04.11.09.〜11.10


  *思いっ切り“アニメ”ネタが絡んでいてすいませんです。
   言い訳ですが、私“アニメ派”なんで、つい。
   (いよいよ脱出というラストの回の作画にはコケましたですが…。)
   アニメがやっと本誌の展開に戻ったはいいんですが、
   何ですか“ハイビジョン仕様”になったそうで。
   とゆことは、地上デジタルで観ると、も少し両端が長い画面なのでしょうか。
   それとも、ハイビジョン仕様だから画面が綺麗だということでしょうか。
   ルフィの餅肌の質感とか、チョッパーの毛並みのモコモコ感とか、
   それはリアルになっているということなのでしょうか。
(おいおい)


  *思い切り話がそれましたな、えとえっと…。
   BD作品の第一弾が思い切り“突貫もの”なのも すいませんです。
   今年は何でだかバタバタと立て込んでます。
   変装したことがないゾロと本文中で言ってますが、
   劇場版の『チョッパー王国』でほんのワンカットだけ
   ペンギン
(笑)の着ぐるみを着ていたゾロさんだったとか?
   でも…あれは“変装”ではないような。
   周囲に同化するためのものだったから…どっちかというと“擬態”?
(おいこら)
   尾田センセーの方針なのか、
   アニメでもほんっとに滅多に衣替えをしないゾロでしたが、
   そんなせいですか、
   空島編でいきなり腹巻きなかったのへは少し愕然としましたね。
   もう使わないのかなと思っていたら、あっさり戻ってましたけど。
(笑)
   あれってやっぱり、替えがなかったタイミングだったって事でしょうか?
   だってそれまでは
   どんなに海に落っこちようと、どんなにずたぼろに斬り合った後であろうと、
   ちゃんとスタンダードに装着してましたもんね。
   三刀流の間合いみたいなもの的に、
   あの腹巻きに鞘を提げないと落ち着けないんでしょうかね?
   三刀流 カッコ但し腹巻き必帯とじるカッコ、なんですね。
   難儀な剣法ですね、そりゃ。

   一体 何の話をしているんだか。
   ともかく、剣豪、お誕生日おめでとうですvv
   (こんな話の後じゃあ、嬉しくないって。/笑)

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