月夜見  〜 真夜中の太陽 (寝顔)
 

室内に立ち込める夜陰の中に、寝息だけ。
腕の中には、ぬくぬくと眠る無防備な顔。
生死を分かつほどの結果を招くような抜けたことをやっては、
お釣りが来そうなほどの無体で補う、とんでもない奴である。
二つも年下のくせに対等な口を利き、
日頃はうるさいほど懐いているくせに、
いざという時は背中を向けやがる。
新しい目的へ、俺たちを脅かす敵へ、
先頭に立って真っ向から対峙するために、だ。
そうして、生命が幾つあっても足りないほどの、
途轍もない無茶をし、勝負をし、冒険をし、
今は、此処に、居る。
「………ん。」
何かくすぐったいのか、目許を何度も擦って、
「…あれ? 寝てないのか?」
半分しか開いていない眸を上げてくる。
「今日は昼寝、してないのに。眠くないのか?」
そうだったよな。
今日は一日、肴にされ続けで、のんびり寝てる暇は無かったよな。
俺のためというのは単なる名目で、
賑やかに過ごしたかっただけだろうによ。
<でも、じゃあゾロは、
 同んなじように俺の誕生日に騒いでやろうって誘われても、
 おめでとうって祝ってくれねぇのか?>
途轍もなく甘い酒で目が据わりかかっていたこいつに、
そんな説教までされたっけ。
「夜寝られないのは、昼間に寝過ぎるからだぞ?
 それとも、夜起きてる方が好きなのか?」
一丁前な言いようをするから、
「判った、判った。人の世話はいいから寝ろ。」
ポンポンと背中を叩いてやると、数分と経たずして再び眠ってしまう。
人の腕を抱き込んで、すっかりと安心しきった無防備な寝顔でいる。
別にどんな状況下でもこういう顔で眠る奴ではあるが…と、
自分でそんな風に思った途端に、
「…ば〜か。」
ついつい小声で呟いていた。
「昼間は独り占め出来ねぇだろうがよ。」
彼らの曰く"今日は俺にとっての特別な日"だそうだから、
ならばせめて、
一番欲しいものを好きなだけ、独り占めしていても良いじゃないか。
"………。"
仲間が増えたことで、この"お日様"は皆のものとなってしまった感がある。
話しかける相手、視線を見交わす相手が増えて、
お守りについている負担が軽減し、
目を離していられるようになった反面、
彼からは何でも、真っ先の、一番目、だったことも減ったような気がする。
"………。"
もうすぐ日が変わる。
いつもと同じだのに、特別な日だから特別なものだった温もり。
来年どころか、すぐ明日でさえ、同じようにこうしていられる保証はないから、
しっかり覚えておこう。
こんなに、一番間近にいても、手には入らない"太陽"の温み。
彼が上り詰めたその時に、せめて横にいられるように…。


    〜Fine〜  (01.7.22.)


  *そういえば、誰かさんをさんざん甘やかしはするけど、
   具体的なこういう告白を
   させたことがなかったゾロさんだったよなと思いまして。
   …別にしなくても良いんですがね。
   というか、しない方が思わせぶってて、いっそ彼らしいんですがね。
   思った通り、だんだん"らしく"なくなって来て、
   これって………殆ど"書き逃げ"では?
  "I
アイ"が4つも並んだ日に生まれた割には、
   随分と自己主張の少ないロロノア氏の、
   お誕生日に敬愛を込めて。

一覧へ⇒

一覧へ mail to Morlin.