眠りたい夜 〜クリムゾン
  

 何もホントに"5日分"を取り返そうと思っていた訳でなし。部屋へと戻り、いつもの常でそれぞれに刀(+腹巻き)と帽子とを定位置へと収めると、
「わっ。」
 細っこい胴に手を回し、ひょいっと抱えてからベッドに腰掛け、向かい合えるようにとこちらの腿辺りを跨ぐようにさせて座らせて、しばしの間、相手の様子を眺めやる。
「…えっと。」
 ランプでの乏しい明かりの中でも、戸惑うように羞恥
はにかむように、少しばかり俯いた様子が見て取れて。それが何とも愛らくて、額と額をくっつけるようにして顔を覗き込む。するとますます羞恥むところが、昼間の屈託のなさとは大きく違って可憐に映った。…まあ、妙にハイテンションでいられても困るが。
「なぁ。」
 生まれたての猫の仔の、か細い糸のような声を思わせる、それはそれは遠慮がちな囁きに、
「ん?」
 瞬きしながらそっと応じると、
「…しないの?」
 ただこうしてじっとしているのが嫌な訳ではない。それならそれで、頼もしい胸に凭れて、うとうと微睡
まどろむのも大好きなルフィだと知っている。ただ、今夜はそうは行かないだろうというのが、さすがに判っている彼でもあるらしく、それで、なかなか動かない剣豪殿であるのが何となく落ち着かないというところか。
「そうだな。夜が明けちまうよな。」
 いくら焦らされたからとはいえ、そのお返しをしている場合ではない。小さな背中へと回していた逞しい腕の輪を軽く縮めて、胸板へと添わせるようにして抱き締めると、
「…あ。」
 急に迫って来た温みへ戸惑いが増したか、思わずだろうかすかな声を上げたが、それでも小さな手のひらを拙い仕草でそっと胸板へ当てて頬擦りをする。
「あのな。」
「…ん?」
「ごめんな。俺、ゾロのこと、凄く凄っごく困らせた。」
 胸元からの舌っ足らずな甘い声に、
"………っ☆"
 何だかあたふたしてしまいそうなほどときめいて…あんた自分の奥さんにま〜だそんなかい。
"…余計なお世話だよ。"
 あっはっはっはっ♪ 筆者のちょっかいに構ってる場合ではなかろう。気を取り直したゾロは、
「気にすんな。」
 やわらかで甘い響きのある声でそう囁いた。とりあえず、明日は朝一番に…コトの大元であるコック野郎をぶっ飛ばしてやろうと決めているので、今回のすったもんだへは気持ちの切り替えもついている。
「けど…。」
 何か言いかけた唇を、こちらも何も言えなくなる方法で封じると、二の腕辺りに添わせていた小さな手がゆるゆると萎えて。日が空いたことで、随分と過敏になっているルフィであるらしい。
「…ん。」
 だがこちらも、触れた途端、意表を衝くだけで済ませようと思っていたものが止まらなくなった。そういえばキスさえ"おあずけ"だったのだ。あまりに柔らかな感触が甘くて脆くて離れ難くて。離れかけては再び触れたくなってまた食
んで。接するために離れ、離れるために触れ合うキス。それが徐々に密に、吐息の音が荒々しく入り混じるほど深く、絡み合う。
「んん…。」
 どのくらい経ったか。気が済むまで貪って、名残り惜しげにそれでも解放してやると、
「はぁ…。」
 とろんとした表情のまま胸板へ凭れて来て、甘い吐息を一つ洩らした。こちらが"おあずけ"だったということは、ルフィの方だって"何んにもなし"状態でいたということになる。感度や何やが随分と後戻りしている可能性はあって、
「ん、ゾロ…。」
 口づけだけでかなり深いところまで官能のスイッチが入ったらしく、ほんのりと汗ばみ始めた肌が甘く匂い立つ。凭れたままこちらを見上げて手を伸ばし、指先を顎へと這わせて来て、中指の先で唇の形を辿るようになぞって見せるのは、もう一回…とねだっている時の仕草で。そんな甘え方を見せるあたり、もうすっかりと昼間の彼からは離れている様子だ。
「…もう一回か?」
「ん。もっかい。」
 声のトーンまで甘やかに濡れている。ねだるような声で応じたそんな彼へ、やわらかく微笑って見せ、焦らすように口唇を避け、頬へと口づけて、
「あ、ちが…。」
 そこじゃないよぉといやいやをするのへも構わず、そのまま唇を脇へとすべらせると、耳朶の端を甘咬みし、支える程度に抱いていた腕を狭めてぎゅっと抱き締める。
「言った筈だ。覚悟しろよ?」
 耳元での低い響きの囁きと吐息に、小さな恋人さんは、
「………うん。」
 緊張ぎみに小さな声で応じて、自分からもしっかりとしがみついて来たのだった。


「…ゃあぁ…ああっ…。」
 着ていたものを取り去ってシーツの海に組み敷いた小さな身体が、甘い悲鳴を上げて反り返った。眸の縁には潤みを越えた涙が滲んでいて、首を振るごとにはらはらと溢れては、頬を伝い、鬢の後れ毛を濡らしている。啜り泣きながら身を捩る、無意識の抵抗の可憐さが、却って男の気勢へ火を点けていると、今の彼には気がつく筈もなく、
「ゾロ、…あ………いや、ああっ。」
 か細い悲鳴混じりの、急くような呼吸の熱が唇を赤々と濡らす。過敏になった自分へ戸惑い、何か違うと気がついた時にはもう遅く、指先が、背条が、足の爪先が、そこから熱がほとばしりそうなほどの甘い痺れに包まれていた。全身の肌の上、淡くて透明な炎が薄く広がっているような感覚がして。至るところが異様に感じやすくなっていて、ひくひくとした震えが止まらない。両の手でしがみついていなければ、意識がどこかへ流されていってしまいそうで怖い。だが、唯一の頼りにとしがみついている相手こそ、自分を追い詰めている張本人だ。日頃なら言われずとも守らんと意気込む筈だのに、助けてと懇願してくるその可憐な様が、弱々しい声が、男の中の嗜虐的な何かをますます煽ってやまない。
「………。」
 ゾロにしてみても、手加減はするつもりだった。ほんの手始め、細い顎を縁取るおとがい辺りを、その滑らかなラインを辿るようにと唇を這わせただけで、
〈…何か変だ。凄くくすぐったいよ?〉
 はやばやと甘く濡れ始めていた声でそんな風に告げられて。これはやはり…5日間というブランクが、ルフィの感度を過敏にしているらしいと察せられ、そんな相手を前に、自分の餓
かつえにどう制御をかけるか、これは大変なことになったぞと…思いはしたのだ、いやホントに。
〈やめとくか?〉
 一応は言ったのだが、成り行きを思えばルフィの側からは言い出せるものでもなかったし、正直、彼の側にしても触れてほしかったのだろう。首を横に振り、腕を伸ばして自分から…恐らくは初めて、おずおずと唇を重ねてきたことで"答え"としたほどだ。
「あっ、あっ…ああ…ぅ…。」
 男の手で易々と追い上げられて飛翔したばかりだのにまだ嵩ぶりは止まらず、依然、愛撫の続く秘部から響く、淫猥に湿った露骨な音が恥ずかしくて。シーツに頬をつけるように横を向き、ギュッと目を閉じている。普段よりずっと感じやすい身であることも恥ずかしい。離してほしいのと続けてほしいのと、どっちもホントで決められない。いやいやと首を振りつつも、肩へとしがみつく手がもっとと訴えている。
「…ああっ!」
 二度目の熱い蜜がほとばしり、背中が浮くほど大きく震えた薄い胸板が激しく上下する。
「…ルフィ。」
 頭上から囁く声がした。少しだけ甘く掠れて低く響く声。何も見えない中に聞くと、どこか蠱惑的で、
「ルフィ。」
 返事がなかったからか、今度はたいそう間近な、耳のすぐ傍から聞こえた。
「あ……。」
 声そのものだけでなく、吐息も耳朶にかかってくすぐったい。
「眸ぇ開けな。」
 命令っぽい口調だが、声は甘くてやさしい。それでも"いやいや"と首を横に振ると、出来るだけ静かなものに抑えた声が続いた。
「開けてみって。なんか、俺ひとり放り出されてるみてぇで、つまんねぇぞ?」
 よくよく考えてみれば、眸を閉じても相手から見えなくなる訳ではないのに。だのに、やっぱり恥ずかしくて"いやいや"をすると、瞼にやさしい温みが触れた。
"なに? 今の、なに?"
 そぉっと眸を開けてみる。すると、薄い明かりの中に深い深い翠の眸が見えた。すぐ間際にまで近づいていたゾロの顔。こちらからの視線を認めると、小さく微笑い、額と額をくっつける。
「何が恥ずかしい? いい顔してんのに。」
 珍しく饒舌で、だが、それが余裕に聞こえて、
「…ゾ…ロ。」
 名前を呼ぶと、胸板に触れていたルフィの小さな手を取り、見えるように目線まで持ち上げて来て、その指先に小さなキスを落とす。
「続けて良いか?」
「あ………うん。」
 頷いて、その手をするりと伸ばし、男の逞しい首条の後ろへと腕ごと回してしがみついたルフィだった。

           ◇

 最初から"抱かれたい"と具体的に思っていた訳ではない。こういうことへの入り口も、手順も、何も知らなかったし、最初は何の意識もなく、ただ傍にいるのが、そして視線を意識を自分へと向けてくれるのが堪らなく嬉しかっただけ。鮮烈にして荘厳。その屈強な身の裡
うちに豪快な鮮やかさと重厚な静謐を無理なく同居させていて、まるで本人自身が、妖と剛とを併せ帯びた日本刀のような男である。その懐ろへ入れてもらった自分へは、ざっかけない優しさを惜しみなくくれるのに、他へは…時に威圧的なまでに厳然としているその存在感。ごつごつと大きな手。さらりとした体温と温かな匂い。鋭角的に男臭く整った顔立ちや、響きのいい声。頼もしい上背に逞しい肩や胸。斜に構えていながらホントは朴訥で、だからこそ飾らず温かいやさしさ。立ち合いで見せる、力強くて切れのある動き。修羅場に立てば獣のようになる冷酷な眼差しさえ、ぞくぞくするほどに好きだった。そういった諸々の、ゾロへと感じたあまりに深い"好き"という想いが、まるで異性へ感じるほどの、独占欲を孕んだそれだと自覚した時は、さすがに…自分たちが同性同士であることが少しばかり切なかった。彼の側からは、まずは論外、そういうことへの対象外としてしか見てもらえなかろうと思ったから。だから…求められた時に抵抗がなかったのは、意味が分からなかったせいもあったが、それより何より拒絶されなかったことが、想いを容れてもらえたことが、泣きたくなるほど嬉しかったからだった。

「あ、ああ、…ゃああ…んん…。」
 片方の足首を掴まれて膝を畳まれ、胸につくほどまで持ち上げられている。そうやってあらわにされた秘処へ指の先だけを挿れられて、それだけでもう内部が熱く潤み出し、肉壁が蠢くのが自分でも判る。こんなに淫らに、こんなに言いなりで。もう、ゾロがいない日々など考えられないくらい、身体が、心が、彼のものと化している。
「もう少しな。痛いと辛いだろ?」
 やさしい体温に包み込まれるように抱かれながら、耳元で小さく囁かれて。だが、首を横に振る。また兆
きざして来た熱に急かされて、もう待てない。引きつけるような息の下、腕を伸ばして肩にしがみつく。
「ゾロぉ…。」
 宥めるように抱き締めながら、そっとのしかかる男の重みを受け止めて。やはり"いやいや"と首を振っては、相手の眸を覗き込んでせがみ続ける。
「…や…ぁあ…。」
 少しずつ沈んでゆき、徐々に緩めてくれているのだと、気遣ってくれている理屈は分かるのだが、じくじくと滲んで来ていた疼きに哭き出したカラダは、切なくて切なくて自分でもどうしようもなくて。聞き分けのない子供のように"早く早く"とせがむばかりになる。しまいには泣きそうな声を上げながらゾロの胸を小さく叩いてまで愚図る彼で、
「…痛くて泣いても知らねぇぞ。」
 苦笑混じりの囁きに何度も何度も頷いた。



「あ、はぁ…、う…く…。」
 汗の浮いた額や頬の縁に後れ毛がまとわりついてなまめかしい。やはり五日のブランクは大きくて。少しでも緩めてやってからと思ったものの、それにも限度があって。少しずつの侵入に、まるで初めてのことのように辛そうに眉をきつく寄せていた。それが…やがて甘くほどけて。今度は、苦痛は苦痛でも甘く痺れるような快楽の波に呑まれまいとする苦痛に、眉を寄せ、眸を潤ませる。薄く開いた口許から、ちらりと覗いた歯列の白さが妙に煽情的で、
「ゾロ…ぁあ…。」
 自分の名前を幾度も幾度も口にして、こうまで我を忘れて身もだえする様を目の当たりにしては、冷静でなんかいられない。貪るように犯して、穿つほど深く貫き、自分以外の誰のものにもならないようにどこかへ封じ込めてしまいたくなる。もはや自分でも止められない。雑念を制御する術を、長年の鍛練から身につけていてもこれだ。背条を突き抜けるぞくぞくとする刺激が生み出されるのは、直接的な感触から齎
もたらされる刺激…だけではなく、細く急く呼吸に切れ切れになりつつ紡がれる、妙なる美声のせい。腕の中に収めた愛しいカラダをくまなく愛撫し、過敏な箇所を甘咬みすることで、愛惜しい対象の可憐な口唇から放たれる、甘くて切ない妙なる啼き声。何かされずともただそれだけでこれほどまで嵩ぶるのだから、牡というのは存外お手軽な生き物なのかも知れない。
「…あ、ああっ…ゃああん……。」
 熱い蜜が滲んでなめらかになってきた秘処の、強い収縮に引き摺り込まれそうになるところを、不意に引いては焦らすように進め、奥深くへ突き上げる。その緩急に合わせるかのように、濡れた悲鳴が高まったり、焦れて震えたりするのが、得も言われず愛惜しい。
"………。"
 昼間の屈託のない顔に惹かれた筈だのに、こんな顔もし、こんな声も出す彼だと知っているのが堪らなく快感で。彼のこの小さな身体中を自分で埋め尽くしたくなる。自分だけが満足するのではなく、彼を満たしてやりたくなる。そう…奪って引き回すのではなく、満たして充足させてやりたくなる気持ち。征服欲というものとも少し違って、むしろこちらから何でも差し出したくなる、そんな感覚が身体中からほとばしる。それでこの存在を独占出来るのなら安いものだと、生命さえ惜しくなくなる。
「は…はっ…あ、んん、…ゾロ…もう…。」
 一旦は痛みに萎えかけたものが、揺すぶられることでまた嵩ぶって来たのだろう。熱っぽく潤んだ眸を上げ、苦しげに喘ぎながらその窮状を訴えてくる。耐えることで収縮する熱い秘処に、こちらもぎりぎりと締め上げられていて、
「判ってる。いい子だ。」
 幼い子供を諭すような口利きをついつい選んでしまうのは何故だろうか。そういうか弱い対象だと思っているのなら、それを組み伏せて穢
けがすこの行為ほど罪の深いものもないだろうに。再度熱を帯びて来たものに手をかけ、昂まり勃ち上がるのを助けるように指を絡めてやると、汗を含んで重くなった髪がシーツに当たってパタパタと音を立てるほど、いやいやを繰り返す。
「あっ、あ…ああ…。」
 2つの種類の快感が前後から容赦なく、腰へ背条へと絡みついて彼を追い上げる。身体の奥を抉るかのように強く深く突き上げられる刺激と、最も敏感な箇所を大きな手で扱かれる直接的な刺激と。逃げ場がなくて追い詰められて、
「あ…。」
 耳元に聞こえた男の息の荒さに急かされ、しゃにむに目の前の頼もしい胸へとすがりつく。そのまま我慢の堰を自ら解いたルフィは、あふれ出す熱い波に身をゆだねた。
「あ…ぁあ、ああっ。」
 もつれた声が細く細く掠れて夜陰を引っ掻く。それから…弓なりに反り返った肢体が、抱き締めた腕の中で徐々に萎えてゆく気配を追うように、男がやっと自分の精を最奥で放ったのだった。

            ◇

 疲れ果てて深い眠りに沈み込んだその寝顔を、覆いかぶさったままの姿勢で、長い腕の肘を顔の左右に突いて囲うようにした上でじっと見入る。あんなにも貪欲に食らいついたこちらへ最後まで付き合えた辺り、見た目の可憐さを実は大きく裏切るタフな彼だということか。
"…まあ、そうでなきゃ、これまでのあれやこれやを乗り切れはしなかった訳だが。"
 凄まじいまでの戦いの数々を乗り越え、グランドラインという…海の荒くれ共たちからさえ"魔海"とまで呼ばれている世界一の難所にて、一応はこんな安らぎを得ている自分たちだ。
〈ま・いっか。何とかなるさ。〉
〈結果オーライってね♪〉
〈そんなこと、あったっけ?〉
 時に仲間たちを引っ張り回して大混乱へと叩き込む結果をもたらすような、あまりにあっけらかんとしている抜け加減ばかりが目につく彼だが、それの延長のように見えて実は裏腹な、白は白、黒は黒と言って譲らない、どこか子供じみた正道主義を併せ持ってもいる。理屈として正しいのは判っているが世の中そうはいかないもんだと、妙に世情へ馴らされていた自分自身への反動もあってか、そんな駄々っ子のようなところに却って鮮やかさを覚えた。ホントにそうだったら良いな、自分が加担すりゃあ実現するんなら手を貸すぜと、保護者気分でいるうちに、気がつけばこちらが心を奪われていた。先のことを考えてない訳ではないのだが、そこへと至るまでの足元の心配はまるで念頭にない。何につけ危なっかしくて、けれど必ずやり遂げる。そして、やり遂げるまでは、何があってもどんなに傷ついても自分からは決して諦めない。戦いへの誇りというものを誰よりもよく理解していて、但し、その"戦い"から外れた無理や無茶には時として人並みに怒ったこともあったっけ。
"………。"
 思い出した拍子、両脚の古傷がくすぐったく疼いた。(『海に降る雪』参照ですか?
おいおい
"自分だってとんでもねぇ無茶をしやがるくせによ。"
 雪の降りしきる冬島、旧"ドラム王国"でのドラムロッキー登攀では、大病と大怪我をそれぞれに負ったナミとサンジを抱えて、5千メートルもの垂直傾斜という途轍もない岩の楯を無装備の素手裸足で、両手両足の爪を剥ぐほどの無茶をして登り切った彼だ。その時、傍らに居られなかった自分を、ゾロはどれほど後悔したことか。
〈…お前、それ…。〉
 再会した痛々しい姿に絶句した。男の矜持を賭けた戦いや勝負ならば、手出しはご法度だと納得もいくが、そういうものではなかった以上、自分が居れば少しはその負担も減ったろうにと、悔しさの余り目の前が真っ白になった。
〈今こうして一緒に居られるんだから良いじゃん。〉
〈お前、俺ん時は何て言ったか覚えてんのかよ。〉
 無茶をした本人よりも、そんなことを選ばせた状況と、その状況を作ることへ加担したことになる自分の不甲斐なさへ歯咬みしてしまう。そんな自分へ、
〈ゾロは村であいつの軍勢をたたんで、村の人たちを助けたんだろ? ちゃんと頼もしい仕事してんだから…いっつもみたいに自分に怒るのはナシだぞ?〉
 やさしい"船長命令"は、幼い代物に見せて、その実、よくよく考えた末のものだと判っているだけに、
〈…ああ。〉
 逆らえやしないゾロでもあったのだが。
"………。"
 サイドテーブルの引き出しをそっと開けて、そこに入っていた小さなトラベルウォッチを見やる。短い針は頂上をわずかに越したばかりで、彼との年の差がまた2年になった。サンジに時間を誤間化されたように、どうでも良いことへは簡単に言いくるめられるくせに、根は頑固で、ものによってはテコでも動かない強情っ張り。
"こんな可愛い姿してんのにな。"
 おいおい、のろけモードに突入ですか? そういえば、サンジさんのこと、どうすんです? ルフィに要らぬ知恵を吹き込んだからと"ぶっ飛ばしてやる"とか言ってましたが、結構満足してませんか? 今回の"プレゼント"に。
"…ま・いっか。"
 おいおい。結構ゲンキンだな、あんたも。何はともあれ、また一つ、大人への年輪を重ねた剣豪殿へ、良い旅路を祈って…。

  《HAPPY BIRTHDAY! TO YOU!》

     〜Fine〜 01.10.4.〜10.10.

  *ふっふっふっ。
   『お留守番』の裏ページで
    "最初で最後"なんて言ってたのはどこのどどいつでしょうねぇ。
   でも、くどいようですが、この『蜜月』シリーズ、
   必ず"裏ページ"がついてくると思わないで下さいませね?(切望)
   やっぱ、スタミナと集中力の要る代物ですんで、
   お若い方々のようには書けんのよ。
   

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