眠りたい夜 〜ビリジアン
            『蜜月まで何マイル?』番外編

  *困った時の"蜜月シリーズ"(おいおい)
   ちょっこと押しに弱い?剣豪さんと
   どこか可憐な船長さんのお話ですので、
   ご存知な方にはお馴染みですが、
   慣れのない方にはきついかも知れません。
   ご用心のほどを…。


 まずは“睦言”でウォーミングアップなぞ<<

   オレに出来ないこと何でも出来て、いつも傍に居てくれて、
   オレはいっつも気持ち良くって楽しくて嬉しいけど、
   ゾロも同んなじくらい嬉しいのかな?

   同んなじくらいってのがどのくらいなのかは判らんのだが、
   (この辺、相変わらず不器用な奴である。)
   きっと同じくらい嬉しいぞ? それに…。

   それに?

   とっても幸せだし。

   あ、あ、オレも。オレも幸せだぞっ。

   でも世界で二番だな。

   え〜〜〜。何でだよう。

   一番は俺だから。

   ずるいぞ、ゾロっ! 一番は絶対にオレなんだからなっ!


 ………………やってなさい。



        1

 いつにない体験ではあったが、可能性としては有り得ることではあった。
〈…ごめん。今日はダメ。〉
 いつものように先にベッドに入って上掛けをめくって"おいで"をし、すべり込んで来た小さな身体を腕の中へと取り込んで。間近になった愛くるしい童顔へ、目顔で"いいか?"と訊いたところ、今夜に限って、小さな両手を顔の前で合わせて、彼は拝むようにそう言ったのだ。
〈あ、ああ、そうか。…じゃあ、仕方ないな。〉
 実のところは、何がどう"じゃあ"なのか、よく判っていなかった。少々呆然とした顔になっていたと自分でも思う。だが、彼に対してのみ寛容で頼もしいと思われている…その…"伴侶"としては(ちっ、慣れねぇなぁ、これ///。)、理解のあるところも見せねばならず。第一、一応"いいか?"と聞くからには"ダメ"という答えだって受け入れなきゃ嘘だし。…こんだけブツブツ言ってりゃあ、本心ではないというのがバレバレだよな。けど、無理強いだけはしたくねぇ。そんでなくとも、結構負担ではあろうし………って、何を聞き耳立ててやがんだよっ!

           ◇

 お久し振りの(でもないか?)ご登場を願ったのは、ウチのサイトで唯一"既に一線を越えている間柄である"ことを公認されているお二人さん。そう、あの"蜜月まで何マイル?"で主役をはったあの若夫婦である。
おいおい ここで言う"公認"とは、ちゃんと両想い、相思相愛であり、尚且つ、筆者からの認識に留まらず、彼らを取り巻く同じ船の乗組員たち全員(と、読者の皆様も?)からもその関係を"公認"されていることを指す…のではあるが、そこいら辺の見解における、ご本人たちと周囲との意志疎通は少々足りていないらしく。かてて加えて、やはりそこは…世間から見りゃ"ただならぬ関係"だという、今更なこらこら評というか見識というか、自覚というかも、剣豪殿の方には依然としてあるらしく。さすがに"罪悪感"というほど暗くて重いものではないらしいが、それでもそれを多少は意識しているせいでか、あまり大っぴらにはいちゃいちゃしないでいらっしゃるご様子で。傍目に鬱陶しくないのは助かるけれど、何を今更、隠したって無駄だのにと、時折、揶揄の対象にされること甚だしいとかいう評判も漏れ聞いてたりする。以上、ご紹介とご報告まで。

 ……………で。その"初め"に多少なりとも負い目があるせいか、はたまた、幼くて小っちゃくて可憐な恋人へ負担をかけるのが純粋に嫌なのか、もしかして…嫌われるのが怖いのか。
あはは 刀を構えた立ち合いでは、どんなに凶悪、巨大、狂暴、豪烈な手合いが相手でも怖いものなしを誇るくせして、相変わらず"恋人"へは無茶苦茶に甘くて純情な剣豪殿なのである。チョコレートを芯にしたおはぎを砂糖た〜っぷりの葛で包んで、和三盆をまぶしてからメイプルシロップをかけ、練乳入りのココア(ホイップクリーム付き)と共に"へい、お待ち"と出された和菓子のように甘い。甘いものが全く食べられないくせに、それをこういう形で補うかな? ロロノアさん。おいおい そんな訳で、この"今夜はダメなの、ごめんなさい"も、初めてのことであり、加えて思いがけないことであったが故の不満がなくはなかったが、まま、そういうこともあるさと、引っ掛かりはしつつも渋々ながら呑み込めもした。言ってみれば小さな小さな"行き違い"のようなものだった。

 そう、最初はちょっとした、小さな小さなささくれのようなものだった。だが、

〈…あ、えと。ごめん。〉
 二日目もはぐらかされたその上に、
〈ごめん、今日も…。〉
と、三日も続き、そして、
「…あのね?」
 四晩も続くとなると、さすがに"何か理由があるのかも…"と気になって来た。日中の様子を見る限りどこにも変わったところはなく、元気で食欲もあって、はた迷惑な馬鹿騒ぎも相変わらずで、体調が悪いとは到底思えない。では、精神的な、例えば気が乗らないとかそういう問題だということだろうか。そうと考えが及ぶに至って、
"………。"
 こんなことを考えあぐねているなんて、ちょっと待てよと、はたと我に返った剣豪殿である。何だか…ソレを無理強いしてるようで、はたまたこちらばかりが好色なようで。(いや〜、あっさり手を引くあたり、淡白な方だと思うけどなぁ。
こらこら)それだとすると"ちょっとみっともなくってイヤかも"と感じ始めていたゾロでもあった。そこで、わざわざむっくりとベッドの上へ身を起こし、
「するのがイヤんなったっていうんなら、言ってくれよ。」
 お〜い〜〜〜。腕の中へと覗き込んだ本人へ直接、しかもこんな言い方で訊くところが、相変わらず不器用というか…小細工を知らない人である。もちっと暈した訊き方ってもんがあろうに、この人は、もおっ。…まあ、それは今更だから置くとして。だが、
「ん〜ん、違うんだ。」
 ルフィはルフィで、ぺっとりと胸元へ寄り添ったまま"プルプル"と首を横に振る。この相変わらずの密着ぶりからして、ゾロのことが嫌いになったというのではないらしい。…わざわざ言うのも馬鹿々々しいけど。
「触ってほしいし、抱っこも好きだし。ゾロのこと、大好きだよ?」
 おおお、臆面もなく。ならば、
「じゃあ、何だ。」
 言葉を重ねると、口を丸く開けかけて、
「…言えない。」
 一拍置いて…何か言いかけてやめたということは、やっぱり"理由"はあるらしい。…って、そりゃそうだろう。否定や拒絶には、享受や容認以上にめりはりのはっきりした意志の"抗的な立ち上がり"が必要とされる。…ややこしいですかね。つまり、イヤだという"否定"の意思表示には、成り行きに流されてないぞという明確な反抗的意識が伴われているもんだという意味で、よって、根拠無くして発動されることは稀なのだ。(色っぽいお話の中での、睦言の"いや"は例外かもしんないが。
こらこら)理由こそ"言えない"と口を噤みこそすれ、何かを誤間化すように目を逸らすとか、そういう素振りは見せないルフィであり、ということは疚しいことが裏にあるとかいう訳でも無さそうで。
「言えないって何だよ。」
「言えないものは言えないんだ。おやすみ。」
 ここで初めて"逃げるように"ふいっと視線を下げ、瞼を降ろす。
"………。"
 こんなつれない事をされても、だったら出てけとは言えないところが惚れた弱みというやつであろうか。まあ、それだけが目当ての間柄じゃあありませんものね。ただ快楽を得たい訳ではない。その存在と互いへの愛情とを、確かめ合って、愛惜しんで、睦み合いたい。ただそれだけのことながらも、根幹には相手への敬愛やら慈愛やら何やら、口下手な剣豪さんにはとてもではないが言い尽くせないほどのあれやこれやがあって、単なる"同衾"と片付けられては…そこはやっぱり物申したくもなるというもので。だが、
"………。"
 だからこそ気になるというか…心配にもなってくる。いつだって腹蔵なく何でも話してくれたのに、いやいや…それ以前に。彼の"思うところ"というものは、よほど突発的な行動に直結したものでない限り、本人が語る前からその小さな手の隙間をぬってポロポロとこぼれて明らかになりやすく、そんな様が微笑ましくてついついフォローしてやりたくなったりもしたくらいだのに。
"………。"
 はやばやと寝息を立てている可憐な恋人の、長めの前髪を頬からそっと掻き上げてやりながら、
"…そんだけ成長したってことなのかな。"
 言うに事欠いて、いきなりお父さんモードに入って感心してどうすんだ、あんた。


        2

 朝は、停留していたなら錨を揚げて帆を張り直す。数時間ほどなら直線で構わないからという運行中だったなら、夜の見張りが保っていたろう指針をナミが確認し、帆の角度などを修正する。その間にも、サンジが朝食の支度にかかり、当番の者は手が空き次第、潮汲み装置を漕いで淡水の備蓄を始める。朝のスケジュールは大体こんなもので、乗組員がごく少数と限られた船なため、全員が必ずどれかに当たって仕事をこなす。毎朝、なかなか活気ある船であるのだ。

 朝のお勤めも一通り済んだ朝食後の上甲板で、
「…え?」
 いつもの定位置である舳先へ向かいかけたところ、くいっと手を掴まれて、そのまま腕の中へ取り込まれる。相手は、
「ゾロ?」
 こちらも上甲板の定位置に既に腰を下ろしていた剣豪殿で、その膝、正確には腿の上へと軟着陸をさせられていたルフィであり、
「今日は羊じゃなく"こっち"に座んな。」
 昼日中、他のクルーたちの目があるところで、こういうあからさまな密着をしたことは、今までに一度もない。本人が照れているだけで、もう全員が知っている"公認"だというのに、誰かの目がある場では、指一本、髪の一条にでさえ滅多なことでは触れもしないでいた男がだ。
「どしたの? いっつも相手してくんないのに。」
 甘えたなルフィでさえ奇異に思ったらしいことだが、ゾロからの応じは至って判りやすく、
「今日は別だ。どうせ、夜になっちまったら起きてるうちは触らせてもらえんからな。」
 寝ちゃった後はなお触れない、生真面目というか、義理堅いところがさすがは"Mr.ブシドー"だ。(単に反応が無くって詰まらないからかも知れないが。
おいおい)それにしたって、これってもしかして…穿って考えれば"拗ねているんだよ"という意思表示だとか?
「…んと。」
 さすがに、ちょっとは"悪いことをしているかな"という自覚があるのだろう。俯くルフィだが、そんな彼のオデコへ自分の額をくっつくほど寄せて、
「気にすんな。これで少しは気が済むんだからサ。」
 やわらかく微笑って見せるところがやっぱり甘い。
「…けど。」
 ルフィとしても構ってくれるのは嬉しいらしいが、
「ん?」
「なんか話すこととかあるか?」
 おお、鋭い突っ込みだ、船長。
「う〜んとだな。」
 さすがにそこまでの準備はなかったか? 剣豪。ちょこっと考え込んでから、
「ああ、そうそう。前から訊きたかったんだがな、お前どうして雪を見るたびに興奮して雪だるま作りたがるんだ?」


 いい風が入るものだから、キッチンの扉を開け放っていた昨日今日。よって、上甲板の有り様もよく見渡せて、
「…鬱陶しいわねぇ、あれ。」
「ナミさん、口が笑ってますよ?」
 そう指摘するビビもクスクス笑いが止まらないらしい。ここ数日、どこか様子がおかしい彼らだというのが、この少人数の頭数で他へ気づかれない筈はない。日頃からも既に公認。だのに何を照れてるかねぇと、逆に当人…剣豪殿の意固地なところへ、ナミあたりが時に苛々しているという構図になっているくらいで、
「まあね。これまで可愛げなく意地張って、ああいうことを一度もしなかったのをこそ歯痒いと思ってはいたんだし。」
 剣豪が時々ルフィに対して"お父さん"であるのなら
おいおい、さしずめナミは"お母さん"か"お姉さん"という心持ちでいるらしい。お互いへ甘かったり理解が深かったり、そういう"形の無い"つながりが存在する彼らであるということは承知していたし、本人たちがそれで充分だと満足しているのなら、本来なら外野にあたる自分たちは口出しすべきことではない筈なのだが、詰まらない"照れ"のお陰で、見ている場に限ってあまりにも放ったらかしな様相なのが、時に歯痒くなったりもするナミであるらしい。
「こういうことでもなけりゃ、昼から優しくしてやるって事がないってのは情けないけど。」
 間近になった顔を見合わせあって、何を話しているのやら。日頃から明るいルフィはともかく、普段は鬱陶しいほど無愛想で厳めしい顔をしている剣豪までが、ほのぼのと屈託なく笑っている様は、ただ見ているだけのこちらまで何だかほこほことしてくる光景。ああまで幸せそうな笑顔を見せられては、水を差す気になんてなれやしない…というところか。
「今度の企みで翻弄されてんのはさすがに可哀想でもあるし。まあ、今日一杯と思って我慢してやりましょうかね。」
「…え?」
 おや? ナミさんは何か知っていると? キョトンとするビビへ、にっこり笑ったナミは、先日からビビと二人で縫っている赤と緑それぞれのストライプの布地を持ち上げて、
「これに関係あんのよ、実は。」
「あ、それじゃあ明日の…?」
「そうゆうワケ。」

 ???   赤と緑って、クリスマスですか?


        3

 夕食が済み、しばしの間、皆と明るい話に座が沸いて。さて…幾刻か。皆は何かしらそれぞれの用事があるらしく、部屋へと退いてゆく。ところが、
「…ゾロ?」
 どういう訳だか、剣豪殿がまたもや甲板へと出て行くものだから、ルフィが舌っ足らずな声で呼んだ。陽の落ちた甲板
うえにはもう何にも用はない筈で、二人になれるお部屋へ帰ろうよと、そんな意を込めた、ちょっとばかりねだるような響きを含んだ呼び方だったが、
「お前は部屋に帰って寝ろ。まだ夜更けじゃねぇから戻れるだろう? 俺は寝た頃を見計らって戻るからよ。」
 もう詰まらない問答をしながら寝入るのは沢山だ。そう思っているらしく、
「…えっと。」
 そこはやっぱり想い人同士という間柄で、ルフィにはそういう含みがちゃんと伝わった。伝わったからこそ、しゅんと萎
しぼんでしまう彼でもある。朝からずっと膝に抱えてくれていて、お昼からは一緒にぽかぽかな陽射しの中でお昼寝もして。せっかく楽しい一日だったのに、ここまでほこほこ暖かだったところへ不意に冷たい風が吹き込んだようで、ルフィの童顔が力なく曇ってしまった。"まだ夜更けじゃないから"云々というのは、ルフィがオカルト嫌いで、夜なぞに一人でいるのを嫌うからだが、そんな恋人さんだと判っていながら突き放すとは、実のところ相当にやりきれない剣豪さんだったりするらしいと偲ばれて。
「………。」
 ぱたぱた…と草履を鳴らしてやはり甲板に出て来たルフィは、その長い脚を胡座に組んで、板敷きへ直に腰を下ろしているゾロのすぐ傍らにペタンと座り込むと、
「あのな、今日までなんだ。」
 そんな風に呟く。やっぱり今夜も"ダメ"な日であったらしい。
「…ってことは? …3、4、5と、5日か。何がなんだよ、一体。」
 訊くとやっぱり口をもごもごさせて、
「明日になったら…な?」
 どうあっても言えないらしい。ゾロは出来るだけ小さなものに抑えたため息をつき、やわらかく目許を細めて、
「判ったからサ。そんなら今夜で終わりってコトだろ? とっとと部屋へ帰んな。何にも出やしないから、大丈夫。」
 やさしい声音で言い諭すが、相手はと言えば、
「うう。」
 何か言いたげな上目使いにゾロの顔を見上げ、座ったまんま動こうとしない。ルフィが愚図っているのは"それへ"ではないらしく、どう見ても…恋人の機嫌を損ねたことを気に病んでいるらしいと伺える態度。これは持ってきようが不味かったかなと
(まったくだ)内心で後悔しつつ、
「ほら。気にしてないからよ。」
 却って剣豪さんの方が気を遣い始めている始末で、あんたたち…ややこしい悶着がそんなにお好きかい? 毎回毎回、まったくもうっ。
こらこら …と、そこへ、
「お取り込み中、失礼するぜ。」
 割り込んで来た声があった。すぐ傍へと屈み込んだのは、さっきまで台所で片付け物をしていたサンジで、
「何だよ。」
 込み入った話の最中に何の用だと、日頃以上に少々険しい目付きになるゾロには目もくれず、
「ルフィ、今、何時だ?」
 訊きながら"ちゃらっ"と涼しげな鎖の音がして。目の前へぶら下げられたのは、ベルトから外したらしい、蓋を開いた懐中時計だ。器用にも空いた片手で紙マッチを開くと、1本だけ立てて火を点け、その文字盤を照らしてやる。オレンジ色の明かりに照らし出された時計を見つめ、
「えっと、12時。」
 ルフィが読んだその数値に、ふと、ゾロが目を眇めた。
"…え?"
 まだ夕食が済んでそれほど経ってはいない。せいぜい9時を回ったばかりの筈だが…という顔を見透かしてだろう。サンジは首を小さく横に振って見せ、
《黙ってな。》
というジェスチャー。何でこいつが仕切るんだ、どうしてルフィは自分へと態度が違うんだなどなどと、本来の伴侶である剣豪殿が不服そうに感じている間にも、二人の間に言葉のない会話は進んでいるようで。そして、
「…ってことは、だ。」
「あ、そうかっ!」
 何かに気がついたという声を出すルフィと同様、ゾロもまた今の今、気がついたのが、
「…俺の誕生日がどうかしたのか?」
 聞いた声が消えぬうち、
「ゾロっ!」
「わっ!」
 首っ玉へ勢いよく飛びつかれた。途端に"ご〜ん"という重い音がしたのはお約束。
「痛てぇ〜っ!」
「あ、あ、ごめんっ!」
 丁度真後ろだった船端で頭を打ったらしい。それはともかく。(ともかく扱いで…良いのか? あ、岩をも砕く石頭だから大丈夫か。)
おいおい
「何なんだよ、お前は。」
 拒んでいたかと思えば、今度はこれだ。くつくつと笑いながらサンジは気を利かせて立ち去り、混乱する剣豪へ、ルフィは頬を赤くして囁き始めた。
「あのな、俺、皆みたいに器用じゃなくって、何か作ってあげられる訳でもないし、ゾロの方が何でも上手だからしてあげられることも全然ないし、お誕生日に何にもあげるもんがないからサ。」
「別に何も要らねぇよ。」
「…うん。そう言うだろうって、ナミにも言われた。俺がいるだけで満足するって。」
「………。」
 あはは、読まれてますな、あっさりと。
「…で?」
 うんうん、それで? うつむいたことで目許を覆う、少し長めの額髪を梳き上げるように掻き上げてやると、その手の陰で、よりよりと紙縒
こよりを縒り出すように小出しに紡がれたのが、
「だから…5日我慢した"抱っこ"っていうのは…ダメかな?」
 抱っこって…。そういう表現してるのね? あ・じゃあ、あの"抱っこも好きだし"発言って、実は物凄い大胆な意味があったのか? もしかして。ねぇねぇねぇっ!(どうどう、ちっとは落ち着け、自分。)
「…あのな。」
「ダメ?」
 覗き込んでくるのは、一点の曇りもない、丁度今の彼らの頭上に広がる夜空のような深い漆黒の眸。媚びるような気色はなく、少しばかり潤みが強いのは、容れてもらえなかったらどうしようという不安があってのことだろう。
「いや…その。」
 何とも健気というか、可愛いというか…っていう種類の発想か? これ。ちょっと毛色が怪しい上に、どう考えても彼の頭から出たとは思えない。そこのところだけははっきりさせときたくって、
「…誰の入れ知恵だ、そりゃ。」
 訊くと、ちょろっと眸が泳いだ。
「んと、サンジ。」
"やっぱりかっ。"
 拙作『ハッピー・ハニー・カウントダウン』参照ですね♪ あいつはよぉ〜〜〜っ! と、怒ってる場合じゃないぞ、ロロノア。
「ね、ダメ?」
 ほらほら、ゾロさん。答えがまだだよ?
「そうだな。…せっかくだから、貰っとこうか。」
 途端にぱあっと顔を輝かせたルフィであり、逆にあらぬ方角を見やって仄かに赤くなった剣豪さんだったりした。
「でも、これって俺が我慢するだけじゃなくって、ゾロまで我慢しなきゃいけなかったんだな。」
 今頃になって気がついたらしい船長さんであり、それだからこそ翻弄された剣豪殿としては、
「そうだぞ。」
 どこか不平っぽく応じる始末。
「来年は別のを考えるな?」
「頼むからそうしてくれ。」
 ひょいっと抱き上げ、
「5日も我慢したんだからな、容赦しねぇから覚悟しろよ?」
「うんっ! 頑張るっ!」
 おいおい、意味判ってるかい? 船長っっ!

            *

 翌日。ナミとビビからは、緑と赤、それぞれのお気に入りのカラーの?ストライプなこととサイズ以外は、生地もデザインもお揃いのペアパジャマが、ウソップからは刀を下げるのに使えと方位磁針つきのぷぷぷ根付のセットが、チョッパーからはやたら大きなビンに入った金創によく効くという塗り薬が贈呈され、サンジが腕によりをかけて提供したパーティーメニューと取って置きの酒とで、剣豪殿の誕生日は盛大、且つ、華やかに祝われたのだった。

 《HAPPY BIRTHDAY! TO YOU!》


    〜Fine〜  01.9.17.〜01.10.1.

  *原案を考えたのは、9月に例の連載をやってた最中でして、
   まだまだ先の話だけど、
   お誕生日企画に何か準備せんとなぁと考えてて、
   思いついたのが"これ"でございます。
   …タイミングが悪かったのね。
   彼らにしてみれば、
     もう放っておいてくれと思ってたりしてな。
   このシリーズはどう持ってっても
   剣豪さんが情けなくなります。
   所詮は惚れた方の負けなのさ。(ふっふっふっ)
   途轍もなく下らない内容になってしまいましたが、
   とりあえず、ハッピー・バースデイということで。
    (↓ おやおやぁ〜?)

  *蜜月恒例(おいおい)の"裏"、短いの?があります。
   入り口は『蜜月まで〜』TOPへ移しました。
   どうしても判らない場合は、
   Morlin.までお問い合わせ下さい。
  

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