天上の海・掌中の星
 
“春寒料峭”(料峭・りょうしょうというのは、春の寒さが身に染みること)
 

 
 節分寒波とか立春寒波とかいうのが居座って、二月に入った途端に冬らしい厳寒を体感したものの、それが去るとともに少しずつ。昼間の気温が少しずつ上がって来たし、何より朝が来るのが随分早くなった。5時前にはそろそろ窓の外が白々と明るくなりかかっており、放射冷却とやらで寒さこそ厳しいものの、
"やっぱりお陽様が明るいと違うよな。"
 キッチンダイニングやリビングの分厚いカーテンを片っ端から開け放ちつつ、朝の清々しい陽射しに ついつい気分もすっきりとし、ご機嫌が盛り上がる破邪様で。

  "今日こそはコタツ布団を干して。
   そうそうルフィの部屋の電気カーペットのカバーにしてるラグと
   ベッドのマットレスも引っ剥がしてベランダに干し出してだな…。"

 ………相変わらず"主夫"してますねぇ。
(笑)

  「ほら、起きな。」

 二階の子供部屋に上がり、ベッドの上のお山をゆさゆさと軽く揺さぶると、
「う〜〜〜ん。」
 布団の中から寝ぼけ半分のお声が返ってくる。二月三月と言えば、いよいよの"受験シーズン"でもあって。さすがにここまで押し迫ってくると、彼が高校に上がっても続けたいとして打ち込んでいる柔道の練習の方もお休み。毎朝早くに学校の道場に通っていた習慣が途絶えた途端に、なかなか起き出さない寝ぼすけ小僧に戻ってしまった観がある。冬の朝は特に、寒いからとお布団との縁をなかなか切ってくれない。
「ルフィ、もう7時だぞ?」
 学校までは割と近いのだが、なかなか起き出さないのでと、実は6時半あたりから声をかけ、カーテンを開けと、お弁当作りの合間を縫って少しずつ起こすようにしている、その 30分後段階に入った訳だが、
「…ふにゃ。」
 おやおや、今日はなかなか聞き分けがいい彼であるらしく、いつもなら10分後にもう一回声をかけても起き上がるところにまで至らず、仕方ないかと抱えて階下まで降ろすのに、今朝はこの段階で"がばり"と上体を起こして見せた。
「おはよう。」
「おはよー…。」
 まだ完全には目が開いておらず、今にも"ぱふん"と前のめりに倒れ込んで、そのまま再びくうくう寝入ってしまいそうではあるけれど、うううと唸りながらも目許を擦りつつベッドから降りようとする積極性はお久し振りで。
"寝ぼけてやがるのかな?"
 それとも何か行事でもあったかな、と。進んで起き出す坊やであることへ、却って不審を感じかかったゾロだったほど。
"…まあ、起きてくれるに越したことはないんだしな。"
 まだ目が開かず、上体がゆらゆらと揺れている上体なのへと くつくつ…苦笑いつつ、
「ほれ、下へ降りるぞ。」
 稚(いとけな)い小さな体を、眠気ごと、ひょいっと軽々 腕の中へ抱え上げ、冴えた空気の中、階下へとんとんと降りてゆく、坊やにだけは優しい破邪精霊様なのであった。







            ◇



 日本の怪談のシーズンはお盆に合わせてか真夏だが、西洋のオカルトの本番は真冬。身も凍るような極寒の中、陽が落ちるのも早くて長い夜…というのが、邪悪な存在が徘徊する舞台には持って来いだからなのだろうか。昔の話というのみならず、ホラー映画などもご当地では冬場にロードショーされるほど、今現在へも引き継がれている代物であり、

  「…まあ、季節のもんじゃないのは確かだよな。」

 動物のさかりとは違ってよと、もっともらしく"うんうん"と頷いて見せる、濃色ジャケットにスタンドカラーのシャツとスリムなシルエットのパンツという、今日は珍しくもラフな恰好の聖封様へ、
「暢気なことを言ってんじゃねぇよっ。」
 そんな場合じゃねぇだろがと、こちらさんはトレーナーに合革のブルゾンとジーンズといういつもの普段着姿のゾロが、その肩越しに忌ま忌ましげな顔になって"がうっ"と吠えた。大きな両手は2本の刀で塞がっており、油断なく右へ左へと剣撃を繰り出している真っ最中。そして、
「暢気なとは、お言葉だねぇ。」
 すぐ背後で東西の怪談話のセオリーを並べてくれていた聖封様とても、決して暇を持て余していらした訳ではない。彼らを取り囲んでいる邪妖たちと向かい合い、結界の咒を保つための印をその綺麗な両手で休みなく結んでいらっしゃる。様々な形に指を折ったり曲げたりした両の手を、しゃんと張られた胸板の前にて重ねたり摺り合わせたりしつつ刻まれる"印"。それにより、ただ"人間たちを巻き込まないように"という次元結界を張っていただけでなく、
「この小鬼ちゃんたちは、どうやら…本身の陰体から放たれてる分身らしいな。」
 ゾロが片っ端から薙ぎ倒しているにもかかわらず、どこからともなく追加がどんどんと現れる、般若のような形相の、がりがりに痩せこけた悪鬼の団体さんの出所をも探っていた彼であり、
「ここいらに"気"の溜まりはないか? 打ち捨てられた空き家だとか、誰も祭らなくなった祠
ほこらとか。」
「聞かねぇな。」
 それ相応に重い筈の練鋼の精霊刀を、空間ごと切り裂くような鋭さとスピードで ザシュッと真横に薙ぎ払い、眼前へ飛び掛かって来た小鬼を弾き飛ばしもってゾロが応じた。何せ"新興住宅地"だけに、そうそう古いものはまだない。第一、そんな分かりやすいものがあったなら、頻繁に遊びに来るサンジ本人がとっくに気づいてもいる筈で、
「ふ〜む。」
 前後左右の複数の相手へ対応しているゾロなので、左右から一気に掛かって来るのへこちらも左右に動いたり。相手が逃げを打つのへ軽く踏み込んで追ったりと、当然のことながら、その身の方向や位置も目まぐるしく動いているのだが。そこは慣れたもので、サンジの方でもきっちりとそれに追従しており。今は相棒のだだっ広い背中に凭れつつ考え込んでいたものが、さらりと顎近くまで降ろした長めの金色の髪の陰にて、うんうんと頷くと、

  「となると、場所や物ではないか。」

 枯れた雑草がしょぼしょぼと生えたままな、町内の外れの更地の空き地。時折、近所の方が来客の車を停めていたりするだけの空間だったが、数日ほど前から妙な質感が漂っており、今日の特価品だった春キャベツとれんこんとを買っての帰りだった破邪様が通りかかったところへ、調べに来ていた聖封様が声をかけ、それでの封滅作業に入った途端にこの始末。結構 手強い抵抗に思わぬ時間が掛かっているけれど、それは相手の手勢が妙に多くて尽きないからで、
"結界の外に置いてるトートバッグを、カラスに突つかれてなきゃ良いんだが。"
 おいおい、あんたも余裕じゃん、破邪様。
(笑) そんな所帯臭いことを懸念中には到底見えない男臭い横顔へ、
「おい、マリモ。もしかしてここは交通事故が多いんじゃねぇのか?」
「はあ?」
 何匹目になるんだか、数えるのにも飽きたほど叩き伏せてる小鬼をばさばさと薙ぎ払いつつ、ゾロが眉をしかめて聞き返す。
「馬鹿言うな。ここいらでは事故なんて…。」
「ああ、すまん。人間じゃなく、犬や猫、小鳥なんかの類いだよ。」
 忘れてはいけない。彼ら精霊は何も"人間"ばかりを優先して見守り護衛している訳ではない。ただ…意志とか感情とかいうものを持ち、しかも不自然なまでに長寿な生き物であるがため、その感情を複雑怪奇な代物へと育て上げてしまう"人間"こそが、一番性分
たちの悪い"負の陰体"となりやすい存在なので、注視せざるを得ないのであって、
「ここは空き地だ。車に撥ねられただの、ペットじゃあない動物が死んだのを、可哀想にと思った人が埋めてないかなって思ってな。」
「ああ、それなら…。」
 記憶に覚えはないが有り得るかもなと、ゾロが応じたのを見て取って、
「そういうのにまとわりついた陰体だ。」
 白い両手を胸の前、パンッと高らかに鳴らして合わせたその途端に、シャツの上へ勢いのある風が走って、顎先まで垂れていた長めの金の髪を舞いあげる。彼が合わせた手のひらから強い"気"が発し、対流風が起こってのことであり、仄かな光さえ放っている合掌の構えから…そのままの姿勢にて、

  《ΣφψξЖ…。》

 特殊な咒符を唱え始めると、彼らの周囲に群がっていた小鬼たちの動きが止まった。それから…キョロキョロと周囲を見回し、何だか覚束無い様子になって"きいきい"と鳴き始めたと思ったら、骸骨に薄い皮が張り付いただけというその頭を抱え込み、地べたへしゃがみ込んで…片っ端から地面へ吸い込まれてゆくではないか。ほんの数分の間にも、全ての小鬼が消え失せて、
「…さて。」
 まだ光は消えないその手を そぉっと左右へ離しつつ、サンジは辺りを見回すと、空き地の隣りの人家を囲んでいるブロック塀に歩み寄る。そのぎりぎり縁の草むらへ、両手をゆっくりとかざし、何やら印を結び直して。

  「これで完了。」

 振り返って見せたお顔は存外とさばけており、
「まさかさっきあれほど手古摺らせたのは…。」
「そうだ。ここに埋葬されてる名も無きワンちゃんだ。」
 悪さをしたかった訳じゃあない。ただ、自分の気配に気づいてほしかっただけ。自分がもう此処にいない存在だということに気づけないままでいた可哀想な仔犬。
「あの人懐っこさは野犬じゃねぇな。飼い主を捜して迷子になってたところを轢かれたらしい。」
「…人懐っこさって。」
 それは恐ろしい形相にて牙を剥き出しにして襲い掛かって来たのを捕まえて、その表現はなかろうと、渋面を作りつつも鞘に収めた精霊刀を中空へと送り出す破邪殿へ、
「まぁま、大目に見ろや。」
 あくまで明るく笑って見せる聖封様であり。そもそも担当が違う二人だから、こういうところにその差が出る。強大凶悪な邪妖を、雲散霧消、存在気配もろともに消滅させる"破邪"と、さほどに性根の曲がっていないものであるなら、それがたとえ負の陰気でも封印するだけでおいてやることのある"聖封"と。
「根暗い意志や遺恨あっての存在じゃあない。導いてやれば済むことなら、この方が次元の歪みも少なくて済むからな。」
 そう。そこに有ったものを無理からの力技にて唐突に消すと、その空隙分の歪みが生じかねないという難点もある。極端な話、大物邪妖が相手の場合、その封滅処理が済んだからと不用意に結界を解いたりすると、その途端にどこかで誰かが神隠しに遭いかねない。世は全て微妙な調和にてバランスを取って存在しており、よって、
"極論を言えば、僅かな悪や負の陰は、善や光を知るために必要であるってね。"
 勿論のこと、肯定されてはならないが、乗り越えるため拒むための、知識として必要な対比物。それを害のないものとして保全するのが"聖封"のお役目なのだ。
「…まあ、いいんだけどよ。」
 破邪様にしてみても、久し振りのお務めに時間を取られてちょいと不機嫌だっただけ。するすると解かれた結界の外、無事だったトートバッグをひょいと取り上げると、

  「あれ?」

 聞き覚えがあり過ぎるお声がして、そちらへと視線を投げれば、
「ルフィ?」
 まだ昼を少し過ぎたところだというのに、空き地の外側、舗装された道の上に、制服姿の坊やの姿がある。商店街と自宅の間の通学路。弁当を作ったくらいで今日はまだ短縮授業ではなかった筈だがと、怪訝そうな顔をしたゾロに、
「まだ帰んねぇぞ。これからちょっと寄ってくトコがあるからサ。」
 にっぱり笑ってそうと告げ、じゃあなと手を挙げ、たかたか…と自宅の方ではない角を曲がってゆく彼で。
「相変わらずお元気だねぇ。」
 お仕事終了とあって、さっそくにも咥わえ煙草を唇の端に引っかけた聖封様がにやにや笑って見せたものの、

  「…時々、な。読めないことがあってよ。」

 例えばこんな風に。彼のその平生の行動の中に、自分の知らないポイントがあったりすると、何となく。それを、目で、意識で、追ってしまいたくなる自分に気づく。ホントの親子であったとしても、ああまで大きくなった子がわざわざ細かいところまでをいちいち報告することはないのだろうけれど。そんなになればなったで鬱陶しいのかもしれないぜなんて笑う、サンジの言う通りなのだろうけれど。二の次にされたような気がして、何だかちょっと…拗ねたくもなる破邪様であるらしく。

  "…いかんな。"

 何だかこの頃、こちらからの依存度の方こそが高まりつつあるような気がしてならない。愛しい子供。可愛いルフィ。大人になっちゃったと、ゾロが見えなくなったらどうしようかと思ったと、声もなく泣いてくれた可愛い子供。邪妖なんぞにその存在の、髪の一条だって触れさせるものかと。思うだけで果てのない生気が尽きることなく涌いてくる、それは愛しく大切なルフィ。

  「おいおい、しっかりしなよ?」

 ぼんやりと、小さな姿が去った方を見やっている相棒へ、サンジが呆れたような声をかけてやる。
「俺らは陰体だ。どんなにパワーがあったって、その意志が根付いてる筺体は陽体に比べりゃ無いにも等しいんだぜ?」
「…ああ。」
 だからこそ、この陽世界に迷い出た陰体は、人間や物、場所に取り憑く。その存在を保つために、逞しくも頑丈な"陽の器"に寄り代を求め、宿借りする。そんな必要が無いほど、その気勢が桁違いに強靭な彼らであっても、
"あんまり思い入れが強まっちまうと、坊やが居なくなったらこいつの存在まで消えちまう…なんて事態になりかねねぇ。"
 極端な話が"意志"のみの存在である彼らだから。そんなつもりはなくとも、惹かれた存在の喪失なんていう事態と向き合えば、そのくらいの途撤もない衝撃に立ち会えば…一体どんな影響を受けることやら。それでなくたって基本的に寿命が違い過ぎる彼らであるのだ。
"………まあ、まだまだ早い話題だがな。"
 それに、この精霊さんは何かと"普通"ではない要素もお持ちだしと、こっちからわざわざ杞憂のタネを蒔くのは よすことにして。やれやれ、困った例外さんだぜと、肩をすくめたサンジであった。







            ◇



 ただいまとお元気に帰って来た坊やは、部屋で着替えてから降りて来て、キッチンの洗い場にお弁当箱を出しつつ、
「明日も弁当な。」
「…え?」
 土曜じゃ無かったか? そうと訊き返した緑髪の破邪様へ、
「だからさ、▽▽▽高校の試験、受けに行く日だもん。」
「………っ☆」
 あああ、そうだったんだ。そういう日だったんだと、冷蔵庫のドアに貼ったカレンダーをちらりと見やる。ただ丸がしてあるだけで何の日という記入は無かったものだから、一体何の日だったかなとずっとずっと思い出せずにいたゾロであり、
"やっぱ、自分で書いといて忘れてたんじゃなかったんだ。"
 こらこら。そんな、物忘れがひどくなった30代みたいな言いようをしない。
(笑)
「私立はそこを受けるんだったな。」
「おう。」
 でも滑り止めだけどな。本人様は、公立の学校に絶対に受かるものと決めつけている豪気さであり、
"…まあな。勉強もちゃんとしていたし、先生も大丈夫だって言って下さってたが。"
 自分の手でどうにかしてやれないことなだけに、余計に本人以上にやきもきと歯痒い想いも つのるというもの。はあぁ〜と柄にもなく溜息をついたゾロへ、
「そんな緊張すんなよ。ゾロが受けるんじゃないんだし。」
「…俺のことだったらこんなに気を揉まねぇよ。」
 何でお前はそんなにも動じてないんだよ、こらと。何だか八つ当たりっぽい言いようをし、それでも…テーブルには今日の特価だった春キャベツでサンジから教わりつつ作ったロールキャベツとお手製シュウマイ、肉詰めレンコンの天ぷらに、茶わん蒸しと早穫りタケノコの炊き込みご飯。ほかほかの品々が湯気を上げて待ち構えている準備の良さよ。美味しそうだなぁ〜とニコニコしていたルフィだったが、

  「ぞ〜ろ、これvv

 席に着く前、テーブル越しに、ひょいっと差し出して見せたのが…小振りの弁当箱くらいの大きさの箱。簡単なものながらも綺麗にラッピングされており、坊やの両手で捧げるように差し出され、
「???」
 覚えがないまま、それでも受け取ると、大きな瞳の視線が"開けろ"と急っつく。金の縁取りがある真っ赤なリボンをくるくると解き、底の方に1カ所だけ留められてあったシールを剥がして。つやのある包装紙を手際よく取り去ると…中にくるまれてあったのは、何の表示もないつややかな紙の箱。テーブルの空いた所に据え置いて、上蓋を両手でそっと持ち上げると、

  「………おや。」

 中には、セロファンで個別包装された焦げ茶色のパウンドケーキが5つほどと、木彫りの写真立てが入っており。写真立てには…いつぞやの運動会にて、一等賞を取った借り物競走でのゴールインの瞬間の激写写真が収まっていたりする。
「ホントは明日なんだけどもな。」
 にんまり笑って見せるルフィに、
"明日?"
 小首を傾げるところをみると、そういう日だって事も忘れていたらしき破邪様で。
「だ〜か〜ら。バレンタインだろ?」
 むむうと唇を尖らせて、
「その写真立てもケーキも、俺が作ったんだぞ、世界に一個だぞ。」
 あ、ケーキは5個だけどもな。しししvvと笑ったルフィは、今日の放課後にラキさんトコに行ってケーキ焼くの手伝ってもらったんだ、ウチでやるとバレバレだからな。額縁は学校で朝のうちから彫って組み立てたんだぞ、ウソップに製図切ってもらった。一生懸命に説明するのは、何だか照れ臭かったからだろう。ケーキはあんまり甘くないのにしたんだぞ。ごでぃば っていう外国のチョコの会社のカカオのお酒を使ってあるから、匂いはチョコだけど味はお酒だってラキさんが言ってた…等々。これでもかと話し続けるルフィのお顔へ、長い腕を伸ばして来たゾロは、

  「こんのお調子者が。」

 とん、と。伸ばした人差し指の先にて、丸ぁるいおでこを軽く突いてやり、
「明日が受験だってのに、何やってるかだよな、まったくよ。」
「あ〜、そんな言い方ねぇだろ?」
 途端に頬を膨らませるルフィだったものの。箱の中から視線が上げられないゾロだというのが、妙に…擽ったくって嬉しくて。
「全部、ゾロが食べろよ?」
「…ああ。」
 誰かにやって酔っ払ったらコトだからな。ほんのちょっぴりのアルコールであっさり沈没する誰かさんへの当てこすりを言うと、またまた むむうと頬を真ん丸に膨らませる坊やだが、
「ご飯、早くついでくれよう。」
「あ、おお。」
 固まっててうっかり忘れてたと、慌てて炊き込みご飯の詰まったジャーを大きな手が開ける。ほかほかの食卓、暖かな笑顔と笑い声。まだまだ暦の上での春だけど、お外は冷たい夕暮れ時だけれど、ほわりと灯った明かりの下で、二人向かい合えばもう暖かいの。心配しなくても大丈夫。坊やの側からだって、ゾロのことばかりを想っているのだからね。一足早く来た春を堪能するかのように、一際まろやかに笑い合う二人の囲む食卓の上。真っ赤なリボンがチカリキラリと縁を光らせて。ちょっぴり照れ臭そうなお顔の二人のお喋りに、そぉっと甘い華を添えていた。



  〜Fine〜  04.2.12.〜2.13.


  *今年のバレンタインデー話はこの二人でお届け致しましたvv
   それと、受験生の皆様、いよいよの正念場、どうかガンバでございますvv

ご感想は こちらへvv**

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