天上の海・掌中の星

      “カレーは甘口vv”
              *船長BD記念作品です。(DLF)


これでもゾロが来るまでは、簡単な料理くらいは作ってた。
あの頃 通いで来てくれてた家政婦のおばさんが、
色々と作りおきしてってくれてた冷凍ものばっかじゃ飽きるからって。
チルドの焼きそばとか、我流のチャーハンくらいなら結構てきぱき作ってた。
そうと言われて、ああそう言やぁと、
自分は食わなくても平気だったのに“付き合え”と食わされたのを思い出す。

 『けどなぁ…。』
 『何だよ。まだ信用出来ねぇか?』

いや、そうじゃなくてだな…と、まだ何か言いかけるのを最後まで聞かず、
じゃあそういうことで、なんて、
一丁前に人をあしらうような物言いをして。
当家の坊やがさっさかと足を運んでったのが、
日頃はゾロが、ある意味で“居城”としているキッチンだった。

 「んっと、それからどうすんだ?
  ……そかそか、水から上げといたのを、深鍋で…。」

ダイニングキッチンは、リビングともつながっているような作り。
よって、行き来が出来ない訳じゃあないが、
こっちが呼ぶまで入ってくんなとの厳命が下っている。
これもまた、日頃なら“そんな勝手が聞けるか”と強引を通せるところだが、
何でも言うこと聞いてやるなんて言った手前、
一旦言ったことをそうそうひるがえすのは…と思ってのこと、
逆らえやしないじゃねぇかよと舌打ちしてしまうところが、
融通が利かないというか、案外と生真面目だというか。


  ―― 今日は当家の坊やのお誕生日で。
     いつもより少しほど豪勢な晩餐にする予定のほかには、
     これというプレゼントを思いつけなかったもんだから。

それでと、つい。
何でも言うこと聞いてやる…なんて、よくある言いようをしたところ。
え〜、いきなり言われてもなぁとか迷った挙句に、
“じゃあ美味いもんが喰いたい”とか、
一日中遊んでたいとか言い出す程度じゃあなかろうかと踏んでいたところが、

 『じゃあ俺、料理したい。』
 『おう、任せと………け?』

何ですて?と、訊き返した破邪さんの、
切れ長の双眸がああまで丸ぁるくなったの見たのは初めてだと。
坊やが時々思い出し笑いのネタにしちゃったほど、
素っ頓狂なお顔になってしまった保護者の心配にも、
素でかそれとも故意にか、知らん顔で通したまんま。
入って来んなと念を押してのキッチンへの籠城を敢行したルフィであったりし。

 「あれれぇ? 木べらがないぞ、木べら〜〜。」

そんな声が放たれるたび、
あああ、そりゃ流し台の引き出しだ。
そこになきゃ、普段使いの食器伏せてるトコに…

 “だぁもうっ!”

しまいには、

 「……?」

ルフィの手元、
調理台としているテーブルに、すとんと落ちた紙飛行機が1つ。
何だこりゃと開くと、

 『お玉はガス台の側の引き出しの中。
  みじん切りにするものがあるなら、スライサーが流しの真上の釣り戸棚。』

そんな走り書きのあるメモだった。





    ◇◇◇



ルフィが頑張って作っていたのは、カレーライスであったようで。
子供の日の昼食にはなかなか打ってつけなメニューとも言えて。

 「……………どだ?」

特に不審はない出来のカレーを盛られた皿とそれから。
いかにも不慣れですと言わんばかりに、
大きさがばらばらな千切りレタスと、
厚さがまちまちな輪切りトマトを、
がさっとぶち込みました的なサラダを盛られたガラス鉢を前に。
まずはとカレーの方を一口食べたゾロを、
テーブルの向かい側からじ〜〜〜っと見守っていたルフィ。
いかにも手に汗にぎってますと言わんばかり、
本人も気づいてないだろ、両手の拳を薄い胸の前に引きつけて。
大きなドングリ目での凝視を突きつけ続けていた当のお相手は、
あんぐり開けた口へと、
上手に炊けたご飯にかかった褐色の香ばしいルー、
パクリと運んで もしゃもしゃと噛みしめてから、

 「…………美味い。」

焦らすつもりはなかったが、
美味くなかったらどう言い繕ってやろうかと、
そんな杞憂がちらっと掠めたのが仇になり。
味わうよりも、難が無いことへ驚くほうが先になり。
それでの妙な間合いを作ってしまったのだけど。
にこにこと微笑っての言いようにならなんだのは、
そんな気構えがなかったとしても、さして変わらなかった反応だったかも。
小さい子をあやすような、態度や物言いはそもそも不得手だし、
ルフィが相手でもその辺はそうそう改善されちゃあいなかったし。
だって言うのに、

 「…あんな? ありがとな、ゾロ。」

美味いと言われてぱぁっとほころんだお顔もそのままに、
ルフィの側が返した言いようがそんな一言で。

 「何だ? 薮から棒に。
 「だってよ…。」

キッチンからもリビングはよく見える構造になっているから。
だから、ゾロが落ち着きなくもウロウロしているのは、
わざわざ背伸びして眺めずとも視野の中をチラチラしてた。
作りようは知ってても、やっぱずっとこっち側に立ってなかったんだしさ、
怪我しないかとか、失敗しないかとか、
居ても立ってもいらんないほど案じてくれてたんだろ?

 「…………。」

即答はなかったが、こっちも負けずにじぃっと見つめ続けておれば。
ややあって、

 「…………まぁな。」

ぽそりとお返事があったので、

 「失敬な奴。」
 「なっ、だってお前が…っ。///////」

正直なところを言えと持ってったからだな…と、
ムキになりかかった破邪殿の、
照れ隠しもあってだろう、わたわたとした吠えようへ。
“何言っても聞こえません”と、
それこそ つーんっと澄ましているよな素振りで席から立ち上がった坊やだったが。
そのままテーブルの縁を回って来ての、ゾロのすぐ傍らへまで。
わざわざ周り込んで来たルフィであり。

 「???」

何だなんだ、こんな間近から今度は何を畳み掛ける気だと、
眉間を顰めつつもまだ少々狼狽の残るゾロを。
こちらさんは余裕のあるお顔で、にまにま微笑って眺めていたものの、


  「あのな?
   ゾロはどんな約束だって守ってくれるんだなって思ってさ。」


陰体がらみの厄介ごとから守ってくれてるだけじゃあない。
例えば今日も、
「今日は俺の誕生日だから、何でも言うこと聞いてやるなんて言い出して。」
きっと“じゃあ美味いもんが喰いたい”とか、
一日中遊んでたいとか言い出すと思ってたんだろ?
なのに、そこから外れたことを言い出したのへ、

 「随分と慌てながらも、無理から辞めろって邪魔はしないでいてくれて。」
 「……慌てながらは 余計だよ。」

ぶすけた声でのお返事へ、それでもルフィの嬉しそうな様子は崩れぬままだ。
勿論、そんなゾロだってことを試したかったんじゃない。
色々準備してくれてんのは、冷蔵庫見て何となく判ったし、

 「あれって“花切り”ってゆう、七夕飾りみたいになるカルビだろ?」

凄げぇでかいのが入っててびっくりしたもんと、
楽しそうに笑ったルフィへ。
はやばやとタネが割れたのが口惜しいか、

 「〜〜〜〜っ。」

む〜っと苦々しいお顔になったお兄さん。とはいえ、

 「そっちは晩ご飯で作ってくれるんだろ?」

ぱきーっとした笑顔には、そうでないワケがないとの自信もたっぷりで。
これが他所のだれかさんの言いようだったなら、
そんなもん知るかとすげなく袖にも出来ただろうが。

 “…ちくしょ。////////”

どうしてこうも、こいつってば。
ただ自信満々というだけじゃあない。
そんなして準備してくれてありがとと、
嬉しくって堪らないというのまでふんだんに滲み出させての、
格別な笑顔でいるものだから。

  ―― しかもしかも

それがあまりに図星なだけに、こっちを容赦なくたじろがせてしまうのが。
ちょっと口惜しい破邪様だったりするらしく。

 「なあなあ、ホントに美味いか?」
 「お、おう。
  肉も柔らかいし、ルーも辛いばっかで薄っぺらいってこともないし。」

褒められたのがよほどに嬉しかったか、
やたっvvとはしゃいだお声を出したルフィであり。

 「あんなあんな、ウソップんチのおばちゃんがコツを幾つか教えてくれた。」
 「なんだ、グル眉から聞いたじゃねぇのか?」
 「違うも〜ん。なので、このコツはゾロにも教えねぇ♪」
 「おや。そう来るか。」

じゃあ俺も、今夜のデザートに何を作るかは教えねぇ。
え〜〜〜? いいじゃんか、作るってことはもう決めてんだろ?
ダ〜メだね。何なら冷蔵庫とか見て推理してみ?
ううぅ〜〜〜。///////


  ………って。
  あんたら、そういうやりとりって世間様ではなんて言うか知ってるかね。


   A;痴話ゲンカ、転じて“イチャ・ラブ”っていうんだよ?




  〜どさくさ・どっとはらい〜  09.05.05. 
葉サマ、お借りしましたvv


  *最近微妙な力関係かもの、破邪様とルフィでございますvv
   今からのアップでは間に合わないかもですけれど、
   まずはのBD話、第一弾。
   滸がましいですが、DLFと致しますvv
   よろしければお持ち下さい。
   今月中に2作目も書ければいんですが。(う〜んう〜ん)

めーるふぉーむvv ご馳走様でしたvv

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