天上の海・掌中の星

      “他愛ない茶話”

*剣豪BD記念企画作品 (DLF)


秋も深まると、
風が冷ややかになり、樹木の梢が色づくとか言われるが、
そういったものの訪れは年によってまちまちで。
今年は早いの遅いの言ってるうちに、
まずは間違いのない晩秋を知らせるものとしてやって来るのが、
あっと言う間に陽の暮れる時間となってしまう時期だ。

 「…あ、もう真っ暗になってるや。」

夕方の時間帯、お気に入りの時代劇の再放送を観ていたルフィが、
ふと窓を見やってそんな言いようをする。
えー、もうそんなか?と、
時間の経ちように驚いているらしく、

 「なんだ、今更。
  ここのところ部活で遅かったから、
  こんくらいの暗い中を帰って来てたろうよ。」

今日は道場の天井だかの点検が入ったそうで。
グラウンドの一角で、
基礎トレーニングをこなしただけという久し振りの早帰宅。
あれれ? 前もって訊いてたっけか?と、
不意を突かれたらしいゾロが、
それでも段取りに抜かりはないか、
さして慌てることもなくキッチンへと立ってって。
それを見送りつつ、
『あ、そうだ』とテレビの前へ陣取ったルフィが、
本放映も欠かさず観ていた時代劇へと飛びついたのであり。
普通一般の“時代劇”も好きな子だが、
これは微妙にカテゴリーが違うドラマで。

「今日びの時代劇は、
 SFだったりラブコメだったりせにゃ ウケんのか?」

クライマックスの殺陣のシーンで、
主人公が時々その腕をみょいんと伸ばすものだから、
当初はゾロが随分と面食らっていたものだった。

「だって原作がマンガだからなぁ。」

風物や設定こそ江戸時代辺りを舞台にしちゃあいるが、
細かい辺りは随分と はちゃめちゃで。
まずはアニメ化されたものを、
今時の若手タレントたちで実写化したところ、
原作ファンとタレントのファンとが食いついての、
視聴率をたんと集める看板作品となったらしい。

「それで再放送もこういう時間帯なんだしさ。」
「こういう時間帯?」
「一昔前ならアニメの再放送だったろうからさ。」
「そうなのか?」

おお。今なんて夜中の25時とか、
逆に朝の5時とか むちゃくちゃな時間になってるけど、
昔はさ、子供は早く帰れってののエサみてぇに、
夕方は再放送アニメの時間だったんだぜ?…と。
何だか昭和を懐かしむおじさんのような、
しみじみした口調になってしまっているルフィだったが、

 「…お前、幾つだ、」
 「ん〜? 17だよん♪」

嘘をつけ、五月生まれが。
バレたか、だっはっはっは…♪と、
こちらさんも立派にパターン通りのやり取りを交わしていたりする。
ドラマも終わったようで、
今夜の見所などなどというテロップだらけの画面が、
出演者らのクレジットが流れるエンディングへと移る辺りで、
テレビの方は終しまい。
スイッチを切ったリモコンをソファーの座面へと放り投げたルフィだったが、
そんな彼の手元にあった、小さめのブックレットにゾロが気がついて。

 「なんだ? 課題か?」
 「ん〜ん。」

書店のカバーのかかった文庫本かと思ったらしかったが さにあらん。
無造作に手に取ったそのまま“ほれ”と差し出され、
ソファーの背もたれ越しに受け取れば。
そんなゾロのいる方へと振り返りざま、
その背もたれへと肘をついて、中を観なよと坊やが促す。
厚みのあるそれは、開いてみれば“ポケットアルバム”という代物で。
各ページが上下二段の、透過フィルムを張ったポケットになっていて、
その1つ1つへ現像した写真を入れて一覧出来るようになっている。
今時はデジカメや携帯の写メが主流なためか、
わざわざの現像自体も珍しいこと。
とはいえ、これは学校行事のそれなので、
同じ写真を大人数が欲しがるようなら、現像にした方が単価も違って来よう。

 「写真屋が撮るのか? こういうのは。」
 「ん〜ん。写真部が、撮るのも現像も請け負ってる。」

体育祭の時のもそうだったし、
この文化祭のも、卒業アルバム用のとは別のカメラマンを山ほど出して、
あちこちでバシバシ撮ってたぞ?と、
にまにま笑いつつ、ルフィまでもが覗き込んでいるゾロの手元には、
10月に催された彼らの高校の文化祭の写真が収められてあり。

 「…もしかして、これ。」

柔道部が構えた屋台周辺のばかりを、
選りすぐってあったことに関しては特に不審もないけれど。
被写体が唯一の一人にばかり限られており。
それへと何かを感づいたゾロだと察したか、
よく気づいたなとの関心を含めて、

 「そだぞ、若旦那コンテストの副賞だっ。」
 「…やっぱりな。」

むんと胸を張るルフィが、柔道部の代表として演じたコスプレは、
真っ赤なライダースーツを改造したらしい微妙な武装に、
額には随分とくくり紐の余った鉢当てと、手には2本の長い槍。
何でもこれで戦国武将だそうであり、

 「真田幸村ってのは、大坂夏の陣辺りからしか知らんのだが。」

既におっさんですな、そのころだと。
…じゃあなくて、

 「若いころはここまで傾
(かぶ)いとったんか。」
 「かぶい…?」

弾けとったのかって意味だとの応じへ、
ああ、なんだと納得したルフィが、
そうじゃないないとかぶりを振って、

 「これは今時の、ゲームの幸村なんだと。」
 「…成程。」

武将の武装にしては、胸元ががら空きなのは何とも妙だと、
真剣に考え込んで見せてた破邪殿だったけれど、

 「ゾロだって着せられてたじゃんかvv」
 「じゃあやっぱりあれも武将だったのか?」

お前のこれに比べれば、まだ一応は鎧じゃああったがと。
男臭いお顔を怪訝そうに顰める破邪殿。
アルバムを持つ手にルフィの手が重なって、
ぱらぱらと勝手にめくられるページを眺めておれば。
ああこれだと止まったところには、
坊やの赤い衣装とは随分 対照的な、
青基調の武装をごちゃりと着せられた誰か様の姿が写っており。

 「そだぞ。刀の鍔の眼帯してただろ?」
 「…有名人だったのか?」
 「ったりまえじゃん。」

伊達政宗だよ、政宗。
はあ? 実在の武将か?

 「でもよ、なんでまた六本も刀提げてたんだ?」
 「そういう設定なんだって。」

実は俺もゲームは知らないんだけどもさ。
アニメにもなったとかで、知名度が上がってて、
俺が何にするか決めかねてるって言ったらば、
手芸部の子たちが絶対これってだって薦められた…と。

 “そういや、そういう順番だって話は聞いたよな。”

でもなんで、俺の衣装まで用意されてたんだろか。
そりゃああれだ、
ゾロさんも来るんでしょ?
来るわよね、来るに決まってるじゃないのって、

 「なんかそういう声が、
  衣装合わせん頃から さも当然ってレベルで流れとったが。」
 「ほほぉ。」

女子を真似てだろう、
いかにもな裏声も交えて再現してくれたルフィだったが、
衣装合わせの頃からということは、
結構なほど前々から判ってたということじゃああるまいか。

 “…まあ、隠し事にするほどの こっちゃねぇし。”

ルフィなら問われりゃ“ああそうだよ”とあっさり応じていよう。
いやさ、それ以前の問題として、
父上からの依頼を守ってのこととはいえ、
学校行事は必ずフォローし、
この坊ちゃんの勇姿をデジカメに収めて来たお兄さんだってことが、
同級生たちの間では、もはや当然のこととして知れ渡っているのかも。

 “備考欄に書かれる程度にはな。”

またまた、そんなご謙遜♪…なんて ふざけていたら睨まれた。
まま、そんな一瞥も一瞬の威嚇に過ぎず、
切れ長の双眸は手元のアルバムへと戻されて。
実行委員会が主催した、屋台参加した部の代表によるコスプレ大会にて、
見事優勝したルフィへの副賞という代物なだけに、
収められてあったのは殆どが彼の姿ばかりでもあって。

 “よくもまあ、こんなにも撮ったもんだな。”

様々なアングルで、
注文を取る武将や、席までのご案内を任された武将、
一緒に写真をとせがまれる武将に、つまみ食いをする武将までと、
そりゃあ生き生きした姿のオンパレードなのが圧巻だ。
最後のページにはCD−ROMのおまけつきで、
素材を収録しておいたので、
自由にプリントアウトしてねということなのだろう。

 「凄いな、至れり尽くせりじゃねぇか。」

今時の高校生ってのは、ここまで凝るものかと感心すれば、
自分が褒められたように“えへへぇ”と微笑った坊っちゃん、

 「これ使って年賀状書こうかと思ってさ。」

だってこの役って、何とかの若き虎って言われてる奴なんだって、
来年は虎年だから丁度いいじゃん、と。
何とかなんていううろ覚えなくせに、
そんなちゃっかりしたことを言うものだから、

 「何だ、去年の牛みたいに へべれけな絵は描かねぇのか?」
 「へべれけとは何だよ。」

いや、あれって結構ウケてたじゃないか。
ぷんぷくぷーと膨れる愛し子へ、
今更のおべっかか、それとも尚のからかいか。
にんまり微笑ってそんなお言いようを破邪殿が重ねたところで、
キッチンからの電子音。
何かが“出来たぞ”と呼んでいる。

 「そいや、今晩は何の御馳走だ?」
 「当ててみな。」
 「うっとぉ…この匂いは、肉ジャガだ。」
 「惜しい、チキンドリアだ。」
 「う〜〜〜、どこが“惜しい”んだよっ。」

ソファーの上へと膝立ちになってぽかぽかと叩いてくる坊っちゃんへ、
手のひら向けてやっての一応は受けて立ちつつも。
ほれほれ冷めるから早くこいと、
何発目かでパンチを掻いくぐっての身を寄せると、
まだまだお子様体型な上背を、
そりゃああっさり がばちょと捕まえてしまい、

 「うひゃあ。//////」
 「妙な声を出してんじゃねぇよ。」

あと、具だくさんの みねすとろーねと、
ホウレン草の卵とじ炒め…と付け足しながら、
肩の上へひょいと抱え上げた坊やを運び始める、
見かけ以上の強力
(ごうりき)も相変わらずであり。

 「……あ、そうだそうだ。ゾロ、今日誕生日だろ。」
 「う…。///////」

何だよ、その反応はっ。
いや…何だ、うっとだな。/////
さては、俺が忘れてると思ってたなっ。
…………。//////
図星か、図星だな。

 「俺が決めたことなんだぞ、忘れるもんか、覚悟しろ。」
 「……何かそれ、言い方が変じゃね?」

忘れ去られててもまあいっかと、
自分で納得する準備を早々に仕掛かっていたらしい破邪殿の、
大きな背中が目の前になってたルフィが、その真ん中をパタパタと叩き、
ああと思い出したよに、
肩の上から慣れた様子で引き降ろしての懐ろへ、
抱え直しかかったその途中。
さすがは柔道界の新星、素早く腕を延べての首っ玉へとしがみつき、

 「まずはこうだっ。」
 「…っ☆」

ぎゅむと、腕の輪を縮めたらしいと思った…次の瞬間には、
しっとり柔らかい感触が頬へと触れており。
瞬発力こそあるものの、まだまだ細っこい腕や薄い胸元が、
しがみつきの張りついてきただけ、
屈託のない甘えようだけかと油断しきってた誰か様。

 「〜〜〜。//////」
 「ゾロ?」

おまっ、なに、いきなり、こゆことはだなっ。////////
何言ってんか判んねって。

 「……大丈夫か、ゾロ。」
 「ちょっと時間くれ。///////」

相変わらずのごちゃごちゃながら、
相変わらずじゃあないところも増えつつあるらしいお二人で。
精悍なお顔を真っ赤に染めて、どこを見りゃいいのかと視線が定まらぬお兄さんを、
ありゃ困らせちまったよとの心配半分、
もう半分は……思った効果が出なかったこと、
精進が足りんかったからかなぁなんて、
微妙に勘違いしかかっている坊やなようで。


  お兄さん、早く我に返っての復活しないと、
  もっと過激な何かが降って来ても知らないぞぉ?
(笑)



  〜Fine〜  09.11.17.


  *何やこれ。(笑)
   単なる実況中継でしたね、すいません。
   日頃はこういうごちゃごちゃを展開している二人だということで。

**第四幕に続く **

**bbs-p.gif


戻る