天上の海・掌中の星

    “寒中お見舞い申し上げますvv”


年末までは何とか穏当な冬だった。
このところの当たり前になりつつある猛暑だった夏の名残りか、
秋もなかなか紅葉が始まらない変梃子りんなままに過ぎだので、
その余韻でか、
いつまでも本格的なコートは要らないような気候が続いていたものが、
クリスマスを境にいきなりキュッと寒くなり。
正月は何とか いい天気の過ごしやすさが戻ったものの、
それも所謂“松の内”あたりまで。
学校が始まるころには、寒いというよりも正しく“冷たい”、
凍るような空気が、昼になっても陽が照ってても、
外気からは去らないまんまというのが常態になっちゃって。

 「う〜〜〜、じっとしてっと寒みぃ寒みぃ。」

子供は風の子、とはいうが、
いつまで子供なんだろかというお元気ルフィでも、
たかたか翔って帰って来、
今日はこんなことがあったんだぜぇ?なんて、
手振り身振りもにぎやかに報告して、さて…と間が空くと、
ついついエアコンのリモコンへと手が伸びるようになった。

 「何だ、風呂んでも入りゃいいだろよ。」
 「ん〜〜〜、風呂は寝る前がいい。」

ほっかほかに温ったまって、ついでに ほわわんと眠くなるから、
そしたらそのまま布団へ入って一気に寝ちまうんだと。
彼なりの手順とやらがあるらしく、
だからまだちょっと早いと言いたいルフィなのへ、

 「ふ〜ん。」

そういうもんかねと相槌もどきな声を返して。
夕食に使った食器を片付け終わったお兄さんが、
その結構な上背の頂上へとエプロンの紐をくぐらせての外しつつ、
坊やがソファーへと陣取っているリビングへと向かいかけ、

 「……っと、そうそう。」

何をか思い出した気配を見せる。

 「ゾロ?」

アメフトの試合の録画したの、観るんだろ?
BSでの放送は微妙に遅い時間なので、
起きてられないルフィのために、
録画して後日のゴールデンタイムに観ている彼らであり。
すぐにも観られるようにとレコーダーのセットも終えて、
テレビの方を向いたソファーに、
膝からのし上がるというカッコになっての後ろ向き。
そうやって背後になるダイニングの方を見やるルフィであり。

 「寒いってんなら、これはどうだ。」

ややあって、少し大きめの普段使いのマグカップを、
左右の大きな手それぞれに持って、やっとこ ゾロがやって来た。

 「? なんだそれ?」
 「俺のはホットラムだが。」
 「あ、この呑んべ。」

人間じゃないくせに酒は好きな破邪様、
人間じゃないからか、どんだけ飲んでも平気という超うわばみで。
『酔わないんなら酒飲む意味ないんじゃないか?』
以前にそうと訊いたことがあったけど、
『馬鹿だな。酩酊したくて飲む奴ばっかじゃあねぇんだよ。』
天聖世界にも酒精はあるそうで、
『こっちの酒もそうだろうが、
 芳醇な香りとか、腹に染みるほどの強さとか、
 後味の冴えとかが味わいたいから飲むんだよ。』
わざわざ苦いものや辛いものを飲むなんて 判っかんねと小首を傾げると、
お前はまだガキだからしょうがねぇよと、
そんな言われようをしたのまで思い出してしまったルフィの鼻先へ、

 「ほれ。」

差し出されたのが…甘い香りのする白い飲み物。途端に、

 「あ…、俺これ好きvv」

あっさりと機嫌が直るところが現金な坊やであり、
ストローかマドラーのように割り箸が差してあるので、
くるくると掻き回し始める手際も慣れたもの。
とろみのある、暖かな冬場の飲み物で、
おっかなびっくりに縁へと口をつけ、
あちちと すすって味見をし、

 「あ、この加減はサンジだな?」
 「何だよ、判るもんなのか?」

その通りであったればこそ、
日頃なら嬉しいはずの“美味しいvv”という笑顔なルフィなのが、
ゾロにしてみりゃ少々癪ならしい。
だが、

 「そりゃあ違うもん。」

同じ長掛けソファーに腰掛けたゾロが、
少しほど間を空けていたの、詰めるよにして にじり寄ると。
抗議するような口調で言い返し、

 「こないだの年末にゾロが作ってみたのは、
  どういう冗談かだしが随分と利いてたじゃんか。」
 「あれは…粕汁と間違えたんだよ。」

なんてな なかなか笑えるやり取りのあと、
そんな言いようをぶつけつつも…頼もしい身へと擦り寄ると、
トレーナーにくるまれた二の腕へ、ぴとりとくっつく坊やの他愛のなさよ。

 「その暖かいお酒だって、
  お湯だかライムだか、垂らしたり混ぜたりする割合で味も違うんだろ?」
 「まぁな。」

それと同じようなもんだよと、年長者が言い諭すような言いようをし、
そのくせ…まだ熱いのか、割り箸をゆっくり引き上げると、
先を舐めて見せるお行儀は、めっきりとお子様のそれだったりし。
ショウガの風味がかすかに利いてて、
けっして甘いばかりな代物ではないのだが、
実はルフィの大好物だったりするらしく、

 「これって酒粕使ってんだろに、何で俺 酔っ払わねぇの?」

ご当人にも不思議なことか、そんなことを訊くくらい。
そして…訊かれても、作り方さえ覚束ない破邪様としましては、

 「…さぁな。」

割合としてそんなに入ってないからじゃねぇか?
そっかな?
酒粕ってくらいで、アルコール分は絞り切ってるワケだしよ。
でもさ、これ飲むとココアとかよりも ずぅっと暖かいまんまだぞ?

 「そうは言うが、お前は酒蒸し饅頭で赤くはならんだろうが。」
 「あ、そっか。」

何とも短い言いようだが、
その背景には…あのウソップがどっかのお土産の酒蒸し饅頭で、
見る見る真っ赤になったという逸話が下敷きになっており。

 「ウソップってば奈良漬け食っても赤くなんの。」

酒に弱いっていうのより、そういう体質なのかもしんないと。
いつも保護者みたいにして自分へ構いつけてるあの彼が、
思わぬところでルフィ以上に可愛いところがあったので。
しばらくほどはこの話題、忘れられちゃうこともないだろう。
第一、そんな言いようをしているルフィも、

 “気づいちゃあいないんだろうなぁ…。”

実はネ、ちょっぴり頬や耳が赤くなってる。
彼だとてアルコールには弱いほうで、
ジュースのようなソフトドリンクで簡単に酔い潰れるというレベルなので、
ある意味ではウソップともいいコンビかも知れず。

 「……はあ、何か暑い。////////

大型画面に映し出されたゲームは、まだまだ序の口。
寒い土地でのゲームなのか、
選手たちやベンチのコーチが吐く息も白くて、
見るからに寒々しい方が勝
(まさ)っているというのにね。
フリースのパーカーを、暑い暑いと脱ぎ始めた坊やなの、

 「おいおい、冷えるぞ。」

そうそう大胆にも薄着になんなと言い諭した破邪様へ、
むうと口許曲げかけたルフィが、
そのまま…すぐ間近だったゾロの足へと手を掛けて、

 「よいせvv」
 「…こらこら。////////」←あ

腿をまたいでお膝へお引っ越し。
そうした上に、空いてた方の腕を自分へ回させ、
安全ベルトのようにして。

 「こうすりゃ冷えないも〜んvv」

顎をのけ反らすほどの勢いで、真上を見上げるという、
いかにも子供な甘えよう。

 “こんの〜〜〜。////////

こんな媚びよう、一体どこで覚えたか、
いやいや彼にしてみりゃ、まだ子供だからという甘え方なのかも。
自分だって…あんまり色っぽい話には縁がなかった免疫不足な身のくせに。
だからこその狼狽だってことへ気づきもしないで、
大人の冷静を保とうという、
別名“やせ我慢”ともいう戦いのホイッスルが鳴った模様でございまし。


  ……アメフトって、ルール上でのゲーム時間は“1時間”だけれど、
    正味3時間はザラだぞ?大丈夫か、ゾロ?
(笑)





  〜Fine〜 09.01.18.


  *何のこっちゃなお話になっちゃいましたね、すいません。
   今週はなかなかの冷え込みになるとか訊いたので、
   皆さんもお気をつけてとか言いたかったらしいです。

  *あと、どっかで“甘酒はアルコール分ないから酔わない”とか、
   バラエティ番組の中で某タレントさんが仰せになってたんだけど、
   え? でも酒粕使うのに?と、
   ルフィちゃんと同じことを思っちゃったんですよね。

   正解は、

   @アルコール分1%未満なので、ノンアルコールに分けられる。
   A造り酒屋などで一から米こうじで作った“甘酒”は、
    酒精を含んでいないので、確かに“アルコール分はない”代物である。

   ただ、酒粕を煮とかして甘みをつけるという作り方をする甘酒は、
   @の方に分類される“ノンアルコール”なので、
   弱い人が飲むと酔う恐れはあるそうな。
   あと、血中アルコールの量は出なくとも、
   体質的な反応で息苦しくなる人も出るので、
   「アルコール分はないない」と無理強いするのは辞めたげましょうね?


めーるふぉーむvv
めるふぉ 置きましたvv

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