天上の海・掌中の星

    “はるはな vv”


あちこちのニュース番組専属の気象予報士さんに言わせると、
この冬はこれでも“暖冬”だそうで。
そうかな、寒かったぞ?
ニュースでも世界中のあちこちで、記録的な寒さだったって言ってなかった?
そうと思うお人が多いのは、
寒暖の落差があまりに大きすぎたせいなのだとか。
本来は確かに厳冬となる筈の、北からの風向きだったらしいのだけれど、
それへと立ち向かうかのようにエルニーニョの暖めた海流が、
寒気団の切れ目ごとに、いそいそと北上して来たがため。
厳しい寒さが続かず、
しかも途轍もない寒さの次に、
春の最中の気温がやって来たりしたもんで。
平均値をとると“暖冬”という数値になってしまうらしい。
それと、長い冬の間ずっと寒かったという印象が強いのは、

 「やっぱ、辛かったり ヤだったりしたことの方が重いから、
  ついついそっちの印象の方が強く出ちまうんだろってさ。」

とはいっても、それはつい最近過ぎることを思い出す場合の話で。
これが何年か経ってから思い出したなら、
それこそ公平に、印象深いことの方を思い出しているだろと。
その経験値にはとんでもなく大差がある二人だってのに、
お互いにちゃんと知ってる、知ってるお互いだってことをも知ってる、
そんな彼らであったりし。

 「ゾロ、こっちだっ!」

少し大きめのスムースジャージの余った襟が、
駆けるリズムに合わせ、
軽やかに撥ねては口許まで上がって無邪気なお顔を隠すのが、
坊やを尚更に幼く見せており。

 「サンジがサ、キュウリやトマト、植えてみないかって言ってたぞ?」

花でもいいが、男所帯だ、
どっちかってぇとガーデニングってのより、
家庭菜園の方が実用的だろなんてってさ、と。
一体いつそんな話をしたんだろかと、
緑髪の乗っかった頭を傾げている連れを置き去るように先をゆき。
馴染みのスーパーマーケットの駐車スペース手前、
月に何度か顔を出す、園芸ショップの出店へと、
パタパタ駆けてくルフィだったりし。

 「野菜たって、苗ならもう少し先だろが。」
 「お? 何でそんなこと知ってんだ?」

日曜恒例の買い出しは、
毎日の食材以外に、特価品やら消耗品のまとめ買いもするお出掛けなので。
故に、一応は荷物持ちにという名目で着いてくるルフィなのだけれど。
大ぶりのトートバッグを2つも肩に引っかけたその上に、
手元にも…こちらはカートタイプの大型キャリーを引いているのはゾロであり。
坊っちゃんの方は、
特価だったボックスティッシュ5箱パックを、
1つずつ両手へ提げてるだけという格好。
本人は これでも力はあんだからと、もっと何か持たせろと煩いのだが、

 『そうは言うが、
  前にも 卵が入ってるバッグをドカッと玄関口に降ろしやがったし、
  そうかと思や、
  豆腐の入ったバッグをぶんぶん振ってくれやがったんで、
  冷奴か みそ汁にと思ってたもんが、
  麻婆豆腐にするしかなくなったこともあったし。』

 『……そうだっけ?』

腕っ節の問題以前だとのお言葉が振って来た上での、
この待遇であるらしく。
そんな発端なぞ丸きり覚えていないらしいご本人様が、
あれれぇ?と小首を傾げつつ、
長身なお兄さんの近間までを駆け戻ってくるところなぞ、
久々に散歩に連れ出されてはしゃぐ子犬みたいで、

 「可愛いったらないわよねぇvv」
 「ホントホント、今日来てラッキーvv」

居合わせた買い物客の、主に女性陣が、
お顔を寄せ合い、ひそひそコソコソ。
ひっそりこっそり キャピキャピvvと、
囁き合うのが かまびすしい。
天真爛漫、無邪気な坊やの態度は勿論のこと、
結構な大荷物を抱えているにも関わらず、
それが ちっとも大変そうには見えない、
余裕のお兄さんの雄々しさも込みで。
居合わせていた人々からの注目集めまくりという、
相変わらずのお二人さんだが、
全くの全然、気に留めていないのもまた、
言うまでもなかったり。
(苦笑)
そんなご当人さんたちはと言えば、

 「花より団子か、まったくもってその通りじゃねぇか。」

愛らしい花壇を作るよりも、
日々の食卓へとのぼる食材を育てる、
畑仕事の方が似合いだと言われたという聖封様からの見解へ。
これまた珍しくも“もっともじゃねぇか”なんて、
同意を示した破邪様だったものだから。

 「…さてはゾロじゃねぇな。」
 「何だ、その態度は。」

手近にあった売り物の移植ごてを両手に掴み、
何かしらの武具のように構えた坊やだったりするのは、ままご愛嬌かと。

 「だって、サンジの意見へ
  ゾロが“その通りだ”なんて素直に認めたんだもんよ。」

熱でも出たかって思っても不思議じゃなかろうが、と。
わざとらしくも真顔を作ったものの、
お顔を見合わせて数秒後には
“な〜んちゃってvv”と笑み崩れるのもまたお約束。

 「種から植えるなんてのは、初心者には難しすぎるとか。
  苗から始めてみた方がいいよってのは、
  ウソップのおっ母様が話してたんだよ。」

何でもそちらのお宅でも、
夏野菜のキュウリやトマト、シシトウ、
冬には大根にキクナ、小松菜にホウレンソウといった辺りを。
お庭で自家栽培なさっているそうで。

 「ニラやキクナは、自家栽培の方が甘いのができるんだとよ?」
 「うあ、そうなんだ。」

そういや、ウソップの母ちゃんが作る豚と野菜の炒めものとか、
凄い美味かったもんなと、
小さいころはよく預けられてたその記憶からだろ、
ルフィもまた、懐かしそうに思い出しており、

 「じゃあ、その時期になったら苗を揃えような。」

今日のところは見学だと、
素焼きのや陶器など、大小様々な植木鉢が並んでいたり、
腐葉土の詰まった大きめの袋がずんずんと積まれていたり、
テラコッタだろか、赤レンガっぽい敷石タイルが重ねられてる狭間を縫って。
両手に掬い上げられそうな小さめの株の花の苗やら、
蕾をたわわにつけた梅や桃などの苗なんぞが、
平棚や足元へと敷き詰められるように並んでいる中を見て歩く。
プリムラやパンジーやといった小さな花の株が、
時折 吹く風に花びらをひらめかせて並んでいる様は、
早めに訪れた春の苑のようだし。
色合いも、赤や紫といった濃色がないではないものの、
淡いピンクだの、クリーム色や薄紫だのという、
いかにも春を思わせるよな、
パステル系の色合いのが増えて来たなぁと感じさせるし。
また、そういうのが心地いいと言いますか、

 “…うん、ちょっと前だったら寒そうに見えたんだろけどな。”

頼りなさげなところが、侘しくさえ見えかねなかっただろに。
今の陽気の中で見る分には、
華やかだなぁとか春だなぁという色に見えるから不思議。
薄手の花びらがひららんんと躍った小花へと眸がいった坊や、
おおと何かしらへ感じ入っての立ち止まったので、
それへ続いていたゾロが“どした?”と声をかけたところが、

 「あんな、スイートピーとかスターチスとか、
  ピンクとか薄紫の、いかにも春の花ですっていうのって、
  サンジってイメージだよなって思ってさ。」
 「? そうか?」

言われて見回した花の苗株や、
季節感を見せるためだろか近くへ並べられてあった切り花たちへは、
確かにそういった春めいた色合いのものが多く揃えられており。
丁度 女性が春を実感して着こなす色合いという印象にも重なる、
淡い緋色やクリーム色、ピンクもどこか薄い色合いのものが目につくし、
それがまたほのぼのと心地いい…のではあるけれど。

 「あの、キザで鼻持ちならねぇ奴が、こういうイメージだとぉ?」

こうまで可憐なものとの引き合いにされるよな野郎かよと、
いかにも怪訝そうに眉をしかめたゾロであり。

 「だってそうなんだもん。
  あ、ちなみにゾロは、
  椿とか梅とか桜とか、和風のイメージなんだよな。」

 「ほほぉ…。」

自分が譬えられるのはまんざらでもなかったか、
しわが寄りかかってた眉間が一瞬ゆるんだものの、

 「いやいや、あのなぁ。」

どっちにしたとて
“花”に譬えられるようなタイプじゃあないんだがと。
我に返って“おいおい”という
しょっぱそうなお顔を作った破邪様だったりし。


 何だよ、褒めてんのにそんな顔しちまってよ。
 だからだな…。
 ロビン姉ちゃんは胡蝶蘭だな。
 おいって…。
 ナミさんは…えっとぉ、ガーベラとか。
 なんか、派手なもんが多くないか?
 そか?
 俺が桜でアホコックがスイートピーだのに、だぞ?
 ……う〜ん、そう言われてもさ。


時折腰をかがめまでして、
居並ぶ鉢植えや切り花の桶を覗き込み、
そんな会話を紡ぐ二人なことへこそ、

 「男二人の会話とは思えんのだがな。」
 「そっか? 花の名前は俺もたっくさん知ってるぞ?」

彼らの頭上の空中高く、
よほどに霊感が強くなきゃあ見えないだろう存在が二人、
そんな会話を交わしていたり。

 「俺は? 俺だったら何のお花なんだろなvv」

わくわくっとつぶらな瞳を潤ませる、トナカイの使い魔さんのお声へ、
いや、俺へと訊かれても、なんて。
微妙に迫力負けして後ずさったサンジだったその足元から、

 「そだな、チョッパーだったら、えっとぉうんとぉ。」

  ……………はい?

見下ろした先から、
こっちをしっかと見上げている視線があったりし。
悪戯っぽく笑ってる坊やの傍らでは、
気づいてねぇと思ったか バカやろと、
少々眇め気味にされた切れ長の眸がやはり見上げて来ておいで。

  あああ、無理だ。チョッパーは可愛すぎるから喩えが浮かばんねぇ。
  な、なな何だよそれっ!//////////
  だから、わざわざ花にたとえても勝てる喩えがねぇっての。
  うううう、嬉しかねぇぞ、このやろがっ!///////

お子様たちが かあいらしいやりとり交わす傍らじゃあ、
どちらも一端(いっぱし)の男衆が二人、
なんだ、なんだよと睨み合い、
微妙な火花を散らし合ってたりもして。

 「不毛な にらめっこだな。」
 「そだな。」

  先に帰ろう、チョッパーも来いや。
  いいのか?
  おお、さっき買ったばっかのタコ焼きが、
  冷める前に帰りたいしな。

お子様がたの方がよほどのこと合理的であるらしかった、
春も間近な昼下がり。
ほんの少しほど明るさの増した空を透かして、
蕾を幾つも飾ったモクレンの梢が、
風と遊んでの、ゆらゆらとたわんじゃあ揺れていた。



  〜どさくさ・どっとはらい〜  10.03.07.


  *ウチは、ガーデニングというより家庭菜園派なんで、
   お花を育ててる人は、
   この時期だと何するんだろかと調べようとしたんですが。
   調べ方が悪いのか、
   どこもかしこも“春まきの野菜”の話題しか扱ってませんでね。
   お花の場合は、
   これっていうのを決めといて取り掛かるもんだから、
   こんな漠然とした調べようでは、
   取り付く島もないってことなんでしょうか?

   ちなみに、種蒔きから育てる一年草の話でならば、
   四月からですが、トルコキキョウやポピー、
   アサガオ、ヒマワリ、コスモス、
   カンパニュラ、オダマキなどが挙がってましたが。

  *それはともかく…。
   何か間が空いてしまってすいません。
   本誌も壮絶なら、アニメもえらい展開になってるもんだから、
   どんなお話を手掛けりゃいいんだろかなんて、
   少々気後れしておりまして。
   溌剌&仲良しさんな、
   いつものカラーのを書いてりゃいいってのは判ってるんですが、
   テンションを上げるのが大変です、はい。
   歴史に残るだろう規模の“戦さ”だけに、
   沢山の“失うもの”がついて回るってことなのかしらね…。
   少しくらい、1つくらい、
   白ひげサイドの読者にも
   溜飲が下がるものあって良いんじゃないかと思いつつ。
   でもでも、過去にも“悲しい現実”は沢山ありましたからね。
   (各メンバーの、それぞれの肉親との別れとか…)

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