天上の海・掌中の星

    “秋の初めの”



何もかも記録づくめだったらしい酷暑の夏が、
暦の上では通過して。
今は朝晩の風も涼しい、過ごしやすい秋…のはずなんだが、

 「何でこうも暑いんだ こんちくしょう。」

北海道では早くも雪が降ったってさ、
信じらんねぇと。
連休明けの登校から帰って来るなり、
冷蔵庫の中身へ向かってぶうたれている高校生へ。

 「納豆が腐るからやめときな。」

しゃがみ込でたその真上から、
後ろ襟を掴んで ぐいと引き、
立ち上がらせがてらに、冷凍庫を開けてやり。
買い置きのアイスバーを取らせるところは、
呼吸なのか、単なる過保護か。
チョコ味のガリガリくんを手に、
えへへぇとご機嫌を直した高校生はルフィといって。
パッと見は どうかすると
中学生に間違えられることも多々あるというほど、
小柄で童顔ではあるものの。
これでも学生柔道の猛者であり。
おさまりの悪い黒髪が、
今日はまた起きぬけと同様なほど跳ね回っているのは、

 「ちゃんと洗濯もの出しとけよ。
  お前、明日が休みとかだと すぐ忘れんだろが。」
 「ほーい♪」

そんなやり取りに急かされて、
リビングに置きっ放しだった学生かばんの傍らから、
それも一緒に持ち帰ったらしい、ビニール製のバッグを手に、
バスルームの方へと向かった彼だったから。

 「今年は結構 長々と水泳の授業があるんだな。」
 「おお。今年はあんまり暑いから、九月いっぱいはプールなんだ♪」

ウチは体育祭も前半は水泳競技だしなと、
ご当人はただただ嬉しそうだが、
そういう事情から、学校でプールに浸かったその後、
ろくにセットもしないままでいる坊やなもんだから。
駆け回るに任せて乾いた結果、
お元気な寝相でつく寝癖以上に、
奔放な髪形になるらしいと来て。
……まさかに男子も、
体育の授業の後って、髪形とか肌荒れとかケアすんのかなぁ?
いくら眉を揃えているのが定番化しつつあるとはいえ、
体育の授業くらいじゃあ…。

 「気ぃ遣ってる奴は、ニキビ予防の洗顔料とか使ってっけどな。」

あと、そんな凝った髪形でもないのに、
ちっちゃいドライヤー持ち歩いてる奴もいなくはないしと、
今時のおしゃれな男子高校生のお話を聞かせてくださった、
こちら様の坊やはといえば。
そんな頭のまんまでいるくらいだ、
まだまだそっちへの関心は薄いらしい。
そんなことよりと、
戻って来たリビングのカレンダーを睨みつけ、

 「あ〜あ、惜しいよな。
  金曜が休みだったらサ、4連休だってのに。」

 「3連休が明けたばっかの身で、何 言ってっかな。」

決して勉強が嫌いで言ってるんじゃあなく、
……いやまあ、ちょっとは、
数学とか英語の授業が無しになんのが、
嬉しいからでもあるのだが。
怠けたこと言ってんじゃねぇなんて、
こいつはよと、ちょんっと鼻の頭を摘まんでくれる、
日頃はもっと荒くたい活劇に明け暮れてるくせに、
自分にだけは(表現の仕方はともかく)それはやさしい、
この破邪の青年といつも一緒にいたいからであり。
ゾロもゾロで、そんな真意が判っているからこそ、
何をおバカなことを言うかなと窘めつつも、
その口許は苦笑にほころんでいるのであり。

 「そうそう、体育祭はやっぱり幾つか掛け持ちか?」
 「おお。制限ぎりぎりの目一杯走るぞvv」

水泳は早く泳ぐの苦手だから出ねぇけどよ、
その分、トラックで走んのと、
玉入れと棒倒しの先鋒とを引き受けたかんなと、
やる気満々の元気一杯。
学校は好きだというのがありありしており。

 『何なら学校関係者になりすましてもぐり込みますか?』

いつだったか、この坊やへの至近での護衛の必要が出た折に、
天聖人仲間のビビやたしぎが来てくれて、
彼女らが教育実習生や用務員見習いという存在だという、
強いめの暗示を他の職員らへかけてもぐり込んだことがあり。
それを使えば傍にもっと居られますよ、
そういう咒が苦手でしたら、わたしたちがお手伝いします…なんて、
悪魔のささやき
(笑)を寄越されたこともあったけれど、

 『そこまでべったりくっついててどうするよ。』

俺ゃこいつの守護霊じゃねぇんだからと、
あっさり振り切った破邪さんだったりし。
くっつき虫になりたがっているのはルフィの側で、
いくら坊ちゃんへ甘いゾロであれ、
そこまでの至れり尽くせりはしたくはないのかなぁと、
おやぁ?と小首を傾げていたレイディたちへは、

 『…やせ我慢だ、気にしなさんな。』

居合わせた聖封様が、くくっと短く微笑ってから、

 『それに、あいつはあいつで家事で忙しい身なんでな。』
 『…ああ。』

そこでポンっと手を打ったのは、
二人のうちの果たしてどっちだったやら。

 「体育祭の話で思い出したが、十月は衣替えじゃなかったか?」
 「あ、そうそう。そうだった。」

うが〜〜、この暑いのに長袖かよ、おいと。
ますますの いやんなお知らせへ
しょっぱそうなお顔をした坊やであり。
今年は秋もまた、落ち着かない模様でございます。









   おまけ


 「……あ、キュウゾウか?」
 【 にゃっvv】
 「元気にしてたか?」
 【 にゃぁみゃっ♪】
 「そか、そりゃあよかった。そっちも暑いんじゃないのか?」
 【 みゅ〜〜にゃぁあ。】
 「寝苦しかったか、お前は毛皮着てっから、余計に大変だよな。」
 【 にゃにゃ、みゃんにゃ。】
 「へぇえ、そんな工夫があんのか凄いなぁ。」

ちゃんと会話になってることのほうが凄いぞ、坊ちゃん。
向こうさんがスピーカー使ってのオープントークにしてたなら、
金髪のお兄さんが約一名ほど、
訊きたいことがあってのこと、うずうずしておいでかも知れません。
久蔵くん(メインクーンの仔猫)の言葉が判るのですか?と。

 『なんとなく、感覚で喋ってんだけどもな。』

そう言う坊ちゃんだが、破邪様にしてみれば、

 “きっちり通じてんぞ、おい。”

やっぱり苦笑が絶えないそうでございます。

 「…そっかぁ、サンマのお腹んトコはまだ苦いか。
  キュウゾウ、まだまだお子ちゃまだな。
  …お? 怒ったか? 安心しろ、俺も苦手だもんよ♪」

電話線の向こうで、誰かさんが萌えまくって、
そばにいる相方さんの胸板を、
ぱふぱふぱふ………と連打してないかが心配です。
(笑)





  〜Fine〜  10.09.22.


  *よく判んないおまけつきですいません。
   そういや来週の末には衣替えなんだねぇと気がついたもんで、
   その話を書きたかったはずなんですけれどもねぇ。
(苦笑)

**ご感想はこちら*めるふぉvv

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