天上の海・掌中の星

    “とある真夏のサプライズ♪”


今年の夏は、たいそうな暴れん坊で。
夏休みに入った途端、猛暑日の連続なんていう掟破りの強襲をかけて来て、
まだ七月なのにとか、お盆のころはどこまで暑いのかと、
さっそくにも大人たちをうんざりさせた。
そうかと思えば、昔の夕立どころじゃあない破壊力のゲリラ豪雨もやって来て、
暑くなる直前、途轍もない梅雨だったのを忘れるなと言わんばかりに、
突風や雷つきという物騒な豪雨をもたらしもして。

 “ホント、毎年何かしらの自然災害も起きてんよな。”

景気が悪いの政局がどうのという、
しっかりしろ大人という世界の話は、
残念ながら まだちっとよく判らない子供だけれど。
ここ何年かの異常気象とか、不意打ちみたいな大地震とか津波とか、
もしかして人間の行いが悪すぎての天罰なのかなと、
そんな風につい思ってしまうよな、
どこか桁外れの災害が必ず毎年起きてるってどうよと。
そちらも…長かった梅雨のせいで土の中から出てくるのが遅れたらしい蝉の声が、
何とか出揃いつつあるのを聞きながら。
今はまだ過ごしやすい空気の中、
まとまりの悪いざんばら髪をわさわさ跳ねさせ、
早朝のご町内をほてほてと歩んでおれば、

 “………おんやぁ?”

そちらさんもラジオ体操からの帰り道なのだろ、
愛らしい木綿の肩出しサンドレスを来た小学生くらいの女の子が二人ほど、
道の端っこに寄り合うようになって屈み込んでおり。
何かしら覗き込んででもいるものか、
優しい、甘やかすようなお声で、
お互いへ、何やらこしょこしょと話しておいで。

 “何か嬉しいもんでも見つけたか?”

大人よりも視線が低いのだもの、
足元の細かいもの色々へと目が行くもんだからと、
小さい子がついつい寄り道してしまうのも、言わば仕方がないことで。
傍目も振らずにいて何へも関心持たなくなるよか、
よっぽどいいと思うんだけどな…なんて、
さすがは高校生になった誰かさん、
ほほえましい情景へ、
ちょっとばかり大人のご意見を転がしていると、

 「○○ちゃ〜ん、◇◇ちゃ〜ん、早く帰ってらっしゃい。」
 「あ、お母さん。」

どうやら姉妹だったらしい二人は、
迎えに来たらしい母から掛けられたお声へ振り返ると、
その手へ抱えていたものを掲げて見せる。

 “…………お。”

そこには、小さなお手々でさえ余る、
小さな小さな存在が微妙に危なっかしくも抱っこされており、

 「あら。どうしたの、その仔猫。」
 「此処でね、にゃあにゃあって鳴いてた。」
 「迷子みたいなの。」

首輪してるしと報告するお嬢ちゃんたちへ、
あらあらと、母親も寄って来たものの、

 「でもねえ、今日はこれから
  福島のお祖父ちゃんのトコに行くって言ったよね?」
 「だってぇ。」
 「おウチ、判んないのかもしれないのに。」

人の言葉も会話も判ないらしき小さな仔猫は、
ただただ“みいみい”と糸のような細いお声で鳴くばかりで。
その愛らしさが、女の子たちの母性へ訴えかけるのだろか。
お祖父ちゃまのことも大好きだけれど、
目の前にいるこの子の難儀の方が、今は彼女らの心を占めている模様であり。
そういう辺りの心情は、お母さんの側にも重々伝わっているらしいのだが、

 「でもねえ。迷子なら尚更、
  此処にいないと、お母さんも飼い主さんも見つけられないでしょう?」
 「でもでも。」

こうまで小さく、しかもなかなかの器量よしと来ては、
こんな小さなお嬢さんにだって、
なかなか置き去りになんてしがたい心情が沸くだろ理屈、こっちにも重々判るので。

 「なあ、その子。俺が預かろっか?」
 「あ、ルフィお兄ちゃん。」

ついさっきも同じ公園で、
時々アドリブ入れたりしつつ、それでもラジオ体操の見本係をやってたお兄さんだと、
子供たちだけじゃあない、お母さんのほうも顔見知りなのでとパッとお顔を輝かせ、

 「あの、この仔猫なんですけど。」
 「おう。話は聞こえてたぞ。」

迷子らしいな。俺が携帯とかネットとか使って問い合わせてやっから大丈夫だぞ?
そうと言って にぱっと笑えば、
あまり年の差はないらしい幼い姉妹が、そっくりなお顔を見合わせたが、

 「あのね、ずっと鳴いてたの。」
 「お腹も空いてるかも知れないの。」
 「そっかぁ、じゃあご飯が先だよな。」

こんな小さいんじゃあ、子猫用のじゃねぇと腹壊すかもだな。
あ、ルフィ兄ちゃん知ってるんだ。
おうよ、時々うちの縁の下でも仔猫生まれることがあっからな。
そんなこんなと話すうち、彼女らも安堵したものか。
かわいらしい温みや幼い毛並みから手を放すのを惜しみつつ、
それでもそおと小さな存在をルフィへと託すと、
お願いしますとペコリ頭を下げるのがまた、一丁前でかわいらしい。

 「ああ、任された。」

バイバイと手を振るのへと、こちらからも振り返してから。
胸元へと抱えたキャラメル色の毛並みの仔猫、
みいと鳴くのを見下ろすと、

 「さて。お前、ご飯はミルクでいいのかな?」

もしかして、俺と同んなじ飯がもう食えるんじゃあ?と、
愛らしい仔猫へ、そんな風に囁いたルフィ坊っちゃん。
もしもあったら同じ猫耳をピンと立ててただろうご機嫌さんであり。
大きめのお眸々も、心なしか…猫のそれのように丸くして、
“にゃは〜”という笑みに潤ませておいで。
ちりめんで作ったお手玉みたいに、小さな小さな仔猫を抱いて。
やたら微笑みが止まらぬまんまな御面相で、
お家を目指す坊やであったが…………はてさて。






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 *実はどっかのお部屋とのコラボですが、
  あんまり気にしないでお読みくださいましvv
(苦笑)


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