天上の海・掌中の星

   “だって じっとしてなんか居らんないvv”


4年に1度というのはどういう周期から割り出されたものなのだろか。
黒須せんせえに聞いたらば、

『さぁて、
 私もそういったことへはあんまり明るくありませんので』

目許をたわめてのおっとりと微笑って下さって、
一応は そうと前おいてから、

「オリンピックが閏年に催されてるからサ、
 他のはそれと同じ年にしたり、
 はたまた、その真ん中の二年目になるような格好での、
 4年周期にしておけば。
 同じ年なら いっそ乗っかれば宣伝とかで相乗効果を狙えるし、
 二年ずらして構えれば、
 予算や人手をそっちの準備だの話題性だへ全部持ってかれちゃう恐れが、
 少なかったりするからじゃあないんでしょうかねってさ。」

あくまでも せんせえの個人的な憶測ですがって言ってたけどサ、
大人ってのは凄げぇよなぁ、
ひょいって訊いたこと、何でもちゃあんと答えてくれるもんなぁと。
庭へと向いた掃き出し窓の上、
カーテンレールに飛びつくようにしての よいせよいせと。
各国の国旗を胴周りへとデザインされた、
そりゃあカラフルなメガホンを等間隔に並べている、
ルフィ坊やの何気ないお言いようへ、

 「何かそれってよ、他でも色々と訊いてるように聞こえるんだがな。」

こちらさんは、坊やよりもっとある長身を生かしてのこと、
壁の高みへ、日章旗と対戦相手の国旗とを、
微妙な斜め同士になるよう並べて張って、
四隅をピンで留めておいでの緑頭の破邪様が。
結局、確たることは何にも言ってないような話の内容よりも、
それを交わしたお相手へ…彼なりに慮った言いようを返せば、

 「訊いてるぞ♪」

あああ、やっぱりなぁと。
坊やがすかさず返して来た、
そりゃああっけらかんとした応じへと、
これも“一応”肩を落として見せてやる。

 これだからお子様はよ
 何だよその言い方はよ
 判らんことがあるとすぐに人に訊くだろが
 知らないことなんだからしょうがないじゃんか
 判らんことだと思った時点でまずは自分で調べんかい
 知ってそうな大人に訊いた方が早いじゃんか
 専門家ならともかくも、普通一般の年寄りの蓄積に頼るな

 「あ、黒須せんせえの話は面白いんだぞ?
  さてはゾロ知らねぇな?」
 「……重々 知っとるわ。」

 居合いの極意の話をしとったはずが、
 気がついたらキュウリの浅漬けの話になってたり、
 樽を担いでの鍛練の話をしていたはずが、
 気がついたら、
 強いお酒はくれぐれもミルク割では飲むな、
 翌朝が地獄だぞなんてな話になってたり……。

 「さすがにそういう話は聞いたことねぇな。」
 「未成年を相手には持ち出さねぇだろよ。」

これもまた十分に不毛な会話を、
気がつきゃ延々と繰り広げているお二人さんだったりし。
途中からの脱線に自分で気づいて、最後、言葉を濁したゾロとしては、だが、

 “…まあな、あの人なら特に困ったりもしなかろけれど。”

ルフィの言う“黒須せんせい”というのは、
何を隠そう、ゾロが天世界で物心付かぬうちからこっちを育ててもらった、
親代わりの存在の“転生人”なのだそうであり。
それと判ったほどにしっかり記憶を残しての生まれ変わりを成してたお陰様、
事情に通じている大人ということで、
ルフィがたまに、陰体がらみの騒動に巻き込まれたおりなぞの、
学校や世間へのフォローに一役買ってくださってもおいでの、
なかなか頼りになるお人だったりし。
ルフィの側でも、そのお人柄にはいたく懐いていてのこと、
何かというとこんな風に話題に上らせたりもしているもんだから。
あんまり手を焼かすんじゃないぞという意味合いとそれから、

 「たんまに外れたことを言う人でもあるからな。
  あんまり何でもかんでも鵜呑みにしないように。」

そりゃあ穏やかで誠実なお人じゃああるけれど、
ついでに言えば、知識の深い人でもあるのだけれど。
尤もらしい口ぶりで、
実は全く知らないことでもすらすら述べてしまう
恐ろしいお人でもあったりするので、

 “うぃきぺでぃあ みたいな人だな。”

そういう微妙な言いようはおよしなさい。
(う〜ん)
おお、気ぃつけるぞと、片手を挙げたルフィ坊やがその手にしていたのが、
真っ青なジャパンブルーのメガホンで。
大好きなせんせえの取り沙汰も、今日ばかりは後回し。
柔道部の稽古の方も、
部長のコーザを始めとする部員全員、
ルフィと同様に何だか落ち着きがないもんだからと、
顧問のせんせえが苦笑交じりに練習は無しと言ってくれ、
その代わり、しっかり応援すんだぞと、
見え見えな部員らの関心事へとクギを刺してったほど。

 「よっしゃ〜っ、準備完了っ!」

自宅リビングを応援グッズでデコレーションした坊やだったのも、
今宵とうとうの第一戦が催されるからに他ならず。
アフリカ大陸では初の大会、
サッカーW杯が始まったのが先週の末のこと。
その開会式と、その後の初戦を半分ほど観つつ、
テレビの前にてやっぱり寝オチしたのを皮切りに。
会話もテレビも、
サッカーづくしとなってるルフィさんだったりするのだ、
予想通りだったでましょ、お客さんvv
(こらこら)
これもジャパンブルーのラグとカバーに取り替えた、
ソファーへぼすんと飛び込むと、
平たいせんべいみたいな形ながらも
ボール型のデザインの大きなクッションに頬埋ずめ、
う〜〜〜っと唸っちゃあ、
七分丈のズボンからにょきりと出した御々脚を、
ぱたぱたとばたつかせる興奮っぷり。
早く晩になんねぇかなぁと、
今日だけでも何度目かという、同じお言葉こぼすもんだから。

 “まるで、早く花火の出来る暗さにならぬかと、
  夜が更けるのを待つ夏場のガキと同んなじだよな。”

他でもないルフィ自身もそうだったからこそのデジャヴへ、
口許が緩みかかった破邪様。
何とかして 吹き出しそうになった苦笑をこらえておれば、

 「なあなあゾロ、現地に行くってのは無しか?」

ガバッと上げられたお顔の、
あまりに期待に満ちてた甘えのフェロモンに、

 「う…。」

一瞬くらっと仕掛かったところが、
まずは何とも判りやすい破邪様だったが。
(笑)
こちら様は玩具サイズのブブゼラもどき、
近所迷惑になるから音は鳴らない仕様の長ラッパを手に、
何とかして揺らぐ意識を踏みとどまらせ。

 「ダメに決まってんだろが。」

大体、試合開始は夜中の11時過ぎなんだろが?
始まる時点でしっかと起きてるかどうかも危ない奴が、
いきなり何を言ってるかなと言い返せば、
ソファーの上へ、胡座をかくよに座り直した坊や様、

 「それそれ、南アフリカとは時差があんだろ?」
 「? おお、そうだが?」

そこでだと、小さなお膝をポンと叩いたルフィが言うには、

 「向こうだと夕方の4時くらいなんだって。
  だからさ、そんな時間帯だったらサ、俺、眠くなんないと思うんだ。」


  ……………………………はい?


むんっと薄いお胸を張って、
精一杯 威張っておいでの小さな王様へ、

 「…………ル〜フィ。」

本気で言っとんかとか、時差の意味が分かっているのかとか、
色んな想いを込めたお声での名前呼びが、低く伸びやかに放たれて。

 なあなあダメか?
 ダメったらダメだ。
 ここで大騒ぎすんのも向こうで騒ぐのも一緒じゃんか。
 だから、

 「お前だと本当に、
  体内時計を夕方だと勘違いさせてでも、
  強引に起きていかねないんでな。」

おいおいゾロさんたら、
言うに事欠いてそんな説得があるかい。
(苦笑)

 週末のオランダ戦なら8時半開始だから考えてやらんでもない。
 うあ、ホントか?

屁理屈まで飛び出してしまうほど、
実は実は甘いところも相変わらず。
もっと小さな子供のように、
ソファーの上で“やったぁ”と跳びはねる高校生へ、
しょうがないなあと、精悍な苦笑を零すお兄さんだったりし。

 「なあなあ、ゾロは知ってっか?」
 「何がだ。」
 「カメルーンとかアフリカの国じゃあさ、
  国際試合なんかでは呪術士も応援団に混じってんだと。」
 「……呪術士?」

嘘のようなホントのお話。
あんまりにも前時代的だったのと、
相手の不幸を呼び込まんとするのは“応援”にあらじということから、
あくまでも自軍の応援しかしちゃいかんというのが前提だそうだけれど、
シャーマンとか呪術士とか、本気で加入させてるの、
別段珍しいいことじゃあないそうで。

 でもって、ゾロが応援の何か祈っちゃうのは狡いのかなぁ。
 安心しな、俺はそっちの咒は1個も覚えとらん。
 ぶ〜〜〜〜っ、役に立たん守護だ。
 悪かったな、俺は専守防衛ってのが好かん性分なんでな……と。

やっぱり笑える痴話ゲンカ、延々と続けるお二人なもんだから、

 「…いっそ、サッカーの試合で視聴率奪われそうな局へ、
  新手の漫才ですと売り込んでもいいかも知れんな、あのやりとりは。」
 「え?え? じゃあじゃあルフィが言ったの、ネタなのか?」

キッチンにて豪華な応援用の晩餐を支度していた、
天世界からの応援二人、
こそ〜りと覗いたリビングでの笑えるゴチャゴチャへ、
ある意味、こちらさんもまた相変わらずなご意見を、
ご披露くださってたりするのであった。






  〜Fine〜  10.06.14.

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    キャラメル=ショコラ様 『スポーツ観戦するゾロルvv』


  *タイムリーなリクをありがとうございました、
   キャラメル・ショコラさんvv
   どのシリーズで書いてもいいとのお言葉でしたので、
   一番 はっちゃけそうなボクで書かせていただきましたvv
   結果が出てからだと触れなかろと思った辺り、
   弱気ですかね、けしからんことに。
(笑)
   ルフィほど全身で弾けてはいませんが、
   かくいう私めも 今から落ち着きがありません。
   全日本のメンバーもろくすっぽ知らないくせにねぇ。
(苦笑)
   ともかく今宵です。頑張れ、ニッポンっ!!

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