天上の海・掌中の星

    “笑う門には…”


新しい年が明け、七草も過ぎれば
いくらなんでももはやお正月という空気は遠ざかりつつあって。
クリスマスからこっち、次々に訪れる寒波に翻弄され続けの世間様は、
どちら様もすっかりと標準モードに立ち戻っており、
新春がらみのイベントといや、あとはバーゲンへと奔走するくらい。

「関西の方では正月恒例のかけっこがあったらしいじゃないか。」
「正月恒例の?」

多めに買っといた丸もちを、今日は磯辺焼きとし、
砂糖醤油でお昼ご飯としていた大食い坊やが、
はぐはぐとそりゃあ美味しそうに堪能している傍ら、
ついつい見てしまう正午のニュースで扱われていた話題を
珍しくも振ってきたのが長身の破邪様で。

「商売の神様の神社で毎年本宮の朝にやってるとかいう。」
「あ、思い出した。」

西宮神社の十日戎(えびす)の一番福レースだろ?と、
指先についた醤油を舐め舐め、楽しそうに笑ったルフィだったのへ、

「おら、ちゃんと手を拭く布巾も出てっだろうが。」
「ありゃ、すまん。」

行儀もあったが、寒い時期でもウィルスは案外といるんだぞと、
先日も聖封さんが一応の講釈を垂れてったところ。
そこでの配慮をしてくださってたらしく。
…そうか、ますますとマメな主夫になりつつあるんだね、ゾロさんてば。
それはともかく、

 「体育のデュバルせんせえが、大学生のころに出たことがあんだって。」
 「ほほお。」

結構いいペースでトップ集団にいたのにさ、
有名な松の木が微妙に道にはみ出してるところで、
右か左か迷った挙句にまともにぶつかって痛い思いしたって。

 「どこまでホントか判らないけど、
  あんときは参ったぜっていつも笑って話してくれるんだ。」

そりゃまた、楽しいせんせえがいたもんだ。
(笑)

ちなみに、二人が話題に挙げておいでの代物は、近頃では全国のニュースでも取り上げられてる奇祭 (笑) のことで。西宮神社の“開門神事”、正式名称は 『十日戎開門神事福男選び』といいます。ご当地の神社周辺では、十日戎の前日は えべっさん(戎神様)が町を歩いて回られるため夜歩きしてはならぬとされており。それが明けての本宮の朝、午前4時から お社では十日えびす大祭が執り行われ、午前6時ごろに終了。それと同時に門が開かれることで おこもりの禁令が解かれるので、その途端、氏子たちが一斉に家から神社まで駆け抜ける風習があったものが、いつしか、境内へ一番乗りした人へ、一番福という名目で褒美としてお守りやお供え物を授ける行事となり、今の形になっていったらしいとされている。現今ではご褒美よりも何よりも、一等賞の一番福男になることが名誉とされ、陸上で鳴らした俊足男子や、勇ましい女性までもが参加する一大イベント化。230mもあるコースは屋台が居並び見通しが悪いうえ、カーブもあって転倒者が続出。また、グループで参加し、仲間が他の参加者の走行を妨害した疑惑というのが持ち上がり、それ以降、門前での場所取りは禁止となってのくじ引き制が導入されており、ますますと“時の運”を味方につけねば福男にはなれぬようになった次第。

 「まあ、一応は“神事”で、
  足の速いのを勝負しようっていう競走じゃねぇんだろからな。」

同じ理由から、明らかに走るのに適さない格好での参加は受付で弾かれるそうで、
シティマラソンのノリとはさすがに違うというところかと。
あっと言う間に空になった二皿目を、新たに焼いた二つ載りの皿と交換しつつ、

 「正月早々 マラソンがいっぱいあることといい、日本人って走るの好きだよな。」

そんな感慨をこぼしたゾロだったのへ、
ごもっとも…あたりの相槌が、お軽く返ってくるかと思いきや。

 「…マラソン。」

  おや?

 「どした? おい。」

声が沈んでしまったのについつられ、
どうしたよと、ソファーに乗りあがって胡座という、
行儀がいいんだか悪いんだか微妙な座り方した坊やを見遣れば…
意外やお箸も止まっているルフィであり。

 「何だ、どしたよ。」
 「そうだ、三学期始まったらあんだよな、マラソン大会。」

うあしまった忘れてたと、
こちらもお正月の名残り、餅がくっつくので使い捨てようという腹の (ほっとけよ・笑)
祝い箸の使い回しなのの先、がじがじと齧り始めた坊ちゃまであり。

 「何だよ、お前運動は全部好きなんじゃあ。」
 「マラソンだけはペケだ、ペケ。」

地雷を踏んだか、いやいや、
体質的に受け付けないという雰囲気ではないよな言いようでもあって。
食べた餅といい勝負のふわふかな頬をぷくりと膨らませると、

 「なんか、黙々と走るだけってのは面白くねぇもん。」

みんなとワーワー言いながら だーって駆け抜けるのがいいんじゃんかと。
話題が関西のネタだったせいか、
わあわあとかだーっととか擬音で言ってのけたところが、
ますますと幼い子供の不満のようで、可愛らしいったらありゃしない。

 「まあまあ、今からそうまで腐るなって。」

お皿へ砂糖醤油を継ぎ足してやりつつ、冷めると固まるぞと促してやった破邪様、
我に返ったように箸を動かす坊やを見守り、

 「確か学校の周縁をコース取りして走るんだったよな。」
 「うん。」

中学の時と違い、高校はちと遠いこともあって、
学園祭は観に行くがそういう小さい催しまでは、
いちいち観戦しに行かないでいたゾロだったので、

 「そうさな。今年のはデジカメでの撮影しがてら観に行こうかな。」
 「…え? ホントか?」

不意打ちだったの証明するよに、
咥えかかってたモチがぼとりと落ちたのが、ドラマか漫画のようだったけれど。
ホントだと念押しに頷いてやれば、
その途端に真ん丸な童顔が喜色に染まる。

  絶対だからな、絶対だぞ?
  ああ、俺が約束したもんを破ったことあったかよ。

ないっと大きな声にて断言し、にししと笑う無邪気な王子。
よーしよし、だったら頑張るからな俺と、
あっと言う間にご機嫌がよくなった単純さもまた可愛らしくて。
天下無敵の破邪様、
テフロン加工の餅用フライパンを片手に、
こちらさんも“よーしよし”と大きく頷いていたりする、
成人の日のお昼時でございます。




  ■ 恒例のおまけvv ■


 「久蔵、元気してるか?」
 「みゃうにゃvv」
 「そかそか、俺も元気だぞ。」
 「みゃにゅう、にゃあ。」
 「へぇ〜。温泉でお正月したのか、豪勢だなぁ。」
 「みゅうにぃ♪」
 「あ、けど、お前お風呂って入れるのか?」
 「にゃう……みゃ〜あぅ。」
 「お湯で絞ったタオルでお顔拭いてもらったってか。それじゃああまりご利益ねぇナ。」
 「みゅう?」
 「あーえっと。……ゾロ、ご利益ってどういう意味だ?」

   “おいおい” × 2
(笑)





  〜Fine〜  11.01.10.


  *西宮神社の“一番福”は、
   冗談抜きに毎年恒例の関西のお正月の祭事ネタでして。
   十日戎は、大阪の天神祭りと同じよに数日がかりのお祭りで。
   芸者さんとか綺麗どころを乗せて街を練り歩く
   “宝恵駕
(ほえかご)”なんてのも出れば、
   ドデカイマグロが奉納されて、
   冷凍なののその肌へお賽銭の小銭を貼り付けるという
   変わったお参りをすることも知られております。
   これもよその土地の人からみりゃあ、
   何やってるんだという立派な“奇祭”なんでしょうね。
(笑)

   「なあ、ゾロ。正月は神様も忙しいんか?」
   「さあなあ。ウチの天使長たちとかとは管轄も違うしなあ、それ。」
   「???」
   「いやまあ、神頼みもほどほどにってことでだな。」
   「…やっぱ神様ってのはいねぇのか?」

     「…いいや、ルフィ。神様ってのはな、皆の心の中にいるんだぜ?」
     「そっか、ネズミーマウスと一緒かぁ。」

    ………お後がよろしいようで。
(こらこら)

**ご感想はこちら*めるふぉvv

**bbs-p.gif


戻る