天上の海・掌中の星

    “まだ六月、もう七月”


この春は、
去年みたいにいつまでも寒くて、
カラッと晴れて夏日になったかと思や、
すぐさま上着が要る日和に戻ったところは一緒だったのによ。
梅雨ンなるのも遅くって、
台風の加勢でっていう雨の日が多かったんで、
生暖ったかい雨になるのはそのせいだって思ってたくらいで。

  だっていうのにサ

そういや、
衣替えに入った途端に
肌寒くなったところは いつもの年と一緒で。
節電しなきゃいけないからってことで、
やたら“クール・ビズ”って言われてた割に、
今日からいきなりアロハは寒いだろうって、
ニュースとかでも言われてて。

  そうだったのになぁ

そうなんだよな、気がつきゃあ そうなんだ。
下敷きじゃあ用が足りなくて、
道端でもらったどっかの宣伝用のウチワ、
ついついガッコにまで持ってってたりしてサ。
俺らも大人のクールビズ見習って、
短パンとか七分のカーゴパンツって制服に、
なんねぇかなって話ししてたりするし。
商店街には七夕の笹飾りがあちこちで並べられてるし、
何より、今週末からはもう七月に突入すんだけどもサ。

 「…何でこんな暑いんだろな、まだ六月だってのによ。」
 【 みゃうにぃ。】
 「だよなぁ。
  油断してっと熱中症ってのになるから、ちゃんと水を飲まないとな。」
 【 にゃにゃうvv】
 「え? 海 行ったことあんだ、久蔵。」
 【 にゃにゃ〜んvv】
 「凄げぇな〜。ネコなのに波が怖くないんか、お前。」

何でそんな詳細まで話が通じてるんだろう、
猫が水も平気というのは珍しいことじゃあるけれど、
そもそも“海”って単語はどんな“にゃう”を変換したのかなと。
どこかで吹っ切れたとしていながらも、
時々我に返っては
“不思議だなぁ”と感じ入ってる七郎次さんだってのは。
あいにくと電話の向こうのことなんで
ルフィ坊やへは見えなくての伝わって来ないのだけれども。


 “…姿見えてねぇ相手と猫語で会話出来てんのに、
  そこへだけその理屈ってのも おかしなもんだがな。”


おおお、選りにも選って
こういう理屈のお話へ
破邪さんから突っ込まれてしまったぞ。

 「……んだとォ?」

……素顔で十分おっかないんだから
わざわざ凄むのは無しだぞ、破邪殿。




      ◇◇


三白眼で睨まれたもーりんが、
すごすごと退散したところでお話を戻しましょう。
お馴染みの腕白坊やも、
この、フライングっぽい なんか変な六月の蒸し暑さには、
くったりしかかっていたようで。

 「俺、寒いのへは何とか“たいせー”あるんだけどもさ。」
 「たいせー…? ああ“耐性”な。」

そういや、寒さへの愚痴はあんまり聞いたことがないなぁと、
思い出してみるその端から。
イヤーマフがお似合いだった笑顔とか、
豪雪に困ってる人がいるというニュースを聞くまでは、
雪が降ってるトコへ行きたいと駄々をこねて見せた、
それは幼い膨れっ面とか。
男の子なのにミトンの手套が似合うのは
ぜってぇ反則だろと思ったこととか、

 「……………。」
 「ゾロ? どした?」

急に表情が止まってしまった、回想モードの破邪殿へ、
さすがに不審に思ったか、
おややぁ?と お声をかけてる坊ちゃんだったりし。

 「いや、何でもねぇ。」

 何でもなかないでしょうが。(笑)
 第一、普通はそんな暑苦しいもん、
 1カットでも思い出しゃ終しまいなハズですぜ、旦那。

 “…うっせぇな。////////”

 はいはい、
 茶々ばっか入れていては話が進みませんので、
 今度こそ退散しますって。(苦笑)

かの如く、ついついネタにしたくなるほどに、
とんでもない猛暑が早々と、
まだ梅雨明けしてない地域にまで襲い掛かった、この六月であり。
昨年は冷たい雨が長引いたのでと なかなか採れなかったキュウリやトマトが、
今年は暑さのせいで夏野菜が片っ端から傷んでいるのだとか。
勿論、人体への影響だって少なくはなく、
坊やが仔猫のお友達へこぼしていたように、
熱中症の危険をもう構えねばならない今日このごろ。

 「俺らは来週にも期末テストが始まるってんで、
  たんしく授業だからいいけどサ。」

ちなみに、短縮授業だからと言いたいらしい。

 「小学生とか中学生は、七月も中程までがっつり授業があっからサ。」
 「そうだな、チビさんたちが暑さで倒れなきゃいいがな。」

時々 近所の子供会の行事へ、指導員として出向いている関係で、
相変わらず小学生からも慕われている坊ちゃんとしては。
そういう行事じゃあなくとも、
そこいらで汗かいてくったりしている子を見かけると、
近場のコンビニだの文房具店だの、
冷房の効いてそうなところまで、
連れてってやるようにしておいで。
それにしたって、
こんな早くに真夏日だの猛暑日だのと言われようと、
思わなんだのは誰しものこと。
元気が資本という子供らにしてみても、
この気候の急変には ついてけなくともしょうがなく。
そしてそれは、こちらもお元気の代名詞のような、
ルフィ坊やへも言えること…なはずだったが。

 「そうだったよな、確か短縮授業へ突入してるはずだよな。」

それにしては、いつまでも帰りは三時のおやつどきというのが変わらず。
それでと弁当も毎日のように作ってやってたゾロであり。
この暑さにも傷まぬようにと、
滅菌効果のあるというワサビシートを活用したり、
いっそのこと四時限目の終わり頃に学校までをひとっ飛びし、
作ったばかりのお弁当、こそりと机の中へ忍ばせてやったり。
色々と気を回してござったのだけれども。

 「しかも。
  さほどくったりもしないまま帰って来て、
  そのまま風呂へ飛び込む訳でもねぇ。」

 「だってせっかく涼んで来たのに。」

言いかかってそのまま表情が止まったルフィだったのは、
お行儀悪くソファーの上で体育座りしている自分を、
今更 省みたからじゃあなくて。

 「まあ、何とはなく気がついちゃあいたが。」

体育が毎日あるはずがねぇのに、水着とバスタオルを連日持ってくし、
頭からほんのりとカルキや水の匂いがする日もザラ…と来ては。

 「……うん。
  ホントは高校総体向けの予選にって、
  水泳部が使ってるんだけどもな。」

他の生徒は期末試験前の、
早く帰って勉強しなさいモードとなってる頃合いだってのに。
どうやらこの坊ちゃん、学校のプールにて、
帰宅前にひとっ風呂…ならぬ、
ひと泳ぎをしてから帰って来ておいでだったようで。
ちょっぴり怖々と“バレた?”というお顔になったのは、
勉強そっちのけでという姿勢への反省というより、
保護者なのに言ってなかったねという
“ごめんなさい”なのが ありありしており。
上目遣いになっての“あやや”というお顔なのが、
いかめしくも怒っているぞと、
それは厳粛な表情を作っておいでだった破邪殿の、


  心へ響かぬはずがなく


 「だ〜〜〜、判ったから、その 子犬みてぇな顔わ辞めろ。」
 「子犬?」

何だ何だ、そんな詩人みたいな言いようしやがって。
だよな、柄じゃないってのvv
うっせぇなっ。///////

 「つか、いつの間に来やがった。こんの…っ。」
 「おや、お言葉だねぇ。」

悪友からの悪態が飛び出す前にと、
確かにいつの間に来てたんだという間合いで割り込んで来た、
この熱さをも涼しい風へ変えそうな、さらさらした金の髪の聖封さん。
ルフィ坊やへ すいと差し出したのは、

 「うあ、虹色のゼリーだっ!」
 「ただ色が違うだけじゃねぇぞ? 全部別々の果物フレーバーだ。」

アイスクリームでってのは、
一遍に喰っちまうと味の違いが判らなくなるだろからなと。
しゃれた銀のトレイの上、
純白の長方形の皿に並んだ宝石みたいなゼリーたちへ、
すっかりと心奪われている坊やへだけ話しかけ。
うんうんと無邪気に頷くルフィといい、
彼らのみにて話が通じ合ってる模様。
そんな二人へ、
こいつらわ〜〜っと微妙に口許曲げたゾロだったのは、言うまでもなく。
とはいえ、

 「ゾロ、晩飯の後は これな?」
 「へいへい。」

今日のデザートだかんなと、それは嬉しそうに言われては、
逆らえるはずもなく。
何だかんだ言ったって、
坊や優先の夏なのは、デフォな人たちであるようです。




   〜Fine〜  11.06.29.


  *こちらのルフィくんなら、
   プール三昧なのも節電への協力だと言い張りそうですが、
   …実際のところはどうなんでしょね?

   「?? 何でだ?」
   「だから。海や川と違って、
    プールっつったら、浄水装置とか動かしてるはずだからな。」
   「だな。
    衛生何とかって法律もあろうから、そこは外せないはずだ。」
   「ありゃりゃ。」

   だったら天聖界でバカンスだなとか、言い出しそうなルフィさんです。
   ……豪気だね、万年受験生。
(こらこら)

  *ところで。
   昨年は沖縄でしたが、今年の高校総体は、
   青森県、岩手県、秋田県、宮城県が舞台の“北東北総体”。
   日程は、平成23年7月28日(木)〜8月20日(土)だそうです。

    http://www.2011soutai.jp/

   柔道は8月9日から秋田市で、剣道は8月9日から弘前市で。
   薙刀は8月17日から秋田の大仙市で、
   陸上は8月3日から岩手の北見市、
   弓道は8月4日から盛岡市。
   ヨットは8月17日から秋田の由利本荘市。
   …紹介がちょっと偏ってますね、すいません
(笑)
   中継される競技は限られてるんでしょうけれど、
   皆で応援しましょうねvv

ご感想はこちらvv**めるふぉvv

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