天上の海・掌中の星

    “例えばこんな応用篇?”


 結局やっぱり この春も、初夏並みの気温になったぞ、梅雨前だのになと人々を浮き立たせたかと思や、ど〜んと10℃近くも寒くなったり。気温の乱高下が起きる破天荒っぷりは健在で。油断して気の早い半袖何ぞで出歩けば、てきめん、軽く風邪を引いてしまうほど。


 「…久蔵〜、元気してるか〜?」
 【 みゅうにゃ。…みみゃう・にゅ?】
 「お? いやいや、俺は元気だぞ?」
 【 …みぃまう。】
 「嘘なんか ついてねぇもん。
  そっちこそアロウとは仲良くやってんのかよ。」
 【 みいにぃ・みゅうにう。】
 「誤魔化してなんかねぇってば。」
 【 まぁうにぃあっ。】
 「判った判った、お見通しか。言うってばさ。
  実はサ、俺のガッコ、今週から“ちゅーかん”なんだ。
  テストだ、テスト。」


 電話友達、テレ友の仔猫さんにあっさりと見抜かれるほど、裏がないと申しましょうか、隠しごとが出来ない坊やなのは今更ですが。

 “なんでゴールデンくんの名前まで判るんだろか。”

 向こうの保護者のお兄さんが、久蔵は“にゃうにゃう”としか言ってないはずなんだがなと。きれいな所作にて かっくりこと小首を傾げてしまったのは、あいにくと見えなかったルフィくんだったのでした。(今日のわんこ風に…。)


  ……って、
  開始したそのまま いきなり終わりそうになりましたが。
(笑)


 ガッコ大好きなルフィくん。予防接種の注射だって怖くねぇぞの坊やが、唯一の苦手とするものが…とうとうやって来た模様でございます。春休み前にあった前学年の期末テストから数えて 約4カ月弱ぶりでしょうか。結構 間が空いていたがため、重圧もまずまず重いらしく。

 「つか、別にその結果で降格されるとか、
  特典能力むしり取られるってんじゃなかろうよ。」

 集中力がつくようにとの紅茶フレーバー、特製ジャンボシュークリームを差し入れてくださった金髪の聖封様が、どこか怪訝そうなお顔で訊いたのへ、

 「? 何だなんだ?
  ゾロやサンジって、
  点数とか評価とかが落ちたらそんな罰則受けんのか?」

 そんな疑問符つきのお声が返って来たのとほぼ同時、自分であっと気づいてたサンジが “しまった余計なことを言ってしまった”と口を塞いだのへ重なったのが、

 「このあほうっ。」

 緑頭の破邪様からの骨太な拳骨だったりし。ごつんと頭頂部へ落とされたそれへ、

 「痛ってぇな、
  お前が偉そうに殴るのは筋道おかしいだろうがよっ。」
 「一応は俺が保護者だからだ。」
 「俺が口すべらせたのは、その管轄とは微妙に外れてねぇか。」
 「俺まで、そういうドジ踏んでるように聞こえっだろうがよ。」
 「そういう方向でムッと来ただけなんなら、
  やっぱ殴るのは筋違いだっつうの。」

 単なる口喧嘩だってだけでも結構な応酬だってのに、動かしているのは口だけじゃあない、拳とつま先とが丁々発止とばかり、何合もぶつかり合いの咬み合いのしている激しさへなだれ込んでおり。

 「なあなあ、何で二人とも怒り出したんだ?」

 しかも同時だったってことは、ゾロにでも判るような簡単な理屈でってことだよなと。喧嘩の荒々しさにも今更動じず、こちらさんはあくまでも平然としたままで。ふんわりシュークリームに ぱくつきつつ、自分の保護者様を捕まえてドえらい言いようをするルフィへと、

 「……あのな、それはな。」

 そこんところの微妙な機微のようなもの、こちらさんはさすがに感じはしたらしいチョッパーが、だがまあ、そういうところにこだわらないのが、この子のいいところだしと思い直すと。お兄さんたちに代わっての説明を付け足し始めて。

 「俺らの場合に限らず、
  別の世界のことって、あんまり話しちゃいけないもんなんだって。」
 「? 何でだ?」
 「だからさ、
  例えば未来の世界を知ってる奴が、
  何月何日に何か起こるぞって教えちゃうと、
  それで困る人はちゃんと備えをするから、
  そこからの未来が変わってしまうかもしれないだろ?」
 「うん。」
 「それと同じようなことで。
  例えば…こういう前兆があったらこんなことが起きるぞってのの
  絶対本当なからくりがあったらどうする?」
 「???」
 「こんな形の雲が出たら大きい竜巻が起きるぞとか、
  どこそこの猫が“わん”と聞こえるように鳴いたら
  近々男の子が生まれるぞとか。」
 「…………どういう喩えだ、それ。」

 チョッパーの喩えが微妙すぎたか、ますます小首を傾げた坊やだったが、そういうのはSFやファンタジーでは もはや鉄板レベルのお約束だ。例えば、未来人が名乗った名前が数字や記号になってるならば、未来ってそんなに人口が増えたんだろかとか、機械管理がそこまで進んでいるのかだとか、それが人種にまたがっての共通だったならば、国境とかの別は無くなっているのかなぁとか、そういうことが推し量れるワケで。

 「…言わなきゃ判らなかったのかもな。」
 「いや、そういう問題じゃないし。」

  そういやお前、
  たしぎとかいう破邪がルフィの遠い親族の生まれ変わりだってこと
  修正してねぇだろ。

  ああ?
  しょうがあんめぇよ、そういう空気じゃなかったときの話だし、
  それに、そういう宗教観念は普遍の代物じゃね?

  人を大雑把野郎扱いするお前が、それ言うかな、ああ"?


 大の大人の掴み合いの喧嘩の方は、なかなか終わらない模様である。
(笑)




     ◇◇



 何か話がいきなりの大暴投してしまったようでしたが。要は、中間テストが始まったんで ゆーーつだなぁと、当家の坊やが ブルーどころかグレーになりかかっておりまして。せっかく世間様は新緑の季節なんだのに、教科書暗記して、苦手な数学と向かい合ってしなきゃいけないんだろと、ふわふかな頬をむむうと膨らませておいでの、まったく進歩のない坊やだったりし。

 「得意な分野もなくはねぇけどよ。」
 「ほほぉ?」
 「でも中間 (考査)だとそっちは出番ないし。」

  “そうか、保健体育とか家庭科とか。”
  “それか、芸術選択教科とかだな。”

 いつの間にか、すっかりと事情通になってしまってます、破邪様&聖封様。
(笑) 年号だの化学式だの、暗記で済みそうなものは何とかなるが、

 「数学はホンットに意味判んね。
  顔文字のビックリ・ハッて記号がついてるのとかさ。」

 「???」
 「……も、もしかして“Σ”かな?」

 そうそうそれそれ、何だそう読むんだアレと、後ろ向きにならず“あはは”と笑う豪傑なところは変わらないのが、今回ばかりは ちょっとは救いなのかも知れず。

 「数学は特に苦手なのか?」
 「おお、教科書見てるだけで眠くなるし。」
 「“読む”じゃない時点で向かい合い方が違うぞ、お前。」

 目許が座ったサンジと違い、こちらさんはさすがに慣れたか、洗濯機が終わったぞ干しに来いやと、電子音を立てたのに気づいたゾロが立って行くのを見送りつつ、

 「読書自体からして苦手だろ、お前。」

 そこから入らんといかんのじゃないかと、器用そうな手で口許を覆い、たばこに火を点けたサンジだったのへ、

 「そこまで ひどくねぇもん。」

 ルフィが“ぷんぷくぷー”と頬を膨らます。

  そか? 例えば? どんな本なら平気だ?
  う〜っと ○ャンプとか、
  おいおいそれは畑が違いすぎだろ…

 …などという会話を遠くに聞いて、焦ってた割には ほのぼのしてんよなと小さく微笑ったゾロだったが、


  後日、ちゃんと傍にいなかったことを、
  ひどく後悔することとなろうとは。
  (なろうとは なろうとは なろうとは…………)エコー


 よほどに嫌いか、腕を目一杯伸ばし、自分から遠ざけるような開き方をする様子へ、呆れてばかりいる場合じゃなさそうかもと。放っておけぬと思い立ったサンジとしては、

 「だったら、こんな本と“置き換え”てみるのはどうだ?」
 「置き換え?」

 ニンジンが嫌いな子へは、タマネギと一緒にみじん切りにして豚ひき肉と混ぜ、団子にして揚げてから、照り焼き風味のあんで煮込んでやればいい。騙し討ち? そんなんじゃねぇさ、栄養が偏っちゃあいけないって思っただけのこと。温野菜やグラッセじゃあ近寄りもしねぇくせに、肉やハンバーグ、ハムっぽいものなら、味はイマイチでもとりあえず喰うってんなら、それへ似せたり混ぜたりするっきゃねぇだろが。

 「そんでだな。」

 サンジがひょいっと宙から取り出したのは、表紙にそれは美味しそうな、揚げたてチキンバスケットの写真がでかでかと飾られた、『今日の献立101選』という、A4サイズの料理本。おおおと さっそくにもルフィの表情が笑顔に明るく塗り潰されたのへ、

 「写真が多い分、そっちの数学の教科書とやらより字が小さいが。
  試しに、そうさな…このページを読んでみな。」
 「うっとぉ。」

   〜〜〜〜〜。

 音読しろと言ってはないため視線だけで字面を追ってたルフィが。やがてお顔を上げると、

 「そっかぁ。これって蜂蜜を隠し味に入れてんだ。」
 「一番小さい字で付け足されたアドバイスまで、読み切れた訳だな。」

 うんと素直に頷いたルフィさんだが、そんなお顔の前へさっきの数学の教科書を開いて見せると、途端に……何が眩しいものか、やたら視線が泳ぎ始める始末で。

 「お前、さては邪妖なんじゃね?」
 「それをサンジが言うと自爆ネタにならね?」

 おお、おお、いい度胸だの、そういう理屈まで習得したんかこの霊感少年はよと。一応はの でこぴん繰り出し、お仕置きしてから…さて。

 「痛ってぇ〜〜〜〜〜っ。」
 「黙れ、クソ生徒。」

 にゃあにゃあ騒ぐところへ びしぃっと立てた人差し指にて制止のお声をかけてから、

 「例えば、アジの塩焼きを食うときは、
  まずはと横向きに置かれた胴の真ん中、
  皮のパリパリしたところへ、
  箸の先で尻尾まで一直線に線を入れとけば、
  そこから上下にすっと開くだけで、
  ふっくらした身と骨との分離もたやすいだろうが。」

 「うん。」

 お作法とも言うこういう“手順”は、無駄なく食べ尽くすための合理的な方法でもあるワケで。

 「なので。
  数式をいっそのこと、
  こっちの手順と置き換えちまえば良いんだ、
  お前みたいなタイプはよ。」

 「???」

 何だ何だよく判らんぞと、目が点になりかかっていた坊ちゃんだったが。それが数刻経つうちに、

 「おおお、それは美味そー…じゃないや。
  そっか、そうやって手順を置き換えりゃいいんだ。」

 「おうさ。ミンチなんか応用範囲広いから、
  xが出て来たらこれにしちまや良いってな具合で。」

 「最後に盛り付けの段階で数字へ戻せば計算終了ってか?」

 「おうよ。人数が増えた場合は倍加すりゃあいいだけのこったから、
  テストでは数値が違ってたって、
  250gが5人分になるだけだからって…対比式を持って来りゃ、
  そうそう焦ることはねぇ。」

 「あ、俺そういうの得意だっ。」

 ………な、なんか、本当に数学のお勉強の話なんだろうかという理屈が飛び交ってませんか?

 「じゃあ、この二乗式の展開は?」
 「それだと、そうさな。
  ○○をさばいたら、背骨を挟んで2つの身が取れっだろうが。
  残った骨にも身が付いてるが、同じ扱いにはしねぇよな?」
 「ぶつ切りにして、ダシをとる!」
 「そうそう偉いぞ。」

 “……それのどこが、この、記号と数字の式になってるんだろう。”

 既に話についてけないでいたチョッパーがおろおろ困っており。そして、



          



 「…それがサ、サンジ聞いてくれよ。」
 「おお、どした。」
 「6問中3問までは、あの応用でちゃんと出来たのによ。
  最後のは覚えた料理のどれも当てはまんなかったし、
  その手前のは途中から挟み揚げになっちまっててさ。」
 「どら。………ホントだな、ここまではマーボ茄子だったのにな。」
 「だろ? 俺も“やったーっ”て思ったんだけど、
  式が一個多かったんで、おかしいなって進めてたら、
  ミンチのタネは茄子に挟むことになっちまうしさ。」

 「…………………。」

 ちなみに。最初にその説明をされたゾロには、当然のことながら、何が何やらちんぷんかんぷんだったそうで。恐ろしいのは、大きな問題6つのうちの前半3設問は、計算問題以外の文章ものもきっちりと解けていたことと、

 「どの料理にも当てはまんなかった 最後のやつはサ、
  しょうがないから春キャベツと新じゃがのキッシュの作り方書いといたら、
  せんせえが三角くれてた。」
 「そっか、熱意は通じたな。」

   「…おまえら、俺に分かるような言葉で話せよな。」

  おあとが よろしいようで〜〜〜。

これはお子様ランチvv::

   〜Fine〜  11.05.23.


  *別なお部屋でも時々、しかも関西弁での口喧嘩シーンを書きますが、
   面倒臭いなと思いつつも…実は結構楽しいですvv
   やっぱそういう“ボケとツッコミ”会話のひな型が
   DNAへ刷り込まれているからなんだろか。(なんだそりゃ)

   それはともかく。

   数学の先生は、
   もしかしたらば新婚の女性のせんせえなのかも知れません。
   春キャベツと新じゃがのキッシュ、
   玉子をふわふかにするコツとかあって、
   ありがとーという意味からの三角だったとか。
(笑)

**めるふぉvv ご感想はこちらvv

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