天上の海・掌中の星

    “おーる・おあ・なっしんぐ?”


明日の朝方はこの冬一番の冷え込みになるでしょうというフレーズを、
連日聞くようになった睦月の下旬。
今年の冬は、このところの“暖冬”慣れしていた日本全土を、
これでもかという実践によるスパルタにて震え上がらせ続けで。
底冷えのする寒い寒い日が、
ほんの数日だけという短さではなく、
ずっとずっとという長い目のスパンで続くのはなかなか堪えるその上に。
日本海側の北国へは途轍もない豪雪を運んでもいて、
それでなくとも大変な雪かきを、ほんの1日でも休もうものなら、
屋根にうずたかく積もった雪塊が滑り落ち、
それに玄関が埋まって閉じ込められるという事態も頻発。
また、雪かきをするにも
一人暮らしの年寄りが自分で当たらねばならないという集落も
少なくはなくて。
そんなニュースをリビングのテレビで見ていたルフィが、
やっぱりなことをば言い出した。

 「行けるもんなら…って言うか、
  なあなあゾロ、これへ俺とか手伝いに行っちゃあダメかな。」
 「学校サボる気か。」

だからさ、ゾロのどこでもドアであっと言う間に。
誰がドラえもんだ…というお約束のやり取りがあってから、

 「行ったら行ったで、お前,際限なくならんか?」
 「??」

どういう意味かが判らないというお顔になったのへ、
湯気の立つマグカップ、坊やの好みの甘いココア入りを手渡しながら、
う〜んとだなと、自分の頭の中にてまずはのシュミレーションをしたゾロが、

 「とんでもなく雪が積もってる家ってのは、一軒やそこらじゃないはずだ。」
 「おお。」

そうだろうなと頷いたルフィだったのへ、
まずはの1軒目へ手をつけて、さあ次だ次と、どこまで手を貸せるかな。
お前ならまま、物凄く頑張って、
子供とは思えないほど助けて上げられもするんだろうが、

 「それでもな。見回しただけでも 7、8軒はあったとして、
  1日じゃせいぜい3つか4つ、
  学校行ってからともなりゃあ1軒がやっとかもしれん。」
 「……うん。」

そこまで言われりゃあ、
破邪さんが何を言いたかったかもわかるというもの。
手が回らなかったお家には不公平になるかな、と。
ますはと気づいたことへ“う〜む”と唸った坊っちゃんなのへ、

「それは向こうさんだってとやかくは言うまいよ。
 そうじゃあなくてだ、お前の側が気に病むんじゃねぇかといってんだ。」

「それは…そうかなぁ?」

やんちゃで腕白なお元気坊やだが、その胸の内の何処かに、
忘れちゃいけないことというの、
柄にないほど深いそれをちゃんと持ち合わせてもいる子。
全部を救えないのなら、
そんな半端な手出しはするな…とまでの極端は言わないものの、
そんな結果や現実に、この子が心を痛めてしまうのが、ゾロにしてみりゃ堪らない。
そうかといって、
自身の“人ならぬ身”だからこそ持ち合わす力を大盤振る舞いするわけにもいかぬ。

“こういう葛藤もどきを抱えて迷ってちゃあ公正じゃなくなろうから、
 神話なんぞに出て来る神や天使は、
 時々とんでもなく無慈悲な裁量を下すのかもな。”

支配階級のトップたる存在もそうだし、
組織の上層部や、
叩き上げではない秀才が飛び級にて就いたような高級官僚たちもそう。
血も涙もない裁定や、
そうと決まっておりますからという杓子定規な対処しかしないなら、
いっそ○×式のコンピュータだけ置いとけばいいんじゃないか、
その方がよっぽど“間違い”はなかろうし、
人件費だって安く上がるんじゃない?と
皮肉を込めて思った時期もあったれど。
情に流されていてはキリがないってこともあろうし、
それへと決まりごとを当てては惨すぎるような例が例えばあったとしても、
それが現今の決まりなら守らねばならないとするのは、
例外を一つ認めれば、色んな難癖やら斜め読みをして、
じゃあ何でこっちはダメなんだとねじ込むケースもきっとあるから。
困った事態を見つけたら、その都度、
そういうケースはどう対処するのかを
検討した上で補正してゆくのが正しい対処なのであって。
そこをサボってるようなら、なるほどそんな組織は畳んでしまえと思うけれど、
思わぬ事態というのへ、係の人も口惜しく思いつつ、
手が届きませんという対処にしかならぬのもまた、
完璧ではない人間のやることならではなのであり。
願わくば、
そういう見落としで辛い思いをする人が弱い人ばかりではありませんように、
尚且つ、そういった落ち度を落ち度と認められる器量のある人、
口惜しいと思える義に厚い人がこそ、
裁量を下す立場についておいででありますようにと
…願うしかない昨今だってのも、何だか情けないのではあるけれど……。

  ……などなどという、
  ややこしいいことをう〜んと考え込んでいたものだから。
  それこそ柄にないことだったのだろか。
  だからこその隙だらけであったものだろか。

 「……ろ、ゾロってば。」
 「あ?  …って、どあっっ!」

ダイニングとリビングを区切る刳り貫きの戸口。
枠に寄りかかる格好で、
胸高に腕組みしたまま突っ立っていたお兄さんだったのへ。
返事がなかったからだろう、
なあなあとすぐの間近へまで近寄っていた坊や。
仔犬が後足で立っちして懸命に飼い主へ飛びつくみたいに、
ぎゅうとその腕へしがみつかんばかりの至近となるまで。
全くの全然、気配を拾えなんだことも含め、
可愛らしい童顔が、目の真ん前にあったので、
どひゃあと驚いたらしき破邪様。
黒味の強い大きな瞳が、きょろんとこちらを凝視しており、

 「ぼんやりしてっけど大丈夫か?」
 「……おお。」

何だか案じられてしまっているようだったのへは。
ついのこととて誰のせいかと言いかけて、
いやいや別にこいつのせいではなしと、
思い直せるところは一応“大人”で。
何でもねぇよと大きな手でもって、
坊やのまとまりの悪い髪、もしゃもしゃと掻き混ぜて誤魔化せば。
何だよ辞めろよーと、転げるような声出して屈託なく笑ってから、

 「まあ、どっちにしたって、
  ゾロの手ェ借りねぇと出来ねぇことなんなら、
  大威張りなお手伝いじゃあないんだしな。」

偉そうな言い方自体、無しだ無しと、
小さな肩をひょこりと落とした腕白さんであり。
別段、破邪様が案じなくとも、その辺のわきまえはあったらしい。

 “…おやまあ。”

ちょっぴり大きいサイズのトレーナー。
その袖口からちょこりと除かせていた指先がまた、
どこの萌えっ子ですかという愛らしさなのを愛でながら、
ままこういう“特別”くらいはありだろと、
空中へぱちんと指鳴らし、んぱっと
湯気の立つ肉まんを取り出してみた、過保護なお兄さんだったりしたそうな。






  ■ 恒例のおまけvv ■


 「久蔵、元気してるか?」
 「みゃうにゃvv」
 「そかそか、俺も元気だぞ。」
 「みゃんみゅう、にゃあ。」
 「え? 友達のとこへ遊びに行ったって?」
 「みゅうにぃ♪」
 「ふ〜ん、そんなにも雪の深いとこなんか。
  大変なんじゃないのか? 雪かきとかあって。」
 「みゃう……みゃ〜にぅ。」
 「雪のお山に放ってもらって遊んだって?
  お前、案外と寒いの平気なんだなぁ。」
 「みゃいっ!」
 「かまくらも知ってんのか、久蔵、なかなかに物知りだよな。」
 「みゃ…っ!」

 急にお声が途切れたと同時、わあ、久蔵…っという向こうのお兄さんのお声がして。どうやら胸を張りすぎて、コロンとテーブルから落ちかかった仔猫さんだったらしくって。すんでのところで、七郎次お兄さんに はっしと受け止められたらしい。どこの坊ちゃんも、まあまあ可愛らしいったら。
(笑)





  〜Fine〜  11.01.29.


  *私信。
   C・C様、突発的な ○○は不発に終わりました。
   土台にした話題が硬すぎたようです。
   どうか再挑戦させて下さいませ。(こらー)

  *…というわけで、それこそ柄じゃあありませんが、
   時々思わないでもないことを、
   代わりに彼らに口に出していただきました。
   ずるいですね、すいません。

   何でも出来る存在もまた、
   オールマイティーとは言えぬとでもいうのでしょうかね。
   色々と便利になり、遠いところの今現在が判るようになればなったで、
   心優しい人には心が傷むネタも増えるってことでもあるようで。
   ルフィ坊やの、困ってる人を見るとじっとしていられないところを、
   よくよく知っていればこそ、
   破邪様もまた困ったなァを抱えていたようですが。
   そこのところは、お話ならではなまとめようにさせてもらった次第です。
   ご都合なんとかなお話みたいで、すいませんね。


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ご感想はこちら*めるふぉvv

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