天上の海・掌中の星

    “金環食って♪”


明日のスカイツリーのオープンも、
これでの混雑とか中継権の争奪とかで揉めそうだから
火曜にずらした説があるほどの、世紀の天体ショー。
心配されたお天気も、
雨や分厚い雲に泣いたところも多々あったそうではあるものの、
おおよその各地で観測には適う明るさの中、
月に蓋されてゆく太陽の、金の環を多くの人たちが見上げたのが、

 「金環食って、
  口に出して言うと
  “ノド飴”のキンカンを連想しちゃうのは俺だけかな。」

 「安心しな。
  金柑がらみの菓子やらケーキやら、
  あやかり商品に結構あるらしいから。」

枕がまだ終わってないのに、始めてくれた坊ちゃんは、
前日どころか先週辺りから わっくわくでいたようだったが、
保護者の破邪様はあんまり関心はなかったらしく。

 『そりゃあサ、
  ゾロだったら宇宙空間とかから
  なんぼでも見られるんだろうけど。』

 『宇宙空間ってのは、
  俺らの自在空間とは次元範囲が違うんだがな。』

相変わらずの、斜め50度ほど外した言いようをしていたけれど。
そうは言っても、
大切なルフィ坊やがここまで楽しみにしているもの。
もしも最近襲来しまくりの悪天候が来ようものなら、
そっち方面の大天使長と、
一戦交える覚悟でいたんじゃなかろかというほど、
今日は朝早くから微妙に緊張して、
朝ご飯の支度にかかっておいでだったゾロだったようで。

 「うあ、凄げぇっ。ホントに欠けてってるぞ!」

完全に重なって“金環食”状態になるのは七時半前だそうだけど、
それより随分と前から、案の定、わんぱく坊主はそわそわし始め。
何かありそうな予感に落ち着かない座敷犬みたいなと、
後日の保護者さんに言わしめたほど。
まだかなまだかなと、リビングの窓辺へ寄ってっては、
薄く雲の懸かる空を見上げるので、

 『何だ、気がつかんのか?』

実はもう、少しずつ欠けてるんだぞと言ってやれば、
うわぁっと飛び上がって学校へ背負ってくデイバッグに駆け寄り、
観測メガネを取り出した。
それをかざして、あああ太陽がどこか判らんとキョロキョロしてから、
ぴたりと動作が止まると、

 『……あ、ホントだ! 端っこが欠けてる!』

言ってくれよな、もうっと、やや怒られかかったもんの、
それどころじゃあなくなったらしい坊や。
お喋りが つと止まってしまったので、
1分以上は続けて観んなよと、ちょっかいかけを時々差し挟みの、
キッチンへ引っ込んで、
朝ご飯とお弁当を作りにかかったお兄さんだったのだが。

 「ぞろぞろぞろぞろっ!」
 「大挙して何か来たみてぇだから、その呼び方は止せ。」

フライパンから皿へ、
ネギ入り出し巻き玉子をすべり降ろしつつ、
少々眉間にしわを寄せた破邪殿を。
そんなの構うかと、
トレーナーのひじ辺りを引っ掴んでリビングまで、
やや強引に呼び招いた坊ちゃんであり。

 「ほらっ、凄いぞっ!」

今観とかないと、東京じゃあ三百年後まで見れねぇんだぞと、
空をゆく風のあるせいで、
時々千切った和紙のような薄い雲が翔る空を、
ほら見ろよと指さすルフィなものだから。

 「ああ。」

苦笑交じりに見上げてみれば、
こうまで晴れているのに、ちょっと照度が低いのが不思議だったその原因。
目映い太陽が、専用グラス越しになると、
赤みを帯びた黄色い二重丸になって見える。

 「何か小さくねぇか?」
 「それだよ。見失うと探すのが一苦労でよ。」

言いながら、もう1つ用意があったらしい、
厚紙の縁がにわか煎餅を思わせるような
四角いレンズをかざして空を見上げている坊や。
よほどのこと楽しいのか、
口元がいつにも増しての始終ほころんでいて、
時折視線をお隣へ向けては
“な?”と“な?な?”と満面の笑みを向けてくれ。

 「あ、ああ…。/////////」

ゾロにしてみれば、
そんな屈託のない笑顔の方こそ見ごたえがあったものだから。
まだ長袖じゃなきゃいけない制服のシャツを腕まくりした、
わんぱく坊主の 陽やけしかかりのお顔に、
釘付けになりかかる爲體(ていたらく)。
そして、いちいち判りやすい笑顔にまではならない
ちょっとクールなお兄さんなのには慣れている、
坊やの方は方で、あのね?

 “………はやぁあ。//////”

ここまで明るい中、二の腕同士が当たるほどの至近にて、
きりりと精悍な男臭いお顔を見ることとなったのが。
思わぬドキドキだったようで。


  な、なんかちょっと暗くね?

  みてぇだな。
  あんだけ太陽に蓋されっと、
  影響はあるんだって。

  そか。
  あ、あの木の陰、
  なんか三日月みたいになってっぞ?

  どら、ああホントだな。


会話だけを拾っていると、
何てことはない観察風景でございますが。
なあなあと話しかけてる小さなお手々が、
お兄さんのトレーナーのひじ辺りを
再び 怖ず怖ずと捕まえていたり。
それへ応じるお兄さんの大きな上背が、
もう十分間近いのに、
何だ聞こえないぞとでも言いたいか、
やや、心持ち、僅かほど、
わざわざ少しだけ傾けられての、
ますますと寄り添ってたり。
何とも微笑ましい様子で空ばかりを見上げてござったそうですじゃ。





   〜Fine〜  12.05.21.


  *すいません。
   時事ネタなんでつい…という、走り書きです。
   あのお祭りごと大好きな坊やだったら、
   絶対に大騒ぎして、観察してるんじゃなかろかとvv

  *ウチは専用レンズの用意がなかったので、
   モクレンの木洩れ陽を見てドキドキとしておりました。
   細い三日月が庭中いっぱいにあふれていて、
   少し強い風にあおられてはブルブルと震えるのが圧巻でした。
   K市は薄曇りからガンガンと晴れて来て、
   全くの全然関心なかった言いようだった母が、
   結局はわざわざ表へ出てくるほど、楽しんでおりましたよ。
   (うっかり洗濯物にかかり切ってたのを、
    窓から“もうすぐほとんど隠れるよ”と教えてくれましたし。)


**ご感想はこちら*めるふぉvv

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