天上の海・掌中の星

    “秋は大忙し”


秋は気候がいいからか、
収穫の季節で奉納のお祭りも多いことから引かれたそれか、
それとも、冬籠もりの大忙しを前に一息つく風習が混合したか。
行楽のシーズンであると同時、何かと行事が多い時節でもあって。

 「学校の行事もそうなんか?」
 「そりゃあそうだろよ。」

今は通う子供がいなくとも
卒業した人とか引き続き周辺に住んでるんだろし。
学校ってのも、
地域の人たちが集まる場だろうからなと。
金の髪に青い目という風貌なことといい、
どっちが地上の、そして此処の住人なのやら、
相変わらずにこういうことへも蓄積は上なのが、
聖封のサンジさんだったりし。
ちち、ちゅんちゅんと、スズメの声に交じって、
秋ならではの鋭い声をした小鳥も
時折 飛び交ってるらしい よく晴れた朝で。
こんな早朝からお越しの彼だということは、
お弁当が特別か、あるいは、

 「…よし。それで引き上げれば丁度いいぞ。」
 「そかvv」

小芋の唐揚げの練習の最終チェックをしてもらってた坊やであり。
文化祭を前にして、
ルフィの出したこれも青空カフェの新メニューに採用されたものの、
あんまり大きいのだと火の通りにムラが出るかもしれないのでと、
小さい粒でという制限が付いたので。
当番が回って来たときに しくじらないよう、
特別コーチに付いてもらっているという次第。
揚がりたての特別スパイスをまぶした小芋は、
なかなかに“後引くお味”に仕上がっており、

 「うめぇ〜〜vv」

これだとカップ1個くらいペロッと食えるぞと、
にっこし笑った坊っちゃんなのへ、
当たり前です、誰がスパイスを調合したかと、
天聖界でも名うての料理人のお兄さんが胸を張る。
揚げ油の始末は冷めてからだとし、
キッチンからリビングのほうへと移動しつつ、

 「体育祭とやらでは大活躍だったらしいじゃねぇか。」
 「おうっ♪」

九月の終盤の連休に設けられてた方の、
そっちもルフィがキー・パーソンだったらしいスポーツの祭典。
短距離の駆けっこは言うに及ばず、
フラフープくぐりや平均台渡り、
跳び箱の上での前転にゴールネット潜りなどといった
山あり谷ありのコースを駆ける障害物競走も。
ぶら下げられたパンに食いつくパン食い競走に、
玉入れ、綱引き、むかでリレーに借り物競走。
忘れちゃいけない応援合戦と、
最近の、しかも高校では珍しかろう、
お昼休憩の仮装行列などなどと。
随分と競技を多く抱えたプログラムの中、
走るもののみならず、応援合戦にも立ったルフィさん。
借り物ながらも今年は学ラン姿に長い鉢巻きで凛々しく決めて、
白い手套はめた手をしゃきしゃきと振り振り、
3組連合、頑張れと、縦割りチームの応援に張り切ったお陰か、
競技でも応援審査でも優勝したのだそうで。

 “あいつがまた、しばらくほどは
  巡回中もケータイ離さねぇから参ったもんなぁ。”

聖封さんの相棒にして、
天聖界に並びなきとされる凄腕練達な剣豪様。
こちらの坊やとの同居で
すっかりと地上文化にも馴染んでおいでなのは
面倒がなくて喜ばしいことだが。
携帯電話にも馴染んでおいでなものだから、
そこへと格納された写真や動画を、
文字通りの片手間に見入る機会も増えており。
まま、そもそも探知能力は普通レベルの君なので、
最初からアテにしてないサンジではあるものの。

 “一昨日なんざ、いきなり出現した大型魔獣の顔へ、
  脇見のまんまでぶつかりかかりやがって。”

殺気はなかったとはいえど、
次界障壁を越えて陽世界に出現出来たほどの存在の気配。
一応は戦闘系の練達なのだから、察知出来ようはずなのに。
手元に開いて眺めていた何かしらへ気を取られての、
完全なる脇見運転のまま、
邪妖のまとう瘴気のみならぬ、
そやつがぶち破った障壁が帯びていた、
強力な“合”の磁場までもが壁のように待ち受けていたところへ
何とも無防備に突っ込み掛かったゾロであり。
あれが普通一般の、他所の次界までは移動出来ない級の存在だったなら、
全身へ途轍もない大怪我を負うたその上で、
どこの次界とも通じてはない冥空間、
虚無海まで吹っ飛ばされたかも知れぬほどの一大事。

  ……だったのだけれども

さすがに触れる直前には
察知も出来たか、若しくは我に返ったか、

 『…っ、うおっ、なんだお前っ!』

ぶつかりそうだという危機感からというよりも、

 “あ〜れは、
  自分が腑抜けてたのを明らかにしたくなくての
  八つ当たりっぽかったよな”

慌てふためいてのことだろう、
ぶつからぬようにと突き出した手のひらでの掌打だけで、
顔だけでも彼の身の丈はあった大物を、
どんっと力強く押し戻しており。

 『お前ねぇ…。』

もしかして
無理からこじ開けられた穴が塞がろうとしていた抵抗ごと、
力押しで押し戻したというならば。
それってあんまり褒められたことじゃあないワケで。

 “結果として、余計な大穴空けた格好になっちまってたが。”

とはいえ、
そもそも この二人は緊急事態に投入される最終兵器扱いの身でもあり。
やや等級の劣るランクの破邪や聖封を何班も手配し、
綿密に結界を張ってから、破邪らが力合わせて押し返す…という、
大作戦を構えることが時間的空間的に可能な事態ならいざ知らず。
1分1秒を争うような場合には、多少の力技も已を得ないとし、
結果として、次界障壁に大きめの被害が出ても、
修復お願いしますと、処理部隊へ丸投げしても構わないほど、
そこはそれ、これまでの実績がたんとあるものだから…と。
その折のは…微妙にそうでもなかったようなレベルだったけれど、
後はよろしくと持ってきゃ良いかななんて、
そんな腹積もりを素早く立ち上げていたサンジさんだったりし。

 “こっちからそれを持ち出すような、
  鼻持ちならない傲岸な奴には成り下がりたくないんだが。”

そうと思ううちは、まだまだ大丈夫。
第一、

 『てんめぇっ、哨戒中に一体何に魂抜かれとんじゃっ!』
 『う、うるせぇなっ!///////』←あvv

障壁にひびが走った気配をさすがに感じた取ったのか。
いつもだったら“破天荒で悪いか”とばかり、
筋違いな威張りん坊なはずの誰か様、
その時ばかりは珍しくも少々腰が引けていたものだから。
そこのところへ畳み掛けるよに怒鳴りつけ、

 『手ぇ掛けちまったもんはしょうがねぇ。
  このまま力技で一気に向こうへ押し返すぞっ。』

 『お、おお。』

そういう間合いを見逃さない呼吸といい、
お陰さんで臨機応変への袖斗(ひきだし)がやたらに増えたわいと。
緊急の封鎖結界を張りつつも、
苦笑が絶えなんだ ひとこまだったとか。
ピックで刺しつつという、売るときを想定しての食べようで
小芋への火の通りを見ていたルフィだったのへ、

 「何でも借り物競走では、
  イケメンを連れて来いって書いてあったんで、
  あのヤロの取り合いになっちまったんだって?」

何てことない会話としてそんな話を振れば、

 「そうなんだよな。」

困った事態だったぞ あれはと、
すんなり“是”と応じてから。

「普通はサ、
 同じレースでダブらないように
 別々なもん書いとかねぇか?」

俺はいつも一緒にいるんだから遠慮しろとか言われてさ、
でもって、他には適当なのさえいねぇだもん…なんて。
特に引っ掛かるもんなんてないらしい口調でサラッと、
揚げたてのほくほくな小芋を堪能しつつ、
話を続けようとしたルフィではあったものの。

 微妙な内容だよなということ、
 全く気がついてない坊っちゃんとは違って

 「〜〜〜〜〜。///////」

 「な〜に お前が照れてるかな。」

 「あ、ゾロお帰り。」

芋、上手に揚がったぞ、食ってみなと、
無邪気に笑って出来上がりを盛った皿を差し出したのへ。
うううと、ますます言葉に詰まったのが、
話の肴にされていた当事者の、緑頭の偉丈夫さんご本人で。
相変わらずに甲斐々々しいはずが、
坊やの世話も放り出し、どこへ出掛けていたものかといやぁ。
ご町内の落ち葉掃き当番だったのでと、
朝のうちに出掛けてって、
神社や児童公園なんていう大量に吹きだまってたところまで、
一気に掃いて来たらしく。

 「相変わらず、力技で頼りにされとる奴だなぁ。」
 「放っとけよ。」

ほらね、この程度の揶揄へは どこ吹く風だったものが、
もしくは ごちゃごちゃ五月蝿せぇと喧嘩腰だったものが。
そんな揮発性さえ取り込んで、
同じ場にいた坊やでさえ気づかなかった とある意味合いへ、
顔を赤くし、言葉を濁していたりするなんて。

 「美味いぞ、ほら。」
 「おうよ。」

今だって、照れ隠し半分の仏頂面のまま入って来たリビングで、
さりげなくもルフィのすぐ隣りへと腰掛けて。
ほれとピックで刺して差し出された小芋の唐揚げ、
手で受け取らずのそのまんま、あ〜んで食べさせてもらいつつ。

 「……なんだ。/////」
 「何も言うとらんだろが。」

文句あるのかと、眺めていたこちらを睨むのは同じだが、
顔が赤いのは最近になって増えたこと。
思うに、
今までは、子供に甘えられてるのを構うのに、
何でいちいち照れることがあるか…くらいの感覚だった。
甘やかしをらしくないと冷やかされるのへは、
牙剥くこともなくはなかったが、
それさえ無視して放置出来るまでの図太さを、
最近やっとこ養ってたはずが。

 「ゾ〜ロ?」

隣りという位置の、ちょいと真下から、
上背のあるお兄さんを見上げていたルフィくん。
何を思ったか、そういうテンションになってたものか、
んん?と無造作に視線を合わせて来たゾロの、
お顔を見上げたそのまんま、

 「ばふ〜んっvv」

真っ直ぐの直球で、向かい合う格好だった広々したトレーナーへ、
顔から肩から倒れ込むよになっての、勢いよく埋まってしまったもんだから。
広げられた細っこい両腕も、
おまけで背中までへと回されてしまったものだから。

 「〜〜〜っ。//////」
 「じゃあ俺、帰るわ。」
 「や、あの、
  おいこら、だからだなっ、これはその…。/////」
 「ルフィ、
  揚げ油は重いし多いから後でそいつに始末させろ。」
 「おお、判ったぞ。サンキューな、サンジvv」

にっこし満面の笑みだったのが約二人。
大きに焦って焦って、あたふたしていたのが約一人。
忙しい秋のはずですが、
余裕なお人もあるようでという、
そんな明暗のはっきり分かれた一幕だったようでございます。


  ゾロ、ガッコの裏山の紅葉より赤いぞ♪
  うう……。//////






   〜どさくさ・どっとはらい〜  12.10.14.


  *恋はたくさん好きになった方が負け、なんて
   どっかで聞いたことがありますが、
   たっくさん好かれていることへ、
   気づいてない朴念仁も、
   やっぱり負け負けなのかも知れません。
   ルフィさんからの“好き好き攻撃”は、
   今に始まったこっちゃないんですのにねvv
   気づかないまま子供扱いしてたしっぺ返しと思って、
   ドキドキも真っ赤っ赤も甘んじて受け止めろというのが、
   サンジさんからの無言のアドバイスらしいです。

ご感想はこちら*めるふぉvv

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