天上の海・掌中の星

    “暑さ寒さも……”


このところの日本の気候は、
どういう罰が当たったものか、
随分と奇天烈なそれになってるような気がする。
昭和の時代とか江戸時代とかがどうだったかは、
あいにく知らないし判らないけれど。
今ほどの電化製品がなくとも、何とか生活出来ていて。
季節折々のお楽しみ、
お祭りがあったりお祈りがらみの行事があったり、
季節の変わり目だからっていう、
まじないみたいな習慣があったりするのを、
家族やご近所で楽しめたっていうからサ。
電気がなくて多少は不便もあっただろけど、
テレビもパソコンもケータイもなくたって、
余裕のある暮らしってのが送れてたと思うんだ。

  ……なぁんて、
  結構しゅしょーなことを思ったのはサ。

お彼岸の中日とかいう祭日なのに、
何だか雲行きが怪しい週末になりそうだったから。

 「けど お前らは、そもそも土曜は学校も休みなんだろし。
  それでも、学園祭とかいうのの下準備があって
  ガッコに行ってんだろうから。」

 「うん。あんまりかんけーない祭日なんだよな。」

つか、今日がそういう日だってのすら、気がつかなかったし。
授業がないから朝イチから作業に取り掛かれるぞって、
ただそういう日だってしか思ってなくて。
けど、

 『あ、悪りぃ。俺んチ今日、親戚くっから。』
 『そか、お彼岸だもんな。』

昼前に帰ったのが何人かいたし、
明日も別の何人かは出て来れないって話でサ。
そいで“あ・そかそか、お彼岸かぁ”って、
やっとこ気がついたって順番で……あ、じゃむぷ出てる、買ってこ。

 「何だ。
  親戚集まって法事とかする家って、ここらでもあるんだな。」
 「そだぞ。何せ墓つきの寺も3つくらいあるしよ。」

あれ? 寺つきの墓なのかな? どっちだ?
いや、だってほら。
今時って、ビルん中に小さい仏壇がいっぱいっての よく聞くしさ。
……なんだよー、ジジむさいって。
コマーシャルとかで やってんじゃんか。
あ、俺、そっち持つ。でーじょーぶだってば。
だってこれ、ティッシュとお菓子だろ?
重くねぇし振り回しても、あ、潰れるか。
や、や、判ってるよぉ。
ゾロが力持ちなんも判ってるけどサ。
何にも持ってないと…俺の立場もあんじゃんか。
あ、笑ったな? いーや、笑った。
馬鹿にすんなよな、ホント腹立つ…って。
あ、からあげくん、いーのか? やたvv




    ◇◇◇


社会人には連休かもしれないが、
学生さんにはあんまり御利益のない、
土曜祭日となった、今年の“秋分の日”で。
そこへ加えて、学園祭の準備にと、
授業は半日でも、その後の放課後を
目いっぱいまで居残りする日が多いルフィなものだから。
留守番態勢になってるこっちが、退屈してんじゃないのかななんて。
時々 ふっと、何かの拍子に思い立っては、
ちょっとトイレだと皆の輪から離れ、
携帯で“お声が聞きたい”と甘えたことを言って来たりもする。
今時分だったら洗濯物を取り込んでる時だったり、
夕食は何作るかなと思案してる時だったりなら、
問題なく電話にも出てやれるんだが。
時々、間が悪くも
妖異と真っ向勝負という最中に、掛かって来ることがあるんで、

 《 だ〜〜〜っ、間の悪い奴めっ!》

…………と、吼えつつの一刀両断。

 《 あ〜〜〜っ!
   お前っ、勝手に何してんだっ
   さっき打ち合わせただろーっ!
   こいつは分散型だから、
   結界の中に封じたまま永久凍土まで持ってってだなっ。》

ついつい仕事が雑になるが、
まあ、封印の玄人がいるから大丈夫だ。(おい…
そういう間合いに俺らに見あらわされるような、
半端な出現をするから悪い。

 「ああ、何でもねぇよ。
  サンジの叫び声? 気のせい気のせい。」

そか? いや別に用はないんだけどよ。
ゾロが今 何してっかなぁって思って…だと。
ふふ…っ、一丁前じゃねぇか。//////(←あ)

 「ああ、そうだな。
  買い物もあるから、
  今からそっち向かえば駅前で会えるな。」

今日は早上がりだ、今から帰れるぞ、なんて。
どこのサラリーマンだ、お前はよと。
一丁前な“帰るコール”に
背中やら腹やらこそばゆくしつつも、

 「じゃあ、後始末は任せた。」
 「………判ったよ。」

言いたいことは多々あるが、
もはや駆け出してた相手に言っても、
始まらないと思うのだろう。
封印用の聖剣や咒を記した巻物やらを召喚しつつも、
不機嫌そうな顔でながら、
特に引き留めもせず見送ってくれる。
うんうん、判る男になったじゃねぇか。
途中までは宙を滑空、
ご町内まで戻って来たらば、地上へ降り立って。
駅前の商店街までを鼻歌交じりにのんびり歩む。
財布や携帯もちゃんと持って出てるし、
トートバッグは携帯タイプのを折り畳んで常備だし。
今日はお茶の丸茂さんで、麦茶パックが半額なのと、
八百屋さんが、ナスとジャガイモを
詰め放題200円セールしてるってのはチェック済み。
ああでも、詰め放題はルフィが挑戦したがるからなぁ。
何度言っても 実を潰してでもって詰め方すっから、
そこだけはセーブさせんとな。
……あ、本山さんすか、ちわっす。





    ◇◇◇



商店街でのお買い物を終え、我が家までの道の途中で、

 「………ん。」

ルフィが何かに気がついて。
きょろっと辺りを見回し、そのまま空を見上げる。

 「どした?」
 「うん…。雨降るかもしんないって思って。」

特に怪しい雲は見えぬが、
この坊や、不思議と邪妖以外へも鋭い感応力が働くときがある。
……というか、

 「それって、妖異っぽい湿り気だろう。」
 「あ、サンジだ♪」

まだ微妙に暑さのほうが勝るのに、
ダークスーツをシャープに着こなして涼しいお顔の、
金髪痩躯の美丈夫さんが、
彼らのお家の門柱の傍らに姿を現しており。

 「邪妖にも雨降らすのがいんのか?」

自分の予感を後押ししてくれた彼へと、
わぁいと駆け寄る坊やだったのへ。
薄い唇へ挟んでいた紙巻きを指先に摘まみ、
ピンと飛ばすと亜空へと吸い込ませつつ、

 「まぁな。空間の歪みに大気が掻き回される場合もあるし。」

故意にそうやって、自分の気配を消すって手合いもいるのだが、
そこまでを恣意的にこなせる奴ともなりゃあ、結構手ごわい。
異次元へ飛び込んで、その身を保つことが可能な手合いというのは、
余程の精気を保持する上級能力者か、あるいは組織変換が得意な奴か。
どっちにしても、自分の意志もてやって来たってことになるから、
自分たちのような監視担当に、見つかるつもりなんてなかろうし。
こそこそとしてないならないで、
むかつくほどの自信から、
陽世界を蹂躙する気 満々だということにもなろう。
ふふんという したり顔な聖封さんの解説へ、
紙芝居に見入るお子様のごとく、
きらきらなお目々になったルフィだったのがカチンと来たものか。

 「何か心当たりあるんだろ?」

遠回しにしてんじゃねぇよ、
つまりは仕事なんだろ、とっとと行くぞと。
いきおい、さっさと片付けようぜというノリになった、
何とも判りやすい破邪殿で。
冷蔵の要るものはなかったらしい買い物を、
玄関口へさっさかと置いて戻って来ると、
ほらほら早く行くぞと急き立てる変わりようが、何とも

 “何とも判りやすいというか…♪”

ルフィもほれ、呆気にとられてんじゃんかよと。
まるきり子供のような相棒へ、
大人げないなぁと窘めるような物言いをしかかったところが、

 「……。」

まだ実際の言にはしちゃあないうち。
くるりときびすを返したゾロだったので、

 “おいおい、まさか…。”

この俺様の思うところが読めたってか?と、
そんな馬鹿なとサンジが後ずさりしかかったのも無理はない。
確かに、
意志ある相手の その意志や意図を読む術というのもあることはある。
ちょっとした態度から焦りや喜色などを拾う初歩的なものから、
相手の思考の中へ自身の気脈を滑り込ませて感じ取る高度なものまで、
やりようは多彩だが、

 “封印のエキスパートだぞ、こっちはよ。”

そういう血統の家柄に生まれたからというだけじゃあなく、
幼いころから厳しい修行も重ね、
身のうちを巡る気脈を制御したり、気力を研ぎ澄ましたりが必要な、
それは厳重な封印の咒や術式を身につけた…筈だというに。

 “こんな、脳みそまで筋肉かも知れん奴に読まれるなんて。”

武道にだって、それなりの努力だの精神修養は必要なんだろうけれど。
それらが帰着する先は、刀の切っ先をいかに支配統制できるかであり、
自分の極めたものとはまるきり方向性は違うはず……。

 「ルフィ、いいか? 嵐が来ても大人しくしてろよ?」

   ……………はい?

てっきり自分の内心での呟きを拾われたかと思った。
だってそういうタイミングだったじゃん。
それに、とっとと退治に行くぞって
強引になって急かしたの、こいつじゃん…と。
間の良さというか悪さというかに、思わず心臓が飛び上がった反動、
自分の早とちりに却って恥ずかしくなったのか、
何だこいつ〜〜〜と むかついたものの、

 「お前、風が強くなったり雷が鳴ると
  妙に嬉しそうになんだろが。」
 「そんなの、もうしねぇもん。」
 「どうだかな。
  台風のときも、
  窓ががたつくのはうるさいって怒ってたが、
  それ意外はにやけてたろうが。」
 「う…。俺よりゾロだろ。」
 「何がだよっ。」
 「油断してんじゃねえよってことだ。」
 「油断なんかしねぇさ。」
 「どうだかな。無茶だってすんだろが。」
 「なんでそんな…。」

 「サンジやチョッパーがゆってたもん。
  妙に飛ばす日があって、
  危なっかしい突っ込みようで見てらんなくて。
  何でそんなに急ぐのかなって判んなくて。
  後で判ったのが、七夕の日だったり盆踊りの日だったり。」

 「な…。//////」

  ………………ふ〜ん。

 「台風の日だってさ、
  俺が一人で留守番ってのが心配だから飛ばすんだってな。」
 「う…。/////」
 「そういう雑なことしてて、油断を衝かれて何かあったらどうすんだ。」

  …成程ねぇ。

口元を両手で覆って風避けにし、新しい紙巻きに火を点ける。
上空に不穏な気配は確かにするが、
さほどに危機を覚えるそれでもなさそうで。
何なら自分だけで行って来て、畳んでしまってもいいかも知れぬ。
少なくとも、ここで痴話ゲンカを眺めているよりかは、
実のあることだと思われるのだが、

 「ちゃんと帰って来ないと酷いんだからなっ。」
 「判っとるわ。」

いいから戸締まりして、いい子で待ってなと。
大きな手で、坊やの髪をわしわし撫でてやるところなぞ、
叱ってんだか言い諭してんだか、もしかして懇願してんだか、
もはや判らない様相になっていて。

  ほれ行くぞ。
  …ああ。

  ……………………………………。

  あのさ、訊いていいか?
  何だ。

  帰って来ないと酷いってのはどういう意味だ?
  ………………。

  帰って来ない相手へ、何が出来るんだ?
  知るかよっ。

  まさか地獄の果てまで追ってくる気かね。
  〜〜〜〜〜。/////// ←あ


   お後がよろしいようで…。





   〜Fine〜  12.09.22.


  *気づいたお人はあんまりいないかもですが、
   オチに持ってきた“帰って来ないと酷いからな”は、
   そっちのお部屋で使うより先、
   こっちのプロット用にと
   書き留めてた代物ですので、念のため。
   そうか、勘兵衛様、ルフィとレベルは一緒か。(ぅおい

   相変わらずサンジさんは振り回されてるご様子で。
   でもね、
   いちいち怒るのも馬鹿馬鹿しいという次元だと
   気がついたようです、今回は。
   やっぱ大人ですよねぇvv(そこかい)


ご感想はこちら*めるふぉvv

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