天上の海・掌中の星

    “半袖の季節”


一年を通じて四つの季節が巡るのが、
日本という国特有の風土であり。
土地の南北によって差異はあるものの、
そんな四季それぞれに訪のう暑いの寒いのを、
上手にあしらい、付き合う知恵が何とも情緒にあふれていると、
海外からおいでのお客様も、
一緒に楽しんでいただける今日このごろ。

 「最近じゃあ、外国人の方が、
  いろいろ微に入り細に入り詳しかったり、
  作法や何やが上手だったりするらしいじゃねぇか。」

 「そうみたいだな。」

当家の坊やへそうと訊いた聖封さんも、
金の髪に青い目という日本人とは思えぬ風貌だったし。
それでなくとも…日本だ欧米だという次元をも一つ超えた、
異世界からお越しの“異邦人”じゃああるのだが。
そんな彼からして、
素材がフライパンへくっつくからなかなか難しい料理のはずな、
そうめんとゴーヤや夏野菜の炒めもの、
ゴーヤチャンプルーをそれは手際よく作っており。
それを“ほらよ”と大皿へ移すと、
他にも 甘辛そぼろをくるんだふかふかのオムレツや、
キュウリと細切りチャーシューの甘酢のサラダなどが、
お顔を揃えたラインナップをランチへと供して差し上げており。

 「こないだ見た日本の文化紹介って番組でもよ。
  日本のトウフはスーパーじゃなく一軒店で買わないと損するとか、
  最近の若い日本人は箸の持ち方がなってないとか、
  パネラーの外国の人が熱っぽく言っててな?」

お箸云々は俺もなってない方だから、
凄げぇツッコミって思ったもんと。
なはは…と明るく笑ったルフィ坊やだが、

 “まあそんでも、ばってん握りは直ったもんなぁ。”

フォークやスプーンをぐうで握るわ、
ままそういう食べ方も有りかもしれないが、
骨つき肉はためらいなく手づかみでいくわと、
褒められはしなかろレベルの行儀だった坊やじゃあるが。
満面の笑みでそれはそれは美味しそうに食べてくれるし、
何がどう違うのか、どこに工夫を凝らしてあるのか、
さりげなくも気づいてくれる舌の確かさには、
こちらも秘かに一目置いてるサンジなほどで。
一人で食事というシーンが多かったせいでの、困ったお行儀のほうも、
同居人がさりげなく正して来たらしく。
立て膝したり肘をついたりという大胆すぎる悪癖はすぐにも直ったし、
箸のもち方なんてのは、
ここまでの年齢になってはなかなか直しようがないはずだのに。
あんぐりと大きく開けられた口へ、
なかなか上手に御馳走を運んで堪能しておいで。

 「あー、これって揚げた春巻きの皮が振ってある。」
 「お、よく判ったな。」

 揚げたラビオリと ミニ揚げギョーザを、
 きっちり区別出来た強わものだぞ?

 いや、それは違うだろ いろいろと…なんて。

なかなかにまったりした会話を交わしているところへと、

 「おーい、途中で迷子拾って来たぞ。」

このお人の口からこんな台詞が聞けるのは、
このシリーズくらいのものです。
………じゃあなくて。(笑)
お昼ご飯の方は丁度遊びにやって来たサンジに任せ、
その間に
晩ご飯の仕込み用の買い物に出ていた天聖界の剣豪さんが、
どこへ長逗留ですかと問いたくなるよな大きさの、
超大型ドラムバッグ、
しかもパンパンに膨らませたのを片側の肩へ提げ、
空いた右腕には、
大きな目許をウルウルさせた、
縫いぐるみもどきを抱えてのご帰還であり。

 「おや。」
 「チョッパーじゃねぇか。迷子って…どうしたよ。」

丸みを帯びた角も愛らしい、あちこちがデフォルメされた体型の、
いかにも幼い風貌ながら、
これでも次界障壁を通過する高等な術を会得している聖獣。
天巌宮の御曹司が使い魔として手元においてもいる、
ちっちゃなトナカイさんじゃあありませんか。
こちらの坊やとも顔なじみで、
それどころか一緒に天聖界で冒険だってしている間柄。
こちらのお宅にだってしょっちゅう遊びに来ているというのに、

 「…どうやったら迷子になれんだ?」

てことこ歩いて移動する身ではない筈で、
向こうの世界からはお空から降って来るのがいつものコース。
現に、先に来ていたサンジもそうやってここに降りて来たってのに、と。
わぁんとまだちょっとお湿りを抱えていたらしいトナカイ坊やを
お膝に受け止めてやりつつも。
あれれぇ?と小首を傾げたルフィだったのへ、

 「なに。お前とよく似てた別の子へ声かけてたらしくてな。」
 「はい?」

 「だってよ。
  この国のルフィと同じくらいの子っていったら、
  皆 同じような服を着てるしよっ!」

恥ずかしい失態、他人に言われるよりはと思ったか、
自分から語ることにしたらしいトナカイさん。
ガバッとお顔を上げると
まだちょこっと骨っぽい細さのルフィのお膝によじよじ登り、
なあなあ聞いてくれよとお眸々を潤ませつつ続けたのが、

 「それと一緒の白いシャツ着てて、
  下は黒っぽい灰色のだったし。
  だからてっきり、ルフィだと思ったのにサ。」

どんだけルフィって声かけても届いてなくて、
こっち向いてくれなくて。
聞こえなくなったのかなぁ、
俺ンこと判らなくなったのかなぁって
どんどん寂しくなっちゃって……と。
語る途中から、またもやお眸々の潤みが強くなる。

 『聖獣にも色々いるが、
  チョッパーは人の使いが出来るほど、
  人語も判るし、情緒も人に近いもんでな。』

しかも、物体物質ありきの陽世界と対照的なまでに、
天聖界は意志や気力がものを言う“気”の世界なので、
悲しいとか寂しいとかいう感情的に負のダメージを受けるのは、
そのまま、例えば叩かれるのと同じよなダメージになるのだとかで。
そんなせいでのしおしおと憔悴しかかってたところへ、
お買い物に出ていたこちらさんの頼もしい主夫殿が、
通りかかってレスキューしてくれたのだとか。

 「バカだなぁ、チョッパー。
  俺がお前に気づかねぇハズがねぇじゃんか。」
 「る〜ふぃぃ〜〜〜。////////」

そんな嬉しいこと言ってくれんなよな、
俺、ますます泣けて来ちまうじゃんかと。
小さな二人が感動の友情物語を演じているのを尻目に、
買い物が間違ってはないかをチェックかたがた、
キッチンへ引っ込んで来た大人のお二人はと言えば。

 「それを言うなら、
  チョッパーの側だって
  ルフィの事は見栄えで見分けてんじゃなかろうに。」

 「まあ、言ってやるなって。」

刀は振るわぬせいか
やや細いめの指先に掴んだアボカドの熟しようへ
うんうんと大きく頷いたサンジがこそりと苦笑をこぼし、

 「こっちの世界の、
  殻に覆われた気の見分けは難しいらしくてな。」

 「障壁通過の術を会得しているのに、か?」

順番がおかしくねぇかと怪訝そうに目許を眇めたゾロだったのへ、

 「何へでも俺らを基準に考えちゃいけねぇってな。」

俺もガキの頃にウチの爺ぃから言われたんだが、
天聖人みたく、幾つもの方術を使いこなせる聖獣はむしろ珍しい。
大概は何か1つだけしかこなせず、
それをどんどんと強化させてくもんなんだと。

 「そこいくとチョッパーは、
  人語も理解する、遠隔伝信も使える、
  そこへ持って来て次界障壁を越す術も使えるっていう、
  むしろとんでもない部類の存在だから。」

人間の見分けは苦手だってくらい、
かわいいチョンボだってことにしといてやれや…と。
くつくつ微笑った保護者へ向けて、
こちらさんもさほどつつくつもりはなかったらしい破邪さんが
ふぅんと妙な唸り方をしてから、

 「まあ、俺は気にしねぇがな。」

ドラムバッグから、鷄もも肉の箱詰めを取り出しつつ、
何とも素っ気なく付け足したのが、

 「ただなあ。
  チョッパーが気づいてくれねぇって泣かされた相手っての、
  濃灰色のスカートをはいてたからなぁ。」

 「…………え☆」

そういう気も読めないもんかなと思ってよと。
やはり責める気はないながら、
それでも良いんか?と確かめただけだったらしい彼なのだろが、

 「うう〜〜〜〜〜ん、それはちょっと………。」

いくらルフィが童顔で小柄で華奢で、
見るからにごつくはないとはいえ。
女の子と間違えたはなかろう、
何よりそっちのレディにも失礼ってもんだろに、と。
女の子がからんでいると判るに至って
初めて“それはちょっと看過出来ないかも”と、
まばらな顎髭を撫でつつ
唸ってしまった聖封さんだったのも相変わらず。
夏服への衣替えで、
それでなくとも、
詰め襟組もブレザー組も似たような装いになったその上に、
女の子の瑞々しい青さと、似たり寄ったりの幼さを
いまだまとっておいでの困った坊や。

  だっていうのに。
  そこは別に困りはしないと、

お箸の持ち方は直してやったくせに、
雄々しい物言いをしろだとか、
武道をやるからにはもっとここやそこを鍛えろだとか、
そっち方面のアドバイスは一切しない誰か様。


  それって一種の確信犯では?と、
  思うほうが勘ぐり過ぎなんでしょうかねぇ?


さてなとでも言いたいか、片方だけでちらり微笑ったお兄さん。
窓の外からはオオルリだろか、小鳥のさえずりが聞こえて来。
雛へのご飯を探してか軒先を舞ってく陰がヒラリ、
素早くかすめた長閑な初夏の昼下がりだった。




   〜Fine〜  12.06.02.


  *外国の学校にも制服はあるそうですが、
   あんまりあれこれ思い浮かばないのはどうしてだろか。
   民族衣装のように紹介されまではしないからかな?
   日本の女学生の制服は“カワイイ”とモテモテだそうですね。
   わたしとしてはベトナムのアオザイとか、
   きれいだなと思うのですが。
   (でも、スタイルがもろに出そうで そこは怖いけど…。)

   ちなみに、私が聞いたのは
   制服を着ていれば、
   未成年で どこそこ校の学生だってことまでが
   一目見ただけで判るので、
   目印になって良いとかどうとかってお説ですが。
   でもさ、制服着ててたばこ吸ってる子がいたとして
   がんと注意出来る大人って、どれくらいいるんだろうね。


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